Information & Knowledge Database. Title わが国における妊娠期女性の

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わが国における妊娠期女性の抑うつの時系列的変化 と要
因
湯舟, 邦子
2015
http://hdl.handle.net/10470/31148
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
氏
名
:湯舟
邦子
学
位
の
種
類
: 博 士 (看 護 学 )
学
位
記
番
号
: 甲 第 29 号
学 位 授 与 年 月 日
: 平 成 27 年 3 月 6 日
学 位 授 与 の 要 件
:学位規則第 4 条第 1 項該当
論
:わ が 国 に お け る 妊 娠 期 女 性 の 抑 う つ の 時 系 列 的 変 化
文
題
目
と要因
: Ti me -seri es Transition of Expectant Mother s’
Depressi on and i t s Factors i n Japan
論 文 審 査 委 員
:主査
教授
柳
修平
副査
教授
日沼
千尋
教授
飯岡
由紀子
博 士 論 文 要 旨
Ⅰ. は じめに
わ が 国 の 母 子 保 健 は 、戦 後 の 混 乱 期 を 経 て 経 済 成 長 の 時 代 を 迎 え 著 し く 発 展 し 、
周 産 期 死 亡 率 、 乳 幼 児 死 亡 率 、 妊 産 婦 死 亡 率 の 減 少 は 世 界 最 高 水 準 とな った 。 こ
の よう に少 死 化 を 実 現 した 歩 みは 目 覚 ま しい が、 他 方 で は 、 進 展 した 少 子 化 は 歯
止 めがか けら れ てい な い 。 女 性 の 高 学 歴 化 に伴 う 就 職 者 の 増 加 で 仕 事 と独 身 の 自
由 を 選 択 す る 女 性 が増 え、 晩 婚 化 による 出 生 数 の 減 少 が、 少 子 化 の 原 因 に取 り上
げら れてい る 。
し か し 、 第 8 回「 21 世 紀 成 年 者 縦 断 調 査 」の 結 果 を み る と 、 初 め て 職 に 就 い た
時 の 雇 用 形 態 が非 正 規 で あった り、 年 収 が低 い もの は 、 結 婚 した 経 験 の 割 合 が低
い 傾 向 にあ り、 男 女 と も に結 婚 し にく い 社 会 にな っ てい る 。 す な わち 、 一 概 に女
性 の 社 会 進 出 な ど が原 因 で 晩 婚 化 な ど が、 出 生 数 の 減 少 の 原 因 とは い えな い 状 況
で あ る 。 さ ら に 、 こ の 調 査 で は 、「 家 族 の 結 び つ き が 深 ま る 」「 子 ど も と の ふ れ あ
い が 楽 し い 」 な ど の 積 極 的 子 ど も 観 、「 子 育 て に よ る 心 身 の 疲 れ が 大 き い 」「 子 育
て、 教 育 の 出 費 がか さ む」 な ど の 消 極 的 子 ど も観 に つい てま と め てい る 。 結 婚 経
験 の ある 男 性 は 、 消 極 的 子 ど も観 、 積 極 的 子 ど も観 と も に増 加 してい る が、 独 身
男 性 は 、 積 極 的 子 ど も観 が減 少 し てい る 状 況 にある 。 結 婚 経 験 と出 産 経 験 ある 女
性 は 、 消 極 的 子 ど も観 が増 加 してい る 反 面 、 独 身 女 性 と結 婚 経 験 は ある が出 産 経
験 がな い 女 性 は 、 積 極 的 子 ど も観 が増 加 し消 極 的 子 ど も観 が減 少 してい る 。 初 め
て出 産 す る 女 性 は 積 極 的 な 子 ど も観 を 持 っ て妊 娠 し て も、 高 齢 で あれ ば妊 娠 期 の
