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論 文 内容 の要 旨
申請者 氏名
星安
紗希
葉 緑 体チ ラ コイ ド膜 の光合 成 タ ンパ ク質 にお い ては 、過剰 な光エ ネル ギー に よる傷害 を
回避 す るた めに、環境 に応 答 してそ の構 成 因子 の蓄積 量 が調節 され てい るが 、そ の分子機
構 につ い て は不 明な点 が多 い。 強光 乾燥 耐性 の野 生種 ス イカ を用 い た解 析 に よ り、乾燥 ス
トレス初 期 には葉 緑体ATP合
は葉 緑 体ATP合
成 酵 素 の εサブ ユニ ッ トの蓄積 量 が優 先 的 に減 少 し、後期 で
成 酵素 複合 体 (CFI)
の蓄積 量 が、他 の光合成 タ ンパ ク質 複合 体 に先 駆 けて
減少 す る こ とが見 出 され た。 そ の結果 、チ ラ コイ ド膜 の プ ロ トン透過 性 が低 下 してル ー メ
ン内 のプ ロ トン濃 度 が上昇 し、余剰 な光エ ネル ギー の熱 散 逸 に貢献 す るこ とが報 告 され て
いた。 さ らに、εを コー ドす る遺伝 子 は1コ
ピー で あ るの に も関 わ らず 、分 子質 量 が ほぼ
等 しく等 電 点が異 な る2分 子種 の εタ ンパ ク質 が存 在 してい るこ とが見 出 され てい た。 そ
こで本 研 究 で は、2分 子種 εの 構 造 差 を解 明 し、そ の構造 要 因 が εの量的制 御 に及 ぼす影
響 を明 らか にす るこ とで 、εの量 的制御 とそ の生理 学 的意 義 につ いて理 解 す る こ とを 目的
と した。
2分 子種 εの構 造 の差 異 を解 明す るた めに、2分 子種 εの分 離精 製 の手 法 を確 立 した。そ
して 、精製 した εの全長 をMALDI−TOFMSに
供 した結果 、塩 基性 側 εの分子質 量 は遺伝
子 配列 か ら予想 され た理論 値 と一 致す るの に対 して、酸 性側 εは理 論値 よ りも約42Da大
きい こ とが判 明 した。 さ らに、 トリプ シ ン消化 した εをLC/MS/MSに
ε の2.4番
目のア ミノ酸 に42Daの
供 した結果 、酸性 側
翻 訳 後 修飾 が存 在 す る こ とが判 明 した。DeltaMass
Databaseに よ り、上記 の特徴 を有す る翻 訳後 修飾 の候 補 はN末
端 に存在 す るアセ チル基 の
み で あ る こ とか ら、2分 子種 εの構 造 差 を もた らす 翻訳 後修 飾 は酸1生側 εのN末
端 の アセ
チル化 修飾 で あ る と結 論 した。 次 に、乾燥 ス トレス下 にお ける2分 子種 εの蓄積 量 の変化
を解析 した。 そ の結果 、 アセ チル 化 εの蓄積 量 は ほ とん ど変化 が見 られ ない の に対 し、非
アセ チル化 εは乾燥 ス トレス下 にお い て著 し く減 少す る こ とが 明 らかに なっ た。 また 、上
記 で観 察 され た2分
子種 εの量 的制御 に関与 す る因子 の候 補 と して ミ メタ ロア ミノペ プチ
ダー ゼ の関 与が考 え られ た。 そ こで 、 メ タ ロア ミノペ プ チ ダー ゼ に対す る2分 子種 εの感
受 性試 験 を行 った。 そ の結果 、 アセ チル化 εよ りも非 アセ チル化 εが有意 に速 く分解す る
こ とが確認 され た。 さ らに 、定量 的RT−PCR法
に よ り、ス トレス下 にお いて 、野 生種 スイ
カ のい くつ か のメ タ ロア ミノペ プチ ダー ゼ の遺 伝 子発 現 量が有 意 に増 大 してい た。
本研 究 の結 果 、生 体 内にお い て ε分 子 の一
一部 はN末
端 にア セ チル化修 飾 を受 ける こ と、
ま た2分 子種 εの量 的バ ラ ンスが外 的環 境 に よ り変化 す る こ とが示 され た。 さ らに、 アセ
チル 化修 飾 を受 けた εは プ ロテア ーゼ 耐性 を獲 得 し、 この性 質 が ε総 蓄積 量 を決 定す る重
要 な要 因 であ る こ とが示 唆 され た。ま た、初期 の ス トレス応 答 で は εが優 先 的 に分解 され 、
後期 で はCF1複
合 体 が分解 され る とい う報 告 を合 わせ て考 える と、εの アセ チル化 修飾 と
選択 的 分解 がCF1の
が示 唆 され る。
