症例28解答編

症例; 69才 男性
既往歴・家族歴に特記すべきことなし
現病歴;X年に胸部異常陰影を指摘され、
精査にて肺腺癌と診断され、根治術
(H-VATS左上葉切除術 ND2a-2)を施行。
病理結果;Adeno. pT1bN0M0 pStageⅠA
術後化学療法はなし。
外来経過観察中であったが、初回治療後2
年8か月後に胸部異常陰影が出現した。
術前胸部X-Pおよび胸部CT
胸部X-P(初回治療後2年8か月後)
胸部CT(初回治療後2年8か月後)
質問
1.考えられる疾患は?
2.行うべき検査は?
3.どのような治療をしますか?
血液検査所見
WBC
RBC
HT
Hb
PLT
5100
459×104
44.1
16.0
18.3×104
CRP
0.03
Na
K
Cl
Ca
141
4.3
104
9.3
TP
Alb
6.7
4.4
Glu
100
AST(GOT)
ALT(GPT)
ALP
γGTP
LD
T-bil
CHE
CK
22
30
235
39
160
0.52
317
87
BUN
Cre
14.0
0.87
CEA
SLX
CYFRA
PRO-GRP
3.0
29
≦1.0
35.9
1.考えられる疾患は?
〈肺腫瘤〉
良性
• 結核腫
• 肺非結核性抗酸菌症
• 真菌症(クリプトコッカス 等)
• 非特異的炎症(炎症性偽腫瘤)
悪性
• 異時性多発肺癌(第2癌)
• 再発・肺転移
2.行うべき検査は?
• 気管支鏡検査;可視範囲に異常なし。
左B6a,bより鋭匙で擦過後、生検、洗浄。
細胞診・組織診はともに陰性。
• 胸腹部造影CT;腹部に異常なし。
縦隔リンパ節の腫大なし。
• 骨シンチ;異常所見なし。
• 頭部造影MRI;異常所見なし。
3.どのような治療をしますか?
左残肺全摘術
(腹側に伸ばした後側方切開) を施行。
術後合併症なく、術後15日目に退院。
Adeno ca. (異時性多発癌)
pT1aN0M0 pStageⅠA
現在、UFT内服中
術後7か月目 再発なし
残肺全摘術 Completion pneumonectomy
• 肺切除術の既往のある患者に対して、患側の残存肺を摘除
する術式
• 対象;良性疾患は肺結核、気管支拡張症 等
悪性疾患は再発肺癌、多発肺癌、転移性肺腫瘍 等
• 2000年以降でも術中死亡例の報告あり。
• 術後合併症;発生率 30~69.6%
術中出血、気管支断端瘻、膿胸 等
• 手術死亡率;3.4~24% (多くの報告が10%以上)
• 悪性疾患の残肺全摘術後の5年生存率は14~57%であり、
再発例が多くを占めることを考えると、比較的良好な成績で
ある。
当院での残肺全摘術の経験例(4例)
年齢
性別
診断
左
右
開胸
手術
時間
出血量
1
72
男性
再発
Adeno
右
前方
経路
595分
2115ml
2
75
男性
再発
Sq
右
前方
経路
530分
1740ml
3
58
女性
再発
Adeno
左
後側方
切開
320分
100ml
4
69
男性
多発
Adeno
左
後側方
切開
360分
170ml
平均
68.5
右;562.5分
左;340分
右;1427.5ml
左;135ml
術後合併症
術後血腫で
再手術
気管支断端は全例、胸腺右葉、肋間筋弁、心膜周囲脂肪織で被覆した。
全例、心嚢内で肺動静脈の処理を行った。
原発性肺癌術後の経過観察中に新たに
発見された肺結節は、初発肺癌の肺転移、
異時性多発肺癌、およびその他の結節に
分類される。
これらの肺結節は画像診断の進歩に
よって、より早期に発見することが可能と
なっている。
その中で肺転移と異時性多発肺癌との
鑑別は非常に困難なことが多い。診断の
ために切除が必要なこともあり。
Martiniらの多発肺癌の診断基準(1975年)
異時性
Ⅰ 組織型が異なる
Ⅱ 組織型が同じ場合は
A.最初の癌の出現から第2癌の出現までの期間が2年以上または
B.最初の癌が非浸潤癌(carcinoma in situ)または
C.第2癌が対側か異なる肺葉に出現し、2つの癌に共通するリンパ
管に浸潤を認めず、診断の際に肺外の転移を認めない。
同時性(腫瘍が物理的に別個で離れている必要がある。)
Ⅰ 組織型が異なる
Ⅱ 組織型が同じ場合は他区域、他葉、または他肺にあり、
A.2つの癌が非浸潤癌(carcinoma in situ)または
B.2つの癌に共通するリンパ管に浸潤を認めず、診断の際に肺外
の転移を認めない。
現在では腫瘍細胞の遺伝子変異の情報を加味することが
提案されている。
「当院での肺癌手術後胸腔内再発および
第2癌(多発癌)に対する外科治療の検討」
2008年1月から2014年11月までの間に、
原発性肺癌手術後に胸腔内悪性第2病変に
対して再手術を施行した29例を対象とした。
男性17名、女性12名。
年齢は40才~85才。平均68.9才。
初回原発性肺癌手術
組織型
腺癌
19例
BAC
2例
粘液産生性BAC
1例
扁平上皮癌
3例
大細胞癌
4例
病理病期分類
ⅠA 12例
ⅠB
6例
ⅡA 2例
ⅡB
4例
ⅢA
4例
ⅢB
1例
施行手術
葉切除以上 24例
区域切除
部分切除
2例
3例
胸腔内悪性第2病変を画像診断および
病理組織学的に総合的に判断した。
第2病変の平均腫瘍径は1.69cm
胸腔内悪性第2病変
再発・肺転移
9例
再発・気管支断端 1例
異時性多発肺癌 10例
同時性多発肺癌
他臓器癌肺転移
8例
1例
第2病変に対する再手術と術後合併症
施行再手術
残肺全摘術 3例
葉切除
7例
4
区域切除
7例
部分切除
12例
膿胸
3
肺瘻
2
術後出血
創感染
1
肺炎
0
術後合併症数
発生率31%
不整脈
第2病変に対する予後
術死、在院死はなし
(観察期間は2014年10月まで)
平均無再発生存期間 23.6か月
予後
無再発生存
19例
担癌生存 5例
癌死・肺悪性 2例
癌死・他臓器 1例
不明 2例
考 察
• 肺癌切除後の異時性多発肺癌の
発生頻度は年1~2%
術後5年間はそのリスクが年1~2%ずつ
増加する
肺癌の既往の無い人の2~10倍のリスク
外来フォローアップは重要
• 異時性多発肺癌の再切除後の
5年生存率は33~82%と比較的良好
• Oligometastasis(少数個転移)
遠隔転移の中にも“全身播種には至らず、
限られた臓器に少数個のみの転移を来
す” ものがある。
この場合、遠隔転移巣に対する積極的な
局所治療が予後の延長を期待できるの
ではないか?
• 大腸癌の肺・肝転移、乳癌では比較的予
後良好。
• 肺転移に対する再切除後の5年生存率は
23~70%で、報告に大きな差がある。
• 肺転移または異時性多発肺癌に対する
再手術後の手術関連死亡率は0~13%
原因は、肺炎による呼吸不全、術中の
失血死、肺梗塞 等。
• 術後合併症発生率は21~33%
肺炎、ARDS、不整脈、心不全、
肺梗塞 等。
• 慎重な術式決定と手術手技、周術期管
理が必須。