オントンジャワ海台上の小海山の成因 ○羽生毅・清水健二・マリッサ テハダ(海洋研究開発機構),後藤孝介(産業技術総合研究所) 地球上最大規模の海台であるオントンジャワ海台は、白亜紀に起きた大規模マントル上昇流に起因 する大量のマグマ噴出により形成されたと考えられている。しかし、それがあまりに巨大であるため 地球物理探査は十分に行われてなく、海台の地殻構造には未知の部分が多く残されている。また、海 台は比較的平坦な地形をしており堆積物に厚く覆われているため、岩石試料の採取も限られていた。 現在機構船舶を用いて、地球物理と岩石学の両面からオントンジャワ海台の成因研究が進められてい るが、その一環として実施された「みらい」MR12-03 航海において、オントンジャワ海台上の小海山か らのドレッジに成功したのでその結果を報告する。 MR12-03 航海でドレッジを行った海山は、「かいれい」KR10-05 航海で実施された海台の地殻構造探 査において偶然発見されたものである。ヌーグリギア(タウ)環礁から北東に延びる海底リッジ上に 存在する3つの小海山は、環礁を形成した火山の側噴火でできたと解釈できる。これらの海山で水深 約1200~1500mにおいてドレッジをした結果、枕状溶岩、軽石、砕屑岩、鉄マンガン酸化物 等の岩石試料が得られた。また、航海中に行った航走観測により、同様の小海山が環礁を形成した火 山の海底斜面に複数見つけられた。 溶岩の放射年代は現在測定中であるが、一方で溶岩に付着していた鉄マンガン酸化物のオスミウム 同位体比からも年代を推定することができる。海水中のオスミウム同位体比は経年変化することが知 られており、溶岩に付着していた鉄マンガン酸化物の表面から溶岩直上までのオスミウム同位体比の 変化を海水の経年変化と照らし合わせると、少なくとも16Maより古いという結果になった(Goto et al., GCA, 2013)。この方法は溶岩の噴出年代の最小値を与えるものの、オントンジャワ海台の主火成 活動期120Maに比べて著しく若く、これまでにも指摘されていた海台の後期火成活動を反映して いる岩石であると考えられる。従って、ドレッジで得られた岩石は主活動と後期活動のマグマ源の違 いを見る上で貴重な試料であると言える。 溶岩は少なからず変質を受けているので、変質が化学組成に及ぼす影響を評価するために、溶岩を そのまま粉末にしたものと、なるべく変質の程度の少ない部分だけをハンドピックで集めて粉末にし たものの2種類の粉末試料を用意し、その組成を比較した。主成分元素はどちらの試料も変質のため に大きく変化してしまっているが、変質に強い微量元素は2種類の粉末試料でほぼ一致した値を示し、 変質を受ける前の溶岩の化学組成を反映していると考えられる。このような微量元素組成には海洋島 に見られるようなインコンパチブル元素に著しく富むようなアルカリ玄武岩の特徴が見られ、マント ル物質が低い部分融解度で融けてできたマグマであると言える。これは主活動の溶岩が高い部分融解 度でできたソレアイト玄武岩であることと対照的である。また、Pb, Nd 等の同位体比も2種類の粉末 試料でほぼ一致し、マグマ源物質の推定に用いることができる。これらの同位体比は主活動のものと 異なり Bulk Earth(地球平均値)の同位体比に非常に近い。このことは、主活動のマグマ源物質の再 溶融により後期活動のマグマができたのではなく、おそらく下部マントルに存在する始源的なマント ル成分が低い部分溶融度で融解することでマグマが生成されたことを示唆する。
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