電話会話における断りの展開を例に

商用論研究の在 り方 :電話会話における断 りの展開を例に
川手 - ミヤジ ェェ フスカ
恩
テ ンプル大学 ジャパ ン
0.は じめに
日本語教育 において、語用論 レベル での適切 な指導 を してい くためには実態 を正 しく
把握 してお く必要がある と考 え られ る. そのた桝 こは適切 な方法で実態調査 を して教
材 開発 の基 とな る理論 を確 立 してお く必要があろ う。
. 本稿 では、発話行為 のひ とつで
ある 「
断 り」に焦点 をあて 「
依頼 一断 り」の 自然な会話の流れ の中で発話行為 を研究す
ることがいかに大切 であるかを考 えてみた。
多 くの発話行為 の中で も最 も複雑 なものであ ると考 え られ る r
断 り弓は、実際の会話
返 してや っ と成立 してい るよ うだ 湛 a
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例 えば、なにか
依頼 を受 けた時できない とわかっていてもその 内容 な ど、鷺 に詳 しい情報 を要求す るこ
ともあるよ うだo
また、す ぐに断 る打 ではな く 「う、
-ん」 とか 「
そ うですねえ」な と
の緩衝表現 を使 い 、間をおいてか ら本題の断 りに入った りL
,断 る前 に理 由 を必要以 ヒに
延延 と述べた り、代案 を提案 した り、 (
次巨
引ま必ず 。O。」とい う約束 を した り、とい うよ
うにい ろいろな方略 を組み 合わせ て、何回 ものタ-ンを使 ってお断 りを しているよ うで
あるO
さて、この よ うに実際の会話 の中で r
断 りJを考察 してみ ると例 えば、語周論研究で
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」では 「
断机
使われてきた 「
談話完成 テス ト(
とい う発話行
為 の解 明には限界 があるのではなか ろ うか とい う疑問が生 じて くるO そ こで本研究で
は従来 、発話行為 の研 究 に使 われてきた調査方法 を再検討 し、実際の資料 を基に 自然な
会話 の流れ を通 しての発話行為 の研 究がいかに大切であ るか とい うこ との 立証 を試 み
た。
1.先行研 究 と目的
「
断 り」の研 究ひ とつ を とって もいろい ろな調査方法 が使 われ て きてい るよ うだ。
例 えば 、Ha
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は 自然会話によるデータ と談話完成テス トで収
集 したデータを較べ て、日本語母語話者、非母語話者 にかかわ らず 自然会話 によるデー
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の種類 が豊富で、長 いイ ンターア
タの方 が 「
断 りの方略 」(
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1
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は、二つの
クシ ョンがみ られ た と報告 してい る。 また Ba
異 なるタイプの談話完成テス ト、つま り状況説 明だけを与 えた もの と談話形式で状況 を
与 えた もの、を較べ て どち らのデータ も断 りの方略の種類 は似 ていたが談話形式で収集
したデー タの方が長 くて 自然 に近い返答を してい ると報告 し、談話形式で状況 を与 える
談話完成 テス トの方 が発話行為 の研究には適切 である と指摘 してい る。
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1
998)
は、談話完成 テス トとロール プ レイのデータを較べて、ロールプ レイ で収集 したデータ
-
4
3-
の法が長 く方略の種類 も多様であった と報告 してい る。 また、研究方法に よ り使 われ
た方略の種類 が幾分異 なっていた とも報告 し、同一人物で も研究方法 に よ り返答の仕 方
が異 なるよ うであ る と述べている。 Ko
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1
996)も談話完成テス トとロールプ レイ の
デー タを収集 しどち らのデータか らも交渉 の様子 が伺 えないのでそれ らのデータ収集
方法では 自然会話 を反映できない と述べてい る。
また、Bee
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1
996)
は談
話完成テス トと電話会話 によるデータを比較 して、談話完成 テス トでは 自然会話 の特徴
を描写す るこ とはできないが 「
断 り」の一般的なパ ター ンの よ うなもの を考察す るこ と
はでき ると報告 してい る。 他方、電話会話 の方 は発言の量 とい う点 においては 自然会
話 を反映 してい ると述べているo
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1
995)
に よれば ロール プ レイ 、電話会話 のス
ク リプ ト、自然会話 では似たよ うなデータが収集 できるとい う。
したがってその 中で
調査条件 を統制 でき る電話会話のスク リプ トが発話行為 の研 究 に一番適 してい る と述
べてい る。
以上、従来使 われてい る調査方法の長所や短所 を考察 してみたが調査 の 目的に合 わせ
て、適 当な調査方法 を選択す ることが大切 となって くるよ うだ。
つ ま り、 「
断 り」 と
い う発話行為 の実態 をい くつかの条件統制 を した上で調査す るには、スク リプ トのない
電話会話 のデー タを収集 してみ るのが最 も適 した調査方法であるよ うに思われ る。 そ
こで、本稿 では北米英語 を母語 とす る 日本語話者 の使 う 「
断 り」を例 に とり、会話 のな
がれ においての発話行為の研究の重要性 を考察 してみ る。
2.研究事項
「
