肝釣状突起癌の3切除例

日消外会議 20(9):2241∼
2244,1987年
肝釣状突起癌 の 3切 除例
静岡市立静岡病院外科
寺村 康 史
吉 富 彰一
魚 住 隆 雄
村上
渥 美
梶原 建 熙
京 極 高久
野 木村昭平
同 消 化器科
卓
村 上 隼 夫
清
同 臨 床病理
伊
藤
忠
弘
THREE RESttCTED CASES OF PANCREATIC CARCINOMA
OF THE UNCINATtt PROCESS
Tatehiro KAJIWARA,Shoichi YOSHITOMI,Takahisa KYOGOKU,
Yasushi TERAMURA,Takao UOZUMI,Shchei NOGIMURA,
Takashi MURAKAMI峠
,Kiyoshi ATSUMI球
and Tadahiro ITOHを
,Hayao MURAKAMI中
中
Departrnent of Surgery,Dept.of GastrOenterologyⅢ,
and Dept.of ClinicopathologyⅢⅢ
,Shizuoka City Hospital
索引用語 :膵釣状突起癌,小 膵癌
I.緒
音
来
近年,画 像診断の発達 により,陣 頭部癌 の診断は迅
速 かつ確実にな りつつ ある。 しか し膵体尾部癌 に代表
され るよ うに黄痘を伴わない膵癌 の診断や手術成績 は
いまなお不十分である。こ のことは解頭部 のなかで も
解剖学的 に特殊な部位 に位置す る膵釣状突起 由来 の膵
癌 について も同様であ り,比 較的症状 が乏 しくまた発
現が遅 いため,そ の早期診断は極めて困難である。膵
釣部癌 の特徴 として,Suzukiら 1)は
黄痘 が出現す るこ
精
瘤
す
局
,境 界不整 は明瞭ではなかった。図 2-Aは 同時期 の
computed tomography(CT)を
示 している。腹部大
動 脈 の腹側,上 腸間膜動脈 の右側 に内部 の不均一 な低
吸
超
している。今回,わ れわれは径2.Ocmの 小膵癌を含む
3例 の膵釣状突起癌を切除 しえた。そ こでその切除標
増
本 の病理学的検索 によ り,癌 の浸潤方向 と発現す る症
状 の関連 について検討す るとともに,画 像上 の早期診
断の可能性 について論 及 した。
十
る
<1987年 1月 14日受理>別 刷請求先 !梶 原 建 熙
〒650 神 戸市 中央 区港 島中町 4-6 神
戸市立 中央
市民病院外科
触知 はない。入院時施行 の超音波像 を図 1-Aに 示
が,下 大静脈 と上腸間膜静脈 に囲まれた部位 に,限
性 の腫瘍を認 め,内 部 エ コー像 はやや不均一 である
が
とは少な く疼痛 も比較的軽度である こと,腫 瘤触知 は
まれであるとし,そ の病巣切除率 は極 めて低 い と報告
II.症 例
確
1:64歳
61年
より
1月
症例
女性.昭 和
初旬
背部痛を
す。その ころよ り体重減少4kg。 2月 19日本院受診.
査 のため入院 となる。全経過を通 じて黄痘,腹 部腫
構
る
選
診
収域 がみ られ膵癌疑診 として経過観察.1カ 月後 の
音波像 が図 1-Bで ある。
腫瘍 は増大 し不均一 な内部
造 が よ り目立 っている。図 2-Bの CT像 で も腫瘍 は
大 し,特 に右側および背側への広 が りが明 らかであ
。図 3は 選択的血管撮影像である。図 3-Aに み られ
ごと く,肝 アー ケー ドに異常を認 めない。図 3-Bは
択的総肝動脈撮影の第 1斜 位 での造影 である。下解
二指腸動脈 に軽度 の平滑な先細 り像を認め るが,明
な浸潤像は得 られなかった。以上,陣 釣状突起癌 の
断にて 4月 22日開腹手術を施行 した.陣 癌取扱 い規
約りに よる術 中所見 は, P h , T l ( 2 . 0 × 2 . 0 ×1 . 5 c m ) ,
S。,RpO,CH。
,DuO,VO,A。
,PO,HO,Nl(十
14a, b), PD― IIIA, R2, PW ( ), BDW (一
)(No.
