代替冷媒 HFC-134a 用圧縮機の潤滑特性に関する研究

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
Version
代替冷媒HFC-134a用圧縮機の潤滑特性に関する研究
吉村, 多佳雄
静岡大学大学院電子科学研究科研究報告. 18, p. 233-235
1997-03-29
http://hdl.handle.net/10297/1244
publisher
Rights
This document is downloaded at: 2016-07-19T14:30:32Z
氏名。(本 籍)
吉
村
多 佳
学位 の 種 類
博
士
(工
学)
学位 記 番 号
工博 甲第
135
号
学位授与の日付
平成
学位授与の要件
学位規則第 4条 第 1項 該当
研究科導攻の名称
電子科学研究科 電子応用工学
学位論文題目
代替冷媒HFC-134a用 圧縮機 の潤滑特性 に関す る研究
論文審査委 員
(委 員長
8年 3月
雄 (大 阪府)
23日
)
教 授
中 山
顕
教 授
森
田 信 義
教 授
野 飼
享
教 授
柳
沢
教 授
清
孝
論
文
水
内
容
の
要
正
旨
冷蔵庫 では、現在 まで使用 されて きたCFC-12冷 媒 力℃FC規 制 によ り1995年 末 までに全廃 され、代替
冷媒HFC-13亀 へ の変更が完了す る。 このHFC-134a冷 媒 の使用 に関 しては、圧縮機の しゅう動部 の摩耗
が増加す るとい う問題があ り、現在 は主 に冷凍機油 の種類 や しゅう動材料 の変更 による耐摩耗性 の向
上で対応 してい る。 しか し今後の信頼性 やエ ネルギー効率 の さらなる向上 といった課題 に対処 してい
くためには、対摩耗性 とともに トライボ ロジー特性 の基本 であるしゅう動部の潤滑特性 を解明 してい
くことが強 く望 まれる。本研究は、以上のように冷蔵庫用冷媒がα℃-12か らHFC-13れ に変更 されまた
それに伴 つて圧縮機 の潤滑油 たる冷凍機油 も変更 される状況下で、 この変更が圧縮機 しゆう動部 の潤
滑状態 に及ぼす影響 を明 らかにして、潤滑特性上の工学的知見 を得 る ことを目的 としてい る。 そのた
めに、圧縮機内部 の しゅう動形態 の異なる主要 なしゅう動部 について、HFC-134aと エステル油、CFC―
12と 鉱油 とい う新旧の冷媒 と油 の組合 わせについて しゆう動潤滑特性 を比較 し、さらに相溶性 の影響
を調べ るために、互い に溶解 しに くいHFC-13れ とアルキルベ ンゼン油 の組合 わせの場合 の検討 も行 っ
た。対象 とした しゆう動部 は、揺動運動 を行 ってい る往復圧縮機 の連接棒小端部軸受、外接円弧接触
を行 つているロー タリ圧縮機 のベー ンとビス トン間 しゆう動部並びに冷媒圧縮機 に共通的 なジャーナ
ル軸受 である。
1.往 復圧縮機 の連接棒小端部軸受
揺動運動 を行 う上に動荷重が作用す ることから一般的な回転軸受 とは異なる挙動 を示す往復圧縮機
の連接棒小端部軸受 の特性 について、電極法 による圧縮機運転中の軸受特性測定実験、モデル的な軸
受要素実験 ならびに潤滑理論 に基づ く理論解析 のそれぞれの結果 を比較す ることによ り潤滑油膜 の形
成状態 について詳細 に検討 した。 まず軸受要素実験 によると、回転軸受では容易 に潤滑油膜 が形成 さ
れる圧力や回転数条件 で も揺動軸受 にお いては油膜が形成 されに くく、軸 は荷重点付近 の軸受壁面 に
-233-
沿 って揺動 角度 の約 1/2の 角度範囲で揺動運動す ることが明 らかになった。 また実際 の圧縮機 において
も、小端部軸受 は軸 と軸受間で金属接触 を発生す る厳 しい潤滑状態 にあった。その時の金属接触率 は、
