ON02 クラウド利用により求められる運用とは 要旨 1. クラウド利用の現状と、本研究の目的 昨今、 「クラウドサービス」という概念が広く根付きつつあり、メールや音声通話サ ービスなどは個人にも深く浸透している。一方ビジネス面では、法人向けクラウドサ ービスの需給が増えてきているが、その利活用状態は企業のビジネス形態や資産規模 によりばらつきがある。 本研究セッションでは、各企業でクラウドサービスを強く活かせる要素と、その活 用を阻害する要素を追及し、整理した。そして、現在クラウドサービスを利活用でき ていない企業に対して、利活用するための検討・判断ができるような指標の作成を目 指した。 2. クラウドサービスを活かす要素 ~3 つのゼロ~ 本研究セッションでは「運用」の視点から、クラウドサービスの長所を強く活かせ る要素として「3 つのゼロ」に仮説を置いた。 ・障害ゼロ(システムの安定稼働) ・運用ゼロ(システム運用の要員コスト削減) ・オフィスゼロ(遠隔で仕事ができる勤務形態への変遷) この 3 つのゼロが具体的にどのようなクラウドの特性や機能により実現するのか、 また、オンプレミスで同じゼロを実現する場合どうなるかを調査した。 2.1. 障害ゼロ(システムの安定稼働) 障害とは、システムが正しくサービスを提供できない状態である。障害要因には主 に機能要因(プログラムエラー)、基盤要因(物理的な故障)、外的要因(自然災害、人 的災害、ライフライン)がある。これらの障害要因を取り除き障害ゼロを実現するた めには、冗長化などの技術的要素を考慮し、システムを構成する必要がある。 クラウドサービスとオンプレミスそれぞれにおいて、障害ゼロ実現性を比較した(表 1)。 表1.障害ゼロ実現性の比較 対象アプリ ・・・ソフトウェア機能による冗長化 クラウド ○ オンプレ ミス ○ ○強度は基本的に高い △メンテナンス制御不可 △強度は作り次第 ○メンテナンス制御可 対インフラ障害 ・・・冗長化または、停止時の自動復旧 ◎ △ ○強度は基本的に高い ○増設や縮退が容易 △強度は基盤や作り次第 △増設や縮退が困難 対外的要因 ・・・物理的に離れた位置での冗長化 ◎基本的に災対考慮済 ◎ △ △設備投資が必要になる 可能性が高い 上記のとおり、クラウドサービスの方が障害ゼロの実現性が高い。 2.2. 運用ゼロ(システム運用の要員コスト削減) 運用とは、システムがサービス提供し続けるために必要な作業である。運用は本来 サービス提供会社が行う。運用は人的作業である事が多く、そのために要員を必要と する。これをゼロにするためには、アウトソーシングや自動化が必要になる。クラウ ドサービスとオンプレミスそれぞれについて、運用ゼロ実現性を検討した。 (1)クラウドサービスでの運用ゼロ実現 クラウドサービスは運用も含めたサービスであるため、利用時点でゼロになる。 (例えば、メールをクラウドにすることで、メールシステムの管理は不要になる) 2014 Beacon Users' Group ON02 クラウド利用により求められる運用とは 要旨 (2)オンプレミスでの運用ゼロ実現 運用作業の外部委託や、作業の自動化が必要になる。 ※運用工数は除外可能だが、それを目的とした作り込みや教育が必要になる。 上記のとおり、クラウドサービスの方が運用ゼロの実現性が高い。 2.3. オフィスゼロ(遠隔で仕事ができる勤務形態への変遷) オフィスゼロとは、場所に縛られることなく勤務が出来る状態である。オフィスゼ ロとなる事で、自然災害やパンデミック発生時でも自宅や避難先より仕事をすること ができ、業務継続性の向上を実現する事が出来る。また、在宅勤務により家族と触れ 合う時間が増えるなど、副次的な効果も発生する。 これは紛れもなくクラウドサービス利用により実現できる事である。 3. クラウドサービス利用を阻害する要素 ~クラウドならではの懸念~ 3つのゼロ実現におけるクラウドサービスの優位性は上述の通りとなるが、実際に 利用するに当たってはクラウドサービスならではの懸念も存在する。 3.1. 障害ゼロ ・どのようなサービスであっても、必ずゼロになる保証はないという点。 また、障害に伴ったデータ損失のリスクも残存する。 そのため、万一の障害発生に備えた障害報告品質を確認する事が重要となる。 3.2. 運用ゼロ ・クラウドサービスの規定に従う必要があり、自由度が低いという点。 また、クラウドサービスをカスタマイズする場合、設定の管理運用が残存する。 3.3. オフィスゼロ ・法定遵守のための仕組みづくりが必要な点。 (勤務管理など) ・モチベーションなどによる生産性低下などの目に見えない影響がある点。 3.4. 共通した懸念事項 ・データの外部保管による情報流出。 ・クラウドサービス提供内容の変更や、提供の終了。 4. 今後のクラウドサービス利用に向けて 3 つのゼロに対して、クラウドサービスは優位性が確かに高いという事が結論である。 しかし実際の利用には、クラウドサービスならではの懸念を考慮しなければならない。 当研究の成果として、優位性と懸念事項のバランスを定量化し、クラウドサービス を利用したほうが良いかを判断できるガイドラインを作成している。 このガイドラインがクラウドサービス利用判断の指針となり、ビジネスの更なる効 率化や発展に貢献できれば幸いである。 以上 2014 Beacon Users' Group
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