Title 花粉症とは何か : その対策と予防 Author(s)

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花粉症とは何か : その対策と予防
荻野, 敏
大阪大学看護学雑誌. 5(1) P.2-P.7
1999-03
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/11094/56763
DOI
Rights
Osaka University
大 阪 大 学 看 護 学 雑 誌VoL5No1(1999)
花粉 症 とは何 か
一そ の対 策 と予 防 一
荻
野
敏
POLLINOSIS:MEASURESANDPREVENTION
SatoshiOgino
1は
じめ に
11花
ヒ トは 外 か ら異 物 が 入 っ て くる とそ れ を認 識 し、 排 除
粉 症 とは
花 粉 が ア レル ゲ ン の ア レル ギ ー 疾 患 を花 粉 症 と言 う。
し よ う とす る 能 力 を もっ て い る。 そ の メ カニ ズ ム の一 つ
つ ま り症 状 は くし ゃみ 、 鼻 汁 、 鼻 閉 が 主 な も ので あ るが 、
に免 疫 ア レル ギ ー 反応 が あ る。 この反 応 は大 き く1~IV
眼 のか ゆみ 、 涙 目 の よ うな 眼 症 状 、 喉 の か ゆみ 、 異 物 感 、
型 の4種 に分 け られ て い る が、 明確 に分 類 出来 な い場 合
咳 な ど の喉 や 下 気 道 症 状 、 重 症 な場 合 に は全 身倦 怠 感 、
も少 な くな い 。 そ の 詳細 は 本論 文 で は述 べ な いが 、 今 回
不 眠 、 微 熱 な ど の全 身 症 状 を伴 う こ と も あ る。 つ ま り、
は そ の うち の1型(IgEが
花 粉 症 は鼻 や 眼 だ け の疾 患 で は な く、 全 身疾 患 と して 対
に花 粉 症)に
関 与 す る)ア
レル ギ ー(特
つ い て、 医療 関係 者 の知 識 と して 理 解 して
いた 方 が 望 ま しい こ とに つ い て 主 に記 載 す る。
処 す る ことが 望 ま しい。
ア レル ギ ー 疾 患 に よ り生 活 の質(QOL)が
いか に障
な お 一 般 に 、 免 疫 反 応、 ア レル ギ ー反 応 は ほぼ 同 じ と
害 され るか につ いて 欧 米 だ けで な く我 が 国 にお いて も現
考 えて よ いが 、外 界 か ら異物 が入 り本 人 に悪 影 響 、 疾 患
在 多 くの検 討 が な され て い る。 我 々 も花 粉 症 を対 象 に、
を起 こす な どマ イ ナ ス に働 く もの を ア レル ギ ー 、 異 物 か
SF36(日
ら自分 自身 を 守 る 働 き を 免疫 反 応 と 区別 す る こ と も あ る
か な りの障 害 が み られ る症 例 も少 な くな い。 詳 細 につ い
が 、 自己 免 疫 疾患 の概 念 が 出来 てか らは そ の考 え は必 ず
て は別 の機 会 に報 告 す る予 定 で あ る。 つ ま り花 粉 症 と言
し も 当て は ま らな い。
え ど も患 者 に と って はか な りの苦 痛 を伴 い、 日常 生 活 へ
1型 ア レル ギ ー 疾患 と して は、 気 管 支 喘 息 、 ア トピー
性 皮 膚 炎 、 ア レル ギ ー性 鼻 炎 、 花 粉 症 な ど あ る。 これ ら
本 語 版)を 用 い検 討 して い るが 、QOLに
の影 響 は少 な くな い こ と を非 花 粉 症 患 者 は理 解 してお く
必 要 が あ ろ う。
