144 NZの好青年

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NZの好青年
定年退職記念にニュージーランドの山を選び16日間トレッキングした。日本人旅行者は
「豪勢ですね」こう言って羨ましがったが、出会った外国人は3ヶ月とか1ヶ月とかが普通。
「半月ぐらいではNZの良さが判りませんよ」と言われた。
メインは南島のミルフォード・トラック。標高ゼロ㍍の亜熱帯林から1千数百㍍の峠越えの
氷河域まで、55キロ㍍を一方通行で5泊6日かけ、各自にてんでバラバラ自己責任で歩く。
山小屋では到着順にNZ、アメリカ、ドイツ、カナダ、フランス、オーストラリアなど7ヶ國
の外国人と相部屋でベットも隣同士。はじめ日本人を何となく避けていたが、だんだんと手振
り身振りで話が出来るようになると、いつの間にか親しくなっている。
日本人は我々ふわく山の会19名だけだ。“このコースは団体行動をとらないで歩こう”と
約束し各自が自由に歩いた。 私はいつも先頭グループにいた。私と相前後して歩いていたの
がクインテインという18才の青年だった。
彼は登山口のテ・アナウの町の住民。鈴鹿でいうなら御在所岳へ登るのに菰野.から参加し
たようなものだ。日ごろはクライストチャーチの学校で寮生活していたが、夏休みで実家に帰
省してこの企画に参加したと言う。
「君のようなナイスガイがたった一人で山歩きして
いるのは変だ。ガールフレンドはいないのか?」
私の問いに彼は顔を赤くして
「学校では綺麗な女子学生もいるが、いつもフラ
れてしまう。先月も好きだった人に告白したと
ころ、彼女に私の友達のほうが好きだと言われ
ショックだった」
それは気の毒、私は南野陽子が写っているテレ
ホンカードを見せ
「これは私のムスメだが、付き合ってみる気が
あるか」
ほんの冗談のつもりでからかったのだが、彼は
大真面目で
「こんな美人なら大歓迎、ぜひ交際したいです。
すぐにでも連絡とってください」
そう言って彼はカードを大事に胸ポケットに
仕舞い込んだ。彼の大真面目な姿を見て私は
冗談だウソだと言いそびれてしまい、
「日本へ帰ったらムスメに手紙を書かせる。我が
ムスメは美人だから彼氏がいるかも知れない。
期待せず待っていてくれ」
そう言って誤魔化すのがやっとだった。
ミルフォードトラックを完歩した夜、祝賀会が
開かれ完歩賞の賞状を貰ったが、そのときアル
コールで舌が少し滑らかになった勢いで
「実はあのカードのムスメは日本の女優だよ」
【南野陽子】
と彼に白状した。すると彼は
「はじめから判っていましたよ。貴方とは似ても似つかない容姿ですからね」
私はギャフンとなってしまい、地ワインを1本奢る羽目になってしまった。