「サービス工学」の概要説明 説明者:筑波大学大学院システム

○「サービス工学」の概要説明
説明者:筑波大学大学院システム情報工学研究科サービス工学学位プログラムリーダー
吉瀬 章子 氏
<要 旨>
・サービス産業(第3次産業)の GDP,雇用のシェアは7割程度を占める重要な産業。
狭義のサービス業は GDP で2割,就業者数で3割程度のシェア。ここに,近年シェア
が拡大して医療・介護や教育等の産業が含まれる。時系列的にサービス産業のシェアは
拡大してきました(GDP で 1970 年で5割,1990 年で6割,2010 年で7割)。
諸外国も同様でサービス産業のシェアが拡大しており,イギリス・米国で8割近い状
況です。
・サービス工学とは,世界的に GDP の7割以上を占めるサービス産業における生産性や
付加価値の向上を目的とする新しい研究分野。2004 年 12 月に米国ワシントンで開かれ
た National Innovation Initiative Summit の報告書である文献 1) (通称 Palmisano
Report)で初めて「サービス科学(Service Science)
」という名称が使われて以来,米国
IBM Almaden 基礎研究所を中心として研究が進められてきました。その結果,欧米さ
らにはアジアの大学あるいは研究所においても研究が広がり,「サービス科学・サービ
ス工学」の名称も定着しつつあります。
・サービス工学とサービス科学の共通する考え方は「サービス事業に科学的手法を取り入
れ新たな価値を創造するための研究です。
・日本においては,
○ 2002 年 4 月に設立された「東京大学人工物研究センター サービス工学部門」
○ 2 007 年 5 月に日本生産性本部内に設立された「サービス産業生産性協議会
(SPRING)」
○ 2008 年 4 月産業技術研究センター内に設立された「サービス工学研究センター」
(2015 年 5 月に人工知能研究センターに改編)
○ 2012 年 10 月に設立された「サービス学会(Society for Serviceology)」
…などにおいてサービス工学の研究・実践が行われています。
・筑波大学における「サービス科学・工学」の基本思想は,2006 年 11 月に筑波大学に着
任した岡田幸彦准教授(着任当時は講師)による,原価企画的な「成功するサービス」
の開発論理に準拠しています。それはまず,サービスの受け手に与える効果を科学的に
検証する「効果性のサイエンス」,サービスの送り手の効率を科学的に検証する「効率
性のサイエンス」
,そして最後にそれらのバランスをとることでサービスの価値を定め
る「統合のアート」によってもたらされるという論理であり,強力なコンセプトチャン
ピオンである一方,常に仮説検証とサービスの進化が必要であるとする考え方です。
・上記の理論に基づく教育プログラムとして,2014 年度に社会工学専攻において日本初
の「サービス工学修士号」-修士(サービス工学)をとるためのプログラム―解説さ
れ,鹿島アントラーズとの共同研究による,天気予報や相手チームの所在地・順位など
が与えるチケット売り上げへの影響に関する分析・論文発表や,2015 年度に茨城県と
連携して同県の「サービス産業生産性・付加価値向上促進事業」への助言・指導等を行
っていました。
・さらに,2015 年度は,
「サービス工学ビックデータ CoE(Center of Excellence in Big
Data & Analytics for Service Engineering)」にウエルシア薬局株式会社が参加するこ
とによる共同研究により,ウエルシア薬局側が提供する POS データを当大学の学生が
分析し,各店舗の経営を改善する戦略を検討し,各担当学生によるコンテスト形式で提
言をプレゼンしました。
・具体的なサービス工学に基づく生産性向上の共同研究事例として,2012 年に行ったホ
テルとの共同研究を紹介します。ホテルのグリル部門(レストランと居酒屋)のスタッ
フ(従業員(正社員・契約社員・パート社員)と配膳人(契約社員)
)の最適なスケジ
ューリングを作成したいという課題に対して,シフト作成に必要となる制約を精査し,
さらに各スタッフ等の時給額・人数・労働時間・休日等のデータを測定することで,
「人件費の削減」と「従業員ごとの労働時間のばらつきの減少」のトレードオフを考慮
した「手人件費・勤務時間等のデータ投入による最適シフト割当表の自動作成」のプロ
グラムを作成することができました。このプログラムにより,それまで1時間以上かけ
て手作業で作成していた1週間分の最適シフト割当表が,数秒で作成できるようになり
ました。