○ブルドック買収防衛策の差し止め 請求に対する高裁の棄却決定 • 決定の内容 – スティールは企業経営面を考慮せず買収を提案しており、 いたずらに不安を与え、企業価値を毀損する濫用的買収 者と認めるのが相当。(地裁決定より踏み込む) – ブルドックの買収防衛策はやむを得ない手段である。 – 手続き的にも特別決議を経ている。 – スティールに対し新株予約権を買い取ることにしており、 スティールに不合理な財産的損害を与えるものではない。 • この決定があらゆる買収防衛策を正当化するもの ではない。限られた状況でのみ、買収防衛策の発 動が認められると考えるべき。 • 今後の展開 • スティールの対応 – 最高裁へ抗告を申し立て – 今後、TOBをどうするか? • TOBの取り下げ or TOBの続行( TOB価格の引き下げが必要 ←株式4分割のため) • 今回の教訓 – 濫用的買収者に対し法的にも防衛策を発動できる – しかし、安易な防衛策の導入・発動は日本経済全体にマ イナスの影響を及ぼすことも考慮すべき ○欧米の敵対的買収と買収防衛策 ○アメリカ: • 敵対的買収のM&Aに占める比率(成功比率) • 1973-79年:8.2% (4.1%) • 1980-89年:14.3% (7.1%) • 1990-98年:4.0% (2.6%) • なぜアメリカで敵対的買収が減少したのか? – 高値で買収した割には期待されたM&Aのメリット が得られなかった • アメリカでは事前警告型買収防衛策が – 取締役会が防衛策を楯にして買収者と交渉し、買収価格 をつり上げて決着するケースが多い(最終的には友好的 買収) ○ヨーロッパ – 取締役は中立義務 – 株主がTOBに応じるか否かで最終決定 – TOBの100%買取義務 • 買収者は、TOB応募者がいれば最大100%まで買い取らなけれ ばならず、中途半端なTOBはできず、 100%の資金を事前準備 する必要あり – 実際にはホワイトナイトを探し、それに買収されるケース が多い ○買収防衛策の意義と問題点 • 買収防衛策の意義 • 買収防衛策の問題点 – 現在の経営陣が反対する買収提案(敵対的買収)でも、 企業価値を向上させるものは十分ありうる。 – それを排除する – 株主平等の原則が損なわれる恐れ • 防衛策の発動は、最終的に株主が判断すべき – 株主に判断のための十分な情報を提供することが重要 • 買収者の経営方針、第3者委員会による買収者の評価・判断、経 営陣の今後の経営方針 • 買収防衛策としての企業間の株式持合い強化 – 企業間の株式持合い進展は、コーポレート・ガバナンス上、 株主側・株式市場側からの企業経営への監視・圧力を弱 める – 企業経営が内向き志向を強め、馴れ合い的になりやすい – 企業経営の効率化や経済のダイナミックな発展を妨げる恐 れがある – HOYA・ペンタックスの経営統合問題において、も しペンタックスが強力な株式持合関係を築いてい れば、経営統合は頓挫 • Cf. 本講義第1章の「日本における金融仲介構造変化 の要因・背景」の中の「コーポレート・ガバナンス機能」 「市場型金融のメリットの活用」 ○ 参考文献 • 佐山展生・藤田勉『新会社法で変わる敵対的買収』 東洋経済新報社 2005年 • 企業価値研究会「企業価値報告書」2005年5月 • 佐賀卓雄「戦後アメリカにおけるM&Aファイナンスの 変遷」『月刊資本市場』2005年6月 • 大和総研「平成18年導入の買収防衛策の傾向と株 主の反応」2006年7月 • 藤田勉「世界のM&Aと三角合併解禁の影響」 『月 刊資本市場』2007年6月 第3章(4)市場価格変動リスクと デリバティブ • デリバティブ(金融派生商品)とは? 原資産 e.g.為替、株式、 債券 派生商品 e.g. ・取引所取引(上場物)と 店頭取引(店頭物) ◎スワップ – e.g. 