卸売 - 地銀連携産業調査センター

卸
産業
アウトルック
売
2015年3月13日
担当: 片岡
久昭
≫Summary

2014年10~12月期の卸売業販売額(季調済)は前期比0.5%減の80.8
兆円だった。原油価格が一段と下落し、関連商品の価格が下落した
ことが影響した。
足元の15年1月の卸売業販売額(季調済)は前月比2.7%増の27.4
Regional banks Industrial research Center

兆円となった。多くの業種で販売額が増加しており、減少した業種
でも底入れの兆しが見られる。

「法人企業統計」によると、14年10~12月期における卸売業の粗利
率は11.2%となり、前期比ほぼ横ばいと低い利益率が続いている。
営業利益率は規模によって差が出ており、その要因の一つとして物
流コストの影響が考えられる。

15年度の卸売業販売額は、前年度比6.1%増と予測する。消費増税
による駆け込み需要に伴う反動等によって14年度の販売額は前年
度を下回る見込みとなるが、家計消費や工業生産の持ち直しに伴
い、15年度の販売額は増加する。
≫Overview
◆2014年10~12月期の卸売業販売額は微減
経済産業省の「商業動態統計調査」によると、2014年10~12月期の卸売
業販売額(季調済)は前期比0.5%減の80.8兆円となった。個人消費や輸
出の改善傾向に合わせて卸売業の販売額も回復傾向が継続するかと思わ
れたが、10月の台
風による天候不順
の影響や、原油価
85
格の一段の下落に
80
伴う関連商品価格
卸売業販売額(季調済)
兆円
90
季調済前期比、%
4
前期比(右軸)
2
0
‐2
75
‐4
の下落によって、
販売額は前期比微
70
卸売業販売額(左軸)
‐6
販売額(同)を業
2010年
11
12
13
注:季節調整は当センターで実施。
出所:経済産業省「商業動態統計調査」より作成
14
4Q
3Q
2Q
1Q
4Q
3Q
2Q
1Q
4Q
3Q
2Q
1Q
4Q
3Q
14年10~12月の
2Q
‐10
1Q
600
4Q
った。
3Q
‐8
2Q
65
1Q
減という結果にな
本レポートに記載されている情
報は、地銀連携産業調査センタ
ーが信頼できると考える情報源
に基づいたものですが、その正
確性、完全性を保証するもので
はありません。本レポートに記
載した内容は、レポート執筆時
の情報に基づくものであり、レ
ポート発行後に予告なく変更さ
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33
種別に見ると、11業種中7業種が前期を下回った。
3期ぶりに増加した。一般機械を中心に多くの商
なかでも繊維品卸売業(前期比5.2%減)や農畜
品で輸出が増加し、輸入品も円安等で価格が上昇
産物・水産物卸売業(同5.1%減)、家具・建具・
したことで販売額が増加した。一方、中小企業の
じゅう器卸売業(同4.7%減)等の販売額が大き
販売額(同)は、前期比1.1%減となった。国内
く落ち込んだ。繊維品については、主な需要先と
市場が中心となる中小企業の販売力は、消費増税
なるインテリア向けや衣料向けが引き続き低迷
後の低迷から抜け出せない状況が続いている。
したほか、これまで販売額を牽引してきた自動車
響した。農畜産物・水産物は、10月の台風による
天候不順で家計消費が落ち込んだことに加え、米
麦価格の下落によって販売額が落ち込んだ。なお、
原油価格下落の影響を受け、鉱物・金属材料卸売
業(同4.0%減)や化学製品卸売業(同1.2%減)
などの販売額も落ち込んだ。
卸売業販売額推移(規模別)
季調済前期比、%
4
2
0
‐2
‐4
‐6
大規模卸販売額
中小卸販売額
‐8
一方、食料・飲料卸売業(前期比2.5%増)や
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
2011年
機械器具卸売業(同2.3%)等の販売額は増加し
た。食料・飲料卸売業の販売額は水準としても消
費増税前の駆け込み需要が発生した14年1月~
12
13
14
注1:大規模卸は、従業者100名以上の各種商品卸売事業所及び従業者200名
以上の卸売事業所が対象。また、卸売業販売額から大規模卸の販売額
を差し引いたものを中小卸の販売額とした。
注2:季節調整は当センターが実施。
出所:経済産業省「商業動態統計調査」より作成
3月の販売額と遜色がないレベルまで回復して
なお、直近データとなる2015年1月の卸売業販
いる。これは、コンビニの店舗数増加や食品スー
売額(季調済)は前月比2.7%増となり、4か月
パーの売上が好調であったことが要因と考えら
ぶりに前月を上回った。業種別に見ると、11業種
れる。機械器具卸売業は、車検を迎える自動車の
中9業種が前月を上回った。なかでも、医薬品・
増加による整備工場等での部品需要拡大の恩恵