の 疾 患 の 対 策 、 予 防 に 当 た っ て は、 例 えば ア レル ギ ー 性
鼻 炎 は 鼻 の ア レル ギ ー 疾患 と考 え る ので はな く、 ア レル
皿
花 粉 症 の 疫 学1)2)
ギ ー 反 応 が 鼻 にみ られ た と考 え る方 が 好 ま し い。 つ ま り、
ア レル ギ ー 性 鼻 炎 と言 え ど も ア レル ギ ー 反 応 は 全 身 に起
花 粉 症 の罹 患 率 は 日本 全 体 で は1割 を越 え て い る と考
こっ て い て 、 そ れ が 鼻 に強 くみ られ た と い う状 態 にす ぎ
え られ て い る。 も ち ろ んそ れ は 地 域 に よ り異 な る。 花 粉
な い。 言 い 換 えれ ば 、 鼻 のみ 、 皮 膚 のみ にみ られ る ア レ
症 は 必 ず し も花 粉 飛 散 の多 い地 域 で 発 症 しや す いわ けで
ル ギ ー 反応 で あ って も常 に全 身 に 目 を向 け、 対 策 、 治 療
はな い。 こ の こ とは ア レル ギ ー 疾 患 が最 近増 加 して き た
を考 え な け れ ば い けな い。 全 身 と各 臓 器 、 器 官 を両 方 み
原 因 と も関 連 す るが 、 花 粉 の飛 散 量 の増 加 だ けで な く、
て いか な け れ ば 適 確 な 対 応 は 出 来 な い。 ア レル ギ ー 疾 患
食 生 活 の欧 米 化(肉 食 の 増加)、 大 気 汚 染 、デ ィー ゼ ル 排
に悩 ん で い る のは 、 鼻 や 皮 膚 で は な く人 間 で あ る。
出 と の関 連 、 ス トレス 、 感 染 症 の減 少 な ど多 くの 因子 と
関連 して い る と思 わ れ る。
大 阪大学医学部保健学科
成人 ・老人看護学講座
一2一
大 阪 大 学 看 護 学雑 誌VoL5No1(1999)
IV原
ア レルギ ー 性 鼻 炎 は 農 漁村 に比 べ大 都 市 、 工 業 都 市 で
因 に な る花 粉 につ い て
発 症 率 が 数 倍 高 い3)。 花 粉症 も同様 に大 都 市 、 工業 都 市
の住 民 の 方 が 発 症 率 は 高 い と考 え られ る。 大 阪 で は1割
表1は ア レル ギ ー 性 鼻 炎 の 原 因 とな り得 る ア レル ゲ ン
以 上 の 人 が 花 粉 症 に罹 患 して いる と言 われ て い る。
約10年
を示 して い る。そ の うち 室 内塵(HD)、
前 に大 阪 大 学 医学 部 医 学科 の学 生 を対 象 に数
年 に わ た りア レル ギ ー検 査 を 施行 した。 そ れ に よ る と約
種 で90%以
花 粉 、真 菌 の3
上 を 占め る 。この 中 で も特 に室 内塵(HD)
と花 粉 が 重 要 で あ る。 な お 、 本 邦 で はHD、
花 粉 類 の順
3分 の1に ア レル ギ ー 性 鼻 炎 が み られ、 そ の 半 数で スギ
で ある が、 欧米 で は花 粉 類 が 最 も陽性 率 が 高 い。 参 考 ま
の 皮 内 テ ス トが 陽 性 で あ っ た 。 同 時 に聴 取 した病 歴 か ら
で に言 えば 、 喘 息、 ア トピ ー 性 皮 膚炎 で も ほぼ 同様 と考
学 生 の10数%に
え て よ いが、 食 物 類 の 占め る割 合 が 高 く、 逆 に花 粉 類 の
花 粉 症 が み られ た成 績 で あ っ た4)。
保 健 学 科 学 生 に対 して もア ンケ ー トに よ りア レル ギ ー
原 因 で あ る 率 は か な り低 い。
性 鼻 炎 の 有 病 率 を検 討 した。 詳細 は別 に改 め報 告す る が 、
