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コミュニケーションの力を駆使して、効果的な保健事業に取り組む博報堂健康保険組合。
データ分析により現状の危機と課題の共有を図り、
健康リスクを放置させないアプローチが効果を発揮し始めている。
健康づくりの本質的なニーズを把握し、解決策を模索してきた
同健保組合の挑戦と、目指す将来像を聞いた。
博報堂健康保険組合
明 日 へ の 挑 戦
コミュニケーションとデータを武器に
社員の健康意識向上を目指す
明 日 へ の 挑 戦
送り、面談に来るよう呼びかけ、面談後には応援メー
に応じて、対象者それぞれに応じたフォローメールを
年から個別アプローチを開始した。人間ドックの結果
者の行動を効果的に変容させる方法を考え、2011
保組合は、継続的なコミュニケーションによって対象
と し て 取 り 上 げ、 改 善 に 取 り 組 む こ と と し た。 ① 病
徴的でわかりやすい3 つの数値を﹁シンボルデータ﹂
この結果を関係者間で課題として共有するために、象
を 下 回 る 結 果 と な っ て い る こ と が わ か っ た。 そ こ で、
放 置 率 が 高 い こ と が 明 ら か と な り、 改 善 率 が 悪 化 率
分 析 を 依 頼 し た。 分 析 の 結 果、 や は り 健 康 リ ス ク の
健保に求められるデータ利活用と
2013 年6 月に閣議決定された﹁日本再興戦略﹂
において、
﹁国民の﹃健康寿命﹄の延伸﹂が重要施策
ルを送るなど、きめ細かなコミュニケーションを通じ
院に行くべき人のうち ・8%の人がリスクを1 年間
の 一 つ と し て 掲 げ ら れ、 全 て の 健 康 保 険 組 合 に 対 し
て、対象者に寄り添うことを目指している。取り組む
のは、
保健師、
管理栄養士、
看護師などの医療専門スタッ
5%に対して悪化率は ・1%と悪化率の方が高いこ
放 置 し て い る こ と ②1 年 を 通 じ て の 全 体 改 善 率
・
に基づく健康保持増進のための事業計画として﹁デー
フで構成された﹁健康支援チーム﹂だ。チームメンバー
効果的な保健事業の実施
て、レセプト︵診療報酬明細書︶
・健診データの分析
タヘルス計画﹂の作成・公表・事業実施・評価の取り
という﹁もったいない﹂状態になっているのではない
は忙しさを理由にリスクを改善する機会を逃している
のノウハウを﹁知らない﹂状態が続いている、あるい
が多く、放置することによるデメリットや健康づくり
とがあった。それは、健康リスクを放置している社員
ら、データ分析により明らかにしたいと考えていたこ
人間ドックの健診結果を健康づくりの起点とした保
健事業を行っている博報堂健康保険組合では、以前か
いる。
らP D C A サ イ ク ル に 沿 っ た 保 健 事 業 が 実 施 さ れ て
保組合はデータヘルス計画を策定し、2015 年度か
組みを求めることが盛り込まれた。これに伴い、各健
場でも話題となり、一緒に取り組む人が増えるなど周
2016 年で5 回目の実施となる同キャンペーンは職
するなど、読者の興味を喚起する企画を行っている。
レポートし、挑戦者のビフォーアフターの写真を掲載
食事による健康づくりのノウハウを広報誌を通じて
加型のキャンペーン﹁食事カイゼン☆チャレンジ﹂だ。
組みを行っている。その一つが、成功例を輩出する参
を行うことが重要だと考え、複合的な情報提供の取り
一方、個別アプローチの効果を高め、保健事業の活
動の基盤とするためには並行して全社に届く情報発信
部委託せず、健保組合内で人材育成を行っている。
にはコミュニケーションスキルも求められるため、外
機を共有し、リスク放置率を改善するための個別アプ
性を具体的に示すために、データを提示して現状の危
あり、実現に至っていなかった。そこで、連携の有用
クと、これまで個別に健康づくりを進めていたことも
模索していたが、事業主は定期健診、健保は人間ドッ
ており、同健保組合も健康経営の推進に向けた連携を
ラボヘルス︶はデータヘルス計画の中でも重要視され
スタートすることになったという。
事業主との協働
︵コ
こうした具体的な目標と、改善に向けた取り組み方
法が定まったことにより、事業主との連携も本格的に
3 つだ。
た人の1 年後の行動改善率は ・0%に留まることの
と ③問診票で生活習慣を改善する意思があると答え
談だ。健康づくりや生活習慣病対策への助言を行う保
てきた。その一つが、医療専門スタッフによる個別面
スクの放置を防ぐ事業を保健事業の中心として展開し
同健保組合は近年、このように健康意識が低調な状
態を打破し、全体の健康基盤を強化するため、健康リ
行動変容と意識の向上を促す
れ、共有される。そこで、2014 年にデータヘルス
値を改善すべきだという具体的な目標も自然と設定さ
理解が進み、納得を得られやすくなる。また、この数
によって、リスク放置者が多いという危機的状態への
必要だと考えた。データに基づく事実を提示すること
同健保組合では、これらの活動をさらに周囲に広め
推進していくためには、具体的なデータを示すことが
共通認識となる具体的なデータで
さ
らなる健康づくり推進へ
次のページでは、保健事業の戦略シナリオとデータ
分析が取り組みにもたらした効果と、今後の展望につ
値を高めていきたいという。
した取り組みを積み重ねていくことで、健保の存在価
であることを意識している。また、時間をかけてこう
の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 重 視 し、
﹁顔の見える健保﹂
ローチの手法とその取り組み成果が見えてきたことを
健指導は、1 対1 の面談であるため対象者に耳を傾け
同健保組合が目指すのは、個人と全体の健康意識の
向上だ。そのために、社員の心を動かすような1 対1
伝えた。
てもらいやすいという利点があるが、従来の手法では
いて聞く。
継続的なコミュニケ―ションと情報発信で
かということだった。
囲に好影響をもたらしているという。
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計 画 の 策 定 に 着 手 し た 際、 み ず ほ 情 報 総 研 に デ ー タ
