No.19

4.8
基底を用いて V と W をそれぞれ K n , K m (但し n = dim V , m = dim W ) と同一視し,T を表
線形写像の像と核
す行列を A とすれば,この定理の証明は TA : K n → K m の場合に帰着できるが,直接的な証明
線形写像 T : V → W に対し,W の部分集合
も書いておこう.
{T (x) | x ∈ V }
(証明) a1 , . . . , am を KerT の基底とする.定理 4.3.5 により,これにベクトル am+1 , . . . , an を付け加えて,
a1 , . . . , am+n が V の基底であるようにできる.
このとき,T (a1 ) = 0, . . . , T (am ) = 0 であるので,ImT = Span⟨T (am+1 ), . . . , T (am+n )⟩ である.もし
T (am+1 ), . . . , T (am+n ) が線形独立なら,これらは ImT の基底になるので,dim(KerT ) = m, dim V = m+n,
dim(ImT ) = n となり,定理の証明が完結する.
よって T (am+1 ), . . . , T (am+n ) が線形独立であることを示す.
を T の像 (image) といい,ImT と表す.また,V の部分集合
{x ∈ V | T (x) = 0}
を T の核 (kernel) といい,KerT と表す.
k1 T (am+1 ) + · · · + kn T (am+n ) = 0 ならば,線形写像の条件より T (k1 am+1 + · · · + kn am+n ) = 0 であ
命題 4.8.1 T : V → W を線形空間 V から線形空間 W への線形写像とする.このとき ImT は
る.よって k1 am+1 + · · · + kn am+n ∈ KerT であるので,ℓ1 , . . . , ℓm ∈ K をうまく取れば,k1 am+1 + · · · +
W の部分空間であり,KerT は V の部分空間である.
kn am+n = ℓ1 a1 + · · · + ℓm am とできる.ここで a1 , . . . , am+n は V の基底なので線形独立であることか
ら,k1 = · · · = kn = ℓ1 = · · · = ℓm = 0 である.これにより T (am+1 ), . . . , T (am+n ) が線形独立であるこ
問 4.8.1 命題 4.7.1(1) と線形写像の条件 (L1), (L2) を使うことにより,KerT は V の部分空間
とがわかった. (証明終わり)
であることを示せ.(部分空間の条件 (S0), (S1), (S2) が満たされることを確かめればよい.)
新たな言葉を導入したが,これは既に学んでいるものを一般化したものである.即ち,
(
命題 4.8.2 TA が m × n 行列 A = a1
...
)
an より定まる K n から K m への線形写像
TA (x) = Ax
(x ∈ K n )
であるとき,像 ImTA は行列 A の列ベクトル a1 , . . . , an によって生成される K m の部分空間
Span⟨a1 , . . . , an ⟩ であり,核 KerTA は連立 1 次方程式
Ax = 0
の解空間である.
この命題の状況で考えると,像 ImTA の次元は Span⟨a1 , . . . , an ⟩ の次元であるから,a1 , . . . , an
の中で線形独立なベクトルの最大数に等しい.これらのベクトルは行列 A の列ベクトルであるか
ら,行列の階数(ランク)の性質により,dim(ImTA ) は A の階数 r(A) に等しい.
そこで一般に (つまり T が行列で定められていない状況でも),線形写像 T の像の次元を T の
階数といい,r(T ) で表す.
一方,KerTA の次元は連立 1 次方程式 Ax = 0 の解空間の次元であり,これは n − r(A) に等
しい.以上により,
dim(KerTA ) + dim(ImTA ) = n = dim K n
となるが,この K n は今の場合,TA : K n → K m の定義域である.
もっと一般に,T が有限次元ベクトル空間 V から W への線形写像であるとき,次が成り立つ.
定理 4.8.3 V , W を有限次元ベクトル空間とする.線形写像 T : V → W に対し,
dim(KerT ) + dim(ImT ) = dim V
が成り立つ.
34
定理 5.1.1 λ が A の固有値であることと λ が固有方程式 ΦA (λ) = 0 の解であることは同値で
ある.
λ が固有値であるなら,λ に対する固有ベクトルは
第 5 章 行列の対角化
Ax = λx
⇔
(λIn − A)x = 0
を満たすベクトルであるから,これを未知数 x に関する連立 1 次方程式とみて解けば,固有ベク
5.1
トルが求められる.
固有値と固有ベクトル
以上が固有値・固有ベクトルの計算方法である.
平面上の線形変換のなかで、対角行列より定まるもの
( ) (
)( )
x
α 0
x
T
=
y
0 β
y
は x 方向に α 倍,y 方向に β 倍するだけなので,比較的捉えやすいものである.このように線形
変換 T : V → V があるとき,T によって保たれる方向がわかると T の性質が捉えやすくなる.そ
こで次のように定義する.
T : V → V を V 上の線形変換とする.
T (x) = λx
となるベクトル x ̸= 0 とスカラー λ があるとき,λ を T の固有値といい,x を固有値 λ に対す
る固有ベクトルという.またこのとき,V の部分空間
Ker(T − λ) = {v ∈ V | T (x) = λx}
を固有値 λ に対する T の固有空間という.
特に V = K n で T が n 次正方行列 A より定まる K n 上の線形変換
T (x) = Ax,
x ∈ Kn
のとき,T の固有値・固有ベクトル・固有空間を行列 A の固有値・固有ベクトル・固有空間という.
5.1.1
行列の固有値・固有ベクトルの求め方
A を n 次正方行列とするとき,λ に関する n 次多項式
ΦA (λ) = det(λIn − A)
を A の固有多項式(または特性多項式)といい,方程式
ΦA (λ) = 0
を A の固有方程式(または特性方程式)という.このとき次が成り立つ.
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