派遣先 - 先端地球科学技術による地球の未来像創出 - 東北大学

【派遣者氏名】 武田 浩太郎 (地学専攻・大学院研究生)
【派遣先機関と受入研究者】
派遣先機関:アメリカ合衆国エール大学,及びスミソニアン国立自然史博物館
受入研究者:エレン・トーマス博士,及びブライアン・ヒューバー博士
【派遣時期と期間】
平成 17 年 12 月 12 日から 12 月 24 日(13 日間)
【派遣先における研究活動】
21世紀COEプログラム「先端地球科学技術による地球の未来像創出」による研究者の国外派遣プ
ログラムの支援を受け,2005年12月12日から16日までエール大学に,同年12月16日から24日までス
ミソニアン国立自然史博物館に滞在した.本派遣の目的は,暁新世/始新世境界事変中の底生有孔虫群
集に特徴的なQuadrimorphina profunda,及びAbyssamina属種の形態比較のためである.
派遣者(武田)は,エール大学に滞在中に共同研究者であるトーマス博士の持つ暁新世/始新世境界
における底生有孔虫群集の標本のうち,大西洋域(ODP Site 525,527,689,690,1262,1263,
1265,1266)及び太平洋域のODP Site 865の標本スライドを合計137枚鏡下で観察し,派遣者の持
つ太平洋域(ODP Site 1209,1210,1211,1212)の標本と比較再検討を行った.鏡下観察から,
以下の点が明らかになった: (1)これまでトーマス博士がAbyssamina属と同定していた種の中に
もQ. profundaが含まれており,従って(2)暁新世/始新世境界での底生有孔虫群集中のQ. profunda
の卓越は,太平洋域だけではなく大西洋域にも認められた,(3)元々形態的によく似ている
Abyssamina poagi,A. quadrata,Q. profundaの間で,中間的な形態を持つ個体が認められた.ま
た観察した個体の殆どがこれらの種の原記載とは完全に一致せず,改めて原記載標本(Holotype)と
の比較が重要となった.そこで派遣者は,スミソニアン自然史博物館滞在中にSchnitker and Tjalsma
(1983)で記載されたAbyssamina属種及びQ. profundaの原記載標本を鏡下観察し,上述の標本スライ
ドの個体と比較した.その結果,以下の点が明らかとなった:(1)Abyssamina3属は,形態が非常
にバリエーションに富み,原記載標本と完全に特徴が一致する個体は非常に少なかった,(2)太平
洋域で多産するQ. profundaは,HolotypeよりもParatypeとして記載された形態の個体が圧倒的に多
かった.
以上の鏡下観察の結果を踏まえ,今後はSEM写真による微細構造や殻内部の構造の観察比較を行い,
Quadrimorphina profunda及びAbyssamina属種の形態比較を進めるとともに,これらの種の暁新世
/始新世境界事変中での振る舞いの地域間の違いを明らかにしていく予定です.
目による観察が研究の出発となる古生物学においては,研究者間での種の同定概念の違いがしばし
ばの比較研究の障害となってきました.滞在期間中,標本を目の前にして受入研究者のトーマス博士
とは非常に有意義な議論ができ,共通の種の同定概念を持つ事ができまたと思います.
末筆ながら,この短期派遣計画に採用していただきましたことに対し,厚くお礼申し上げます.
東北大学 21 世紀 COE プログラム「先端地球科学技術による地球の未来像創出」