ODPYIZ06株式会社の仕組みとその効果

OICE Discussion Paper Series (ODP)
YIZ-06
株式会社の仕組みとその効果
泉
雄太
1.はじめに
最近,就職活動の一環から,就職サイトで会社を調べていて,会社名の隣に「株式会社」と表記されている
会社をよく目にすることが多い。
「株式会社」というものについて,初めは特に気にとめることはなかった。
しかし,現在では多くの日本の企業が株式会社という形態をとっていることを知り,
「なぜ多くの企業が株式
会社という形をとるのか」
,
「株式会社にすると,どんなメリットがあるのか」などの疑問が思い浮かんできた。
そこで本稿では,株式会社の仕組みとそれがもたらす効果について紹介し,最後に株式会社の有効性につい
て考察する。
2.株式会社の仕組み
(1)株式公開
株式公開とは会社の株式を小口にばらして不特定多数の投資家に売ることである。企業が株式を上場・公開
する大きな理由は、資金調達である。会社が新たに株券を印刷してそれを一般の投資家に買ってもらう,そう
して集めた資金を使ってさらに会社を拡大成長させる,これが世の中の発展に貢献する株式公開のありかたで
ある。経営者に対する信頼があるからこそ,単なる紙切れである証券に値段がつくのである。
しかし,株式を上場した会社とは決して優良会社として「ゴールイン」した会社ではない。上場したその日
から,会社は株式市場で常に投資家の評価にさらされ,会社の値段を株価という形でつけられ続ける。不特定
多数の投資家が小口化された株式を売り買いする際につける値段は,現経営陣が経営する会社としての値段で
ある(森王 2006 p16,17)。
(2)株式会社の仕組み
いつの世も,大きな仕事をしたい,世の中を変えるような新しいモノを生み出して尊敬される人物になりた
い,という野心家は存在する。このような人たちを起業家,英語でアントレプレナー(entrepreneur)という。
彼らがその夢を実現するには資金が必要となる。
しかし,自分の手持ちの金だけでは大きな事業を起こすことはできない。そこでお金持ちに頼んでカネを出
してもらう。気前のいいお金持ちを見つけられない場合は,誰かから借金をするという方法がある。ところが
借金は返さなければならない。その事業が絶対成功するのであればよいが,失敗した場合も借金は残る。自分
の家も親族の財産もその返済のために差し出さなければならないとするなら,かなりの向こう見ずでもなけれ
ば事業を興すこと自体をためらってしまう。
そこで編み出された仕組みが株式会社である。これは,人間ではないのにヒトであるかのように取引の主体
になれる存在である。事業が失敗しても,会社が破産するだけで会社の社長個人の財産までとりあげられるこ
とがないように,責任の主体を切り離す方法である。起業家は最初に資本金として会社にカネを出し,その会
社の株式を受け取る。この株式は,①会社の経営に参画する権利と,②事業が成功した場合その利益の配分に
1
Copyright Reserved, OICE, 2009
OICE Discussion Paper Series (ODP)
あずかる権利,の2つを持つ権利証である。
YIZ-06
事業が成功すると,その利益は株式の所有割合に応じて株主が受け取る。起業家社長がひとりで作った会社
であれば社長が利益を独り占めするし,友人やお金持ちにも出資してもらえばその出資比率に応じて皆で山分
けする。誰がどれだけの配分になるか,後でもめないよう出資した時点ではっきりさせておくために,株式と
いう権利証を発行しておくのである(森王 2006
p21,22)。
3.株式会社がもたらす効果
(1)株式会社の有限責任原則
株式による責任の分離という仕組みは,事業が成功した場合の山分けルールとしても大切であるが,事業が
うまくいかなかった場合のルールの方にむしろ大きな意味がある。事業が失敗した場合には,その株式は紙く
ずになって株主には何も返ってこない。しかし,そこで重要なのは,自分が出資した金額以上には責任を負わ
ずにすむということである。自分や家族の家,財産まで差し出して責任をとる必要はない。これを「株式会社
の有限責任原則」という。この株式会社,あるいは有限責任原則のおかげで,失敗のリスクの高い事業にも起
業家やお金持ちは取り組みやすくなり,大胆な事業にリスクを冒して挑むことができるようになった(森王
2006
p23)。
(2)株式会社がもたらす2つの効果
ひとつは,株式会社自体が借金をできるようになるという効果である。起業家とお金持ちたちは株式を買う
という形で事業資金を出資し,それを元手に会社は銀行から金を借り,いわば「他人のカネ」でより大きな事
業ができるようになった。これを金融用語で,
「レバレッジをかける」という。レバレッジとは,
「梃子(てこ)」
という意味である。株式会社を通じて借金することにより,自分の少ない手金を梃子にして,自宅を担保に差
し入れる必要もなく,その資金の何倍ものカネを借金できるようになった。
もうひとつは,会社の持分を株式という形で小口化,細分化することによって,大金持ちでなくてもその事
業に資金参加できるようになる,という効果である。小口化してひと口の金額を小さくすることによって,よ
り多くの小金持ちから広くカネを集めることができるようになり,より巨額の資金を集めることが可能になっ
た(森王 2006 p23,24)。
4.公開株式市場の誕生
こうしてリスクのある事業にも小口で気軽に参加できる仕掛けができあがると,次に必要となってくるのは,
「株式の流動性」であった。起業家の志に共感してリスク覚悟で出資したとしても,その後に色々な事情で「や
っぱり返して欲しい」と言いたくなることもある。しかし,株式は紙くずになることを覚悟で返す必要のない
資金を集める方法であるため,会社も「はいそうですか」と返事に応じることはできない。
そこで,「売りたし買いたしの出会いの場」として株式市場ができあがった。その株式を他人に譲る,売る
ことができるようにし,その会社に遅ればせながら投資したい,と思う別の小金持ちが現れたら,その株式を
持っていて売りたがっている人を見つけて買えるようにすれば,売り手も買い手もハッピーになる。株式市場
では,誰がどんな会社の株式をいくらで売りたいかが掲示され,買いたい人は手を挙げればその値段で買える
2
Copyright Reserved, OICE, 2009
OICE Discussion Paper Series (ODP)
YIZ-06
ようになっている。その市場に行けば,自分の持っている株式を売ることも,見ず知らずの人から欲しい株を
買うこともできるようになる。
「公開株式市場」,いわゆる「証券取引所」の誕生である。
このように,会社に値段をつけて誰でも買えるようにすることが,社会を革新する新たな事業,産業を生み
出してゆく活力の源となるのである(森王 2006
p25)。
5.おわりに
以上,株式会社の仕組みについて見てきた。企業が株式会社にする大きな理由は,資金調達である。会社が
新たに株式を発行してそれを投資家に買ってもらい,その資金をもって会社を拡大させていく。そして,有限
責任原則によって,失敗のリスクの高い事業にも取り組みやすくなり,大胆な事業にもリスクを冒して取り組
みやすくなった。
株式会社という仕組みは,とても良いアイデアであると思う。企業が株式を発行することによって,誰でも
その事業に資金参加することができる。またその事業が成功すれば,企業と投資家に利益をもたらすだけでな
く,日本の経済の活性化にもつながる。株式会社の成長が,将来の日本の経済を支えていく1つの柱となるの
ではないだろうか。
<参考文献>
森王明(2006)『会社の価値』筑摩書房
3
Copyright Reserved, OICE, 2009