), EW
180(2242)
陣釣状突起癌 の 3切 除例
図 1 症 例 1の 超音波像
A:入 院時。SMV:上 腸間膜静llFt,TI腫瘍,VC:下
大静脈.B:入 院後 1カ 月
日消外会誌 20巻
9号
( 一) で あ った。病 理 組 織 学 的 に は p a p i l l o t u b u l a r
adenocarcinoma, INFβ , lyl, VO, d(十), ch2, du0
で nOであ った。図 4の 切除標 本 のル ーペ像 で,釣 状突
起癌 の胆管 へ の浸潤像 を示 してい る。す なわ ち,総 胆
管 下部 と十 二 指 腸 が陣 頭 部 を被 うよ うに上 部 に み ら
れ,そ の総胆管 の 中央 に結節状 の 病 巣 (肉眼的 に径 4
nlm)が み られ ,こ れ は粘膜直 下 の腺癌 で,膵 癌 の浸潤.
転移,ま たは リンパ管転移 が考 え られた。
症例 2:65歳 男性.昭 和60年12月中旬 よ り背部痛 を
きた し来院.上 部 消化管透視 な どを受 くも異常 な く放
置。 昭和 61年 2月 ごろ よ り下痢傾 向 が 出現 も注腸透視
にて異常 な し。 3月 上 旬黄痘 に気 付 く。3月 8日 入院.
た だ ち に経 皮 的 胆管 ドレナ ー ジ設 置.図 5-Aの CT
像 で は,ド レナ ー ジチ ュー プのため不鮮 明で は あ るが,
大動脈 と上腸間脈動静脈 との間 に限局す る低 吸収域 が
み られ,内 部構造 も均 一 で ない。 この CT像 よ りこの
図 2 症 例 1 の C T 像 . A : 入 院時, 点 滴静注 に よる画
像強調. B : 入 院後 1 カ 月, ガ ス トログラフィン5 m l
内服 と点滴静注 による画像強調
腫瘍 は陣 頭側す なわ ち右側 へ 強 く浸潤 してい ることが
才)か る。日16α )endoscopic retrograde cholangio‐
pancreatography(ERCP)像 では,主 膵管 に異常 は認
め な い ものの,十 二 指腸乳頭附近 で膵 内胆管 に小範 囲
の狭窄像 がみ られ ,釣 状突起 由来 の膵癌 が膵 背面 を進
展 し,膵 内胆管 に浸潤 してい る と考 え られた。選択 的
血管撮影像 (図 3-C)で は膵 の両 ア ー ケー ドには異常
はないが ,下 膵十 二 指腸動脈 が,選 択 的総肝動脈撮影
で も上腸間膜動脈撮影 で も造影 され なか った 。 プ ロス
図 3 血 管撮影像.A:症 例 1の腹腔動脈撮影.B:症 例 1の総肝動脈撮影(第 1斜位).
C:症 例 2の 総肝動脈撮影,D:症 例 3の 腹腔動脈撮影
1987年9月
181(2243)
図 4 症 例 1の 切除標本 (ルーペ像)と そのシェーマ.
Adenoca:解 内胆管に浸潤する腺癌,CBD:解 内胆
管,LN:リ ンパ節
図 6 症 例 2の ERCP像
図 5 A:症
例 2 の C T 像 . B : 症 例 3 の C T 像 。 いず
れ も点滴静注 による画像強調
B D W ( ― ) , E W ( 十 ) , 病理 組 織 学 的 に は p a p i l ‐
lotubular adenocarcinoma, ly3, V3, d (十
), chl,
du3,Se,n2(十 )で あった。 この症例では肝転移がみ
られたに もかかわ らず,強 度 の背部痛 の軽減を 目的 と
して Rl手術が なされた。
IH.考
タグ ランデ ィンを用 いた 経 動脈 的 門脈 造 影 にお い て
も,上 腸間膜 静脈 に軽度 の圧排 を認め るのみで,壁 浸
潤 は 明 らかで なか った。 以上 の所 見 よ り,膵 内胆管 に
浸潤 した膵釣状突起癌 の診断 にて, 4月 15日開腹手術
を施行 した 。術 中所見 のは,Ph,T2(3.0×2.0×1.5cm),
SO,Rp2,CH3,Du。
,VO,A。 ,PO,H。 ,Nl(十 )(No.