約35%に
ア レル ギ ー 性 鼻 炎 が 認 め られ、 そ の うち 花粉
花 粉 症 の 原 因 ア レル ゲ ン と して は我 が 国 で は スギ が 最
も重 要 で あ り広 く知 られ て い る。 世 界 的 に種 類 に よ り大
症 と考 え られ た 学 生 は 年 によ り異 な っ た が30~50%
き く3群 に 分類 さ れ て い る。 す な わ ち樹 木 花 粉 、 草(牧
と思 わ れ た 。
草)花 粉、 雑 草花 粉 で あ り、 大 阪 で は季 節 的 に はそ れ ぞ
昨 年 、 尼 崎 市 の2小 学 校 の 児 童 に対 して ア ンケ ー トで
れ 春 、 春 ~ 初夏 、 晩夏 ~ 秋 が そ れ ぞ れ の ピ ー ク とい え る
ア レル ギ ー 疾 患 の罹 患 率 を検 討 した が 、 ア レルギ ー 性 鼻
(表2)。 代表 的 な もの と して は 樹 木 花粉 で は スギ 、ヒ ノ
炎 は30%ほ
ど認 め られ た が 、 典 型 的 な花 粉 症 と思 わ れ
た 児 童 は そ の うち の10%も
見 られ な か っ た。
キ が あげ られ る。 地 域 によ っ て は ブ ナ、 シ ラ カバ(北 海
道 な ど)も 重 要 で あ る 。 草(牧 草)花 粉 と して はイ ネ科
この よ う に花 粉 症 は 花 粉 の 多 い地 域 に多 い とは 限 らず 、
花 粉 が 重 要 で あ りカ モ ガ ヤ 、 ナ ガ バ グサ 、 ハ ル ガ ヤ な ど
大 阪 の よ うな 大 都 市 で か え って 多 い と言 え る。 そ して 大
多 く の種 類 が あ る。 雑 草 花 粉 は キ ク科 が そ の代 表 で あ り、
阪 で は そ の 罹 患 率 は 、 小 学 生 で は 低 い もの の20歳
ブ タ クサ 、 ヨモギ 、 セ イ タ カ ア ワダ チ ソ ウ な ど が あ る。
で は10%を
以上
越 え る極 め て ポ ピ ュ ラー な 疾 患 と言 え よ う。
セ イ タ カ ア ワダ チ ソ ウ は よ く知 られ て い る が実 際 にそ れ
この よ うな 年 齢 層 に多 い と言 え る こ とが後 述 す る治 療 法 、
が 原 因 の 花 粉症 患 者 は 多 くな い 。 主 な花 粉 の大 阪 にお け
対 策 に 密 接 に関 係 して く る。
表2日
本 の 花 粉 症 を起 こ しや す い 植 物
樹
表1ア
1.室
2.花
レル ギ ー 性 鼻 炎 の 原 因 とな り うる ア レル ゲ ン
内 塵(ハ
粉 類:ス
ウ ス ダ ス ト,HD):ダ
ギ,ヒ
ノ キ,カ
ギ ョ ウギ バ シ,ヨ
コ ナ ラ,ヤ
3.真
菌 類:カ
ニ,他
モ ガ ヤ,ナ
モ ギ,ブ
ガ バクサ
木(早 春 ~ 春)
①
ス ギ 科:ス
②
ヒ ノ キ 科:ヒ
ギ
③
カ バ ノ キ 科:ハ
④
ブ ナ 科:コ
⑤
キ ョ ウ チ ク ト ウ 科:キ
ノ キ,サ
ン ノ キ,シ
ナ ラ,ク
ラ カ ンバ
ヌ ギ,カ
シ
ョウ チ ク トウ
タ ク サ(RW)
草(初 夏 ~夏)
シ ャ ブ シ,他
ン ジ ダ,ア
ワラ
ル テ ル ナ リ ア,ア
① イ ネ科:ス ズ メ ノテ ッポ ウ,カ モ ガヤ,オ オ ア ワガ
スペル
エ リ,ナ ガ バ グサ,ホ
ギ ル ス,他
ソム ギ
② ガ マ科:ヒ メ ガ マ,コ ガ マ
4.食
物 類:小
麦,牛
乳,卵
5.昆
虫 類:ユ
ス リカ,ト
6.動
物 の 表 皮 類:ネ
7.雑
類 な ど:キ
豆,米,ソ
ビ ケ ラ,ガ,ゴ
コ,イ
ヌ,ラ
白,大
バ,他
雑
キ ブ リ,他
草(夏 ~ 晩 秋)
