寄生虫駆除が御崎馬の生態に与えた影響

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演題番号:19
演題名:寄生虫駆除が御崎馬の生態に与えた影響
発表者氏名:○妙中友美王)堀井洋一郎2〉
発表者所属:1)ノーザンファーム 2)筥崎大
1.はじめに:御崎馬は富崎県都井岬に周年放牧、自由繁殖を繰り返す半野生状態で生息しており、国の天然記念物とし
て地元の御崎馬保護対策協力会が40年にわたり保護対策をおこなっている。この活動の1つである寄生虫駆除が年に1度
5月下旬から6月上旬にかけて実施されている。今回は寄生虫駆除の効果を検証し、生態に与えた影響を考察した。
2.材料および方法:寄生虫駆除に使用した薬剤は、1989∼98隼の問は体表のダニに対する殺虫剤として噴霧型のピレス
ロイド系製剤(エクスミン⑧ペルメトリン5%水性乳剤)を、1999年以降は内部寄生虫駆除剤であるアベルメクチン系製
剤を使用した。アベルメクチン系製剤の内訳と用法は、1999∼2001隼の問はアイボメックトピカル⑧をイベルメクチンと
して0.5㎎/kg単回経皮投与、2002年はサイデクチンポアオン⑧をモキシデクチンとして0、5㎎/kg単園経皮投与、2003隼以
降はエクイバランペースト⑪をイベルメクチンとして0.2㎎/kg単團経口投与であった。この薬剤変更に伴う両期間の個体
数の変動と畠生率および死亡率を過去20年分の御崎馬管理登録簿より調査して比較した。また現在使薦しているエクイバ
ランペースト⑪の効果を調査するため、駆虫群28頭、未駆虫群7頭を任意に選定し、毎月MacMas七er法による糞便検査
で糞中虫卵濃度(EPG)を測定した。
3.結果:ピレスロイド系製剤使用期間中は平均80±10頭であった個体数が、アベルメクチン系製剤使用期闘中には平均
110±10頭に増加し、両者問に有意差がみられた。糞便に見られた寄生虫卵は主に円虫類で、エクイバランペースト⑪は
約2ヶ月間麿意に円虫類のEP(}を抑える効果があった。アベルメクチン系製剤使爾群のオスの幼少期の死亡率は有意に
低かったため、徐々に成馬全体のオスの割合が高くなり、成メス/成オス比が1998年の2.22から2004年の1.17へと低下し
た。
4.考察:アベルメクチン系製剤への変更と個体数の増加の時期が一致していたことから、内部寄生虫の感染がこれまで
の掴体数の制限要図であった可能性が示唆された。年に1度の駆虫でもオスの幼少期の死亡率を抑える可能性があること、
ならびに個体群の構成が変化したことは興昧深い知見であった。今後、本調査により示唆された掴体数増加への寄生虫駆
除の影響を裏付けるために、死亡個体の病理解剖検査、馬の栄養状態の継続的観察を検討したい。
演題番号:20
演題名:エゾシカの疾病状況調査
発表者氏名:O横井佳寿美1〉稲原∼幸2)岡崎ひづるi)附田孝一1〉千徳幸子圭)小林亜由美D
発表者所属:1)釧路家保 2)根室家保
1.はじめに:平成17年、釧路管内A地区では捕獲した野生のエゾシカを食用として販売するため、一時飼育からと殺、
加工まで一貫した生産ラインが確立された。今圓我々は、家畜とエゾシカの闘で病原体が相互に伝播、拡大する危険性を
探るため、一時飼育されたエゾシカを対象にヒトや家畜に対し感染リスクの高い細菌・ウイルス・寄生虫の浸潤状況につ
いて調査した。
2.材料および方法:捕獲・一時飼育後、平成18、19年にと殺したエゾシカの血液(n−53〉、血清(n皿108)及び直腸
便(n漏179)を用い、細茜はサルモネラ、病原性大腸菌0157、ヨーネ菌、ウイルスはIBRV、PI3V、RSV、Ad7V、
BCV、BV王)V(1型・H型)、BLV、寄生虫は肝蛭、肺虫、消化管内寄生虫、小型ピロプラズマについて、常法に従い検
査した。
3.成績:網菌検査ではサルモネラ、病原性大腸菌0157及びヨーネ菌は全頭陰性であった。ウイルス抗体検査ではPIV
3に対する抗体保有率は99%と82%(平成18隼、生9隼以下剛1頁)、RSVは94%とiOO%、AdV7は78と51%、BCVは0%
と3%であり、IBRV、BVDV(工型・豆型〉、BLVは全頭抗体陰性であった。寄生虫検査では肝蛭虫体は25%と42%、
肝蛭卵は50%と56%で検出され、消化管内寄生虫についてはコクシジウムオーシストが85%と78%、一般線虫卵が57%と
90%、鞭虫卵が10%と5%、毛細線虫卵が4%と2%の検出率であり、肺虫子虫及び条虫卵は検出されなかった。また、
廊液塗抹標本の鏡検で100%と84%に小型ピロプラズマ原虫を確認した。
4.考察:エゾシカにはPIV3、RSV、AδV7が浸潤、定藩しており、肝蛭や小型ピロプラズマが高率に寄生していた
ことから、病原体がエゾシカと家畜で相互伝播する可能性が考えられた。そのため、ワクチン接種や飼養環境の整備など、
感染を拡大させない家畜側からの取り組みは重要であると考えられた。また現時点において、エゾシカにサルモネラやヨー
ネ菌など家畜防疫上重要な病原体の浸潤はないと推察できたが、今後、侵入・定着する可能性は否定できない。シカ類は
人獣共通感染症を含め、牛の持つ多くの病原体に対して感受性を有することから、今後も家畜衛生及び野生動物保護の両
面からエゾシカの看視を続けてゆく必要があると考える。
北獣会誌52(2008)