小売 - 地銀連携産業調査センター

小
産業
アウトルック
売
2015年3月10日
担当: 中井
孝
≫Summary

2015年1月の小売業売上高(季調済)は前月比0.3%増と、再び持
ち直した。小売業全体としては駆け込み需要の反動による影響を脱
して、緩やかな回復基調にあるといえそうだ。
2015年1月の百貨店売上高(季調済)は、2014年11月、12月の持ち
Regional banks Industrial research Center

直しから一転、回復の動きが再び足踏みをした格好となった。一方、
訪日外国人売上高は増勢を保っている。

1月のスーパーの売上高(季調済)も前月比1.4%減と、2か月連
続で落ち込んだ。ただし、畜産品の相場高による売上増加が下支え
することで、水準自体は消費税増税の駆け込み需要の影響のない
2012年の月平均値を上回っている。

コンビニエンスストアは、店舗数増加を背景に、売上高が増勢を維
持した。好調なカウンター商材を背景に客単価は上昇したものの、
店舗間の競争の激化により、客足の奪い合いがみられる。
≫Overview
◆一部の業種では依然として駆け込み需要の反動減の影響が残る
経済産業省の「商業動態統計調査」によると、2015年1月の小売業売上
高(自動車小売業および燃料小売業、その他小売業を除く。消費税額控除
後。速報。季調済。)は前月比0.3%増と、再び持ち直した。小売業売上高
は2014年終盤に一進一退の展開となったものの、売上高の水準としては、
直近15年1月が6.6兆円と、消費税増税の駆け込み需要の影響のない2012
年の月平均値
(6.6兆円)と同
程度である。小
売業売上高は全
体としては駆け
込み需要の反動
による影響を脱
して、緩やかな
回復基調にある
といえそうだ。
小売業売上高の推移
季調済、前月比、寄与度、%
5
4
3
2
1
0
‐1
‐2
医薬品化粧品小売業
‐3
機械器具小売業
飲食料品小売業
‐4
織物・衣服・身のまわり品小売業
‐5
各種商品小売業
2013年
注 :売上高から消費税額を控除している。
季節調整は当センターによる。
出所:経済産業省「商業動態統計調査」より作成
合計
14
15
本レポートに記載されている情
報は、地銀連携産業調査センタ
ーが信頼できると考える情報源
に基づいたものですが、その正
確性、完全性を保証するもので
はありません。本レポートに記
載した内容は、レポート執筆時
の情報に基づくものであり、レ
ポート発行後に予告なく変更さ
れることがあります。ご利用の
際は、最新の情報をご確認くだ
さいますようお願い致します。
本件に関するお問い合わせ
地銀連携産業調査センター
(浜銀総合研究所内)
Tel 045-225-2375
37
◆消費者マインドは小幅ながら持ち直しが続く
などの医薬品化粧品小売業が、店舗数拡大を背景
ここで個人消費を巡るファンダメンタルズの
に売上高を順調に伸ばしている。大規模小売店舗
動きを確認すると、雇用・所得情勢は改善が続い
立地法に基づく新設届け出件数においても、ドラ
ている。総務省の「労働力調査」によると、2015
ッグストアの出店は続いており、医薬品化粧品小
年1月の雇用者数(季調済)は5,631万人と、急
売業の売上高は当面増加が続くと予想される。一
伸した前月を若干(0.1%)下回ったものの、引
方、売上高の回復に遅れがみられるのが、家電量
き続き高水準となり、過去2年余り続く増加傾向
販店などの機械器具小売業だ。売上高の水準は、
を維持した。また、15年1月の有効求人倍率(季
直近の15年1月が5,200億円と、消費税増税の駆
調済)も1.14倍と上昇傾向を維持しており、雇用
け 込 み 需 要 の 影 響 の な い 2012 年 の 月 平 均 値
環境は良好といえそうだ。一方、賃金面について
(5,600億円)を依然として下回っている。家電
も、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、
販売においては、商品買い替えまでのサイクルが
15年1月の現金給与総額(事業規模5人以上)は
長いため、駆け込み需要の反動の影響が長引いて
前年同月比1.3%増と増加した。これで前年を上
いるとみられる。
回るのは11か月連続であり、賃金も回復軌道に乗
◆地域別では沖縄県の好調が続く
っている。
地域別にみると、2014年秋以降も沖縄県の好調
一方、冷え込みが続いていた消費者マインドに
さが持続している。「商業動態統計調査」による
も、足元では改善の兆しが現れ始めた。向こう半
経済産業局別の大型小売店販売額(既存店)の推
年間の収入の増え方や雇用環境などの各消費者
移をみると、沖縄県は直近の2015年1月も前年同
意識指標によって構成される消費者態度指数(季
月比6.5%増と、9か月連続して前年同月を上回
調済)は、直近の15年1月が前月比0.3ポイント