① キ ク科:ブ タ クサ,ク
ワモ ドキ,ヨ モ ギ,セ イ タ カ
ア ワダ チ ソ ウ
ヌ,モ ル モ ッ ト,マ ウ ス,他
② イ ネ科:イ ネ
テ ッ クス 他
③ ク ワ科:カ ナ ム グ ラ
太 字 は 特 に多 い花 粉 症 の原 因植 物 で あ る。 樹 木 で は ス
ギ,草 で は イ ネ科,雑
一3一
草 で は キ ク科 の植 物 が 多 い。
大阪大学看護学雑誌VoL5No1(1999)
花
粉
数
2345
1
67
図1花
89101112(月)
粉飛散の季節的変動
02」01
03/01
它
田
04/01
04/20
0
50
100150200250
300
花粉飛散量
図2ス
350400
(個/cm2)
ギ 花 粉 飛 散 状 況(平 成9年)
る 飛散 状 況 は 図1の よ うに な っ て い る。 な お 図2に
V花
当保
粉症の診断法
健 学科 で測 定 した平 成9年 のスギ 花 粉 飛散 状況 を示す 。
基 本 的 に はす べ て の花 粉 が 花 粉 症 の原 因 に な り得 る。
ア レル ゲ ン の皮 膚 テ ス ト、血 液 中 の花 粉 特 異 的IgEの
起 こ しや す い花 粉 の特 徴 と して は花 粉 を大 量 に産 生 し遠
測 定 な ど に よ り診 断 す る が、 最 も重 要 な の は詳 細 な 病 歴
く まで 飛 散 す る、 す な わ ち風 媒 花 で 起 こ りや す く、 虫媒
聴 取 で あ る。 これ に よ り7割 の患 者 で は原 因 を あ る程 度
花 で は 起 こ り に く く、 起 こ って も患 者 は 狭 い地 域 に限 ら
同定 で き、 また 予 防 、 対 策 に 当た り極 めて 重 要 な 所 見 が
れ る。 他 に重 要 な こ と と して 同 じ種 や 属 の花 粉 で は抗 原
得 られ る。
の 交 差 性 が あ り、 似 た 草 木 で 同 様 な 症 状 を起 こす 。 代 表
花 粉 症 の 症 状 は季 節 性 で あ り、 花 粉 の飛 散 時 期 に一 致
的 な もの と して ス ギ と ヒ ノキ が あ り、 ス ギ 花 粉 症 の7割
す る こ とが 絶 対 条 件 で あ る。 花 粉 の飛 ば な い時 には 花 粉
以 上 が ヒ ノキ花 粉 症 を合 併 して い る5)。
症 は 存 在 しな い。 症 状 発 現 の特 徴 と して は 、 天 気 の よ い、
風 の 強 い 日 に発 作 が 起 こ りや す く、 眼 の症 状 を9割 以 上
一4一
大 阪大 学 看 護 学 雑 誌VoL5No1(1999)
の 患 者 で 訴 え る。 初 発 は20歳
表3ア
代 が多 いが 、 最 近 は 小 学
レル ギ ー性 鼻 炎 、 花 粉 症 の 治療 法
1)抗 原の 回 避 、除 去
生 で も稀 で は な い。 ス ギ 花 粉 症 で は この低 年 齢 化 と発 症
転 地 療 法 、マス久 メガネ、空 気 清 浄器
2)心 身の 鍛 錬
時 期 が 後 述 す る 対策 に とっ て 極 め て重 要 な 関係 を もっ て
3)減 感 作 療 法(免 疫 療 法)
4)非 特 異 的 減 感 作 療 法
くる 。
a)ヒスタミン加 ヒト免 疫 グ ロブ リン
(ヒスタグ ロビλ リノビン他)
b)MS一 アンチ ゲ ン40
繰 り返 す が 花 粉 症 の 診 断 は 病 歴 聴取 が最 も 重 要 で あ り、
C)ブ ロンカズマベ ルナ、他
ア レル ギ ー を扱 う者 は そ れ が 行 え るだ け の 能 力 の 育 成 と
5>薬 物 療 法
a)抗 ヒスタミン剤
b)ス テoイ ド剤
余 裕 を もつ 必 要 が あ る。
