Page 1 Page 2 松田幸樹氏の学位論文審査の要旨 論文題目 細胞膜

熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
細胞膜流動性を標的とした新規抗HIV-1薬の探索
Author(s)
松田, 幸樹
Citation
Issue date
2016-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/34567
Right
松 田 幸 樹 氏 の 学 位 論 文 審 査 の 要 旨
論 文題 目
細 胞 膜 流 動 性 を標 的 と した新 規 抗HIV-1薬
の探索
(The screening of novel anti-HIV-1 agents targeting on cellmembrane
fluidity)
多剤 併 用 抗 レ トロウ イ ル ス 療 法(cART)の
導 入 に よ り、HIV-1感 染 に よ るエ イ ズ 発 症 は 劇 的 に減 少 した 。
一方
、HIV-1は 変 異 を起 こ しや す く、cART下
での 薬 剤 耐 性 ウ イル ス の 出現 が 臨 床 上 の課 題 とな って い る 。
そ の 為 、HIV-1の 受 容 体 の 一 つCCR5を
標 的 に した 、マ ラ ビ ロク 等 の 侵 入 阻 害 薬 が 開発 され て き た 。 しか し、
マ ラ ビ ロク は侵 入過 程 に お いてCCR5と
は 異 な る受 容 体CXCR4を
利 用 す るHIV-1に
は 有 効 で は な く、更 な
る 研 究 開発 が必 要 とな って い る。
そ こで本 研究 で は 、HIV-1感
染 の 最 初 の 過 程 で あ る ウ イル ス 侵 入 に着 目 し、特 に 、宿 主細 胞 の細 胞 膜 流 動
性 を標 的 と した 新 た な 治 療 薬 の 探 索 を 目 的 と した 。具 体 的 に は 、cepharanthine(ア ル カ ロイ ド製 剤)、hybrid
liposome(人
工 脂 質 膜)及 びGUT-70(三
そ れ らのHIV-1感
HIV1複
環 系 ク マ リン構 造 を有 す る天 然 有 機 化 合 物)の3種
類 について、
剰 複 製 と細 胞 膜 流 動 性 に及 ぼす 効 果 、並 び に2つ の効 果 の 間 の 関連 を解析 した 。
製 は 末 梢 血 単 核 球 等 を用 い 、ELISAや
フ ロー サ イ トメ トリー 法 等 で 評 価 され 、 細 胞 融 合 はT細 胞
株Jurkat等 を用 い 、蛍 光 顕微 鏡 で の 観 察 等 で 評 価 され た 。細 胞膜 流 動 性 の 変 化 はT細 胞 株MOLT4等
を用 い 、
蛍 光偏 光解 消 法 で 評価 され た 。
先 ず 、cepharanthineに
つ いて 解 析 した 所 、細 胞 毒 性 を示 さ な い濃 度(1∼5オg/ml)に
於 い て 、産 生HIV-1
量 の 減 少 が 認 め られ 、実 際 、HIV-1感 染 に よ る細 胞 同士 の合 胞 体 ・
融 合 形 成 を阻 害 した 。そ して 、cepharanthine
は 細 胞 膜 流 動 性 を有 意 に 低 下 させ た 。GUT-70に
つ い て も 同様 の結 果 が 得 られ た 。つ ま り、GUT-70はHIV-1
感 染 を抑 制 し、 細 胞 膜 流 動 性 を低 下 させ た。GUT-70に
つ いて は 実 際 に 、HIV-1受 容 体 の細 胞 表 面 に お け る
発 現 を低 下 させ る事 も確 認 され た 。
一方で
、hybridliposomeは 上 述 の 薬 剤 と は正 反 対 の 結 果 を示 した 。細 胞 毒 性 を示 さな い濃 度(100オM)に
於 い て 、oepharanthineやGUT-70と
は異 な り、産 生HIV-1量
の 増 加 及 びHIVL1感
染 に よ る細 胞 同 士 の 合胞
体 ・融 合 形 成 の促 進 が認 め られ 、 一 方 で は細 胞 膜 流 動 性 のin進 が 認 め られ た 。 更 に 、hybridliposomeは
脂質
ラ フ トの ク ラス タ ー 形 成 も促 進 した 。
以 上 の結 果 か ら、 細 胞 膜 を低 下 させ る薬 剤(cepharanthine及
びGUT-70)はHIV-1感
細 胞膜 流 動 性 をn進 させ る薬 剤(hybridliposome)はHIV-1感
細 胞 膜 流 動 性 とHIV-1感
染 を抑 制 し、一 方 、
染 を促 進 す る事 が 明 らか とな り、標 的細 胞 の
染効 率 が 関 連 す る可 能 性 が 示 され た 。
審 査 の 過 程 に 於 いて は 、(1)細
測 定 法 の 原 理 、(2)hybridliposomeが
胞 膜 流 動 性 の 生 理 的 意 義 、制 御 メ 力ニ ズ ム 、NF-xB経
細 胞 膜 流 動性 をn進 す る機 序 、が ん細 胞apoptosis誘 導 能 との 関連 、
脂 質 ラ フ ト(リ ン脂 質)の ク ラス ター 形 成 変 化 との 関連 、(3)用
に影 響 を与 えた か 、(4)GUT-70が
路 活 性 化 との 関連 、
抑制 す るHIV-1感
受 容 体 の 細 胞 表 面 発 現 を抑 制 す る理 由 、(5)細
い た薬 剤 がHIV-1の
胞 膜 流 動性 変 化 のHIV-1感
Hl\/-1複製 と感 染 細 胞 融 合 の 関 係 に つ い て 、(6)細
吸着 ・侵 入 の どち ら
染 過 程 、ウ イル ス株 に よ り効 果 が異 な る 理 由 、HIV-1
染 以外 の細 胞 機 能 に及 ぼ す影 響 、
胞 膜 流 動 性 を低 下 させ る薬 剤 の 、抗HIV-1薬
と して の
応 用 に お け る課 題 、 等 に つ いて 質 疑 が な され たが 、 申請 者 か らは概 ね 適 切 な 回答 や考 察 が な され た 。
本 研 究 は 、3種 類 の 異 な る作 用 機 序 の 薬 剤 を用 い て 、HIV-1標 的 細 胞 の 細 胞 膜 流 動 性 とHIV-1感
染効 率 が
関 連 す る可 能 性 を示 した もの で あ る 。 将 来 的 に 宿 主細 胞 の 細 胞 膜 の 流 動 性 を標 的 に した 治 療 の ア プ ロー チ に
つ な が る可 能 性 も考 え られ 、学 位 論 文 に相 応 しい と判 断 され た 。
審査委員長 エイズ学iv担当教授
劣
く拠