化粧品卸売業(前月比6.4%増)、各種商品卸売業
を受けた自動車卸売業1や、工作機械等で受注が
(同6.1%増)、建築材料卸売業(同5.8%増)な
増加した一般機械器具卸売業で販売額が増加し
どの業種の販売額が大きく増加した。医薬品・化
た。
粧品卸売業では、訪日外国人の購買意欲の高さも
2010年=100
130
125
120
あって百貨店等での化粧品販売が好調であるこ
業種別販売額指数(季調済)
各種商品
農畜産物・水産物
化学製品
家具・建具・じゅう器
繊維品
食料・飲料
鉱物・金属材料
医薬品・化粧品
Regional banks Industrial research Center
の海外生産向けが一時的に落ち込んだことが影
衣服・身の回り品
建築材料
機械器具
とに加えて、全国的にインフルエンザが流行した
こと等で医薬品の販売額も増加したと考えられ
115
る。各種商品卸売業は、足元で好調が続いている
110
輸出が牽引して販売額が増加している。
105
100
一方、家具・建具・じゅう器卸売業(前月比0.9%
95
減)と鉱物・金属材料卸売業(同0.3%減)の販
90
売額は減少した。家具・建具・じゅう器卸売業は、
85
消費増税後の販売額低迷が続いている。また、鉱
80
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
2011年
12
13
14
出所:経済産業省「商業動態統計調査」
物・金属材料卸売業では、原油価格の下落を受け
た石油関連商品の価格低下が続いたことから厳
また、販売額を規模別に見ると、卸売業販売額
しい事業環境が続いたが、一方で非鉄金属や金属
全体のおよそ3割を占める大規模卸の14年10~
製品の出荷増があったことから、販売額は前月比
12月期の販売額(季調済)は、前期比1.8%増と
微減に止まった。
1
詳細は、前回のアウトルック(14 年 12 月号)に記載。
15
34
た背景の一つと考えられるのが、物流コストの影
利益率の増減に影響
響である。一般に規模が小さい企業ほど物流を自
財務省の「法人企業統計」によると、14年10
社で行わざるを得ない場合が多いが、このような
~12月期の卸売業の粗利率は11.2%となり、前期
企業では軽油やガソリン価格の下落によって物
比横ばいとなった。円安進行による仕入価格の上
流コストの負担が軽減したと考えられる。反対に、
昇等によって、卸売業の採算性は低水準を余儀な
規模が大きい企業ほど物流を外注する割合が増
くされている。また、この状況は2015年の年明け
えるが、物流の外注コストは依然として負担が重
以降についても中小企業を中心に続いていると
い状況になっている。事実、日本銀行の「企業向
見られる。日銀「短観」2014年12月調査の販売・
けサービス価格指数」によると、卸売業の外注先
仕入価格判断D.I.(価格が「上昇」-「下落」)
の中心となる陸上貨物運送は、原油価格が下落し
の先行きを見てみると、大企業では採算性の改善
始めた夏以降もドライバー不足等を理由に上昇
が進むと見込まれるのに対して、中小企業は低採
し、高止まりしている。
算の状態での横ばいの推移が見込まれている。ま
た、「短観」12月調査は、企業の回答時期によっ
2010年=100
106
ては、14年12月の原油価格の一段の低下が判断に
105
織り込まれていない可能性があり、特に原油安に
104
よる取扱商品価格への影響が大きい鉱物・金属材
陸上貨物輸送の価格
103
102
料卸売業や化学製品卸売業等では、足元の状況が
101
「短観」調査時よりも下振れしていることも考え
100
99
られる。
98
%
16
14
%
4.0
卸売業の粗利率・営業利益率
粗利率(左軸)
2012年
13
14
15
出所:日本銀行「企業向けサービス価格指数」
3.5
12
3.0
≫Forecast
10
2.5
◆2015年度の卸売業販売額は前年度比6.1%増と
営業利益率(右軸)
8
2.0
6
1.5
4
1.0
2
0.5
年度比1.3%減、2015年度については同6.1%増と
0.0
予測する2。卸売業の販売先は大きく分けて小売
0
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
2011年
12
13
14
出所:財務省「法人企業統計」
予測
当センターでは2014年度の卸売業販売額を前
向けと製造業向けに二分されるが、14年度は、消
費増税に伴う駆け込み需要の反動があった上に、
以上のように、卸売業の採算性は厳しいままだ
物価上昇を受けて家計が節約志向を強めたこと
が、販売管理費を含めた営業利益ベースでは改善
などから家計消費と工業生産がともに前年度を
が見られる。前出の「法人企業統計」によると卸
下回り、卸売業販売額も減少を余儀なくされた。
売業の14年10~12月期の営業利益率は1.38%と
