Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
隠れトランプポジションが姿を現す
2016年11月10日(木)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・欧米で主要経済指標の公表はなし。
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は続伸。オール共和党政権の誕生による規制緩和・景気回復期待がトランプ大統領誕生に伴
う不透明感を凌駕。これまで規制強化によって事業環境が悪化していたとされる金融、薬品株が強くラリ
ー。法人税引き下げ(35%→15%)、富裕層の所得税減税、海外留保利益の還流にかかる税(時限的に
10%へ引き下げ)を中心とする大型減税パッケージに対する期待から幅広い銘柄に買いが入った。一方、
長期金利上昇はこれまで“Search for Yields”のテーマの下で買い進まれてきた一部の高配当株に打撃。
WTI原油は45.27㌦(+0.29㌦)で引け。USD高が原油価格の下押し要因となった一方、相場全体がリス
クオンに傾斜したことで底堅い推移。
・前日のG10 通貨はGBP以外の通貨に対してUSDが買われた。USDは大統領選速報を横目に乱高下した後、米
国時間に入ると買いの勢いが強まった。USD/JPYは105を回復し、EUR/USDは1.09前半まで水準を切り下げた。
・前日の米10年金利は2.057%(+20.2bp)で引け。大型減税を意識した需給悪化懸念と景気回復期待が同時
に生じたとみられる。欧州債市場(10年)は総じて軟調。米金利上昇に追随してドイツ(0.203%、+1.5bp)、
イタリア(1.753%、+3.2bp)、スペイン(1.277%、+2.3bp)、ポルトガル(3.282%、+6.0bp)が金
利上昇。周縁3ヶ国加重平均の対独スプレッドは小幅にタイトニング。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は米株高に追随して9日の下落の大半を取り戻した(10:00)。
・昨日発表の中国の10月CPIは前年比+2.1%と9月から0.2%pt加速。食料品、コア物価が共に上昇加速
となったが、豚肉(+5.8%→+4.8%)の安定は好印象。同時に発表されたPPIは前年比+1.2%と、54
ヶ月連続で下落した後、2ヶ月連続でプラス圏を維持。上昇の大半を説明しているのが、資源価格安定に
よるベースエフェクトであるとはいえ、グローバルディスインフレの一因となってきた中国の川上物価が
上昇に転じたそれ自体は望ましい事象だ。
・昨日発表の日本の景気ウォッチャー指数は現状が46.2(9月44.8)、先行きが49.0(48.5)とそれぞれ市
場予想を上回り、9月から大幅に改善。家計・企業ともに広範な項目が改善しており、景況感の底上げが
見て取れる。季節調整値でも現状(42.5→45.4)、先行き(49.9→51.4)が共に改善した。生鮮食品の高
騰など家計を取り巻く環境に逆風はあったものの、金融市場の安定、所得環境の改善が寄与した模様。
(前年比、%)
中国 物価統計
景気ウォッチャー調査
10
65
60
CPI
5
55
先行き
50
45
0
40
35
-5
25
-10
05 06 07 08 09 10 11 12
(備考)Thomson Reutersにより作成
現状
30
PPI
13
14
15
10
11
12
13
14
15
(備考)Thomson Reutersにより作成 季節調整値
16
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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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<#ねじれ解消 #減税・規制緩和 #USD/JPY
#Search for Yields逆回転>
・大統領選結果はトランプ氏に軍配、議会は上下両院ともに共和党が掌握した。オール共和党政権の誕生に
よって議会の“ねじれ”が解消するため、これまで米国経済の足かせとなっていた「政策実行力」という
観点からはポジティブである。政権公約の「大規模減税」「規制緩和」「インフラ投資拡大」など経済的
観点から望ましい政策が早期に実行されれば、市場はこれを好感しよう。少なくとも米国株にとっては悪
い話ではない。実際、9日の欧米市場はリスクオンで反応した。一方、保護主義的な過激策である輸入関
税の導入は非常にネガティブ。中国(45%)、メキシコ(35%)からの輸入関税が真剣に検討されれば、
あらゆる国のあらゆる観点から経済の逆風となろう。ここが最大の不透明要因だ。
・昨日は新政権誕生にリスクオンで反応したが、目先的に注意すべきは米金利上昇を起点とする“Search
for
Yields”の巻き戻し。先進国国債は、ほぼ一貫した金利低下が3年近く継続していたこともあって、
米国株は当然のことながら日本株も債券代替投資先として資金流入が観測されていた。しかしながら、米
10年金利が心理的節目となる2%を上抜けてくるようだと、株式配当の魅力は相対的に低下することにな
る。金利上昇で金融株が恩恵を受ける一方、安定配当がセールスポイントのディフェンシブには逆風か。
同様の観点から利回りモノの代表格であるハイ・イールド債、高金利通貨の下落にも注意。
・9日の日本時間は選挙結果を受けた不透明感の増幅からリスクオフ・トレード。為替は一時的にJPY、EUR、
CHFなど調達通貨に対してUSD売りが進行。変動の大部分はリスクオフで説明可能だが、「トランプ氏=保
護主義=ドル安論者」との連想が働いた部分もあるだろう。たしかに同氏が主張する保護主義的な政策は
ドル安を連想させるが、トランプ氏および共和党は「強いドル=悪」との主張を掲げている訳ではなく、
実際のところ為替についてトランプ共和党がどちらを志向しているかは定かではない(除く対人民元)。
・ちなみにクリントン政権の誕生で想定されていたドル安シナリオに「ブレイナード財務長官」の誕生があ
った。ブレイナード氏は現在FRB理事で、FOMC参加者の中で最も強烈なハト派論者であることが知られ
ており、同氏が財務長官に就任した場合は為替政策がドル安に傾斜する可能性があった。
・筆者は今回の大統領選結果を踏まえて近日中に日本株・USD/JPYの見通しおよびその前提を再検討する。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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