合 併 症 や胎 児 奇 形 につい て心 配 した り、 少 子 化 によ り子 ど もの 大 切 さを 煽 る 社 会
の 風 潮 か ら 健 康 な 子 を 産 ま な く ては とい う 使 命 感 による 出 産 へ の 重 圧 を 感 じる こ
と も考 えら れる 。 そんな 妊 娠 期 に、 抑 う つ と喜 びの 両 者 を 感 じる もの がい る と考
えら れる 。 ま た 、 国 は 子 育 て支 援 と少 子 化 対 策 を 連 動 させた 施 策 によ っ て、 子 ど
もを 生 み育 てる 環 境 を 整 えよう と し てい る が、 出 産 後 の 保 育 先 が見 つか ら な い 女
性 は 少 な く は な い 。 こ の 現 状 は 、 働 い てい る 女 性 の 出 産 の 時 期 、 出 産 回 数 とは 理
想 とは か け離 れ て お り、 期 待 感 による 重 圧 と同 様 に妊 娠 期 、 産 褥 期 の 抑 う つ状 態
を 引 き起 こ す 可 能 性 が高 い と考 えら れる 。
そこ で 、 妊 娠 中 の 抑 う つ状 態 の 変 化 やそ の 程 度 に関 し て一 定 の 同 集 団 を 妊 娠 初
期 、 中 期 、 末 期 、 産 後 1 カ月 の 間 の 経 時 的 実 態 調 査 し、 妊 娠 期 の ど の 時 期 に抑 う
つ 状 態 を 発 見 し 、対 応 す る か と い う 具 体 的 な 方 法 が 明 確 す る こ と が 、
「 切 れ目 の な
い 妊 産 婦 、 乳 幼 児 へ の 保 健 指 導 」 とい う 1 つの 基 盤 と「 妊 娠 期 か ら の 児 童 虐 待 防
止 対 策 」 とい う 1 つの 重 点 課 題 に役 立 つと考 える 。
Ⅱ. 方 法
1.調査対象
研 究 協 力 の 承 諾 を 文 書 で 取 得 した 東 京 都 内 およ び神 奈 川 県 内 の 総 合 病 院 産 婦 人
科 、 産 婦 人 科 ク リ ニッ ク 、 助 産 院 に通 院 す る 妊 婦 およ び産 後 1 か 月 ま で の 褥 婦 を
対 象 とした 。
対 象 の 選 択 基 準 は 、① 同 意 取 得 時 に お い て 年 齢 が 1 6 歳 以 上 で あ る こ と 。② 通 院
期 間 に入 院 を 必 要 とす る よう な 異 常 経 過 を 有 さな い こ と。 ③調 査 依 頼 時 に胎 児 奇
形 、 発 育 不 良 が認 めら れな い こ と。 ④本 研 究 の 参 加 にあた り十 分 な 説 明 を 受 けた
後 、 十 分 な 理 解 の 上 、 妊 婦 本 人 の 自 由 意 志 による 文 書 同 意 が得 ら れる こ と。 除 外
基 準 は 、① 通 院 中 に 入 院 を 必 要 と す る よ う な 異 常 経 過 を 有 す る こ と 。② 胎 児 奇 形 、
発 育 不 良 を 認 める こ と、 と し て調 査 施 設 の 医 師 、 助 産 師 か ら に来 院 す る 妊 婦 の 紹
介 を 得 て、 研 究 担 当 者 は 、 倫 理 委 員 会 で 承 認 の 得 ら れた 承 諾 説 明 文 書 を 施 設 長 、
被 験 者 に渡 し文 書 およ び口 頭 に よる 十 分 な 説 明 を 行 い 、 研 究 協 力 の 承 諾 を 文 書 で
取 得 し対 象 の 決 定 とした 。
2.調査内容
妊 娠 10 週 か ら 12 週 の 妊 婦 に 、 研 究 の 趣 旨 を 説 明 し た 後 同 意 書 に 署 名 し て も ら
い 、 各 調 査 票 の 郵 送 時 期 を 説 明 し、 初 期 、 中 期 2 回 の 調 査 票 を 手 渡 した 。 末 期 、
産 後 の 2 回 の 調 査 票 は 、 妊 娠 末 期 の 最 初 の 健 診 日 を 予 測 し、 調 査 施 設 の 外 来 で 待