14a, b), PD‐ IIIA, R2, PW( ), BDW(―
), EW
( 一) , 病 理組 織学 的 に は m o d e r a t e l y d i f e r e n t i a t e d
tubular adenocarcinoma, INFβ
, ly2, VO, d(― ),
Ch3,duO,nl(十 )で あ った。
症例 3:53歳 男性.昭 和56年 5月 上 旬 よ り心 寓部痛
を きたす も一 般薬 内服 にて放置. 6月 初旬右側腹部 お
よび背痛 を きた して来院.上 腹部 に手舎大 の国 い腫瘤
を触知.黄 疸 はなか った.CT像
(図 5-B)で は腹部
大動脈 の腹側,釣 状突起 よ り肝顕部 にか け巨大 な低 吸
収域 がみ られ,内 部構造 も不均 一 で あ る。 また アンギ
オグ ラフ ィンにて著 明 に強調 された 。選択 的血 管撮影
(図 3-D)で は,前 ・
後下解十 二 指腸動脈 は不整,中 絶
し,下 膵十 二 指腸動脈 の根部 も不 明瞭 で あ る。後膵動
脈 は よ く造影 された。上腸 間膜動 静脈 はいず れ も右前
方 へ 挙上 されてい る.巨大 な膵釣状突 起癌 の診断 にて,
6月 23日手 術 が 施 行 され た。術 中所 見りは,Ph,T3
(7.0×50X3.Ocm), SO, Rp2, CHO, Du2,VO,AO,
PO, H2, Nl(十 )(No.14a), PD‐
IIA, RI, PW(―
),
察
膵釣状突起癌 の全陣癌 に占める割合について,Suzu―
kiらいは195例の解癌中10症plj,5.1%としている。われ
われの病院の過去10年間の全膵癌 は76症例で,そ の う
ち 3例 ,3.9%が 釣状突起癌であ り彼 らよ りやや少い。
一般に膵釣状突
起癌 の症状 については疼痛,黄 疸,腹
部腫瘤触知 を きたす こ とは少 くD,む しろ十二指腸水
平部 の狭窄りや,十 二指腸 の漬瘍形成"で発症,診 断 さ
れ ることが多 い と報告 されている。われわれの症例で
はいずれ も背部の疼痛が初発症状 で,今 までの指摘 と
はかならず しも一致 しない。 しか し釣状突起 は解剖学
的 にその他 の どの膵 の部位 よりも膵頭神経叢 に近 く位
置 し, このため この部位 に発生 した癌 は発育 とともに
容易に神経叢へ浸潤,腹 痛 ない しは背部痛を早期に伴
うことは当然 と思われ る,事 実,症 例 2の CT像 では
上陽間膜動脈根部へ の癌浸潤 が描出されてお り,T4症
例である症例 3の CT像 では特 に著 しい。 また, これ
ら症例の切 除標本 においては,組 織学的 に も膵頭神経
叢 へ の癌漫潤 がみ られ,強 度の背部痛 の原因 と思われ
た,こ のよ うな進行陣癌に限 らず,永 井 らいもまた Tl
の小陣癌で もかな りの頻度で膵外進展を伴 っていると
し,0.4cm径 の釣状突起癌 で もすでに疎性結合織内ヘ
の漫潤 が認め られた と報告 している。従来,釣 状突起
出来 の陣癌 は黄痘を伴 うことは少 く,そ れが特徴 の 1
つ とされて きた1)。
それ故 ERCPは 効果 の少 い検査で
あるといわれているの。症例 3の T4で ある進行釣状突
182(2244)
際釣状突起癌の 3切 除例
起癌 で も臨床的 に黄痘 は な く,組 織学 的検 索 で chlに
日消外会誌 20巻
9号
分類 され随伴性陣 炎 を伴わ な い。し か し症例 1の よ う
過 ぎなか った.反 面,T2の 症例 2に おいては,初 診後
に,適切 な画像強調 を試 み ることに よって腹部大動脈 ,
3カ 月 に黄痘 が 出現,組 織学的 に も ch3であ つた o切 除
下大 静脈,上 腸間膜動 静脈,陣 静脈 らと腫瘍 の相対的
標本 では病巣 の 中心部 よ り総胆管壁 までの距離 はわ ず
位置 を確認す る こ とに よって,早 期膵釣部癌 の診 断や
陣頭神経叢 へ の浸潤 の分析 の可能性 が充 分あ る と思わ
か に2.Ocmで あ った。 さ らに Tl症 711の
症 例 1で の超
の
音波像,CT像 をみ る と約 1カ 月 間 に腫瘍 の右 方 ヘ
れた。
総 胆 管壁 まで の 距 離 は1 0cmで あ り,組 織 学 的 に も
I V , 結語
T l 症 例 を含む膵釣状突起癌 の 3 例 につ いて, 症 状,
Ch2であ つたoこ の よ うに切除例 で検討す る と,主 鵬管
画像診 断, 切 除標本 での浸潤方 向 につ いて検討 を加 え
には異常 を認め ない症421でも膵背側 を走行す る膵 内胆
(1.