c)脱 顆粒 抑 制 剤(狭 義の抗 アレルギー剤)
d)点 鼻剤(血 管 収 縮 剤)
VI花
表3は
粉 症 の治療 、 対策、 予防
e)β刺 激 剤
f)テオフィリン剤
g)コ リナ ジック受 容体 拮抗 剤
h)漢 方薬
ア レル ギ ー 性 鼻 炎 、 花 粉 症 の治 療 法 で あ る。 多
6)手 術 療 法
くの種 類 が あ るが 実 際 に は これ を組 み 合 わ せ て 行 う。 は
a)星 状 神 経 節 ブ ロック
7)その 他
じめ か ら薬 物 治 療 に毒 りが ち で あ るが 、 治 療 の基 本6)は
b)局 所 温 熱 療 法
① 抗 原 の 回避 、 除 去 、 ② 心 身 の鍛 練 で あ る。 特 に花 粉 症
2)花 粉 曝露 へ の 対策
に お いて は抗 原 の 回避 、 除去 は最 も重 要 な 対 策 で あ る。
① の花 粉 の 回避 、 除 去 に対 して は大 別 して2つ
i、 花粉 情 報 に注 意
の面 か
最 近 は 多 くの 地 域 で スギ 花 粉 の飛 散 状 況 につ い て予 報
ら考 え る こ とが 出 来 る 。
され るよ うに な っ た 。 抗 原 回避 の面 か ら この予 報 を十 分
に活 用 し、 翌 日の 生 活 な ど 自分 な りに考 え る こと が必 要
1)花粉 源 へ の 対 策
が あ る。
i、 原 因 植 物 の 除 去
ll、 外 出 を 控 え る
先 に も述 べ た ご と く花 粉 のな い時 に は花 粉 症 は 存在 し
可 能 で あれ ば 、 花 粉 飛 散 期 に は外 出 しな い こと が望 ま
な い 。 ス ギ 、 ヒ ノキ で は 難 し いが 、 カ モガ ヤ な どの イ ネ
し い。 しか し、 通 常 の 生 活 を行 う とい う こ とか らす れば
科 、 ヨモ ギ な ど のキ ク科 植 物 で は 有効 で あ る 。 イ ネ 科 、
不 可 能 で あ り、 先 述 の花 粉 情 報 を参 考 に 外 出 な ど を考 え
キ ク 科 な ど の飛 散 距 離 は数 百 メー トル で あ り、 近 所 の 草
る こ とが 現 実 的 で あ る。
を刈 り取 る だ けで か な り有 効 で あ る。個 人 レベ ル で は 限
丗、 飛 散 の 多 い と きは 窓 、 扉 を 閉 め て お く
界 が あ るが 、 最 近 は 市 役 所 な どで 相 談 を行 え ば 定 期 的 に
花 粉 飛 散 期 、 特 に晴 れ た 日中 には 花 粉 の 屋 内 へ の侵 入
雑 草 の刈 り取 りを行 っ て くれ る地 区 もみ られ る。
を 防 ぐた め窓 はで き るだ け開 け な い ほ うが よ い。 玄 関 の
ll、転 地 療 法
扉 も、 開 閉 は で き るだ け少 な くす る 。 屋 内 に花 粉 をい れ
例 えば スギ 花 粉 症 で あれ ば 、 スギ の飛 散 は 北 海 道 や 沖
な い よ う にす る こ とが 大 切 で あ る。
縄 で は ほ とん ど見 られ ず 、 ほ とん ど の外 国 で は 日本 ス ギ
iv、 外 出 時 に は マ ス ク、 メ ガネ をす る
は存 在 し な い こ とか ら、 スギ の 飛散 す る2月 か ら5月 に
や む を得 ず 外 出す る 際 に はマ ス ク、 メガ ネ な どで 鼻 腔
それ らの 地 域 に転 地す れば 症状 は起 こ らな い。 しか し実
や 眼 の粘 膜 に花 粉 が接 触 す る の を防 ぐ必 要 が ある 。 つ ば
際 に は こ の よ うな こ とが 可 能 な患 者 は極 めて 稀 で あ り、