依頼」 に対す る最初の返答が 「
承諾」の表現である時の会話 は どの よ うに展 開す
るか。
3.研 究方法
3-1 被験者
0人(
英語教師、大学院生)
が
東京周辺 に住む北米英語 を母語 とす る女性 日本語話者 1
この調査 に参加 した。 参加者 は 日本 に 1
0年以上居住 し、日常生活 では 日本語 を使 い、
日本語 には堪能であった。 依頼者 とコーダー は東京周辺 に住む 日本語 を母語 とす る 3
人の女性(
英語教師、翻訳家、 日本語教師)
であった。
3-2 研 究手順
一人の 日本語母語話者が北米英語 を母語 とす る 日本語話者一人-人 に電話 をかけて、
友達 との 日本語 での電話の会話 を録音 して くれ るよ うに依頼 してい る会話 を録音 した。
0か ら 1
5分で、会話 開始部 の談話(
挨拶 、依頼者の 自己紹
実際にはそれぞれの会話 は 1
介、録音承諾 の再確認)
、対話者 の背景的情報、 「
依頼 一断 り」の談話、異 なる依頼 、参
加者 か らの電話会話 の リサ-チに関す るフィー ドバ ック(
全 ての会話 ではない)
、それ か
ら終了部の談話(
感謝 、電話 をきる時の挨拶)
な どか らなった。
対話者(
依頼 され た人)
は、依頼者 の友人の友人で同等の立場の関係 であった。
3-3 デ- 夕分析
デー タ分析 にあたっては、発話行為 を会話 の流れの中で理解す るために会話分析
-4
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をもと りいれ たO つ ま り、会 話分析 と談話分
析によ り 「
依頼 -断 り」のイ ン ター ア クシ ョンを意味のあ るひ とつ の ま とま りとして と
らえ、会話 のながれ を分析 す る際 、社会相互作用 的分析 を も と りいれ て結果 の説 明 を試
み た。
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xA:本稿 で使 われ た会話 お こ しの きま り上 それ
まず録 音 した会話 をお こ し(
ぞれ の会話 を注意深 く分析 し 「
依 頼 -断 り」のイ ンターア クシ ョンに焦点 をあて一 回の
「
依 頼」とそれ に対す る返答 を意 味 のあ るひ とつのま とま りと して と らえた。
それ ぞれ の ま とま りをステー
-ジ とよんだO
そ して、
それ か ら、会話 の 中で使 用 され た 「
依頼 」
と 「
断 りを包含 す る発 話」を 3人 の訓練 を受 けた コー ダー に よ り 「
依 頼 の意 味公式 」
と
「
断 りの方 略」 を利用 して分類 した(
データ分類者 間信頼性 :依 緒 は K-.
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依頼 の意 味公 式」 は Oka
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によって考
案 された依頼 の方略や ヒン トによるの依頼の方略な どに事を加 えて考案 された(
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省略版 で本稿 で扱 った方略のみ)
o また、「
断 りの方略 _
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そ して
分類 されたそれ
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の 「
依頼 一断 り」会話 の流れ を分析 し、 「
依頼吊こ対す る最初 の返答 が 「
承諾 」 の表現で
ある時 の会 話 は どの よ うに展開 して いき、どの よ うに会話 が 閉 じられ るの か を 考察 し.
なぜ その よ うな展 開 をす るのか も考 えてみた0
4.研 究結 果
0の
日本語 の母 語話者 と北米 英語 を母語 とす る女性 日本語話 者 のそれ ぞれ の会 話 、1
うち 「
依 頼」に対す る最初 の返答 が 懐 諾」 の表現 であ る時 の会話 は二 つ で あったO
例
1(
日本人母語話者-J
T
、北米英語を母語とする日本語話者-A)
ステー
ージ i
占、
貼
I
: oooテープにとって下さる方はいらしやらないかと思いまして探してお りま
して、
A
:
(
暗示的依薪の一部)
ああそ うですか。(
省略)じゃあ私、誰かテープしてもいいし。(
承諾)
(
省 略)
ステージ 2
J
: テープにとってはいただけないでしょうか。
(
依頼様式を使った依頼の一部)
A: それ電話 じゃないとだめですか。
(
返答 の遅延)
(
省略)
最後のステージ
J:
あれありますねoこのあのう(
1
.
0
)プレイヤ-みたいなのO
(
情報確常 )
A: (
省 略) あのうだから声が録音できないんですよねO(
言い訳 ・理由)
I
: そうですかO
-4
5-
A: ええQ 外 か らこ うあの う録 音す るのは あの うで きない んです け どね え。(
言 い訳)
例 1では,
A はステージ 1で暗示的依頼を承諾 したかのよ うにみえたのに次のステー ジ
では情報 を要求 して依頼-の即答を避けている。そ して最後のステージでは承諾できない
理由を説明 した り言い訳 をして依頼を最終的に断っている。
例 2 (日本人母語話者 -J、北米英語 を母語 とす る 日本語話者 -A)
ステー ジ 1
J
:
0
0
-省 略 -
。 テー プ に とって下 さる方 はい ら しや らないか と思 い ま して探 してお りま
して、
(
暗示 的依頼 の一部)
A: あ あああ ああはい はい はい。(
省 略)それ、か、か まわ ないです よ。 (
承諾)
(
省 略)
ステー ジ 2
I
: テー プ に とって はいた だ けないで しょ うか。(
依 頼公 式 を使 った依頼 【
典 型 的依頼】
の一部)
A: 友 だ ち と (
省 略)話 してい る時の こ とを録音す るって こ とです かO(
返 答 の遅延 )
(
省 略)
ステー ジ 4
I
: あま りない ?
