患者別事故報告書(4)

患者別事故報告書(4)
I.経過
1.1
手術までの経過について
●歳●性。●●●腫瘍の診断で,各種治療を行ってもコントロールが難しい状態で あった。腫
瘍から産生されていた●●●ホルモンが異常高値で,このために糖尿病や高血圧の悪化,感染を
繰り返しやすいなどの状態で,入院を繰り返していた。
● 年発症 ●●●腫瘍,●●●病
● 年●月● 日
●●●腫瘍摘出術
● 年●月● 日
●●●腫瘍摘出術
● 年●月 ●●●治療
● 年●月 ●●●治療
● 年●月● 日
●●●腫瘍摘出術
● 年●月 当初と反対側の左脳神経症状出現,●●●治療
● 年●月 ●●●治療
● 年●月~● 年●月
● 年●月● 日
テモダール内服加療
FDG-PET にて肝臓に集積あり,● 月 ● 日肝腫瘍生検を行い,●●●癌肝転移
の診断となった。手術が可能なのであれば,切除によりホルモンのコントロールが可能と考え, 内
分泌内科から第二外科に相談,手術の方針となった。
検査のための入院期間が長引いたため,一旦退院して,家で過ごした後に再入院・手術の方向と
した。
1.2
手術について
● 年 ● 月 ● 日,再入院。● 月 ● 日手術。腹腔鏡下肝右葉切除術。手術時間 7 時間 24 分。
出血量 393g。
肝機能は比較的保たれており,手術前の腫瘍の状態から肝臓の S7・S8 亜区域切除を想定してい
たが,術中の腫瘍の位置関係から右葉切除の手術リスクが少ないと考えて,右葉切除を選択した。
手術後は血圧と脈拍の変動が強くなり,腹腔ドレーンから淡血性~血性の滲出液が多く ICU へ入
室,輸血を行った。
1.3
手術後の経過について
●.●(1)
術後 1 日目:以下カッコ内は術後日数
術直後から肝切離面ドレーンより出血続いたため,全身管理目的で ICU に緊急入室。大
量の輸血にて対応後,循環,呼吸状態など落ちつき,胸腔と腹腔のドレーンの滲出も軽度
となった。また, 腹部に著明な異常が見られず,早期の回復を期待して,経腸栄養を開始
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した。
●.●(2) 離床を進めた。倦怠感と顔面のしびれが目立つようになり,体動に関しては車いす移動
などを行った。肝機能は改善傾向であった。
●.●(3) 血性排液あり,輸血で対応。顔面のしびれや違和感があり,同時に血圧も 160mmHg に
上昇傾向となり,未明より降圧剤(ペルジピン)の持続投与を開始した。体動後に一時的に
腹腔ドレーンより淡血性~暗赤色の浸出が約 800ml 出たが,その後おさまった。また,術
後より難聴が悪化したとして耳鼻科受診した。左側の鼓膜越しに再発かもしれない腫瘤を
認めたため鼓膜穿刺は避けて,そのまま 1 か月後に再診を予定し経過観察となった。また,
内分泌内科を受診した際に,術後より顕著となってきた顔面のしびれ,後頭部の疼痛,構音
などの増悪が認められ,脳外科担当医にコンサルトしたところ,●●●はこれまで局所再
発を繰り返してきた背景があり,●●●腫瘍の局所浸潤による顔面神経麻痺や構音障害の
増悪の可能性も考えられるとのことで,回復後に●●●腫瘍に対する化学療法を検討する
こととなった。
●.●(4)
発熱は 37 度前後,腹痛はないが腹部はやや膨満気味のため,下剤などで軽快した。肝機
能については,大きな変化なし。腹腔ドレーンは前日一時的に 800ml 出た後はほとんど出
なくなりドレーンにつまりも無かった。エコーではたまりなく,腹部膨満もないため,抜
去してパウチを貼って自然流失させたものを測定することとした。胸腔ドレーンは前日 1
日量 95ml と少なく,レントゲンで胸水貯留もなかった。胸腹水は利尿剤を投与して,余
剰の水分を排泄させる方針とした。
●.●(5)
発熱は 37 度前後。構音障害が目立つようになる。胸水はここ 3 日間大きく変わらず。
●.●(6) 食事摂取を開始。顔面のしびれ,後頭部痛,構音障害などは同様に目立つようになった。
ビリルビン 4.6 と軽度に上昇していたので脱水気味になっている可能性があり補液を追加。
●.●(7)
37 度台の発熱,経口摂取は不快感や倦怠感などあり,誤嚥の可能性もあり中止。夕にな
り腹腔ドレーンより出血を認め,腹腔内にはたまりを認めないため,創部を縫合止血した。
その前後で,血圧,脈拍は大きな変化なし。
●.●(8) レントゲン上,肺門部を中心に肺炎像あり。抗生剤投与を開始。術後の腹水貯留があり。
また,肺炎による感染兆候が出現する頃より,肝機能は悪化(総ビリルビン 8.4,GOT 49,
GPT 49, LDH 596, PT 63%)。肺炎発症後より,倦怠感,呼吸苦,嘔気,胸 腹部不快感な
