96 MT 法を用いた農業機械の異常検出 高田康兵・光岡

MT 法を用いた農業機械の異常検出
○高田康兵・光岡宗司 1 ) ・井上英二 1 ) ・岡安祟史 1 ) ・平井康丸 1 )
(九大院生資環・ 1 ) 九大院農)
【目的】
近年,半導体加工技術の向上による各種センサ
の小型・低コスト化が進むとともにこれらのセンサ
群が機械システム,通信システムに採用され,多数
の時系列データが取得可能となっている。農業分野
においても農業ロボットやトラクタのナビゲーショ
ンシステム等には多数の小型慣性センサが導入され
ている。一方,近年,農業機械の使用中の死亡事故
の低減化の面から農業機械の安全対策への必要性が
強まっており,故障や異常の早期発見や転落・転倒
の事故予防が課題となっている。
そこで本研究では,複数の時系列データを用いた
農業機械の異常・故障の検出を目的とし,農業機械
の 3 軸並進加速度および 3 軸回転角速度時系列デ
ータ用いて,相関関係をもつ多次元(多変量)空間
の距離であるマハラノビス距離(MD)による異常値
検出の可能性について検討を行った。
【材料および方法】
本研究では,2 種類の実験によって得られた複数
時系列データを用いて解析を行った。実験 1 では,
自脱コンバインの収穫作業中の加速度および角速度
の計測を行った。実験はエンジンの定格回転数
3000rpm であり,アイドリング状態から刈り取り,脱
穀を含む一連の刈り取り作業を行い,機体前方のト
ラックフレームに設置したMEMS慣性センサより
並進 3 軸加速度と回転 3 軸角速度をサンプリング
周波数 200Hzで計測した。また,実験 2 では,模
型車両を用いた傾斜面走行実験における転倒および
非転倒時の並進 3 軸加速度と回転 3 軸角速度をサ
ンプリング周波数 200Hzで計測を行った。測定で
得られた並進 3 軸加速度および回転 3 軸角速度の 6
つの振動時系列データを用いてマハラノビス距離
(MD)を算出した。項目数 k,データ数 n 個のデー
タ群を基準化し,基準化後の P 番目のデータを
[x p1 , xp2 ⋯ xpn ]とすると,MD(Dp )は次の式で表せ
る。
ここで,rij は相関係数を表わす。
MD の算出にあたり SN 比による変数選択と周波数
特性の把握を行った。まず,P.S.D より振動の主要
な周波数成分を抽出し, MD を計算する際の最小デ
ータ数を決定した。次に 6 つの時系列データの組
み合わせから計算された SN 比に基づく変数選択を
行った。
【結果および考察】
実験 1 で測定した 6 つの時系列データの P.S.D
の結果より,10Hz 以下の低周波成分と 30~50Hz
までの高周波成分において大きなピークが示された。
これらはそれぞれ走行部及びエンジンと脱穀部に起
因する振動だと考えられるため,これらの周波数帯
を含むデータから MD を算出する必要があると推
測される。また,L12 直行表を用いて MD の計算
に用いる変数の組み合わせを検討した。正常時のデ
ータ群(単位空間)と解析対象のデータ群(信号空間)
について 6 変数を用いて 12 通りの組み合わせを作
成し,それぞれの信号空間について SN 比を算出し
たところ,6 変数すべてを用いるのが適切である。
以上の結果を元に全6次元の単位空間(15s,3000 デ
ータ)および信号空間(2.5s,500 データおよび 1s,200
データ)の MD の算出を行った。
図 1 模型車両実験でのデータの MD
単位空間の算出においては SN 比が高くなる組み
合わせでも用いた変数が少ない場合データの標準偏
差が大きくなる傾向がみられた。信号空間について
は,SN 比の高くなる組み合わせの中でも MD の算
出に用いた変数の数が多いほど分布が単位空間から
分離された。模型車両による転倒時の MD の分布
の明らかな分離が確認された。本実験から MD に
よる農業機械の挙動に基づく時系列データの異常性
の判定は可能であると考えられる。しかしながら,
本実験では実機による異常時のデータが不足してお
り検討が不十分であった。今後は様々な条件下での
作業中のデータを蓄積し単位空間の改善を行う事で
より高精度な異常判定ができると考えられる。また,
MD の計算に用いる変数として角加速度を追加する
ことを検討している。
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