吸込 み圧力が低 く、吐出 し圧力が高 いほど、 また軸回転数が低 いほど大 きくな り、金属接触率 とU/FE
(す べ り速度 と荷重の比率)と の間には明確 な相関関係 が得 られた。 この金属接触率 とU層値 の相関関係
は、代替冷媒であるHに _13生 とエステル油、お よび従来冷媒 のCFC-12と 鉱油 の組合 わせで差がなかっ
た。
2.ロ ータリ圧縮機 のベー ンとビス トン間 しゅう動部
ロー タリ圧縮機 において線接触す るために非常 に厳 しい潤滑状態 にあるベー ンとビス トン間の しゅ
う動部 については、安定運転状態 と過渡運転状態 の ビス トン自転挙動 の実験 とそれに基づ く理論解析
か らその潤滑状態 を考察 した。 まず安定運転状態での ビス トン自転数 は、CFC-12と 鉱油、HFC-134aと
エ ステル油、HFC… 13亀 とアルキルベ ンゼン油 のそれぞれの組合 わせで差があ るが、 これは粘度の違 い
によるものであ リベー ンとビス トン間の摩擦係数 に差 はなく0。 02∼ 0.03程 度であった。 また圧力差の変
化 に対す る摩擦係数の変化 も小 さか った。 さらに機械力学的解析 ならびに簡易的なEHL潤 滑解析 によ
り、軸一 回転中のベー ンとビス トン間の油膜厚 さは0.lμ m以 下 と非常 に薄いことが明 らかになった。
この油膜厚 さから表面粗 さを考慮 して計算 した膜厚比 は0。 32と な り、摩擦係数の値 も考慮 に入れると、
潤滑状態 は境界潤滑域 にあ ると予測 された。一方過渡運転状態 では、液圧縮 が発生するほどの液 もど
りがあ るとビス トンの 自転数が低下 し、 この液圧縮 の継続時間が長 いほどビス トンの 自転数の低下時
間が長かつた。自転数が低下 しているときのベー ンとビス トン間の摩擦係数の値 は0.Hで あ り、定常運
転時の値 である0。 02∼ 0。 03に 比べ て非常 に大 きくなっていることか ら、 しゅう動部 は乾燥摩擦域の厳 し
い潤滑状態 に移行 しているものと推察 された。そ して、液圧縮が発生 しているときのベー ンとビス ト
ン間の摩擦係数の上昇 による ビス トン自転数の低下 は、冷媒が溶解 しにくいHFC-13亀 とアルキルベ ン
ゼ ン油 の組合 わせにおいても発生す ることから、ベー ンとビス トン間の油 の洗 い流 しは化学的なもの
ではな く物理的なものであると考 えられた。 また同 じくHFC-13亀 とアルキルベ ンゼ ン油 の組合 わせ に
おいては、液 もど りが終了 してからビス トン自転数が定常的な値 に復帰す るまでの時間がσ C-12と 鉱
油 の組合 わせに比較 して短 かつた。 これはアルキルベ ンゼン油 のほ うが粘度が低 いか らであ り、一旦
油 が洗 い流 された しゅう動面 に密閉ケー シング内の油が再度供給 され易 く潤滑油膜 が 回復 し易 い もの
と推察 された。
3。 ジャーナル軸受
冷媒 と冷凍機油 の共存下で試験可能な軸受試験機 を製作 して、実際の ロー タリ圧縮機 の運転条件 に
おいて、HFC-13亀 とエステル油の組合 わせ (I)に おけるジャーナル軸受特性 を測定 し、従来のCFC-12
と鉱油 の組合 わせ (Ⅱ )の 場合 と比較 した。 また冷媒 と溶解 しに くいHFC-134aと アルキルベ ンゼン油 の
組合 わせ (Ⅲ )の 場合の試験 も行 った。その結果、 ゾンマー フェル ト数力洵.1以 上では流体潤滑状態にあ
り、 この領域 での軸受摩擦係数 は冷媒 と油 の組合 わせや冷媒溶解量 の多少 にかかわらず同等 であ り、
流体潤滑下の理論摩擦係数 とほぼ同 じ値、同 じ傾向であった。 またゾンマー フェル ト数力洵.1以 下にな
ると冷媒 と油 の組合わせ に関係な く境界潤滑状態 に移行 し始 めた。 しか し冷媒 の溶解 しやすい組合 わ