付 き の 帽子 、 ス カ ー フ も有 効 で あ る。
理論 的 に は 正 しい が 一 般 的 な 方 法 で はな い。
花 粉 症 に対 す る マ ス ク の有 用 性 につ いて は 以 前 に検 討
して いる 。 ア ンケ ー トの 回 収が 不 十 分 で あ った が 表4の
よ う に、 指 示 通 り外 出 時 に は常 にマ ス ク を使 用 し た群 で
表4ス
n
良
ギ 花 粉 症 に対 す る マ ス ク の有 用 性(全 般 改 善 度)
非 常 に
不変
悪化
A14
10
2
O
78.6%
Bis
9
1
z
71.4%
C6
z
z
O
50.0%
A:指
示 通 りに使 用 したB:ほ
ぼ 指 示 通 りに使 用 したC:指
一5一
不明
「
良 くな っ た」以 上 の
良 くな っ た
くな っ た
有 効率
示 通 りに使 用 しな か った
大 阪 大 学 看護 学 雑 誌Vol.5No1(1999)
は 「
非 常 に良 くな っ た」、 「
良 くな っ た」 とい う有 効 な症
も症状 を悪 化 させ る こ とが あ る。 飲 酒 も鼻 に充 血 を お こ
例 は78.6%に
し鼻 閉 を悪 化 させ る た め、 花 粉 症 の発 作 期 には 控 え る ほ
71.4%で
のぼ り、 ほ ぼ 指 示 通 り に使 用 した 群 で も
効 果 が見 られ た。 そ れ に対 し、 指 示通 りに使 用
しな か っ た群 で は50%の
症 例 で有 効 で あ っ た に過 ぎず 、
うが望 ま しい。
この よ う に 日常 的 な健 康 管 理 が 重 要 で あ るの は 理 解 で
外 出 時 に は常 に マ ス ク を つ け る ことが 花 粉 症 の予 防、 対
き る と思 うが 、 ス ギ 花 粉 症 で は実 際 には 難 しい い くつ か
策 に有 用 で あ る と い う成 績 が 得 られ 、 マ ス ク の大 切 さ を
の点 が あ る。 す な わ ち飛 散 が2~5月
確 認 した 。
に ピー クが あ り、 低 年 齢 化 も起 こ って いる こ とか ら、 生
v、 帰 宅 した ら洗 顔 、 うが いな ど を行 い、 服 な ど も よ く
徒 、 学 生 で は 期 末 試 験 、 入 学 試 験 との か か わ り、 会 社 で
は た い て か ら入 る。
は 入 社 、 転 勤 とか か わ って く る。 つ ま り、 ス トレス は 避
で あ り、20歳
代
花 粉 を屋 内 に持 ち込 ま な い こ と、 か らだ に付 いた 花 粉
け られ ず 、 試 験 の た め に運 動 によ る 体 力 つ く りは行 い に
を 取 り除 く と い う こ とで あ る。 同 様 に洗 濯 物 や 布 団 を干
く く、 心 身 の 疲 労 も少 な くな い。 ま た 会社 員 で は 飲 酒 量
した 場 合 に も よ くは た いて 花 粉 を落 と して か ら取 り込 む
が 増 加 す る 可 能 性 も高 い 。 薬 物 を併 用 して も眠気 の 副 作
こ と が 望 ま し い。 鼻 を 洗 う こ とが 有 効 な場 合 もあ る 。
用 を有 す る もの も少 な くな く、 試験 へ の影 響 、 飲酒 との
37℃ あ る いは や や 高 め の ぬ る ま 湯、生 食 を 用 い る と よ い。
相 互作 用 も考 慮 しな け れ ば な らな い。 この よ う な社 会 情
② の 心 身 の 鍛 練 も極 め て 重 要 で あ る。 つ ま り 日常 的 な
健 康 管 理 で あ る。 そ の い くつ か に つ い て述 べ る が、 そ れ
