潜在成長率 - みずほ総合研究所

潜在成長率
Q:潜在成長率とは何ですか
A:スポーツ選手の記録や実績は、
本来の実力だけでなく、その時々
の調子によっても変動します。同
様に、一国の経済活動(実質GDP)
も、一時的な調子の良しあし(景気
循環など)と、実力としての潜在
GDP に分けることができます。そ
の意味で、潜在GDPの伸び率であ
る潜在成長率は、持続可能な経済
成長率といえます。ただし、潜在成
長率は実際に観察できるものでは
ないため、統計的な手法などを用
いて推計しなければなりません。
代表的な方法として、一国の生
産が①労働者(労働投入量)と②機
械などの設備
(資本投入量)
、
③技術
進歩など(全要素生産性)によって
決まると考え、
その時々の調子をな
らした 3 要素の平均的な姿を基に
推計する方法があります。
こうして
推計された潜在GDPと実際の実質
GDPとの差をGDPギャップ(需給
ギャップ)と呼びます。実力対比で
の経済情勢を示す GDP ギャップ
は、
財政・金融政策の運営・評価の軸
となる非常に重要な指標です。
Q:日本の潜在成長率はどのよ
うに推移してきましたか
A:過去30年間の潜在成長率の推
移をみると(図表)、1980 年代後
半までは前年比+ 4.0%前後で推
移していましたが、バブル崩壊後
から低下し始め、リーマン・ショッ
ク後にはほぼ 0%となりました。
生産年齢人口の減少などによる労
働投入量の減少、国内需要の縮小
に伴う投資活動の低迷、生産性の
低下などが、潜在成長率の低迷要
因として挙げられます。しかし、ア
ベノミクス後には持ち直しの動き
も見られます。建設投資や、人手不
足の深刻化を受けた省力化投資・
研究開発投資が増加したことなど
を受け、足元では+ 0.9%程度ま
で上昇したと推計されます。
従来、アベノミクスによる潜在
成長率の押し上げ効果は限定的と
みられていましたが、2016 年末
の GDP 統計の改定で推計方法が
精緻化さたことに伴い、上方修正
される結果となりました。それで
も、政府が目標とする+ 2.0%に
は遠いことから、引き続き成長戦
●潜在成長率の推移
(%)
5
4
3
2
1
0
1985
90
95
2000
05
10
16
(年度)
「生産関数アプローチ」
による推計値。
(注)
(資料)
内閣府などより、
みずほ総合研究所作成
略の推進を通じた潜在成長率の引
き上げが必要です。
Q:潜在成長率を引き上げるに
は、どのような取り組みが
必要ですか
A:潜在成長率の構成要素から考
えてみましょう。労働投入の面で
は、女性や高齢者が働きやすい社
会をつくることが重要です。生産
年齢人口は減少傾向にあります
が、近年女性や高齢者の就業者数
が増加傾向にあり、日本全体の労
働参加率は緩やかに上向いていま
す。こうした動きを持続させるに
は、家事・育児負担を軽減すること
や、高齢者が働きやすい環境づく
りが必要でしょう。資本投入につ
いては、人口減少を背景に期待成
長率が高まりにくい中では、企業
が積極的な投資に踏み出しにくい
面があります。しかし、例えば IoT
(モノのインターネット)の進展は
今後さまざまな産業の基盤となる
上に、生産工程の合理化・省力化に
つながるため、そうした先進的な
投資を支援する取り組みが求めら
れます。最後に、生産性について
は、新規ビジネスを後押しするよ
うな規制緩和や雇用の流動性を高
める労働市場改革などが押し上げ
に寄与すると考えられます。
スポーツ選手の実力が一朝一夕
には向上しないように、潜在成長
率の引き上げには地道な取り組み
が不可欠です。政府の定めた成長
戦略の着実な推進が期待されま
す。
みずほ総合研究所 経済調査部
エコノミスト 上里 啓
[email protected]