せ (I)、 (Ⅱ )で は、冷媒 の溶解 しにくい組合わせ (Ⅲ )に 比べ て、 ゾンマーフェル ト数力も.05以 下の領域
で、摩擦係数の不安定 な増加、軸受温度 の急上昇が発生 した。
以上の事柄 を総括す ると、従来のCFC-12と 鉱油 の組合わせ と比較 して、代替冷媒 のHFC-13亀 とエ ス
テル油、HFC-13亀 とアルキルベ ンゼ ン油 の組合 わせは共 に流体潤滑域では潤滑状態 に差 はなかった。
しか し境界潤滑域では、 ジャーナル軸受 の潤滑特性 に見 られたように、 アルキルベ ンゼ ン油のような
冷媒 の溶解 しにくい冷凍機油 の方が良好 な潤滑状態 であるこ とがわかった。
-234-
論
文
審
査
結
果
の
要
旨
本論文 は、 オゾ ン層破壊媒体 の規制 によつて家庭用冷蔵庫 の冷媒 力℃FC¨ 12か らHFC-13れ に変更 さ
れ、 またそれに伴 い圧縮機 の潤滑油 たる冷凍機油 も変更せ ざるを得 ない状況下で、 これ らの変更が冷
媒圧縮機 しゆう動部 の潤滑特性 に及ぼす影響 を明 らかにす ることを目的 としてまとめ られた ものであ
る。具体的 には、冷媒圧縮機 にお ける形態 の異 なる三種類の しゅう動部 に関 して、新旧の冷媒 と冷凍
機油 の組合 わせ 、す なわちHFC-13亀 とエステル油、CFC-12と 鉱油 の組合 わせについて しゅう動潤滑特
性 を測定 して比較 し、さらにそれ らに比べ て相溶性 の低 いHFC‐ 13れ とアルキルベ ンゼン油 の組合 わせ
について も検討 を加 えた。
論文 は全6章 か ら成 り立 ってお り、第 1章 の序論 では本研究の背景 と目的 を述べ てい る。
第2章 では、本研究の対象 とした二種類の冷蔵庫用圧縮機、す なわち往復圧縮機 とロー タリ圧縮機 の
構造 と主要 な しゅう動部の形態 について説明 し、予測 される潤滑特性上の問題点 を指摘 した。
第3章 では、揺動運動に加えて動荷重が作用す る往復圧縮機の連接棒小端部軸受 に関 して、電極法 に
よる実機運転中の軸受挙動 の測定や揺動軸受モ デル による要素実験 を行 い、それらに関す る潤滑理論
解析 を試 みた。その結果、小端部軸受 では油膜 の形成 が常 に困難 な状 況 にあ り、その金属接触 の厳 し
さは荷重速度比 (U/F値 )と 明確な相関関係があることや、その関係 は冷媒 と冷凍機油の組合 わせには依
存 しないこ とを明 らかにした。
第4章 では、外接円筒 の線接触状態 にあ るロー タリ圧縮機 のベー ンとビス トン間の潤滑状態 に関 し
て、 ビス トンの挙動計測 ならびに運動解析 に基づ く摩擦係数分析や弾性流体潤滑解析 を行 った。その
結果、通常運転時 には境界潤滑域 にあるベー ン先端部 の潤滑状態が、液 もど りを伴 う過渡 運転時 には
乾燥摩擦 域 とな り、 しゆう動摩耗 の点で問題 となる ことを明 らかにした。
第5章 では、冷媒圧縮機で多用 されてい るジャーナル軸受 に関 して、冷媒 と冷凍機油 の共存下での実
験 が可能 な軸受試験装置 を製作 してその潤滑特性 を測定 した。その結果、流体潤滑域 では冷媒 と油 の
組合 わせ に依存 しない潤滑特性 を得 たが、境界潤滑域ではゾンマー フェル ト数力洵.05程 度以下になる
と、相溶性 が高 い冷媒 と油の組合 わせの場合 には、相溶性が低 い場合 とは異な り、不安定 な摩擦急増
現象が起 きる ことを見 い出 した。
第6章 は結論 であ り、本研究 を総括 している。
以上の ように、代替冷媒 とそれに適合する冷凍機油 の組合 わせ に関す る潤滑特性 を従来 の組合 わせ
と比較 して解明 した成果 は、今後 の信頼性 の高 い冷媒圧縮機 の開発・設計 にとって極めて有用であ り
工学的意義 も大 きい。 よつて、本論文 は博士 (工 学)の 学位 を授与す るに十分な内容 を持 つ もの と認 め
る。
-235-