、通貨スワップ 固定金利支払いと 変動金利支払いとの交換 異種通貨建債務の 元利支払いの交換 • ○A・B社間の金利スワップの例 • スワップレート:スワップで交換される固定金利 • 変動金利として6ヶ月物LIBORを使う – London Interbank Offer(ed) Rate:ロンドン銀行間貸 出金利 5%(固定金利) A社 B社 LIBOR(変動金利) ・金利スワップのキャッシュフロー:契約日1996年3月1日 金利の交換は6ヶ月単位で行う: 変動金利の支払いは6ヶ月前のレートで計算した金額 e.g.スワップ取引動機の例 • A社:金利低下を見込み固定金利受取り・変動金利支 払いのスワップにより利益を得ようとする(投機) • B社:元々変動金利の銀行借入(金利:LIBOR+0.8%) があり、 5% 銀行借入の利払い B社 A社 LIBOR LIBOR+0.8% ・銀行によるスワップ取引の仲介 仲介による銀行の利益:(5.015%-4.985%)×想定元本 銀行はリスクを仲介する業務(cf.金融仲介業務)を行っている。 4.985% A社 LIBOR 銀行 5.015% B社 LIBOR 銀行は多くの顧客との間でスワップ取引を行う。 ○スワップ取引市場の概念図 インターディーラー (業者間)取引 cf. 外国為替市場 と同じ市場構造 仲介業者 銀行A 銀行B 対顧客 取引 顧客: a b c d e f 銀行は、固定金利支払(変動金利受取)と固定金利受取(変動金利支 払)とがいつも一致している訳ではない。つまり、金利変動リスクを銀 行自体が抱える。その金利変動リスクをコントロールしながら、顧客か らの金利スワップ取引注文に応じていく(スワップディーリング)。 ・2007年7月6日の金利スワップレート(東京市場) 日経07.07.07 ・主なデリバティブ取引 個別株オプション 有価証券店頭デリバティブ 鈴木淑夫・岡部光明編『日本の金融』p.120 東洋経済新報社 ○デリバティブ商品の本質 • 「リスクを専門的に扱う商品」 • 伝統的な金融商品:株式、貸出、外貨預金 – 資金の提供・調達手段(資金移転)であると同時にリ スクを伴う – 為替変動リスク:先物為替、通貨オプション – 金利変動リスク:金利スワップ、債券先物 • ⇒リスク管理の手段としてのデリバティブ – ポートフォリオやバランスシートのリスク量の制御 – リスクをコントロールした金融商品の設計 • デリバティブはこれまで • (マーケットリスク:為替、金利、株価等)を 扱ってきた。 • ⇒新しい動き: – : (債務不履行時に 元利返済を肩代わりする) 残高:2兆ドル – : 天候異変に伴う企業収益の減少リスクを扱う 気温、降雨・降雪量、台風等 店頭デリバティブ取引残高の推移 兆ドル 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 資料:BIS OTC取引:店頭取引 Over the Counter 店頭デリバティブ取引の原資産別割合(2006年末) 商品 2% 株式 2% クレジットデリ バティブ 8% 金利 77% 資料:BIS 外国為替 11% 金利スワップだけで 全体の56% 店頭デリバティブ商品別割合 (外為・金利のみ、2006年末) オプション 16% 先物 12% スワップ 72% 資料:BIS ○第3章(4)の参考文献 • ボディ=マートン『現代ファイナンス論』第14、15 章 ピアソン • ジョン・ハル『フィナンシャルエンジニアリング』第 1章 金融財政事情研究会 • 野口悠紀夫・藤井真理子『金融工学』第9、10章 ダイヤモンド社2000 • 日本証券アナリスト協会編『証券投資論』第7章 日本経済新聞社1999 • 井手正介・高橋文郎『ビジネスゼミナール:証券 投資入門』第11章 日本経済新聞社2001 • 日本証券経済研究所『現代日本の証券市場 2006年版』第7章 日本証券経済研究所
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