Market Flash 「データ次第」ではなく「市場次第」 2016年3月17日(木) 第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 【海外経済指標他】~FOMC:予想どおり~ ・3月FOMCでは大方の予想どおりFF金利の据え置きが決定された(詳細は後述)。 ・2月米住宅着工件数は前月比+5.2%、117.8万件と市場予想(115.0万件)を上回ったうえ、1月分も上方 修正された(109.9万件→112.0万件)。同時に発表された着工許可件数は前月比▲3.1%、116.7万件と市 場予想(120.0万件)を下回った。株安が一部影響した可能性があり、住宅購入意欲の減衰が懸念される。 もっとも、既往の在庫不足に鑑みると建設需要は底堅さを維持する見込み。 ・2月米CPIは前月比▲0.2%、前年比+1.0%となり前年比伸び率は1月から0.4%pt減速。エネルギー物 価が前月比▲6.0%と急落した。他方、コアCPIは前月比+0.3%、前年比+2.3%へと加速。コアサービ スが前年比+3.0%と0.1%pt加速し、コア財も▲0.1%と0.3%pt下落幅が縮小。財物価全体でも▲0.5%ま で下落幅が縮小しており、既往のドル高を踏まえると意外感のある結果だ。なお、物価上昇ドライバーの 家賃は前年比+3.7%まで伸びを高めており、景気後退後の最高値付近に比肩している。 (千件) 1300 (前年比、%) 5 住宅着工(許可)件数 米 CPI 許可 4 900 コア 3 1100 2 着工 1 700 0 総合 -1 500 10 11 12 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 太線:3ヶ月平均 16 10 11 12 13 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 15 16 ・2月米鉱工業生産指数は前月比▲0.5%と市場予想(▲0.3%)を下回ったうえ、1月分も0.8%へと0.1% pt下方修正された。鉱業(▲1.4%)、公益(▲4.0%)が弱く、製造業の増産を帳消しにした。製造業生 産は前月比+0.2%と2ヶ月連続の増産、3ヶ月前比年率では+0.7%とプラス圏に浮上。一先ずモメンタ ムは上向きに転じつつあり、ISMが示唆していたとおりの反発だ。先行きは、鉱業の弱さが続く反面、 製造業が僅かながら増産を維持することで、全体としては横ばい圏内での推移となろう。 ・1月英雇用統計によると失業率(ILO基準、3ヶ月平均)は5.1%と3ヶ月連続で同水準に留まった。就 業者数は+11.6万人と過去数ヶ月のペースからは幾分鈍化したものの順調に増加している。正社員(+3.3 万人)、非常勤(+4.3万人)、自営業(+2.6万人)が何れも堅調。注目の平均賃金(3ヶ月平均)は前 年比+2.1%、除く賞与ベースで+2.2%とともに12月から0.2%pt加速。1月単月の高い伸びが寄与した。 ただし、先行きはベース・エフェクトにより前年比伸び率が抑えられる可能性が高く、再び鈍化が見込ま れる。今回の結果はBOEの利上げ確率を高める結果ではない。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 130 米鉱工業生産 (%) 8 鉱業 120 6 110 4 英 週平均賃金 2 100 製造業 90 0 80 -2 -4 70 05 06 07 08 09 10 (備考)Thomson Reutersにより作成 11 12 13 14 15 16 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 太線:除く賞与 16 【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】 ・前日の米国株は上昇。FOMCで利上げペースが年内2回になるとの見通しが示されると買い安心感が広がっ た。欧州株はまちまち。WTI原油は38.46㌦(+2.12㌦)で引け。 ・前日のG10 通貨はFOMC通過後にUSDが全面安でそれにJPYが続いた。反対に原油価格反発を受けて資源国通 貨(CAD、NZD、AUD)が軒並み堅調。USD/JPYはFOMCの結果を受けて一時112前半まで急落、EUR/USDは1.12 へと急上昇した。 ・前日の米10年金利は1.908%(▲6.2bp)で引け。米CPIに金利上昇で反応した後、FOMCを通過すると一気に 金利低下。他方、欧州債市場は総じて堅調。ドイツ10年金利が0.311%(▲0.5bp)で引けたほか、イタリ ア(1.334%、▲3.3bp)、スペイン(1.505%、▲1.0bp)、ポルトガル(2.961%、▲1.6bp)も金利低下。 