組換え近交系を用いたカタバミ側枝の屈性遺伝分析

組換え近交系を用いたカタバミ側枝の屈性遺伝分析
教科・領域教育学専攻
自然系コース(理科)
M081901
三 木 秀 一
1.序論
れる(図1)。そこで,組換え近交系(Recombinant
重力屈性とは,植物が重力方向に対して伸長
InbredLines,RILs)を作成し表現型の固定化を
または屈曲する現象である。重力屈性は植物学
試みた。RILsとは,純系統間の交配で得られた
の古典的なテーマとして長年研究されてきたが,
F2の各個体を1個体1系統とし,可能な限り自
未たにその分子機構は解明されていない。理由
家受粉(自殖)を繰り返すことで得られる系統
の一つに,現在実験植物として広く用いられて
群のことである(図2)。ヘテロ型となる遺伝子座
いるシロイヌナズナが,負の重力屈性を示すシ
の割合を減らし,完全なホモ型から構成される
ュー gしか持たないため、重力屈性の研究を行
系統を作り,交雑後代の表現型の固定化を図る
うことに限界があることが考えられる。一方,
のである。一般的に,Fg以上のRILsを作成す
カタバミ(0xo脆。orηた〃α物)は,様々な形態
ることができれば,表現型がほぼ完全に固定化
の側枝を持ち,負の重力屈性と水平重力屈性の
されたといえ,明瞭な識別ができる。また,系
両方を示している。さらに,側枝は長く伸長し,
統別による識別と反復実験が可能となるため,
よく屈曲するため,屈曲の大きさの測定や屈曲
遺伝子の評価・特定の精度が高まることが期待
位置の特定が容易である。カタバミを実験植物
できる。
として用いれば,現在の実験植物では困難な重
そこで本研究では,カタバミの側枝が木立性
力屈性の研究が比較的容易に行えるであろう。
の純系統と葡旬性の純系統との交配から得られ
当研究室ではこれまで,カタバミの側枝が負
たF3集団の種子を材料に,RILsを作成した。
の重力屈性を示す純系統(木立性)と水平重力
また,RILs作成と同時に,RILsにおける側枝形
屈性を示す純系統(葡萄性)を交配し,得られ
態の表現型を調べ,重力屈性に関与する遺伝子
たF2の表現型を調べることで,重力屈性に関与
の評価・特定を試みた。
する遺伝子の評価・特定を試みてきた。しかし
ながら,識別し難い形態の表現型が多く存在し,
2.材料および方法
正確な評価・特定ができないことが報告されて
純系間の交配から得られたF3集団の各系統
きた。表現型の識別が困難な理由として,双方
の種子を無作為に2粒抽出し,播種,育成した。
の親株の重力屈性に関わる遺伝子が多数存在し,
果実が十分に熟せば採種し,同時に側枝形態の
それらが交配によって組み換えられ,ヘテロ型.
表現型を識別した。F3と同様の手順で,F4,F5,
を示すことで表現型を乱していることが考えら
F6,F7と継代した(図2)
一368一
3.結果および考察
交配
[1亜コ1匡憂コ
F3集団(計469系統)の種子から,F4(391系統),
↓
F5(360系統),F6(272系統),F7(140系統)と継代
F1 ん励此…
させ,RILsを作成することができた。また,RILs
自殖
作成にともない6種類の側枝形態の表現型(側
Fl□璽コ[1憂コ[…1璽コー一一国憂コ
枝が,1.水平に伸びるもの,2.成長過程で自重
を支えられず垂れ下がるもの,3.上方に向かっ
識 別 困 難
て芽を出しそのまま屈曲することなく直線的に
図1重力屈性に関わる遺伝子のイメージ
伸長するもの,4.水平に近い角度で芽を出し
(口;1系統を表す)
徐々に角度を増しながらU字を描くように屈曲
するもの,5.はじめは水平に伸び葡旬性を示す
木立性 X 葡観性
が成長過程で先端だけが上方に立ちあがるもの,
Fl
○
6.葡旬と木立を繰り返し両方の性質を示すも
自殖
●○
F2
の)を見出した。
得られた6種類の表現型の相違点をまとめる
. I ■ 一 一 I ■ ■ . ・ 一 一 一
F3
’ . ・
と,①側枝先端部の伸長方向,②屈曲の早晩性,
■ ・ 一 一
’ ・ 一 一
自殖
F4
’ 一 一
③側枝の堅さ,④側芽の方向,の4点があげら
一 一 ■ ・ 一 ■
F5
れる。これらの相違点が生じるのは,双方の親
・ 一 一 ■
・ 一 一 ■
・ 一 一 一
. ‘ ・ 一 . ■
株に重力屈性に関わる遺伝子が複数存在し,そ
F6
一 一 一 一
一 一 一 」
. 1 一 . ‘ 一
れらが組み換えられ様々な作用を及ぼしている
・
1台
と予想する。そこで,重力屈性に関与する遺伝
子が4つの違いを引き起こしているものと仮定
自殖
由世 由
RlLs
し分離結果から検証すると,次の4つの仮説を
得ることができた。①側枝先端部の伸長方向は
図2RILsの作成過程
(○;ホモ個体,●;ヘテロ個体,口;1系統,
1遺伝子もしくは2遺伝子が関与している。②
屈曲の早晩性は2遺伝子が関与している。③側
を表す)
枝の堅さは2遺伝子が関与している。④側芽の
方向は環境要因によるものである。
しかし以上の仮説は,まだ完全に遺伝子が固
主任指導教員 渥美茂明
定化されていないRILs(F4.7)から得たものであ
指導教員 渥美茂明
る。そのため,今後,ほぼ完全に遺伝子型が固
定されたといえるF8のRILsを作成し,それら
を用いてより正確な表現型の識別を行い,仮説
を立証していく必要がある。
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