Ⅰ.悪性腫瘍の言葉の由来 悪性腫瘍について、欧米では総称として”cancer(蟹)、”carcinoma”、”Krebs(蟹)”、 本邦では”癌”が使われている.この語源については、緒方ら[1)]によれば、carcinoma についてはヒポクラテス(460-370B.C.)が乳癌にたいしてχαρχιυος(蟹)、 χαρχιυωμαという言葉を使ったのが始まりとされている.χαρχιυωμαは ギリシャ語のχαρχιυος(蟹)と”ωμα”すなわち如き物、似た物という接尾語と の合成語である.χαρχιυωμαが英語では carcinoma となった.従って carcinoma は 本来は蟹もどきである.ヒポクラテスはなぜχαρχιυοςやχαρχιυωμαを使用 したかについては説明していないが、ガレーノス(131 ー 203A.D.)が潰瘍に陥った腫瘍が蟹 の甲羅に似ていて、周囲の静脈怒張が蟹が足を拡げた様子に似ていると解説している. 全くの私見ではあるが、ヒポクラテスの時代のギリシャ人は蟹を食していたのではなか ろうか?蟹特に毛蟹の甲羅を開いてその内面のいわゆるみその詰まった状態の見た目こそ 潰瘍に陥った皮膚の癌にそっくりに見える.これこそ蟹もどきではなかろうか? 一方漢字の癌の由来についても緒方ら[1)]によると、これも乳癌の硬くごつごつした 様相から”いはほ”といわれており、漢字としては江戸中期には”岩”、”巌”、”嵒” 等等が使われており、江戸末期にはこれらに疒をつけて癌などが使われだ した.明治になるとこれらの漢字のうち”癌”だけが使われるように様になって現在に至っ ている.これまた全くの私見であるが、鶴屋南北の戯作東海道中四谷怪談のヒロインの形 相は上顎癌またはグリオームといわれている.そしてそのヒロインの名前は”岩”であり、 何らかの繋がりがあるのだろうか? 文 献 1)緒方知三郎、三田村篤志郎、緒方富雄:病理学総論(中の巻)南山堂、東京、1931 Copyright© Noriharu Mikata 2014 All Rights Reserved.
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