しかしながら、15年度は駆け込み需要の反動によ
前年同期を依然として下回る低水準ながら、前期
る影響がはく落するうえ、大企業を中心に賃上げ
(0.93%)との比較では上昇した。営業利益率の
が進む一方で、原油価格の下落等で物価上昇ペー
上昇に寄与したのは中小企業(資本金1千万円以
スが抑えられることから家計消費と工業生産が
上1億円未満)であり、中小企業の営業利益率が
共に持ち直す。この結果、卸売業販売額は増加に
1.3%ポイント上昇したのに対し、大企業(資本
金1億円以上)は0.2%ポイント下落している。
営業利益率の改善状況に規模による差が生じ
Regional banks Industrial research Center
◆採算は厳しいままだが、物流コストの差が営業
2
販売額は商業動態統計ベースのため、消費税込での販売
額となる。従って 14 年度の前年度比は消費増税の影響を
受ける。
15
35
転じると予測する。
兆円
50
卸売業販売額の推移
卸売業販売額(左軸)
40
度を通じての平均価格は下落すると予想する。
前年度比、%
10
前年度比(右軸)
5
一般機械器具卸売業の販売額は、14年度が前年
度比横ばい、15年度は同増加になると予測する。
14年度は機械メーカーの業況は堅調であったが、
0
卸売業としては、顧客の中心が中小企業であり、
30
‐5
消費増税による駆け込み需要の反動から特に上
20
‐10
‐15
10
0
‐20
(予測)
‐25
半期の販売額は落ち込んだ。新年度は設備投資が
中小企業にも波及していくと予想され、卸売業の
販売額も回復する見込みである。
自動車卸売業の販売額は、14年度は増加し、15
年度は減少に転じると予測する。14年度は消費税
業種別に見ていくと、まず食料・飲料卸売業の
販売額は14年度に続き、15年度も増加する見通し
である。足元では取扱商品によって企業間の業績
に差が生じているが、業種全体としては消費増税
による駆け込み需要の反動の影響が少なく、販売
額(季調済)は14年5月以降、ほぼ毎月増加が続
いている。15年度も雇用・所得環境の改善等によ
り、家計の支出は持ち直すと考えられ、同業種の
販売額もそれに応じて順調に拡大していく。
次に、建築材料卸売業の販売額は、14年度に前
年度比減少したのち、15年度は緩やかに持ち直す
と予測する。14年度は、民間住宅の建設が年度を
通じて低迷したことなどから、建築材料卸売業の
販売額も前年度を下回って着地する見通しであ
る。しかし、翌15年度は、民間の建設投資が住宅、
非住宅ともに増加傾向をたどる見込みであり、そ
れを反映して建築材料卸売業の販売額も増加す
ることが予想される。
鉱物・金属材料卸売業の販売額は、14年度に続
き15年度も前年度を下回ると予測する。14年度
は夏場以降の原油価格の急落によって石油関連
商品の価格が下落したことや、鉄鋼原料の先安観
と中国の過剰生産のあおりを受けて鉄鋼流通価
格が低下したことなどから、同業種の販売額は前
年度を割り込んで着地する見通しだ。続く15年度
増税直後に販売額が低迷したが、夏場以降に車検
を迎える自動車が増加してきたことに伴い販売
額が増加に転じ、足元でも好調を維持している。
この好調のきっかけとなった車検車両は、15年度
夏場に急速に台数が減少していき、自動車流通市
場の入り口となる新車販売台数も、エコカー減税
基準厳格化等で減少する見込みとなっているこ
とから、15年度の販売額は減少すると予想する。
医薬品・化粧品卸売業の販売額は、14年度に落
ち込んだ後、15年度は増加に転じると予測する。
14年度は医薬品、化粧品それぞれに駆け込み需要
に伴う反動が生じた。医薬品においてはさらに、
薬価の引き下げに加え、後発医薬品の普及促進に
よって販売額が落ち込んだ。続く15年度において
Regional banks Industrial research Center
出所:経済産業省「商業動態統計調査」より当センター作成
は、14年10月から外国人旅行者向けの消費税免税
の対象になった化粧品の販売額が、訪日外国人に
よる旺盛な消費も手伝って増加する見込みであ
る。医薬品においても、14年度のような制度変更
によるショックがなく、高齢化の進行に合わせて
需要が持ち直していくことから、販売額は前年度
を再び上回ると予測する。ただし、医薬品は16
年度以降に重要な局面を迎える。2年毎に行われ
る診療報酬改定が16、18年度に行われる上に、17
年度も消費増税による薬価見直しが行われる予
定のため、場合によっては3年連続の薬価引き下
げとなる可能性がある。
は、原油価格の底入れに合わせて石油関連商品価
格は上昇していくが、年度を通じての平均価格は
前年を下回る見通しである。鉄鋼も、原料の先安
観に合わせて出荷が鈍い状態が当面続き、韓国や
中国産の安価な輸入品も入ってくることから、年
15
36