ど強くなり,以前から認めていた顔面のしびれや後頭部痛,構音障害の 自覚も強くなって
きた。ビリルビン上昇を軽減する目的で,泌尿器科に血漿交換を依頼したところ,翌日施行
予定となる。
●.●(9) 血漿交換施行。顔面と後頭部の疼痛,および全身倦怠感の自覚は悪化傾向となった。
血漿交換後は肝機能の改善を得られたが(総ビリルビン 6.2, GOT 37, GPT 28, LDH350,
PT 82%),苦痛や倦怠感が強いためか,自覚症状は悪化。
●.●(11) 肺炎が悪化傾向で,多量の痰の絡みあり。午後より 39 度台の発熱。痰の吸引を拒否さ
れ,うまく痰の吸引を進められないことも多くなってしまった。
●.●(12) 肺炎は更に悪化傾向で,発熱は 39 度以上となる。一切の痰吸引を拒否するようになっ
てしまった。抗生剤を強力(メロペン)に変更して免疫グロブリンを併用し,予防的に抗
真菌剤も投与して対応した。肝機能も更に悪化傾向となったが,これ以上の治療はご本人
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の拒否にもあり施行はできない状況であった。
●.●(13) ご本人の希望もあり緩和ケアチームに介入してもらい,増悪傾向にある顔面,頭部の疼
痛や倦怠感の軽減を目的としてモルヒネの持続投与を開始した。痰は多いが,抗生剤やグ
ロブリン投与で対応した。
●.●(16) 38 度前後の発熱が持続。痰のからみが強いが喀出はできない状態で経過した。痰や滲出
液など出血傾向も出始めており,多臓器不全の状態となる。
●.●(17) 永眠された。
II.
調査委員会の検証と評価
2.1 手術適応と手術前評価について
主治医は,手術のリスクは高い可能性があるが,年齢や全身状態のレベル,慢性肝炎はなく肝機
能は良好であると判断し,他に有効な治療選択肢がないことなどから手術を選択した。しかしなが
ら,原発巣がコントロールできない状態であり,手術の適応ではなかったとも考えられた。ICG15
分停滞率の代わりに KICG を行いて評価し問題なかったとのことであったが,術前の全身状態も
良好とは言えず,右葉切除は過大侵襲となった可能性は否定できない。
2.2
術前の審議について
第二外科消化器外科グループ(上部下部消化管外科チーム,肝胆膵外科チーム)の合同カンファ
レ ンスが週 1 回行われ,新患,術前,術後の症例提示がされている。また,手術症例については診
療科長も出席する手術当日朝のカンファレンスにて報告される。しかしながら,診療録には,カン
ファレンスにおける具体的審議内容や決定事項についての記録が残されていなかった。また,第二
外科の医師へのヒアリングの結果,他のチームの医師から意見が述べられることはなく,実質的な
審議が行われていなかった可能性が考えられる。このようなことから審議は不十分であったと調査
委員会では判断した。
2.3 診療録記載と手術説明について
日々の診療録記載が乏しく,適応や術前評価,治療方針決定の判断等における当該医師の思考過
程が不明である。 説明同意書には合併症の羅列と,図示と術式,予測される簡単な経過が記載さ
れているのみであった。内容に乏しく,代替治療の選択肢,合併症や死亡率の具体的データが示さ
れた記録がないことから,調査委員会では不十分な説明であったと判断した。
2.4
手術中対応について
術直後から輸血を要する血性排液を認めており,術中の止血が不十分だったと考えられる。出血
はその後も持続し,完全止血は一度も得られていない。
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2.5 手術後の経過について
術直後より出血が持続していたので,早期に再手術も検討するべきであった。残肝容量不足があ
り,後出血も肝不全の状況を悪化させたと考えられる。
術後早期(術後 13 日目)に苦痛が強く積極的な治療よりも緩和的治療を希望され緩和ケアチー
ムが主体でかかわることになった点も問題であり,術前の説明・評価が不十分であったと判断した。
III
結
論
① 手術前のインフォームドコンセントにおいて,代替治療の選択肢合併症や死亡率の具体的データが
示された記録がないことから,不十分な説明であると判断した。
② 手術適応に問題があった可能性があり,原発巣のコントロールがつかない状態での手術は望まし
くないと思われた。
③ 手術による肝の切除範囲が大きく,肝予備能不足により肝不全をきたしたと考えられる。
④ 術直後より出血が持続していたので,早期の再手術も検討するべきであった。
⑤ 以上のことから,過失があったと判断される。
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