「追加緩和の手段に限りはない」と総裁は言っていた 藤代 宏一

Market Flash
「追加緩和の手段に限りはない」と総裁は言っていた
2016年4月25日(月)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】~米PMI:製造業は再び減速~
・4月米PMI(Markit)は50.8と市場予想(52.0)を下回り、3月(51.5)から悪化。生産(51.2→50.3)、
新規受注(52.6→52.0)、雇用(52.2→50.2)、購買数量(48.4→47.8)が軒並み軟化し、押し上げに寄
与したのは入荷遅延(50.8→52.1※当社にて符合調整)のみであった。ISM製造業に近づけたベースで
は50.7へと0.6pt低下。これは2009年秋以来の低水準で、足もとで復調の兆候が窺えていたハードデータが
再び軟化するリスクを喚起。既発表のフィリー指数と併せて判断すると、製造業セクターの軟化はしばら
く続きそうだ。原油価格は下げ止まっても、エネルギー産業の投資抑制は続く見通し。それが製造業の足
かせとなるだろう。
・4月ユーロ圏製造業PMIは51.5と3月から0.1pt軟化。項目別では生産(53.1→52.5)、新規受注(52.2
→51.9)が僅かに軟化した反面、雇用(50.6→51.3)が改善。国別ではドイツ(50.7→51.9)が改善した
一方、フランス(49.6→48.3)が大きく悪化。他方、ユーロ圏サービスPMIは53.2へと0.1pt改善。その
結果、ユーロ圏総合PMIは53.0へと0.1pt減速。発表元はユーロ圏実質GDP成長率の前期比+0.3%に
整合するとしている。
10
(%)
米製造業生産・PMI
70
60
65
55
60
50
55
45
50
40
45
35
40
30
ユーロ圏PMI
サービス
5
PMI(右)
0
製造業
製造業生産
-5
10
11
12
13
14
15
(備考)Thomson Reutersにより作成 生産は3ヶ月前比年率
16
07
08
09
10
11
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
13
14
15
16
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は横ばい。IT関連銘柄の決算が失望を誘った一方、原油価格の上昇がサポート。WTI原
油は43.73㌦(+0.55㌦)で引けた。ベーカーヒューズ公表の稼動リグ数が減少するなか、需給懸念が緩和。
・前日のG10 通貨はJPYが最弱でそれにNZD、DKK、EURが続いた。USD/JPYはブルームバーグの観測記事を手
掛かりにJPY売り主導で下落。USD/JPYは111半ばまで上昇した。対JPYでのUSD買いは欧州マイナス金利通貨
にも波及。EUR/USDは1.12前半に水準を切り下げた。
・前日の米10年金利は1.888%(+2.7bp)で引け。原油価格が安定し、株価も最高値が射程距離にあるなか
逃避需要が後退。欧州債はコア堅調、GIPS軟調。ドイツ10年金利が0.231%(▲0.84bp)で引けた一方、イ
タリア(1.474%、+1.2bp)、スペイン(1.596%、0.0bp)が小幅ながら金利上昇、ポルトガル(3.294%、
+9.7bp)は大幅に金利上昇。3ヶ国加重平均の対独スプレッドはワイドニング。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
【国内株式市場・経済指標・注目点】
・日本株は前週に急反発した反動が意識され、マイナス転化。
・日銀の追加緩和観測が急浮上。事の発端は22日にブルームバーグが報じた「日銀:金融機関への貸し出し
にもマイナス金利を検討-日銀関係者」という記事。内容は、今後、日銀がマイナス金利を拡大する際に
は現在0.0%の金利が適用されている「貸し出し支援基金」にもマイナス金利が適用されるというもの。貸
出金利の一層の低下が期待されるほか、日銀当座預金を持つ金融機関からみれば「付利」に代わる収益源
として期待が集まる。いわば日銀版T-LTROだ。それを受けて22日後場は銀行株主導で日本株が急伸。貸出
支援基金のマイナス金利適用は、マイナス金利拡大とセットで導入されるとされているため、理論上はマ
イナス金利拡大による収益圧迫を和らげる要因にしかならないが、銀行収益の圧迫が金融システム不安定
化に繋がり、クレジット市場の悪化に招くとの(行き過ぎた)懸念は一先ず払拭されるだろう。
・筆者は日銀が4月会合で「マイナス金利拡大+貸出支援基金マイナス金利適用」に踏み切る可能性は50%
より低いと判断しているが、6月ないしは7月会合に向けてその可能性が高まる(※5月は会合なし)。
4月会合の現状維持の根拠は、①マイナス金利導入から3ヶ月しか経過しておらず、その“勝敗”が判定
中であること、②日銀の重視する新型コア物価(除く生鮮・エネルギー)が1%程度の上昇率を確保して
いることが挙げられる。7月に追加緩和を予想する根拠としては、①については時間が解決、②について
は向こう数ヶ月で新型コア物価の1%割れが予想されるためだ。総裁は予てから「追加緩和の手段に限り
はない」と繰り返しているが、総裁があらゆる緩和措置を模索するよう、事務方に指示を出していること
は間違いなさそうだ。
・翻ってFED。27日のFOMCでは利上げ見送りが予想される。今会合の注目点としては、声明文のトー
ン変化も去ることながら、反対票の数が重要だろう。2016年の投票メンバーはタカ派が増加していたこと
を思い出されたい。3月FOMCで反対票を投じたジョージ・カンザスシティ連銀総裁のほか、日頃から
タカ派発言の目立つメスター・クリーブランド連銀総裁、ブラードセントルイス連銀総裁が利上げを主張
する可能性がある。仮に反対3票となれば、市場では6月の利上げ観測が高まり易い。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2