勢 が花 粉 症 、 特 に スギ 花 粉 症 を重 症 化 させ 、 社 会 問題 の
一 つ と して浮 か び 上 が らせ た 一要 因 で あ る か も しれ な い。
幼 少 時 か らも花 粉 症 の対 策 が必 要 か も知 れ な い。 そ れ
らは相 互 に 関 係 して い る 。
に 関す る い くつ か の研 究 を述 べ る。 典 型 的 な ア レル ギ ー
i、 ス トレス 、 疲 労 に対 す る 対策
症 例 で は乳 幼 児 に ア トピ ー性 皮 膚 炎 、 小学 校 の入 学 前後
ス トレス 、 心 身 の 疲 労 に よ りア レル ギ ー 疾 患 が悪 化 す
に気 管 支 喘 息 、 中学 校 頃 に ア レル ギ ー 性 鼻 炎 を発 症 す る。
る こ と は よ く知 られ て い る。 ア レル ギ ー 疾 患 で は一 般 に
これ を ア レル ギ ー マ ー チ7)と い うが 、 そ の機 序 は明 確 に
自律 神 経 系 の ア ンバ ラ ン ス、 特 に副 交 感 神 経 系 の亢 進 が
は され て いな い。 こ の よ うな 症 例 にお いて も乳 幼 児 の ア
起 こ って い る。 ス トレス な ど がそ れ を悪 化 させ 、 症 状 の
トピー 性 皮 膚 炎 の発 症 を遅 らす こ と に よ り気 管 支 喘 息 の
増 悪 と の悪 循 環 を形 成 す る。 この よ うな こ とか らス ト レ
発 症 率 を下 げ る こ とが 出 来 る と され て い る。 こ の 目的 の
ス 、 心 身 の 疲 労 をで き る だ け少 な くし、 同 時 に 自 らそ れ
た め有 効 な 方 法 と して は 妊 娠 中(特 に後 期)か
ら に耐 え られ る よ う に通 常 か ら心 身 を鍛 え る こ とが 大 切
ど の異 種 蛋 白 を と らな い、 分 娩 後 も母 乳 で 育 て る(8カ
である。
月 まで)こ
ll、皮 膚 の 鍛 練
ー 性 疾 患 の 発 症 率 が 下 が った と言 う。 また 、 そ れ とは 別
薄着 を し、 乾 布 摩 擦 や 冷 水 浴 な どを 行 う。 間 接 的 に 自
ら牛 乳 な
とが 言 わ れ 、 そ れ によ り有 意 に乳 児 の ア トピ
に乳 児 期 にア トピ ー 性 皮 膚 炎 の 発 症 が 見 られ た 場合 、 数
律 神 経 系 を鍛 練 して 、 過 敏 性 の減 弱 が は か れ る 。
年 にわ た り抗 ア レルギ ー 薬 を続 け る こ とに よ り気管 支 喘
丗、 運 動 に よ る 体 力 つ く り
息 の 発 症 が有 意 に抑 え られ た と も され て い る。 この よ う
基 本 的な 体 力 をつ くる こ と牽 目的 とす る。 運 動 に よ り
に 小 さい 頃 か らア レルギ ー 性 疾患 の発 症 を 予 防 す る 対 策
交 感 神 経 系 の機 能 亢 進 が 期待 で き、 血 行 を よ く し鼻 閉 の
を とる こ とが将 来 的 に も花粉 症 の発 症 を抑 え る こ とに有
改 善 効 果 も あ る 。 しか し、 ジ ョギ ング な ど屋 外 の運 動 は
用 で あ ろ う と思 われ る。
花 粉 飛 散 期 で は 、花 粉 の 曝露 を受 け逆 に症 状 の悪 化 を見
ま た、 生 後6カ
月以 内 に 異種 抗 原 に さ らされ る と そ の
る こ とが あ る の で注 意 を要 す る。 この よ うな こ とか らす
抗 原 に対 し不 耐 性 に な りや す い と の こ とか ら、 ス ギ 花 粉
