2014 年度自主研究事業「医療科学推進のための情報統合による知の構造化」 健康の社会的決定要因に関する国内外の調査研究動向 ―健康格差対策の7原則 第 1 版(2015 年)― 2015 年 3 月 公益財団法人 医療科学研究所 自主研究委員会 2014 年度自主研究事業「医療科学推進のための情報統合による知の構造化」 序文 WHO 総会決議や厚生労働大臣告示「健康日本 21〈第二次〉」などで,健康の社会的決定 要因(social determinants of health,SDH)に着目した「健康格差の縮小」が謳われた.その 背景には,容認できない健康格差(地域や社会経済状況の違いによる集団間の健康状態の 差)があることを示す科学的な知見(エビデンス)の蓄積がある. しかし「エビデンスが蓄積されるだけでは現実は変わらない」「多くの異なる立場の者 が関わることが必要」という指摘があり,実際に健康格差対策を「始める」「考える」「動 かす」ためには,その前提となる問題意識や状況認識,対応の原則などに関する共通基盤 が求められる. 前例として国連環境開発会議「リオ宣言」がある.そこでは環境問題における「予防原 則」(人の健康や環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合,科学的に因果 関係が十分証明されない状況でも,予防的方策(precautionary approach)が適用されなけれ ばならない)などがまとめられ,多くの関係者の共通基盤となっている.それにならい, 多様な主体による健康格差対策を促すことをめざして 『健康格差対策の7原則 第 1 版 (2015 年)』をまとめ,政策立案・実践関係者に論議していただくこととした. 我々がまとめた原則は7つである. <始める>ための原則として,第 1 原則では「理念・情報・課題の共有」の必要性を, <考える>ための原則では,第 2 原則で「配慮ある普遍的アプローチ」と第 3 原則「ライ フコース」の視点が求められることを指摘した.<動かす>ための原則として,第 4 原則 「PDCA」,第 5 原則「重層的アプローチ」,第 6 原則「縦割りを超える」,第 7 原則「ま ちづくり」の視点が重要であることをまとめた. 『健康格差対策の7原則 第 1 版(2015 年)』は,各原則の要点で表現した「要旨」,各 原則を簡潔な文章と図で説明した「第 I 部 本編」,各原則の根拠やそれを応用する方法や 具体例を示すため,コラムや事例を紹介した「第Ⅱ部 解説編」,さらに各原則について詳 細に説明し,根拠資料の概説,関連するウェブサイト等の紹介を行う「第Ⅲ部 資料編」か ら構成した. 7原則が健康格差の縮小を願い,対策に取り組む関係者の論議と協働を促すことを期待 する. ファカルティフェロー 近藤克則
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