線形代数学演習第二 U クラス(12/15)追加 担当:柴田 将敬 ■Gram-Schmidt の直交化法 正射影の計算からわかるように、線形空間 W の基底が(正 規)直交基底だと計算が都合が良いことが多々ある。直交しているとは限らない W の基底 {a1 , . . . , am } が与えられたとき、W の(正規)直交基底を作る方法が Gram-Schmidt の直 交化法である。ここでは、その方法について解説する。教科書にもこの直交化法は載ってい るので、そちらを参照しても良い。 ■やり方 W を線形空間(もちろん何らかの線形空間の部分空間で良い)でその基底を {a1 , . . . , am } とする。{b1 , . . . , bm } を次のように帰納的に定める b1 =a1 , bj =aj − j−1 ∑ (aj , bk ) k=1 (bk , bk ) bk (j = 2, . . . , m). このようにしたとき、{b1 , . . . , bm } は W の直交基底になる。さらに、 cj = bj bj =√ ∥bj ∥ (bj , bj ) (j = 1, . . . , m) とすると、{c1 , . . . , cm } は W の正規直交基底になる。 ■証明 このようにすると本当に上手くいくのか? {b1 , . . . , bm } が W の直交基底となるこ とを証明する。Wj = ⟨a1 , . . . , aj ⟩ とおき、次の命題を示せばよい。 命題. 各 j に対して、Wj = ⟨b1 , . . . , bj ⟩ であり、k < j ならば bj ⊥ bk である。 証明. 帰納的に証明する。j = 1 のときは b1 = a1 であるから、W1 = ⟨a1 ⟩ = ⟨b1 ⟩ は明ら か。命題が 1, . . . , j − 1 で成立しているとき、j で成立することを示す。直交性については l < j に対して (bj , bl ) を計算すれば、bj の定義と帰納法の仮定より (bj , bl ) = (aj , bl ) − j−1 ∑ (aj , bk ) k=1 (bk , bk ) (bk , bl ) = 0 となることがわかる。 さて、{a1 , . . . , aj } は基底であったから、dim Wj−1 = j − 1, dim Wj = j である。また、 帰納法の仮定より、 Wj−1 = ⟨b1 , . . . , bj−1 ⟩ , Wj = ⟨b1 , . . . , bj−1 , aj ⟩ 1 となっている。上式と bj の定義より、bj ∈ Wj となっていることがわかり、従って ˜ j = ⟨b1 , . . . , bj ⟩ ⊂ Wj W ˜ j ⊃ Wj−1 であるから、dim W ˜ j は j − 1 か j である。もし、W ˜ j = j − 1 ならば、 となる。W 帰納法の仮定より {b1 , . . . , bj−1 } は一次独立であるから、bj ∈ Wj−1 となる。しかし bj の 定義式を見ると aj ∈ Wj−1 となり、これは {a1 , . . . , am } が一次独立であることに矛盾する。 ˜ j = j であり、W ˜j ⊂ Wj , dim Wj = j と合わせると W ˜ j = Wj であることが 以上より dim W 従う。 ■意味 Wj−1 = ⟨b1 , . . . , bj ⟩ であることがわかれば、bj の定め方は正射影を使った直交分 解になっていることがわかる。つまり、 ˜j = b j−1 ∑ (aj , bk ) k=1 (bk , bk ) bk は aj の Wj−1 への正射影になっており、 ˜j ∈ Wj−1 , bj ∈ W ⊥ ) (b j−1 ˜ j + bj aj = b となっているのである。 ■少しだけ別の方法 直交系だと計算などで便利ということを述べたが、正規直交系だとも うすこし計算で便利になることがある。それは、{c1 , . . . , cm } が正規直交系だと、 (cj , ck ) = δjk が成立することに由来する。δjk はクロネッカーの δ である。上の方法では、与えられた基底 を直交化し、最後に正規化することで正規直交系を得ていた。多少順番を変えて、次のよう に正規直交系を作ることも出来る。W の基底を {a1 , . . . , am } とする。 b1 =a1 , bj =aj − c1 = j−1 ∑ b1 , ∥b1 ∥ (aj , ck )ck , cj = k=1 bj ∥bj ∥ (j = 2, . . . , m) とすれば、{c1 , . . . , cm } が正規直交系となる。先ほどの方法と比べて多少式がすっきりして いるが、具体例で計算するときは正規化しながら計算しなければならないため、必ずしも楽 とは限らない。 2
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