機 し受 診 時 除 外 基 準 がな い か ど う か 診 療 記 録 か ら 確 認 し手 渡 した 。 回 収 は 、 す べ
て郵 送 法 とした 。
分 娩 予 定 日 か ら 4 週 間 か ら 6 週 間 後 に 、妊 娠 期 、分 娩 期 、産 褥 期 、産 後 ( 生 後 ) 1
か月の母子の診療情報を診療録から情報を得た。
Ⅲ. 結 果
調 査 に 参 加 し た 対 象 者 は 、平 均 年 齢 3 3 .5 ±4. 56 歳 、助 産 院 3 1 名( 1 3 .3 % )、産
婦 人 科 ク リ ニ ッ ク 5 3 名 ( 2 2. 7 % )、 大 学 病 院 1 4 9 名 ( 6 3. 9 % ) で 各 施 設 に 通 院 し
て い る 合 計 233 名 か ら 、 今 回 の 妊 娠 、 分 娩 、 産 褥 経 過 の 記 載 さ れ て い る 診 療 録 に
う つ 病 の 既 往 歴 の 記 載 の な い 222 名 を 対 象 と し た 。 4 回 の 調 査 に 継 続 的 に 参 加 し
た 7 7 名 の 平 均 年 齢 3 3.6 ±4 .5 4 で 3 0 歳 代 が 6 6 . 2 % を 占 め 、 6 1 .0 % が 有 職 者 で あ
る 。 年 3 3 .4± 4. 54 、 3 0 歳 代 6 0. 0% を 占 め て お り 有 職 者 は 2 0 .0 % と 過 去 の 出 産 経 験
以 外 は 調 査 全 体 の 参 加 者 とほぼ同 様 で ある 。 両 方 の 集 団 とも妊 娠 各 期 および産 後
の P D PI -R の 平 均 点 は カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト を 超 え た が 、 E P D S の 平 均 点 は 妊 娠 各 期
お よ び 産 後 と も カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト を 超 え な か っ た 。P D P I- R を 従 属 変 数 と し て 重
回 帰 分 析 を 行 っ た 結 果 、初 期 は 、初 期 に 感 じ て い た 今 回 予 定 し て い な か っ た 妊 娠 、
今 回 望 ん で い な か っ た 妊 娠 、 初 期 の E P DS が P D P I -R の 得 点 を 上 昇 さ せ 、 初 期 に 感
じ てい た 不 安 が得 点 を 下 降 させ てい る 。 末 期 は 、 末 期 に感 じてい た 今 回 望 んで い
な か った 妊 娠 が得 点 を 上 昇 させ、 今 回 の 妊 娠 に対 す る 不 安 が得 点 を 下 降 させ てい
た 。 産 後 1 ヵ月 は 、 初 期 と末 期 に感 じ て い た 今 回 望 んで い な い 妊 娠 と初 期 末 期 の
EPD S が 得 点 を 上 昇 さ せ て い る 。各 期 と も 今 回 予 定 し て い な か っ た 妊 娠 、今 回 望 ん
で い な か った 妊 娠 は 相 対 リ スク が高 い 。 4 回 の 調 査 に継 続 的 に参 加 した 結 果 にお
い て も P D P I -R 得 点 の 平 均 点 は カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト を 超 え E P D S 得 点 の 平 均 点 は オ
フ ポ イ ン ト を 超 え て い な い 。 重 回 帰 分 析 の 結 果 で は 初 期 の E P DS, 今 回 望 ん で い な
か った 妊 娠 が得 点 を 上 昇 させ てい る 。 中 期 で は 今 回 予 定 して い な か った 妊 娠 の 相