って推移した。この背景には観光客の増加と人口
上昇の39.1と、2か月連続で上昇した。背景にあ
の増加がある。14年の沖縄県の入域観光客数は、
るのは、先行き不透明であった景気情勢に明るい
円安による訪日外国人の増加などを背景に、前年
兆しがみえつつあることだ。2014年10~12月期の
比10.0%増の705万6,200人で過去最高を記録し
GDP成長率は、14年4月の消費税増税後初めて
た。沖縄県の人口自体も増加傾向を維持しており、
プラスとなった。また、日経平均株価も波がある
今後も沖縄県の小売業売上高は増加基調で推移
ものの、ここ2、3か月は上昇基調をたどってい
すると考えられる。
る。景気回復への着実な道のりが、消費者のマイ
その他の地域では、地方部の販売額が前年割れ
ンドを持ち直させつつあるようだ。
を続けている。なかでも東北、四国は14年4月の
消費税増税後、前年を上回ったのは1か月に留ま
前月比、%
10
っており、大都市圏と比較した地方の消費の弱さ
5
が鮮明となっている。
0
既存店、前年同月比、%
20
10
‐10
北海道
東北
関東
中部
14
2013年
5
0
暮らし向き
収入の増え方
雇用環境
耐久消費財の買い時判断
15
消費者態度指数
‐5
‐10
20
15
10
5
0
‐5
‐10
‐15
消費者態度指数(季調済)の推移
‐5
各地域の大型小売店売上高の推移
15
Regional banks Industrial research Center
業種別にみると、14年秋以降、ドラッグストア
出所:内閣府「消費動向調査」
2013年
近畿
中国
14 九州
沖縄
四国
15
◆主要業態の動向
【百貨店】
2015年1月の百貨店の売上高(日本百貨店協会
ベース、季調済)は前月比2.7%減だった。2014
2013年
出所:経済産業省「商業動態統計調査」
14
15
年11月、12月と2か月連続で持ち直した後の前月
38
38
比マイナスであり、年明け後に回復の動きが再び
なお、百貨店業界では、都市部と地方部で業況
足踏みした格好となっている。
の差が引き続き拡大している。15年1月の各地区
品目別にみると、従来からの化粧品に加え、14
の売上高は、東京や大阪ではそれぞれ前年同月比
年秋以降は美術・宝飾・貴金属も好調に推移した。
0.7%増、同2.2%増と、駆け込み需要によって押
これらの品目の売上高は直近15年1月もそれぞ
し上げられた前年同月を上回る水準に達し、10
れ前年同月比7.1%増、同4.7%増となり、化粧品
都市計も概ね前年並みの水準となっている。一方、
は7か月連続、美術・宝飾・貴金属は2か月連続
地方部の売上高は同5.5%減と回復までにはなお
で前年を上回った。訪日外国人の活発な消費や、
時間を要しそうだ。
富裕層の消費が回復傾向であることが背景にあ
百貨店売上高の地域差
りそうだ。一方、百貨店の主力商品である衣料品
は回復の動きが鈍い。衣料品の売上は14年夏ごろ
に一旦持ち直したものの、秋以降再び落ち込んで
いる。直近の15年1月も、防寒衣料の売れ行きが
悪く、同5.8%減となった。
12か月後方移動平均、千億円
1.9
10都市とそれ以外の売上高
水準差(右軸)
1.8
1.7
それ以外の地区
(前年同月比、左軸)
1.6
1.5
百貨店売上高の推移
前月比、%
30
季調済、千億円
7.0
売上高(左軸)
6.5
前月比(右軸)
20
2012年平均
2013年
14
15
注 :10都市は札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡。
出所:日本百貨店協会
10
6.0
0
5.5
‐10
5.0
‐20
4.5
‐30
~
4.0
0 ~
‐40
12
2011年
13
14
15
【スーパー】
スーパーの2015年1月の売上高(日本チェーン
ストア協会ベース、季調済)は前月比1.4%減と、
2か月連続で落ち込んだ。ここに来て売上高は弱
含む傾向にあるものの、水準としては、消費税増
注 :季節調整は当センターによる。
出所:日本百貨店協会
税の駆け込み需要の影響のない2012年の月平均
訪日外国人売上高は好調を維持している。15
値を引き続き上回っている。
年1月の売上高は前年同月比181.9%増の125億
店舗数調整後の売上高を品目別にみると、食料
円となり、前月水準をやや下回ったものの、1月
品は15年1月も前年同月比0.9%増と増加傾向に
単月としては過去最高を記録した。好調の要因は
ある。なかでも畜産品は相場高を背景に同3.8%
購買客数の増加である。購買客数は、免税対象品
増と、20か月連続で前年を上回っている。足元で
目が拡大した14年10月以降、顕著に増加している。
は牛肉、豚肉だけでなく、鶏肉も販売価格上昇の
15年2月以降も、中国の春節(2月18日~24日)
兆しがあり、今後も畜産品の売上高は高水準を維
やタイの旧正月(4月13日~15日)などの期間を