亨
の急速 な増大がみ られ る。 この切 除標本 では病 巣 よ り
管 に小範 囲 の狭窄,癌 浸潤 を認め る ことが あ り,以 前
か ら通説 の釣状突起癌 に黄疸 は少 い とはかな らず しも
い えな い と思わ れた。 またわれわれの症例 ではいずれ
も VOで 門脈系 へ の浸潤 はみ られず,こ の こ とか ら,釣
状突起 由来 の腫場 には門脈 浸潤 が ない場合 で も鵬 内胆
管 へ の浸潤 が あ りうる と思われた。臨床的 に黄疸 を き
たす か否 かは,癌 の 浸潤方 向 と膵 内胆管 の走行や十 二
指腸乳頭 の相対 的 な位置 に よって決 まるので は な いか
と考 え られた。
さて,陣 釣状突起 の腫瘍 の診断法 につ いては血 管撮
影ゆ,特 に斜位 での造影 が有効りと報告 され てい る。わ
れわ れの症例 で も T2以 上 の症例 では,下膵十 二 指腸動
脈 の壁不 整,狭 窄,中 絶像 な どがみ られ診断の有 力 な
根拠 とな った。 しか し Baronめの指摘 した 後膵動脈 の
変化 はみ られず,上 腸間膜動脈根部 での下解 十 二 指腸
動脈 の読影 が極 めて重要 で あ った.一 方,Tl腫 瘍 で は
選択 的総肝動脈 ,上 腸間膜動脈撮影,ま た そ の斜位 で
の造影 で も病巣 の指摘 は容易 ではな く,釣 状突起 の小
膵癌 の診 断法 として血管撮g//は
,か な らず しも絶対的
な もの とは言 えな か った 。超音波像 は廊癌診 断 に有用
であ るが,膵 頭体部癌 にみ られ る二 次的 な変化 として
の解 管 の 異常 1の
を この 部位 の 腫瘍 に 認 め る こ とは少
い。 しか し,腫 瘍 そ の もの の描 出 は可能 で,わ れわれ
のいず れ の症例 において も限局性 の腫 大,不 均 一 な内
部構造,低 エ コー レベルが観察 された ,特 に釣状突起
にあ っては,腹 部大動脈 と上腸間膜 動脈 分枝部,下 大
静脈 ,上 腸間膜 静脈陣 静脈合流部 よ り門脈領域 の確認
が他 の検査 に比 べ 容易 で, この部 の癌 の診断 には超音
波検査 は不 可欠 で あ る と思わ れ る。膵癌 の CT像 につ
いて草野 ら1つ
は分類 し,中 心型鮮癌 は腫瘍随伴性肝 炎
を示す のに比 べ ,末 浦型 の陣癌 で はそ の所見 がな く極
めて困難 として い る。釣状突起 の小陣癌 も主膵管 とは
無関係 な位置 に あ るため,彼 らのい う末浦型 の陣癌 に
文
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