れ ば 水 泳 が 皮 膚 の鍛 練 の面 か らも望 ま し い。
症 の 中学 生 の誕 生 日と の 関連 を調 べ た と こ ろ10月
iv、 非 特 異 的 刺 激 物 質 の 回避
3月 に か け て 生 まれ た 生 徒 に起 こ りや す い と い う報 告8)
花 粉 症 患 者 で は粘 膜 の過 敏 性 を伴 っ て い る こ とが 多 く、
から
が あ った 。 先 述 の研 究 も加 え、 花 粉 症 の発 症 メカ ニ ズ ム
非特 異 的 な物 質 に反 応 しや す い。 そ の よ うな 刺 激 を 日常
が よ り明 確 にな る こ と に よ り、 小 さ い頃 か らの 対 策 が さ
的 に避 け る こ とが 大 切 で ある 。 具 体 的 に は、 タ バ コ の煙 、
ら に必 要 にな っ て く るか も しれ な い。
線 香 の煙 、 刺 激 性 の ガ ス 、 ほ こ り、 汚 い 空気 、 排 気 ガ ス
な ど で あ り、 香 水 も好 ま し くな い 。 ま た急 激 な 温 度 変 化
一6一
大 阪大学看護学雑誌Vo妬N61(1999)
VIIお
わ り に
花粉 症 の 予 防 、対 策 に 当 た っ て大 切 な こ とは 、 正 確 な
診 断 の後 、 悪化 因子 な ど を 自 ら理解 し、抗 原 の 回 避 、 除
去 を基 本 に ス ト レ ス 、 疲 労 な ど を で き る だ け 少 な く す る
な ど、 規 則 正 し い 日常 生 活 を行 っ て い く こ とが セ ル フケ
ア と し て も 最 も 重 要 な こ と で あ ろ う。
な お 、 今 回 は 薬 物 療 法 な ど他 の 治 療 法 につ い て は 省 略
し た が 拙 書9~11)を 参 考 に し て い た だ け れ ば 幸 い で あ る 。
文
献
1)荻
野 敏:鼻
ア レ ル ギ ー の 臨 床 統 計.医
薬 の 門33:185-
190,1993.
2)荻
野 敏:ア
レルギ ー性 鼻 炎 ・花 粉 症 と は,ア
レル ギ ー性 鼻
炎 ・花 粉 症 の診 断 と治 療(監 修:荻 野 敏),P7-20,メ
カ ル レ ビ ュ ー社,大
3)遠
藤 朝 彦:ア
ディ
阪,1997.
レル ギ ー性 鼻 炎 と環 境 因 子.ア
レルギ ー の 臨
床9:13-16,1989.
4)OginoS,lrifuneM,HaradaT,eta1:Nasalallergyin
medicalstudents.Rhinology28:163-168,1990.
5)荻
野 敏 、 渡 邊 信 一 郎 、 入 船 盛 弘 、 他:ア
レルギ ー性 鼻 炎 症
例 に お け る 陽性 ア レル ゲ ンの検 討:CAP法
を用 いて.耳
鼻43:326-333,1997.
6)荻
野 敏:花 粉 症 の 予 防 法.か
7)馬
場 実:ア
(監修:馬
レル ギ ー マ"チ
らだ の 科 学193:58-61,1997.
とは,ア
場 実),p9-15,メ
レル ギ ー マ ー チ の 臨 床
デ ィ カル レ ビ ュー 社,大
阪,
1992.
8)竹
中 洋,小 笹 晃 太 郎,出 島 健 司:乳 児 期 の ス ギ 花 粉 へ の 曝
露 と感 作.ア レル ギ ー47:1057,1998.
9)荻
野 敏:ス
ギ 花 粉 症 の 薬 物 療 法.ア
レ ル ギ ー 科1:311-
317,1996.
10)荻 野 敏:ス ギ 花 粉 症 の治 療 薬 剤.治 療79:657-662,1997.
11)荻 野 敏:花 粉 症 を め ぐっ て 一 最 近 の 動 向 と治 療 の考 え 方 一
PharmaMedica15:101-104,1997.
一7一