持する見込みだ。また、惣菜の売上高も好調であ
中心に訪日外国人が増加するとみられ、訪日外国
り、1月は同4.5%増と大きく伸びている。惣菜
人売上高は今後も増勢を保つ見込みだ。
の売上高は2013年ごろから増勢にあり、高齢化や
120
女性の社会進出により、単身・共働き世帯が増加
百貨店の訪日外国人売上高の推移
億円
140
Regional banks Industrial research Center
店舗数調整後、%
35
30
10都市(前年同月比、左軸)
25
20
15
10
5
0
‐5
‐10
‐15
‐20
し、中食の利用頻度が高まっていることが背景に
消耗品売上高
一般物品売上高
あると考えられる。一方、衣料品、住関品は依然
100
として不調であり、1月もそれぞれ同10.5%減、
80
60
同5.5%減と、ともに2014年4月以降、前年割れ
40
が続いている。
20
39
39
0
2011年
12
注 :免税手続きベースでの売上高。
出所:日本百貨店協会
13
14
15
その苦戦を打破すべく、業界3位のファミリーマ
スーパー販売額の推移
店舗数調整後、季調済、兆円
1.25
売上高(左軸)
1.20
前月比(右軸)
前月比、%
15
ートと業界4位のサークルKサンクスを傘下に
10
持つユニーグループの間で経営統合の協議が発
5
1.15
表された。コンビニ業界では優勝劣敗が鮮明にな
0
2012年平均
1.10
‐5
‐10
1.05
‐15
~
~
‐20
2011年
12
13
14
15
注 :季節調整は当センターによる。
出所:日本チェーンストア協会
と予測する。売上高の水準としては、消費税引き
上げ前の駆け込み需要による押し上げがあった
日本フランチャイズチェーン協会調べによる
13年度を下回るものの、駆け込み需要の影響を受
コンビニエンスストアの2015年1月の売上高(全
けていない2012年度を上回り、2010年度以降の増
店ベース、季調済)は前月比1.2%増と増勢を維
加基調に復する。事業環境の好転により、15年度
持した。一方、既存店ベースでの売上高は2014
は小売業界の業況も改善が続きそうだ。
年4月以降前年割れが続いており、コンビニ業界
の売上拡大は出店増が支える格好となっている。
足元の15年1月は、客単価(既存店ベース)こ
そカウンター商材や惣菜等の売上が好調を保ち、
前年同月比1.0%増であったが、来店客数(同)
名目賃金は2014年年初より上昇が続いており、ま
た、2015年春闘においてもベースアップを検討す
る企業は多く、賃金の上昇は今後も続くと考えら
ンドが上向き、売上高増加を後押ししよう。
続で続いており、既存店ベースでは、客単価は上
また、訪日外国人の増加も売上高回復に寄与す
昇しているものの客足が遠のいているというの
る。観光庁の14年「訪日外国人消費動向調査」に
が、コンビニ全体の傾向となっている。店舗数増
よると、小売業に影響を与える訪日外国人の買物
加に伴い、商圏が重なりをみせ、店舗間の競合激
化から客足を奪い合っている姿がうかがわれる。
コンビニ販売額の推移
季調済、千億円
10
店舗数(右軸)
売上高が回復する背景には、賃金の改善がある。
れる。賃金増加や雇用の確保により、消費者マイ
は同1.6%減と落ち込んだ。この傾向は4か月連
万店
6
売上高(左軸)
5
代は7,142億円だった。14年の小売業全体の売上
高は約139兆円であり、訪日外国人が売上全体に
占めるシェアは1%を下回っている。しかし、前
年と比較すると2,500億円程度売上は増加してお
り、急速にインバウンド消費は拡大している。J
TBの推計によると、15年には訪日外国人数は過
8
4
7
2015年度の小売業売上高は前年度比0.9%増と回
復するも、13年度を下回る
2015年度の小売業売上高は、前年度比0.9%増
【コンビニエンスストア】
9
≫Forecast
Regional banks Industrial research Center
1.000
りつつあり、今後再編が加速すると思われる。
~
~
06
3
2011年
12
13
14
15
注 :季節調整は当センターによる。
出所:日本フランチャイズチェーン協会
去最高の15百万人に達するとみられ、小売業売上
高に占める訪日外国人売上のシェアも拡大して
いくだろう。
兆円
145
小売業売上高の予測
大手コンビニ3社1では、セブン‐イレブンの
一人勝ちが続く。2015年2月期の出店計画はセブ
140
ン‐イレブンのみが当初計画を維持しているも
135
のの、他の2社についてはいずれも下方修正して
いる。平均日販額(既存店)もセブン‐イレブン
~
~
130
0
のみが前年を上回っており、他社は苦戦が続く。
注 :2014年度、2015年度は当センターによる予測値。
出所:経済産業省「商業動態統計調査」
1
セブン‐イレブン、ローソン、ファミリーマートの3社。
40
40