線形数学講義メモ (10 月 9 日)

線形数学講義メモ (10 月 9 日)
本日の講義の要点
1. 基底
基底の定義は 1 年次に学習したものと基本的に同じである.ただしここでは無限次元の線形空間も
扱っているので,無限個のベクトルの組が基底になることもある.例えば x についての多項式全体の集
合において {xn | n ∈ N} は基底である.ただしこの講義では基底は有限個のベクトルの組のみを扱う.
2. 命題 1.4
V の基底として n 個のベクトルの組が取れるとき,V の n + 1 個以上のベクトルからなる組は 1 次独
立にならない.これは未知数の数が式の数より大きい同次連立 1 次方程式の解が 1 つ以上の文字 (任意
定数) を用いて表されることから証明できる.結果として V の基底をなすベクトルの個数は一定である
ことが示される.n + 1 個以上のベクトルの組は 1 次独立でないので基底にならないし,n − 1 個以下の
ベクトルで基底が作られたら,最初の n 個のベクトルの組が基底であることに矛盾してしまう.
3. V のベクトルの有限列 P と K n から V への写像 ΦP
P = {⃗p1 , ⃗p2 , . . . , ⃗pn } を V の要素を成分とする行ベクトルとみなせば 1 次結合は
∑
(
x j ⃗p j = ⃗p1
⃗p2
···
 
 x1 
)  x2 
⃗pn  .  = Px
 .. 
 
xn
と表せる.そこで写像 ΦP : K n −→ V を (x) = Px と定める.
ΦP について次が成り立つ.
• ΦP が全射であることと P が V を生成することは同値である.
• ΦP が単射であることと P が 1 次独立であることは同値である.
• ΦP が全単射であることと P が V の基底であることは同値である.
それぞれの証明は ΦP (x) が P の 1 次結合であることを使う.証明は基本的なので考えておくように.
4. 有限次元線形空間の基底と座標(命題 1.5)
P が基底のとき x = (ΦP )−1 (⃗x) を ⃗x の基底 P に関する ⃗x の座標と呼ぶ.座標を定めることにより,1
年次で学習した線形代数の結果が使えるようになる.
基底の変換と座標の変換について考察した.2 つの基底 P = {⃗p1 , . . . , ⃗pn } と Q = q¸1 , . . . , ⃗
qn } の変換の
行列は
⃗q j =
∑
ai j ⃗pi ,
Q = PA
と表示される.このとき P に関する ⃗x の座標を x,Q に関する座標を y とすれば x = Ay が成り立つ.
この関係は次のような式の変形で理解できる.
⃗x = Qy = PAy = Px
5. 部分空間
線形空間 V の空でない部分集合が,和とスカラー倍の演算について閉じているとき部分空間という.
V が有限次元のとき
• 0 ≦ dim W ≦ dim V
• dim W = 0 ⇐⇒ W = {⃗0},dim W = dim V ←→ W = V
最初の不等式については W の dim V + 1 個以上のベクトルの組が 1 次従属になること(命題 1.4),次
の等号条件については W の基底を延長して V の基底を作る操作を利用する.次元が等しければ付け加
えられるべきベクトルはなく,W の基底がそのまま V の基底になる.
6. 共通部分,合併,和空間
基本的に 1 年次の線形代数で学習したことだが,2 つの部分空間の共通部分はやはり部分空間にな
る.逆に合併集合については一般には部分空間にならない.そこで和空間が導入される.以下の詳しい
議論は次回の講義で行おう.
本日の提出課題とヒント
問題 1.6,問題 1.8,問題 1.11(定理 1.6 を定理 1.7 に訂正する)を出題する.ヒントはなし.