(
情報 要求)
Å: (
省 略) だ か ら参 考 にな るか ど うあの う資料 として私 が適 当、適切 か ど うか ち ょっ と
わ かん ないんです け ど。
(
言 い訳)
∫
: そ うです か。
A: ええ。 外 か らこ うあの う録音す るのはあの うで きな いんです け どね え。(
言 い訳)
(
省 略)
最後 の ステー ジ
I
: あああ あああそ うです か。 あの う電話 が好 き じや ない とかそ うゆ うこ とは あ ります ?
(
情報 要求)
A: (
省 略) そ の ぐらい だ った、ま あその時にだ った らま あち ょっ と努力 して友達 には っ
は っはっ電話 か けて もいいか も しれ ないです け ど。(
今後 の承 諾 の可能性 )
J
: そ うです かC
例 1では,
Aはステージ 1で暗示的依頼を承諾 したかのよ うにみえたのに次のステー ジで
は情報を要求 して依頼-の即答を避けている。そ してステージ 4では理由を説明 した り言
い訳 をして承諾できない ことを暗示 し、最後のステージでは今後の承諾の可能性 をほのめ
か して結局、依頼を断っている
。
図 1か らもわか りよ うに、方略 をステージ別 に考察 してみ る と、ケ-ス 1では、ステ
ージ 1で承諾 しステ- ジ 2では返答 を遅 らせ てか ら言 い訳 を してステー ジ 3で も断 る
ための言い訳 を し、最後 のステー ジでも言い訳 を した り理 由を説 明 し、結局、断 ってい
る。
ケース 2では、ステ-ジ 1で承諾 しステ- ジ 2では返答 を遅 らせ ステー ジ 3と 4
では断 りのための言い訳 を した り理 由を説 明 し、最後のステー-ジでは今後 の承諾 の可能
性 を提供 し結局、断 ってい る。
どち らのケ- ス も最初 は承諾 したのに 「
依頼 ,確 認 」
-4
6-
図 1 方略でみた会話のながれ
ケース 2
ケース 1
ステージ 1
ステ
ー
ジ
2
暗示的依頼
暗示的依頼
承諾
承諾
典型的依頼
典型的依稀
返答の遅延
返答の遅延
青い訳 中理 由
ステ-ジ 3
ステb
-ジ 4
情報要求
情報要求
言い訳 や理 由
言い訳 ・理由
情報確認
情報要求
言い訳 .埋田
言L
・
ヽ
訳 ・理由
言い訳
ステージ 5
N偶.
情報要求
今後の承諾e
j可能性
- r
返答 」 を繰 り返 し何 回 ものタレ
-ンをつか㌦
つて結局、最終的 には断 す .
rい る
O
5.ま とめ と考察
「
依頼 -断 ・
:
/
日 の談話 では、依頼 にたいす る最初の返答 が 「
承諾」で も 「
依
頗
a確認 j
-F
返答」を繰 り返 し何 回 ものタ.
-ンをつかって、最終的には断 ることもあ るとい うこ
とがわかったO つま り、最初の返答で依頼 を受 けて もらえた と解釈す るのはまちがえ
で、会話の最後までいかない と依頼 に対す る本 当の返答がわか らない とい うわけである。
これ よ り、 「
断 り」 とい う発話行為 は 「
依頼 -断 り」の会話 のながれ にそ って考察 して
みない と実際の会話 を反 映す る実態の調査はむずか しい ことが わか り、会話 の展開に注
目した発話行為 の研究がいかに重要な ことであ るかがわかった。
したがって、談話完
成 テス トな どでは、対話者 (
依頼 をされた人)の最初の返答 しか考察できないので、実
態 を反映す るデー タの収集 はむず か しいとい うことにな る。
また、ロールプ レイ な ど
では、この よ うな承諾 か ら断 り- と変わってい くよ うな予期せ ぬパ ター ンの会話はおそ
らく観察で きないであ ろ う。
6.おわ りに
以上、承諾か ら断 り- と移行す る予期せぬパ ターンの 「
依頼 一断 り」の会話 に焦点を
あて、断 りの実態 を調査す る時は 「
依頼 ・確認 一返答 ・断 り」の繰 り返 しか らなる会話
の展 開を分析 してい くこ とが重要 であると再確認 された。 今後 の課題 として、会話の
中での発話行為の研 究 をす るにあたって会話 の もつ音声的な特徴 な ど (
例 えば発話 の ト
ー ンやイ ン トネー シ ョンや強弱)をも考慮 してい く必要があろ う。
顔 の表情や動作 な どの研 究 も大切 であろ う。
-4
7-
また、言語以外の
参考文献
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