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面談を行ってもそれきりになってしまう。そこで同健
N av i s 0 3 0 – M a y 2 0 1 6
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87
21
C
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企業風土に応じた方法論を構築し、
健康づくりを先導する存在へ
│
効 果 的 な 保 健 事 業 を 行 う に あ た っ て、 ど の よ う な 戦
略を立てら れたので しょうか。
菊 地 氏 ◆ 博 報 堂 の 社 員 は 仕 事 が 好 き な 人 が 多 く、 広 告 会 社 と
いう業態の特質からか不健康自慢をするような風土があり、忙
しいことを理由に自分の健康づくりは後回しになっている状況
でした。健保の視点から働く人の健康づくりを改めて俯瞰する
と、この状況には大きな危機感を抱きました。
そこで、保健事業にマーケティング手法を取り入れ、現状の
把 握 と 整 理、 内 包 す る 課 題 と 保 健 事 業 と の 相 関 を 詳 ら か に し、
本質的な課題の抽出と解決方法の模索を始めました。その結果、
自分で健康づくりの情報を選択して行動できる人、つまり健康
づくりリテラシーの高い人を数多く育て、健康リスクを放置せ
ず、医療機関を受診したり、生活習慣を改善するような企業風
土を作るということを最終目標として、保健事業のテーマにす
ることとしました。
生活習慣を改めるなどの行動変容を促すことを目的とした事
業ですので難易度はかなり高いものになります。時間も手間も
かかりますが、確かな効果を求めるには地道な事業の積み重ね
ありますか。
保健事業を実施するうえで留意しておられることは
が必要だと覚悟を決めて取りかかりました。
│
菊地氏◆ 健康支援チームによく話すのは、我々は〝大きなお世
話〟を焼くのだ、ということです。あなたの健康づくりのため
にお世話を焼かせてくださいという態度で臨めば、皆が聞く耳
を持ってくれます。チームメンバーは現在7 名で、定期的にカ
ンファレンスを行い、行動変容に導くためのコミュニケーショ
ンスキルを研鑽し合っています。また、面談で持ち帰ってもら
う取り組み課題は1 つに絞るようにして、
継続を図っています。
個別アプローチを始めてから、医療機関を受診する人が増え、
お礼をいわれるようになりました。応援メールや1 年後の人間
歳代のある男性社員
ドックの際にも声をかけていますので、健康支援チームに見守
られていると感じられているようです。
う声が、この事業の効果を象徴的に表していると思います。
からいただいた、﹁これからも僕を見放さないでほしい﹂とい
50
敬二 氏
シニアディレクター 菊地
博報堂健康保険組合
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明 日 へ の 挑 戦
︵
参照︶は広
個別アプローチと食事カイゼン☆チャレンジ P
く注目され、その結果、事業主と連携しやすい環境が生まれて
います。健康づくりの相談も多く舞い込むようになり、社員の
皆さんの健保への期待度が変わりつつあると感じます。
データ分析結果の活用にはどのような狙いがあったの
ですか。
今後、どのような取り組みを進めていきたいとお考え
た。データヘルスの推進にあたっても支援していただいています。
│
菊地氏◆ 健康保険組合には、医療費の適正化、健康寿命の延伸、
労働生産性の安定という3 つの目標を健康づくりによって実現
実ですから、
誰も異論を唱えることはできません。すんなりと
﹁自
ンボルデータとして提示することを目指しました。データは事
数値化またはビジュアル化して関係者全員の共通認識となるシ
菊地氏◆ 医療・健康情報から身にしみるような事実を発見し、
健保に必要なのは、課題解決のための方法論の構築と、その
方法論を広め、健康づくりを先導する存在に進化することだと
用できる立場にありながら、もったいないことです。
います。健康づくりのためのデータを最も多く持っていて、活
はまだその存在価値を十分に発揮できていないのではと感じて
業︵事業主︶が主導して取り組むことが求められており、健保
することが要求されています。一方、従業員の健康づくりは企
分事﹂化して捉えることができます。当事者意識を持つことに
考えています。企業ごとに文化や風土は異なりますので、最適
でしょうか。
よって自然とスイッチが入れば、健康づくりに必要なことは何
な方法論も健保によって異なると思います。データヘルス計画
│
かを考え、議論する場ができあがります。議論の分だけ実効性が
い
高い解決策が生み出されることになりますので、一人歩きするシ
ア
の狙いの一つは、そうした各健保の成功例を横展開し、全体の
での
ンボルデータはとても重要な役割を果たしてくれたと思います。
合 せ
に
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して
合
てを
◆ データヘルス計画トータルソリューション healthage
レベル向上につなげることではないかと感じています。我々も
N av i s 0 3 0 – M a y 2 0 1 6
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な
ぜひ他の健保の方法論を学んでいきたいと思っています。
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ス 画の PDCA を 合 に
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みずほ情報総研には、専門家としてさまざまな角度からデー
タ分析を行っていただき、重要な健康課題の発見につながりまし
の ータ
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Profile
博報堂健康保険組合
データの共有と協働が
データヘルス成功の鍵
篠原 正紀