3ヶ国加重平均の対独スプレッドはタイトニング。 【国内株式市場・経済指標】 ・日本株は米株高に追随して高寄り後、上げ幅拡大。 ・2月貿易統計によると輸出金額は前年比▲4.0%、輸入金額は▲14.2%、貿易収支は2428億円の黒字となっ た。季節調整済み前月比では輸出金額が▲2.4%、輸入金額が▲4.0%、貿易収支は1661億円の黒字。輸入 金額の減少によって貿易収支(季節調整値)は4ヶ月連続で黒字となった。為替・物価変動を除去した実 質輸出(当社作成)は前月比+0.4%と2ヶ月連続で増加し、3ヶ月平均では横ばいとなった。足もとの円 高(USD/JPYでは10%程度)の影響が一部で懸念されているが、過去数年間の構造変化を経て日本の輸出は 為替や世界経済の需要変動の影響を受けにくくなっている。そのため、足もとの円高が実質輸出(もしく は輸出数量)を阻害するとは考えにくい。 千 (兆円) 1.5 貿易収支 (2010=100) 実質輸出 110 1 105 0.5 0 100 -0.5 95 -1 -1.5 90 -2 85 -2.5 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 季節調整値(SA) 10 11 12 13 14 (備考)貿易統計により当社作成 太線3ヶ月平均 16 15 16 【注目点】 ・3月FOMCではFF金利の据え置きが決定された。反対票はタカ派のジョージ・カンザスシティ連銀総 裁の1票のみ。景気判断は総括判断が上方修正されたものの、個別項目は強弱混在。雇用と物価が上方修 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 正された一方、設備投資が下方修正され、予想インフレ率もやや慎重なトーンに変更された。「景気判断 上方修正+利上げ見送り」という組み合わせから判断すると、FEDがマクロ指標よりも金融市場(主に 株価・クレジット)に重点を置いていることは明らかだ。 ・注目のドット・チャートは2016年末が0.875%(大方の予想どおり年2回の利上げ、従来は年4回)、2017 年末が1.875%(予想どおり年4回の利上げ、従来と変わらず)となった。毎回のFOMC後に記者会見を 実施するとの方針転換が噂されているため、現時点で記者会見が予定されている3・6・9・12月以外の FOMC(4・7・11月)でも利上げの可能性が排除できなくなっているのが悩ましいところだが、FE Dは半年に1回の利上げペースを想定しているとみられ、市場では6月の利上げ観測が高まりそうだ。 ・ただし、上述したとおりFEDは金融市場を最重要視して利上げの判断を下しているとみられる。例えば、 5月頃に何らかの要因でリスクオフに見舞われた場合、FEDは利上げに慎重なシグナルを発信すること で金融市場の混乱鎮静化を優先するだろう。FEDは、利上げは「データ次第」と強調しているが、実際 は「市場次第」と言える。 2016年3月FOMC 5 中央値 4.5 4 3.5 中央値 3 2.5 中央値 中央値 2 1.5 1 0.5 0 2016 2017 2018 Longer Run (備考)FRBより筆者作成 <主要株価指数> 日経平均※ NYダウ DAX(独) FTSE100(英) CAC40(仏) <外国為替>※ USD/JPY EUR/USD <長期金利>※ 日本 米国 英国 ドイツ フランス イタリア スペイン <商品> NY原油 NY金 終値 17205.58 17,325.76 9,983.41 6,175.49 4,463.00 112.70 1.1225 -0.057 1.908 1.523 0.311 0.650 1.334 1.505 (円) 17400 17300 17200 17100 17000 16900 前日比 231.13 74.23 49.56 35.52 -9.63 (㌦) 17400 0.14 0.00 % % % % % % % 0.022 -0.062 -0.014 -0.005 -0.019 -0.033 -0.010 % % % % % % % 日経平均株価 11:11 現在 NYダウ平均株価 17300 17200 114.5 USD/JPY 114.0 113.5 38.46 ㌦ 1229.80 ㌦ 2.12 ㌦ -1.20 ㌦ 113.0 112.5 ※は右上記載時刻における直近値。図中の点線は前日終値。 112.0 (出所)Bloomberg 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3
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