対 リ ス ク が 高 く 、末 期 、産 後 1 ヵ 月 で は 経 済 状 況 の 相 対 リ ス ク が 高 く な っ て い る 。
Ⅳ. 考 察
各 期 の 調 査 およ び 4 回 の 調 査 に継 続 的 に参 加 した 対 象 か ら 得 た 結 果 も同 様 で あ
っ た が 、 継 続 調 査 の 結 果 か ら は 初 期 と 産 後 1 ヶ 月 の P D PI - R と E P D S で の 関 連 が
認 めら れた 。 生 理 的 変 化 も重 な りあう 身 体 的 変 化 が妊 娠 初 期 、 産 後 1 か 月 には 負
担 とな っ て お り、 日 常 役 割 機 能 も低 下 し抑 う つ状 態 にな り や す い こ とと一 致 す る
が、 そ れ以 外 の 要 因 も考 えら れる 。 その 中 で 、 望 ま な い 妊 娠 は 初 期 か ら 抑 う つ状
態 に関 与 し、 出 産 間 近 の 末 期 に抑 う つ状 態 増 す とい う 結 果 は 、 陣 痛 とい う 痛 みを
伴 う 出 産 の 受 け入 れや母 親 にな る とい う 現 実 の 受 け入 れ が、 ネ ガ テ ィ ブな イ メ ー
ジ に つ な が る 可 能 性 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。ま た 、予 定 し て い な い 妊 娠 の 場 合 、
妊 娠 の 回 数 や人 工 妊 娠 中 絶 の 回 数 によ り 妊 娠 を 継 続 す る 決 断 を してい る 可 能 性 が
あ る こ と が 確 認 で き た 。抑 う つ 状 態 を 捉 え る 関 連 要 因 と し て の 初 期 の E P DS 、望 ん
で い な か った 妊 娠 は 、 初 期 、 産 後 1 か 月 で 共 通 要 因 にあ が っ てい る 。 特 に、 初 期
の 望 ま な い 妊 娠 は 相 対 リ スク が高 く 、 出 産 や育 児 にビ ジ ョン が持 てな い こ とが反
映 し、 望 ま な い 妊 娠 が初 期 、 末 期 に抑 う つ状 態 とな る 要 因 と考 えら れる 。 ま た 、
初 期 の 予 定 してい な か った 妊 娠 も関 連 因 子 とし て あ が っ てく る が、 中 期 、 末 期 、
産 後 1 か 月 にか け て は 、 予 定 してい な か った 出 費 による 経 済 的 状 態 が反 映 し抑 う
つ状 態 を 高 める 推 察 で きる 。 初 期 に妊 娠 を 望 んで い た か 、 予 定 してい た か の 確 認
を 継 続 的 にスク リ ーニン グす る こ とは 、 抑 う つ状 態 の 早 期 発 見 につな がる と考 え
ら れる 。
さら に、 妊 娠 確 定 時 の 身 体 的 変 化 、 産 後 の 身 体 的 変 化 につい ては 、 胎 児 の 発 育
が順 調 か 、 妊 娠 高 血 圧 症 候 群 移 行 へ リ スク は な い か な ど の 視 点 だけで は 、 抑 う つ
状 態 の 発 見 が遅 れる 可 能 性 がある 。 抑 う つ状 態 の 早 期 発 見 の た めには 、 生 活 上 の
負 担 に な っ て い る か 否 か の 視 点 に 立 ち 、 SF-36,PSQI の 活 用 に よ っ て 身 体 的 健 康 、
全 体 的 健 康 感 、 活 力 が下 降 し てい な い か とい う 確 認 が必 要 で ある 。
望 んで い な い 、 予 定 し てい な い 事 実 を 早 期 に発 見 す る た めに 妊 娠 確 定 時 に面 接
を す る こ とが望 ま しい が、 妊 娠 の 事 実 に戸 惑 い の ある 対 象 の 場 合 は 、 次 回 健 診 時
に確 認 す る こ とを 伝 え準 備 す る こ とも必 要 で ある 。 確 認 す る 際 は 、 個 人 面 接 で 話
