4.8 基底を用いて V と W をそれぞれ K n , K m (但し n = dim V , m = dim W ) と同一視し,T を表 線形写像の像と核 す行列を A とすれば,この定理の証明は TA : K n → K m の場合に帰着できるが,直接的な証明 線形写像 T : V → W に対し,W の部分集合 も書いておこう. {T (x) | x ∈ V } (証明) a1 , . . . , am を KerT の基底とする.定理 4.3.5 により,これにベクトル am+1 , . . . , an を付け加えて, a1 , . . . , am+n が V の基底であるようにできる. このとき,T (a1 ) = 0, . . . , T (am ) = 0 であるので,ImT = Span⟨T (am+1 ), . . . , T (am+n )⟩ である.もし T (am+1 ), . . . , T (am+n ) が線形独立なら,これらは ImT の基底になるので,dim(KerT ) = m, dim V = m+n, dim(ImT ) = n となり,定理の証明が完結する. よって T (am+1 ), . . . , T (am+n ) が線形独立であることを示す. を T の像 (image) といい,ImT と表す.また,V の部分集合 {x ∈ V | T (x) = 0} を T の核 (kernel) といい,KerT と表す. k1 T (am+1 ) + · · · + kn T (am+n ) = 0 ならば,線形写像の条件より T (k1 am+1 + · · · + kn am+n ) = 0 であ 命題 4.8.1 T : V → W を線形空間 V から線形空間 W への線形写像とする.このとき ImT は る.よって k1 am+1 + · · · + kn am+n ∈ KerT であるので,ℓ1 , . . . , ℓm ∈ K をうまく取れば,k1 am+1 + · · · + W の部分空間であり,KerT は V の部分空間である. kn am+n = ℓ1 a1 + · · · + ℓm am とできる.ここで a1 , . . . , am+n は V の基底なので線形独立であることか ら,k1 = · · · = kn = ℓ1 = · · · = ℓm = 0 である.これにより T (am+1 ), . . . , T (am+n ) が線形独立であるこ 問 4.8.1 命題 4.7.1(1) と線形写像の条件 (L1), (L2) を使うことにより,KerT は V の部分空間 とがわかった. (証明終わり) であることを示せ.(部分空間の条件 (S0), (S1), (S2) が満たされることを確かめればよい.) 新たな言葉を導入したが,これは既に学んでいるものを一般化したものである.即ち, ( 命題 4.8.2 TA が m × n 行列 A = a1 ... ) an より定まる K n から K m への線形写像 TA (x) = Ax (x ∈ K n ) であるとき,像 ImTA は行列 A の列ベクトル a1 , . . . , an によって生成される K m の部分空間 Span⟨a1 , . . . , an ⟩ であり,核 KerTA は連立 1 次方程式 Ax = 0 の解空間である. この命題の状況で考えると,像 ImTA の次元は Span⟨a1 , . . . , an ⟩ の次元であるから,a1 , . . . , an の中で線形独立なベクトルの最大数に等しい.これらのベクトルは行列 A の列ベクトルであるか ら,行列の階数(ランク)の性質により,dim(ImTA ) は A の階数 r(A) に等しい. そこで一般に (つまり T が行列で定められていない状況でも),線形写像 T の像の次元を T の 階数といい,r(T ) で表す. 一方,KerTA の次元は連立 1 次方程式 Ax = 0 の解空間の次元であり,これは n − r(A) に等 しい.以上により, dim(KerTA ) + dim(ImTA ) = n = dim K n となるが,この K n は今の場合,TA : K n → K m の定義域である. もっと一般に,T が有限次元ベクトル空間 V から W への線形写像であるとき,次が成り立つ. 定理 4.8.3 V , W を有限次元ベクトル空間とする.線形写像 T : V → W に対し, dim(KerT ) + dim(ImT ) = dim V が成り立つ. 34 定理 5.1.1 λ が A の固有値であることと λ が固有方程式 ΦA (λ) = 0 の解であることは同値で ある. λ が固有値であるなら,λ に対する固有ベクトルは 第 5 章 行列の対角化 Ax = λx ⇔ (λIn − A)x = 0 を満たすベクトルであるから,これを未知数 x に関する連立 1 次方程式とみて解けば,固有ベク 5.1 トルが求められる. 固有値と固有ベクトル 以上が固有値・固有ベクトルの計算方法である. 平面上の線形変換のなかで、対角行列より定まるもの ( ) ( )( ) x α 0 x T = y 0 β y は x 方向に α 倍,y 方向に β 倍するだけなので,比較的捉えやすいものである.このように線形 変換 T : V → V があるとき,T によって保たれる方向がわかると T の性質が捉えやすくなる.そ こで次のように定義する. T : V → V を V 上の線形変換とする. T (x) = λx となるベクトル x ̸= 0 とスカラー λ があるとき,λ を T の固有値といい,x を固有値 λ に対す る固有ベクトルという.またこのとき,V の部分空間 Ker(T − λ) = {v ∈ V | T (x) = λx} を固有値 λ に対する T の固有空間という. 特に V = K n で T が n 次正方行列 A より定まる K n 上の線形変換 T (x) = Ax, x ∈ Kn のとき,T の固有値・固有ベクトル・固有空間を行列 A の固有値・固有ベクトル・固有空間という. 5.1.1 行列の固有値・固有ベクトルの求め方 A を n 次正方行列とするとき,λ に関する n 次多項式 ΦA (λ) = det(λIn − A) を A の固有多項式(または特性多項式)といい,方程式 ΦA (λ) = 0 を A の固有方程式(または特性方程式)という.このとき次が成り立つ. 35
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