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解答例
記事によると、死刑制度への賛否を問う調査において、死刑制度を容認する
人は、5年前と比べて約5ポイント減少したとはいえ、依然として8割である。
死刑廃止を支持する人が9.7%なのに比べて死刑制度への支持は圧倒的に高
い水準にあると言える。
私は死刑制度を廃止すべきだと考える。その理由は冤罪の可能性があるから
ではない。多数の目撃者の前で殺人が行われ、物的証拠も存在し、犯人が自分
の犯行だと認めている場合、冤罪の可能性はほぼゼロと言ってよい。また、殺
人という凶悪で残忍な犯罪を行った者を憎む点では死刑存続派と同じである。
誰でも、自分の愛する者が殺されたとしたら、その犯人を殺したいという復讐
の気持ちにとらわれるのは当然である。
では、なぜ死刑を廃止すべきなのか。それは、人の命は誰のものでもかけが
えのないものであり、その命を奪う殺人が許されない悪だと考えるからである。
たとえ身勝手な動機で他人の命を奪い、反省の色がなく、更生の余地もない凶
悪犯であっても、国家がその命を奪うことも殺人である以上、それは許されな
い。殺すことが許されるとしたら、そうしなければ自分の命が危険にさらされ
るという正当防衛と緊急避難の場合だけである。だが、どのような凶悪犯でも、
逮捕・監禁してしまえば、それ以上犯罪を実行することは不可能なので、殺す
だけの正当な理由はない。したがって死刑は廃止すべきである。
といっても、仮に死刑を廃止するなら、それと同程度に厳しい刑罰を導入し
なければ、死刑を容認する世論は受け入れないだろう。では、殺人を行った凶
悪犯にはどのような処罰が適切か。
受刑者に対する拷問は認められないので、死刑以外で最も重い罰は仮釈放の
ない終身刑である。これは、一般社会から完全かつ永久に切り離すことによっ
てその者の社会的な生命を奪う刑である。命こそ奪わないが、自由も将来への
希望も一切ない生活を死ぬまで送らせるのである。仮釈放の希望がないまま一
生拘置するのは残酷だという批判があるかもしれないが、被害者や家族の苦痛
や絶望と比べたら、この程度の苦しみを加害者が味わったとしても必ずしも残
酷とは言えないはずだ。人の命を奪った罪は一生をかけて償っても足りないく
らい重いものである。
死刑廃止は決して凶悪犯罪者に対して甘い対応を望んでいるのでも、その罪
を軽く見ているのでもない。人を殺すことを憎むがゆえに死刑にも反対するの
である。
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