ドル高に悲鳴を上げる米製造業~代表的上場企業

みずほインサイト
米 州
2015 年 3 月 6 日
ドル高に悲鳴を上げる米製造業
欧米調査部主席研究員
代表的上場企業の為替差損は 2014 年度 27 億㌦
03-3591-1219
小野
亮
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○ 3月4日に公表された地区連銀経済報告(ベージュブック)ではドル高による悪影響や先行きへの懸
念の声が高まった。「ドル高」というキーワードの登場回数が急速に増えている。
○ S&P500指数、S&P中型株400指数、S&P小型株600指数の採用企業の2014年決算をみてみると、為替差
損(差益を含まないグロス)の金額は総額27億㌦にのぼった。
○ 米サプライマネジメント協会によれば製造業の輸出受注指数は2カ月続けて50割れとなっており、
製造業の輸出受注悪化を示している。ドル高は今なお進んでおり、製造業の動向に注意が必要だ。
1.ドル高に悲鳴を上げる米製造業
3月4日に連邦準備制度理事会(FRB)が公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)には、ドル高
に悲鳴を上げる米製造業の姿が映し出されている。
今回のベージュブックで、“the strong dollar”、“the stronger dollar”など「ドル高」を表
すキーワードが登場する回数は12回で、前回(1/14)、前々回(2014/12/3)と比較すると急速に増え
ている(図表1)。
昨年12月のベージュブックでドル高に懸念を示
したのは、ボストン連銀地区の建設工具メーカー、
図表 1 ベージュブックにおける
ドル高を表すキーワードの登場回数
クリーブランド連銀地区の一部製造業、サンフラン
シスコ連銀地区の金属スクラップ関連製造業の3件
に留まった。
今年1月には、ボストン連銀が報告を受けた製造
業11社中4社がドル高による収益悪化に言及してお
り、うち半導体製造業1社では、2014年の売上高が
ドル高によって1.2%ほど減少したという。またリ
ッチモンド連銀地区では、港湾を管理する職員がド
ル高による輸出への影響に懸念を示し、カンザスシ
ティ連銀地区では化学製品の輸出悪化の一因とし
1
(資料)FRB、みずほ総合研究所
てドル高が指摘された。
今回のベージュブックでは、まずボストン連銀が今回ヒヤリングを行った製造業9社のすべてがドル
高を経営上の逆風として指摘したほか、あるソフトウェア・IT関連企業では欧州及びアジアでの売上
がドル高によって目減りした。次にクリーブランド連銀地区では、ドル高が製造業の受注減の一因と
なっていること、特に鉄鋼業では出荷低迷の一因であることが指摘されている。ミネアポリス連銀地
区では、ドル高によってミシガン州とカナダのオンタリオ州とを結ぶInternational Bridgeの交通量
が減少し、ミシガン州の小売業がその影響を受けたとされている。このほか、シカゴ連銀地区の製造
業や、ダラス連銀地区とサンフランシスコ連銀地区の農産品輸出業者なども、ドル高による悪影響を
訴えている。
2.27 億㌦にのぼる米上場企業の為替差損
米国の代表的上場企業が2014年決算で計上した為替差損(為替差益の計上分を含まないグロス)は、
総額で27億㌦にのぼる。一部企業では、本業の収益力を示すEBITDAと比較して数%という悪影響が出
ている。
米企業が実際にどの程度ドル高によって影響を受けているのかを定量的にみるため、代表的な株価
指数であるS&P500指数、S&P中型株400指数、S&P小型株600指数に採用されている企業を対象に、2014
年度決算における為替差損益を集計した。なお、分析対象とする企業について以下ではSP500企業、
SP400企業、SP600企業と表すことにする。
まず、SP500企業のうち2014年決算で為替差損益を計上した企業は57社あり、全体の1割を超える。
このうち為替差損を計上した企業が42社、為替差益を計上した企業が15社で、為替差損と為替差益の
合計額はそれぞれ25億㌦、14億㌦にのぼり、為替差損の計上額が為替差益の計上額を上回る(図表2)。
多国籍企業の多い米大企業では、ドル高が収益悪化につながっている様子がうかがえる。
次に、企業規模の小さいSP400企業とSP600企業の動向をみると、これらの企業でも為替差損益が計
上されている。ただしSP500企業と比べるとそうした
企業の数は少なく、総額もごく小さい。SP400企業で
図表 2 米主要上場企業の為替差損益
は23社が為替差損、5社が為替差益を計上し、その合
計金額はそれぞれ9,100万㌦、1,600万㌦である。
SP600企業では28社が為替差損、9社が為替差益を計
上、合計金額はそれぞれ8,800万㌦、2,200万㌦に留
まる。米国の代表的上場企業の為替差損益は、大企
業の動向によって左右されることが確認できる。
さらに、本業の収益力を表すとされるEBITDA(利
払い前・税引き前・減価償却前利益。EBITDAの算出
はBloomberg)と為替差損益を比較することで、個々
の企業がどの程度ドル高による悪影響を受けている
2
(資料)Bloomberg、みずほ総合研究所
かをみてみよう。図表3は、為替差損益/EBITDA比の分布状況を示している。図表3によれば、多くの
場合、為替差損がEBITDA比1%以下に留まっている。しかし、この数値は年間平均であり、ドル高が2014
年終盤に進行したことを踏まえると、企業収益の下押し圧力が同年終盤に急拡大した点に注意が必要
である。また、年間平均とは言え、EBITDA比2%を超える為替差損を計上した企業も少なくない。
なお、ほとんど報道されない為替差益を計上した米企業の動向をみてみると、SP500企業とSP400企
業における為替差益/EBITDA比よりも、SP600企業の比率の方が高い。為替差益は、規模の小さい企業
においてより大きな恩恵となっている。
3.製造業の輸出受注悪化続く
為替差損に留まらず、輸出企業ではドル高によって価格競争力が悪化し、営業損益そのものの伸び
が抑えられた可能性がある。ただ営業損益の伸びのバラつき(標準偏差)は極めて大きく、為替差損
を計上した企業と他の企業との営業損益の伸びについて、統計的に有意な差を認めることができない。
とは言え、米サプライマネジメント協会によれば製造業の輸出受注指数(季節調整前の原数値)は2
カ月続けて50割れとなり、製造業では輸出受注が悪化していることを示している。名目実効ドルレー
ト(JPモルガン)はややペースを落としながらも上昇、ドル高が進んでおり、製造業の動向には引き
続き注意が必要である。
図表 3 為替差損益/EBITDA 比の分布
(注)SP400 企業と SP600 企業では EBITDA が得られない企業があり、図表 3 中の計(※)は、為替差損を計上した
企業数と異なる。 EBITDA 比がマイナスとなっているのは、当該企業の EBITDA が赤字であることを表す。
(資料)Bloomberg、みずほ総合研究所
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