し やす い 環 境 を 確 保 す る こ とが重 要 で ある 。 前 向 きな 受 け入 れ がで きな い 対 象 に
は 、 家 族 、 パー ト ナ ーを 含 めた 保 健 指 導 や公 費 負 担 内 の 健 診 で 健 康 状 態 が保 てる
よう 保 健 指 導 を 充 実 し てい ける よう コ ー デ ィ ネ ー トす る こ とが求 めら れる 。
先 行 研 究 で 安 定 し た 結 果 を 得 て い る 尺 度 を 使 用 し 、P D P I- R に よ る 抑 う つ 状 態 の
関 連 は 明 ら か に で き た が 、 PDPI-R の カ ッ ト オ フ ポ イ ン ト に つ い て は 課 題 に 残 る 。
さら に、 抑 う つ状 態 と不 安 の 関 連 を 得 ら れた が、 今 回 の 縦 断 調 査 で は 、 不 安 が
持 つ防 御 反 応 だけで は な く 身 体 的 精 神 的 影 響 等 を 把 握 す る には 十 分 で は な く 、 不
安 に関 わる 要 因 や抑 う つ状 態 との 明 確 な す みわ け には 至 ら な か った 。
今 後 、 抑 う つ状 態 と不 安 の 関 係 性 にも注 目 して調 査 を 継 続 した い 。
審
査
結
果
の
要
旨
申 請 者 の 学 位 請 求 論 文 に 対 し て 平 成 2 7 年 2 月 20 日 に 3 名 の 論 文 審 査 委 員 に よ
る 審 査 委 員 会 が開 か れ、 審 査 と最 終 試 験 を 実 施 した 。
本 研 究 は 、 医 療 機 関 に通 院 す る 妊 婦 を 対 象 に、 妊 娠 初 期 、 中 期 、 後 期 およ び産
後 の 4 時 点 を 設 定 し 、 出 産 後 う つ 状 態 予 測 尺 度 ( P DP I- R ) と 産 後 う つ 病 自 己 評 価
票( E D PS )を 軸 に 、S F-3 6 、 ピ ッ ツ バ ー グ 睡 眠 質 問 票( P S QR )お よ び 国 際 標 準 化 身
体 活 動 質 問 票 ( I PA Q ) を 用 い 、 妊 娠 期 女 性 の 抑 う つ の 時 系 列 的 変 化 と 要 因 を 検 討
す る こ とを 目 的 とし た もの で ある 。
申 請 者 が論 文 内 容 の 要 旨 で 指 摘 す る よう に、 わ が国 の 母 子 保 健 活 動 は 少 死 化 を
短 期 間 に実 現 した が、 一 方 で 急 速 に進 展 した 少 子 化 を 背 景 に、 その 活 動 の 展 開 に
新 た な 課 題 を 抱 えて い る 現 状 がある 。 妊 娠 ・ 出 産 ・ 子 育 てを 取 り巻 く 環 境 が社 会
の 変 容 に伴 い 大 きく 変 化 し、 適 切 な 支 援 体 制 づく りは 母 子 保 健 ・ 看 護 分 野 にお け
る 重 要 な 課 題 で あ り 、 産 後 う つリ スク が妊 娠 中 に把 握 で きる と母 子 保 健 活 動 に大
き く 寄 与 す る 。わ が 国 で は E D PS の 日 本 語 版 が 開 発 さ れ て か ら 、育 児 不 安 や 産 後 う
つ等 の ある 母 親 を 早 期 に発 見 し、 助 言 ・ 支 援 ・ 家 族 調 整 等 の 支 援 を 目 的 とした 行
政 に お け る 母 子 保 健 施 策 に も 活 用 さ れ 、E DP S に よ る 出 産 前 後 の 集 団 比 較 、リ ス ク
集 団 の 縦 断 研 究 な ど と 報 告 は 多 い 。他 方 の P D PI -R は 、早 期 に メ ン タ ル ヘ ル ス 支 援
を 意 図 した もの で 、 医 療 者 と話 し合 い な がら 自 己 を 振 り返 る こ と に利 点 が あ り、