蓄積 量 を調 節 し、光エ ネル ギー制 御 に関与す る新 規 な分子機構 の存在
論 文 審 査 結 果 の要 旨
申請者 氏名
c
星安
紗希
申請 者 は 、 環 境 に応 答 した 光 合 成 エ ネ ル ギ ー代 謝 の 調 節 機構 につ い て 、特 に 強 光 ・
乾 燥 ス トレス 下 にお け る光 合 成 タ ンパ ク質 の 量 的 制御 メ カ ニ ズ ムの解 析 を 中 心 に研 究
遂 行 して き た。 そ の過 程 で 、 野 生 種 ス イ カ 葉 に は等 電 点 が異 な る2種
合 成 酵 素 εサ ブユ ニ ッ トが存 在 し、 これ ら2分
類 の葉 緑 体Arp
子 種 の うち塩 基1生側 の εサ ブ ユ ニ ッ ト
の蓄 積 量 が優 先 的 に ス トレス 下 で 減 少 す る こ とを見 出 した。ま た 、2分 子種 εの 分 離 精
製 の手 法 を確 立 し、 野 生種 ス イ カ 葉 か ら分 離 精 製 した2分
す る こ とで 、2分子 種 εの構 造 差 は酸 性 側 εのN末
子 種 εを各 種MS解
析 に供
端 に存 在 す るア セ チ ル化 修 飾 で あ る
こ とを 明 らか に した。 さ らに、invitro実 験 系 を用 い た プ ロテ ア ーゼ 活 性 試 験 や 遺 伝 子
発 現 量 の解 析 に よ り、 強 光 ・乾 燥 ス トレス下 で見 られ る非 アセ チル 化 ε(
塩 基 性 側 ε)の
優 先 的 な減 少 に は メ タ ロア ミノペ プ チ ダー ゼ が 関与 してい る こ とを 明 らか に した 。
これ ま で に 、光 化 学 系IIのD1タ
ンパ ク質 やCO2固
定 を担 うル ビス コ大 サ ブユ ニ ッ
トな ど、 い くつ か の 光 合 成 タ ンパ ク質 に お い て 、N末
端 の アセ チル 化 修 飾 が 見 出 され
て い た が 、 そ の生 理 的意 義 につ い て は ほ とん ど判 明 して い な か った 。 申請 者 の 本 論 文
は、 εサ ブ ユ ニ ッ トがN末
端 アセ チル 化 修 飾 され る こ とに よ り、 メ タ ロ ア ミノペ プチ
ダー ゼ に対 して耐 性 を示 す 、 す な わ ち 、 アセ チル 化 修 飾 が εサ ブ ユ ニ ッ トの量 的 制御
を担 っ て い る こ とを初 め て 示 した もの で 、光 合 成 タ ンパ ク質 にお け る ノV末端 の アセ チ
ル 化 修 飾 の生 理 的意 義 を理解 す る上 で 重 要 な知 見 を報 告 した。
ま た 、初 期 の ス トレス応 答 で は εが優 先 的 に分 解 され脱 共役 が 起 き、 後 期 で はCF1
複 合 体 が分 解 され る とい う過 去 の報 告 を合 わせ て考 え る と、εサ ブ ユ ニ ッ トの アセ チル
化 修 飾 と選 択 的分 解 がCFIの
乾 燥 ス トレス 下 に お け るCF1の
蓄 積 量 を調 節 して い る こ とが 示 唆 され る。 ま た 、長 期 の
蓄 積 量 の低 下 は 、 チ ラ コイ ド膜 の密 閉性 を高 め ,余 剰
な光 エ ネ ル ギ ー を熱 に よ り散 逸 す るNPQの
とか ら、乾 燥 ス トレス 下 で み られ るN末
光 エ ネ ル ギー 制 御 に 関 与 す6新
誘 導 に貢 献 して い る こ とを示 唆 して い る こ
端 ア セ チル 化 修 飾 に よ る蓄 積 量 の調 節 に は 、
規 な分 子 機構 の存 在 が 示 唆 され る。本 研 究 に お い て 、2
分 子 種 εサ ブ ユ ニ ッ トの存 在 は広 く双 子 葉 植 物 に 見 出 され て お り、 本 研 究 の知 見 が双
子 葉 植 物 の環 境 応 答 を含 め た生 理 機 能 に か か わ っ て い る こ と も考 え られ 、 今 後 の植 物
科 学研 究 の進 展 に貢 献 す る と期 待 され る。
以 上 の よ うに 、本 論 文 は 、環 境 ス トレス下 にお け る植 物 光 合 成 エネ ル ギ ー 代 謝 を理
解 す る上 で基 礎 的知 見 を提 供 す る もの で 、学 術 上 、応 用 上 貢 献 す る と こ ろが 少 な くな
い 。 よ っ て審 査 委 員 一 同 は 、本 論 文 が 博 士
値 あ る もの と認 めた 。
(
バ イ オ サ イ エ ン ス ) の学 位 論 文 と して価