[第10回]ウイルス性下痢症

こどもの病気【第 10 回】
ウイルス性下痢症
胃腸炎は、一般小児科外来患者のうち 10~15%を占めるといわれ珍しい病気
ではありません。原因としては、ロタウイルス感染症が 25~30%、ノロウイル
ス感染症が 15~20%といわれています。両ウイルスとも冬季を中心とした集
団感染を引き起こします。ロタウイルス感染症とノロウイルス感染症を中心
としてウイルス性下痢症について解説します。
どちらのウイルスも冬に多いですが、ノロウイルスは初冬(11~12 月)に急
に寒くなったときから認められ、1~2 月に少なくなります。食中毒としてのノ
ロウイルス感染は 12~2 月が多く、その多くは生カキを代表とする 2 枚貝を食
べることによって起こります。ロタウイルスは冬季でも暖冬に多い傾向があり
ます。そのため、ノロウイルス流行の後、1 月~3 月に流行する傾向があります。
小児、特に乳幼児に多い傾向があります。両ウイルスとも便を介して感染する
ことが多いため、手洗いが重要です。
ノロウイルスの潜伏期は 1~2 日、症状の持続日数は 1~2 日で予後は良好で
す。ロタウイルス感染症の潜伏期は 1~2 日で、症状の持続期間は 5~8 日です。
ノロウイルス感染症に比べ重症になる頻度は高いといわれています。下痢と嘔
吐、発熱を主症状とします。下痢と嘔吐はどちらか片方のこともあります。ロ
タウイルスによる下痢は、白色から黄白色の水様便のことが多いです。発熱は
細菌性の胃腸炎と比べ軽度のことが多いです。
そのほか、呼吸器症状を伴うこともあります。まれではありますが、発疹、
けいれん、脳炎/脳症、腸重積、虫垂炎などがみられることがあります。下痢が
消失してもしばらくの間(約 3 週間)は便の中にウイルスが排泄されています。
ウイルス性下痢症に有効な抗ウイルイス薬はありません。対症療法とし
て、整腸剤や吐き気止めが使われます。止痢剤は細菌やウイルスの産生した
毒素を停滞させ、体内に毒素を吸収させ悪影響となる危険性があり、使用する
際は注意を要します。下痢は、体の中にいるウイルスの量を減らそうとする反
応でもあります。水分が十分に摂れていればあまりあわてる必要はありません。
治療の最大のポイントは、脱水にならないようにすることです。食事は無理し
て摂るよりも胃や腸を休ませたほうが良い場合もあります。意識状態が悪い場
合や嘔吐が激しい場合は水分接種のために点滴が必要ですが、ほとんどの場合
は経口での水分の補給のみで脱水を予防できます。少量ずつ頻回に摂取するこ
とが大切です。一般的には普通の水や麦茶、ほうじ茶が勧められていますが、
病的な状態では電解質や糖分も補充すべきなのでイオン飲料などが用いられま
す。嘔吐が激しいときは、1 回に与える量はほんの少しでいいです。スプーン 1
杯やペットボトルのキャップ 1 杯程度から開始し、徐々に多くしていくと良い
でしょう。氷をなめさせるのもひとつの方法です。溶けた水分が少しずつ胃に
流れ込みます。胃に到達する頃は、特に問題となる冷たさではなくなっていま
す。市販のスポーツ飲料は塩分が少なく、カリウムはほとんど含まれていませ
ん。また、糖質が多いため、下痢に対しては不利に働きます。アクアライト ORS
(和光堂)などの乳幼児用のイオン飲料は、その組成が医療用の経口電解質液
に近く経口水分補給に比較的適しています。
嘔吐のひどいときや脱水症を起こしている場合は、点滴が必要となることが
多いです。尿の量が少なくなったり、目が落ち窪んだり、ボーっとして眠って
ばかりいるようでは脱水の可能性が高いです。このような場合は病院を受診し
ましょう。
腸管の動きを休ませるために食事制限をすることが有効ですが、最近の動き
として早期に食事を行う方向になってきています。食欲が出てきたら、スープ、
おかゆ、うどん、簡単なおかずなど離乳食の順番を思い出しながら進めていき
ます。甘すぎるもの、油濃いもの、味の濃いものなどは下痢を長引かせるので
控えめにしましょう。
ウイルス性下痢症は治療も大切ですが、予防はさらに大切です。下痢症
ウイルスの伝播方式は、経口、接触、空気感染の3つの経路が考えられます。
その中で一番多いものは経口感染と考えられます。予防のためには、危険性の
ある食品は加熱処理をすることが大切です。一般的には中心部まで 85℃で1分
以上加熱することが有効とされています。まな板、包丁、布巾なども同様に加
熱することが有効です。患児の便や吐物の処理のときにウイルスが手につき、
その手で何かを食べて感染することも多いため、便や吐物の処理をした際は、
石鹸を使い 10 秒以上手を洗うことが勧められています。もちろん日常生活にお
いて手を良く洗うことは有効です。
行徳総合病院小児科 佐藤俊彦