海 外 で は 有 効 性 を 示 す 研 究 がある が、 わが国 で は 研 究 の 蓄 積 が極 め て少 な い 。 本
研 究 は 継 続 的 に同 一 集 団 を 対 象 に妊 娠 期 の ど の 段 階 が有 効 で ある か を 両 者 で 追 跡
し比 較 した もの で 、 その 着 目 点 は 新 規 性 の ある 研 究 と考 える 。
審 査 委 員 で 一 致 した 総 括 的 評 価 に おい ては 、 産 後 う つを 測 定 す る 二 つの 尺 度 の
変 動 の 関 連 を 捉 え、 抑 う つの 増 強 因 子 と軽 減 因 子 を 明 ら か にす る 試 みと し て、 各
期 における それ ぞ れ の 集 団 および4 期 を 連 続 した 集 団 の 2 側 面 か ら 比 較 検 討 を 重
ね、 成 果 とし て妊 娠 初 期 と産 後 で の 関 連 に お ける 課 題 を 明 確 に した 点 に つい て、
本 研 究 の 意 義 を 十 分 に認 定 した 。
つ ぎ に、 論 文 審 査 におい て主 に討 議 さ れ た こ とがら を あ げる 。
そ れ ぞ れの 尺 度 の 意 味 す る もの と そ れ ぞ れの 関 連 お よ び結 び つ ける た めの 要 素
を 明 瞭 にす る 過 程 と、 分 析 方 法 で 意 図 してい る 目 的 と考 察 の 関 連 が、 論 文 の 記 述
に おい て明 確 に提 案 さ れ てい な い 点 が指 摘 された 。 研 究 段 階 で 両 者 の 有 用 性 を 比
較 す る の か 、 ど の 妊 娠 期 の う つ状 態 が産 後 う つと関 連 が高 い の か を 探 索 す る の か
の 2 点 が、
「 抑 う つ の 時 系 列 的 変 化 と 要 因 」を 追 求 す る こ と で 混 在 化 し て い る こ と
に問 題 点 の 所 在 があ る こ とが議 論 とな った 。 その 議 論 と関 連 す る こ とで ある が、
結 果 の 意 味 す る とこ ろ が分 か り にく く 、 考 察 にや や飛 躍 した 意 見 が多 々 あ り、 論
文 構 成 に工 夫 がある と良 い な ど の 点 が審 査 員 か ら 指 摘 された 。 著 者 は 助 産 師 の 専
門 職 とし て臨 床 ・ 教 育 ・ 研 究 活 動 の 研 鑽 を 積 み重 ね てい る こ と か ら 、 現 象 記 述 的
な 部 分 で の 主 張 の 記 述 が統 計 的 指 標 の 背 景 にま で 及 ぶ展 開 とな る こ とが指 摘 の 要
因 とな る が、 確 率 論 的 な それ との 調 和 を 十 分 に取 れる 範 囲 で の 考 察 の 必 要 性 も審
査 の 中 で 討 議 された 。 い く つか の 課 題 は ある が、 長 期 にわた る デー タ収 集 と多 様
な 統 計 手 法 に取 り組 み、 妊 娠 期 の 抑 う つ状 態 の 発 現 に対 し て 、 関 連 因 子 を 明 確 に
し、 早 期 か ら 支 援 に繋 げよう とい う 試 みは 、 審 査 におい て十 分 に審 査 委 員 に理 解
がで き、 本 研 究 の 成 果 を 導 入 した 観 察 研 究 を 今 後 進 める こ との 有 用 性 も あ わ せ て
期 待 で きる もの で あ る 。
以 上 の こ とか ら 審 査 委 員 会 とし て本 申 請 論 文 は 看 護 学 に貢 献 す る 意 義 ある 研 究
と評 価 し、 論 文 審 査 と最 終 試 験 に合 格 と判 定 した 。
本 論 文 は 学 位 規 定 第 12 条 に 基 づ き 博 士( 看 護 学 )論 文 に 値 す る も の と し て 本 学
看 護 学 研 究 科 委 員 会 に よ り学 位 の 授 与 が認 めら れた 。