研究生と各界リーダーとの懇談会 <ゲスト> 公正取引委員会委員長

研究生と各界リーダーとの懇談会
2015 年 1 月 29 日
<ゲスト>
公正取引委員会委員長・杉本和行氏
日 本 経 済 研 究 セ ン タ ー は 2015 年 1 月 29 日 に 、今 年 度 4 回 目 と な る
研 究 生 向 け VIP 懇 談 会 を 開 催 し た 。今 回 の ゲ ス ト は 公 正 取 引 委 員 会 委
員長の杉本和行氏。海外赴任や財務次官在任中の経験を軸に、世界や
日本経済の見方を語った。
1974 年 に 大 蔵 省 ( 現 財 務 省 ) 入 省 後 、 88-91 年 は ブ リ ュ ッ セ ル に
EC( 現 EU)委 員 会 の 政 府 代 表 部 に 在 籍 。湾 岸 戦 争 、東 西 ド イ ツ の 統
一など、歴史が動く瞬間を目の当たりにした。
統一通貨ユーロの誕生前夜でもあった。ギリシャやスペイン、ポル
ト ガ ル な ど 経 済 力 の 異 な る 国 々 の 通 貨 を 統 合 す る の は 困 難 を 極 め る 。99 年 に 実 現 に た ど り
着いたのは、
「 ド イ ツ の 統 一 が 大 き い 」と 分 析 す る 。欧 州 、特 に フ ラ ン ス に と っ て 、強 大 な
ドイツの出現は何より脅威であった。ドイツに主導権を握らせないために半ば強引にユー
ロ が 作 ら れ た も の の 、 2010 年 以 降 の ユ ー ロ 問 題 と し て そ の 矛 盾 が 明 る み に 出 た と い う 。
帰国後は大蔵省銀行局でバブル崩壊への対応に奔走した。
「バブル崩壊は日本経済の構造
変 化 の 起 点 だ っ た 」。バ ラ ン ス シ ー ト 調 整 が 求 め ら れ 、企 業 は「 設 備・負 債・雇 用 」の 3 つ
の 過 剰 縮 小 を 迫 ら れ る 。 日 本 の 生 産 労 働 人 口 も ピ ー ク を 打 ち 、 BS 調 整 と 人 口 オ ー ナ ス の
二重苦を抱えることになる。杉本氏は「日米欧で生産労働人口比率がピークを迎えるとバ
ブルが起こっている」として、中国が近くバブル崩壊に突入する可能性を指摘した。
日 本 の 一 人 当 た り GDP が 米 国 を 抜 い た の も 90 年 前 後 だ 。先 進 国 を 模 倣 す れ ば よ か っ た
日本が自ら先頭集団に入り、
「 自 分 で 考 え 、自 分 で 切 り 開 か な け れ ば な ら な い 時 代 に な っ た 」
( 杉 本 氏 )。 そ れ に う ま く 対 応 で き て い な い 部 分 が 現 在 の 日 本 を 苦 し め て い る と い う 。
21 世 紀 に 入 り IT バ ブ ル が 崩 壊 し た あ と も 、 世 界 経 済 は 順 調 な Great Moderation を 遂
げている。産業革命で米欧に移った産業の中心が再びアジアに中心がシフトしており、世
界 GDP は PPP ベ ー ス で み る と 3 国 で 3 割 近 く を 占 め て い る 。 そ の 転 換 点 は 71 年 の ニ ク
ソン・ショック。資本の移動が自由になると、米国は基軸通貨ドルの強さを背景に双子の
赤字を生み、世界中に資金を供給。世界の金融が膨れ上がるなか、新興国が力を蓄えた。
こうした流れの中で、日本は「イノベーション・投資をして経済活動を広げていかなけ
れ ば な ら な い 」。バ ブ ル 崩 壊 の 後 処 理 で 日 本 企 業 に 縮 小 志 向 が 染 み 付 い て し ま っ た 。コ ス ト
カットは企業の基礎体力を強化するが、経済を大きくしないと雇用が確保されず、世界的
に も 不 安 定 に な る 。米 国 主 導 の「 半 導 体 合 意 」は 日 本 産 業 に ダ メ ー ジ を 与 え る だ け で な く 、
日 本 企 業 が 安 住 し 競 争 力・技 術 革 新 力 を 削 が れ て し ま っ た 。
「いかにして新しい状況にチャ
レンジし、モノやビジネスモデルのイノベーションを作り上げることの累積が、経済を支
え て い く 」。ア ベ ノ ミ ク ス を 機 に 円 高 修 正 さ れ 成 長 戦 略 を 進 め て い く な か で 、積 極 的 に リ ス
クを取って経済社会を開いていくことの重要性を強調した。
研修生からの質疑では、日本の基礎的財政収支の削減目標の達成見通しや、財務次官時
代のリーマン・ショックへの対応に奔走した経験談について質問が挙がった。経済の要職
を歴任した深い洞察力で研修生を圧倒しつつも、記念写真の撮影ではにこやかな表情に変
わる杉本氏。穏やかな雰囲気で懇談会を終えた。
(研究本部)
http://www.jcer.or.jp/