OICE Discussion Paper Series (ODP) HAK-14 中国の農村開発と環境要因 秋山 尚子 1.はじめに 私は、中国の農村における開発について、有効な方法が 3 つあげられると考えている。その 3 つの方法と は、教育改革、マイクロファイナンス、フェアトレードである。これらの方法は、中国だけでなくバングラ ディシュ等の途上国において実施されているものであり、成果も出ているといえる。だから、私も中国にお いても開発方法として有効であり、実施すべきであると考えていた。 しかし、本当にどこの国や地域においても、これらの開発方法は有効なのであろうか。中国では、マイク ロクレジットを実施している地域はあるが、成功している地域もあれば失敗に終わっている地域もある。 そこで本稿では、開発方法を考える際に重要になってくる中国の農村における環境要因を中兼(1999,第 1 章)からまとめてみたいと思う。最後に、どんな国や地域でも有効で万能な開発方法はないということ、 ある程度成果が出ている開発方法であっても、環境要因や初期条件を無視することはできないという 2 点を 述べる。 2.中国農村における環境要因 環境要因とは一言で言うと、政府当局が簡単には動かせないもので、次の 4 つに分けることができる。① 自然という物理的、地理的要因、②国内外の政治、国際状況といった政治的要因、③歴史・文化という歴史 的要因、④出発時点における初期(発展)水準が環境要因としてあげられる。 ① 自然という物理的、地理的要因 自然環境は政策当局者が動かしえない典型的な環境要因である。中国は独特の風土と土勢、地理的配置を 持っているため技術的制約条件、制度や政策、文化といったものが大きく影響されているといえる。 南部と北部、東(沿岸部)と西(内陸部)とでは気候が全く違う。北部、内陸部は乾燥地帯であり、中部・ 南部、沿岸部は多湿地帯である。 耕地面積は 9.9%に過ぎず、山地と高原とで国土の 59.4%も占めているので農業は決して恵まれた環境で はないといえる。 ② 国内の政治、国際状況といった政治的状況 経済的成果を考える際、政治的、国際的環境も環境条件である。中国における国際的環境では、冷戦(中 国はソ連・東欧の社会主義陣営に参加)、ソ連およびスターリンの影響力は圧倒的であったこと、政治的環境 では「毛沢東主義」の確立に注目すべきである。 毛沢東のもつカリスマ性を背景に、彼が解放闘争期中に唱えた大衆路線である大衆動員論、精神主義、平 1 Copyright Reserved, OICE, 2009 OICE Discussion Paper Series (ODP) HAK-14 等主義がその後長期にわたり色濃く中国の政策に反映されることになった。 特に毛沢東は農村を中心として活動をしていた為農村への影響は、大きいと思われる。 ③ 出発時点における初期(発展)水準 1949 年に共産党新政権が過去の遺産として、引き継いだものは何なのか。主として民国時代で比較的落ち 着いていた 1937 年までの旧中国発展水準について見てみると、新中国は、大きく分けて 3 つの遺産を引き 継いだといえる。 1 つ目の遺産は、農業主体の産業構造である。6 割は農業生産で占められていたが、民国時代の工業成長 もかなり高いことにも注目すべきである。1912-49 年をみると、工業の年平均成長率は 5.5%に達し、1912 −36 年をとれば 9.2%にものぼっていた。 2 つ目の遺産は、高い人口圧力である。新中国は、高い人口・土地比率を過去から引き継ぎ、そして現在 も過剰人口は問題の 1 つとなっている。特に内陸部や農村の過剰人口が問題であるといえる。 3 つ目の遺産は、教育水準である。農村における教育水準の低さは著しく、それは新中国になっても、さ らには現代にも引き継がれることになった。中華人民共和国成立以前の農村における非識字率の高さは、低 い所得水準にと大いに関係する。そのうえ、何よりも戦乱や飢饉に巻き込まれ、安心して教育できる環境に は欠けていたといえる。 以上 3 つの視点から中国の農村における環境要因をあげた。 4.おわりに 本稿では、中国の農村における初期条件と環境条件に注目をした。なぜかというと、新たな開発方法を行 う際、必ず私たちの壁となって表れるものだと考えたからである。初期条件と環境条件を理解しなければ、 地域に合った開発方法は実践できないと思われる。 もし、はじめにでも述べたような開発方法がどこの国にでも有効であるならば、世界各国の貧しい地域で 実施されているはずである。どんな国や地域でも有効な開発方法はないといえる。開発方法がうまく進まな かったり失敗に追い込まれてしまうのは、その国や地域の独特な風土や政治的状況、歴史的要因が邪魔をし ていると考えられる。 なぜ貧困なのか、貧困解消にはどんな方法が有効なのかと考えるとき、もちろん現在の政治・経済体制や 文化も重要であろう。しかし、現在の体制になるまでに、その国や地域が経験してきた歴史を考えないわけ にはいかない。過去から引き継いだ遺産が、現在の中国の貧困や格差につながっていると考えられるからだ。 だからこそ、開発を実施する際には、私たちが変えることのできない環境要因や初期条件を無視すること はできないのである。 <参考文献リスト> ・ 2 中兼和津次(1999)『中国経済発展論』有斐閣 Copyright Reserved, OICE, 2009
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