資料2 米国バード修正条項に対する報復関税について

資料2
米国バード修正条項に対する報復関税について
平成26 年8月5日
関税・外国為替等審議会
関税分科会特殊関税部会
経
済
産
業
省
1. バード修正条項(正式名称:Continued Dumping and Subsidy Offset
Act of 2000)について
① バード修正条項とは、
米国政府が外国企業から徴収したダンピング防止
(AD)税及び相殺関税による収入を、AD 措置等を提訴又は提訴を支持
した米国内の生産者等に分配するものである。
② 同条項には、(a) 米国内生産者による AD 措置等の提訴や支持が助長さ
れるほか、(b) 輸入品に対する AD 税等の賦課に加え、徴収した AD 税等
の分配により米国内生産者が不当に二重に保護されるといった懸念が存
在した。
③ 同条項について、我が国が EC 等 10 カ国・地域とともに WTO に提訴
した結果、2003 年(平成 15 年)1 月に WTO 協定違反が確定した(注)。
(注)上記①の分配は、ダンピング防止協定第 18 条 1 で許容されるダンピング防止措
置及び補助金協定第32条1で許容される対補助金措置に該当しない措置として、
WTO 協定違反が認定された。
2. 我が国の報復関税について
① 米国が履行期限内に WTO 紛争解決機関の勧告を履行しなかったこと
を受けて、2005 年(平成 17 年)
、我が国、EC、カナダ、メキシコは、
バード修正条項の撤廃を促すため、対抗措置として、米国からの輸入品
に対して報復関税を賦課することとした。
② 具体的には、我が国は、2005 年(平成 17 年)9 月 1 日より、米国か
ら輸入される玉軸受け等 15 品目(ベアリング 7 品目、鉄鋼製品 3 品目、
航空用機器、機械部品、印刷機、フォークリフトトラック、工業用ベル
ト各 1 品目)について、15%の追加関税を賦課し、2006 年(平成 18 年)
9 月及び 2007 年(平成 19 年)9 月に当該措置を延長した。
③ 2007 年(平成 19 年)度(米国財政年度、以下同様)の同条項に基づ
く分配額が大幅に減少したことに伴い、対抗措置の上限額(注)が減少(前
年度の上限額約55.8億円から約19.6億円に約36.2億円減少)
したため、
2008 年(平成 20 年)9 月には対象品目及び税率の見直しが必要となっ
た。対象品目は、当初から追加関税の対象としてきた 15 品目のうち、同
条項による分配額が多いこと、米国以外からの輸入代替が可能であるこ
- 1 -
と等の観点からベアリング 2 品目に絞り込み、同時に税率を 10.6%に変
更した上で、対抗措置を 1 年間延長した。
④ 2008 年(平成 20 年)
、2009 年(平成 21 年)
、2010 年(平成 22 年)
の各年度においても分配額及び対抗措置上限額の減少に伴い、対象品目
はベアリング 2 品目に維持しつつ、2009 年(平成 21 年)9 月には、税
率を 9.6%、2010 年(平成 22 年)9 月には税率を 4.1%、2011 年(平成
23 年)9 月には、税率を 1.7%に変更した上で、対抗措置をそれぞれ 1
年間延長。
⑤ 2011 年(平成 23 年)度は、更に分配額及び対抗措置上限が減少した
ことに伴い、ベアリング 1 品目(円すいころ軸受)に絞り、税率を 4%
(平成 24 年)
9 月に対抗措置を 1 年間延長した。
に変更した上で 2012 年
⑥ 2012 年(平成 24 年)度は、経過措置に基づく分配額(約 218 万円)
に加えて、分配適格を裁判で争っていたために 2006 年以来「留保」さ
れていた約 81.5 億円が分配されたことに伴い、我が国に係る分配額は大
幅に増加。対抗措置の上限額は約 58.6 億円(2012 年度の対抗措置の上
限額 1.1 億円から大幅に増加)となったことから、ベアリング及び鉄鋼
関連の 13 品目に対象品目を拡大し、税率を 17.4%に変更した上で 2013
年(平成 25 年)9 月に対抗措置を 1 年間延長した。
(注)WTO 仲裁により、我が国の対抗措置の上限額は直近の分配額に 0.72 を乗じた
額とされている。
3. 米国の動向
① 2006 年(平成 18 年)2 月 8 日、米国においてバード修正条項を廃止
する旨の規定を含む 2005 年(平成 17 年)赤字削減法が成立した。
② しかし、同法には、2007 年(平成 19 年)10 月 1 日より前に通関され
た産品に係る AD 税等についてはバード修正条項に基づき分配を行う旨
の経過規定が定められており、実際には分配が当分継続されることとな
っている(注)。
(注)米国内の裁判手続き等の理由により、通関から分配の実施までにかなりの時間
を要する場合もある。
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4. 我が国の評価と今後の対応
① 我が国は、他の申立国とともに米国政府に対して同条項の撤廃を強く
求めてきたところ、同条項の廃止法が成立したことは、我が国の求めに
沿った進展であると評価している。
② しかし、上記3.②のとおり、経過規定によって、徴収された AD 税
等の分配が今後も当分継続される点は遺憾であり、我が国は速やかな分
配の停止を求めてきたところ。
③ また、WTO 協定上違反と判断された根拠は、同条項に基づき外国企
業から徴収した AD 税及び相殺関税による収入が米国内の生産者等に分
配されることにあり、したがって、形式的にバード修正条項が廃止され
たとはいえ、経過規定により同条項に基づく分配が続く限り、協定違反
の状態が継続していることになる。
④ そのため、我が国としては、米国に同条項を完全に廃止して分配を停
止し、WTO協定違反の状態を速やかに解消するよう、引き続き強く促
す必要がある。
⑤ 一方、2013 年(平成 25 年)度は、我が国に係る分配額は激減したこ
とにより、対抗措置上限額は約 18 万円と極めて僅少となったこと、また、
2005 年の報復関税発動等時の課税対象品目選定基準を満たす品目が存
在しないことを踏まえ、報復関税賦課措置の見直しが必要。仮に、2013
年度は報復関税賦課措置を講じないこととしたとしても、我が国が米国
は WTO 勧告を完全に実施したと認めたかのような誤った認識を米国に
対して与えないために、対抗措置の権利は留保する旨 WTO 紛争解決機
関に通報することとし、来年以降については、直近年の米国による分配
額を踏まえ、対抗措置内容の検討を行うこととすることが適当と考える。
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(参考1)バード修正条項に基づく各国に係る分配額(万ドル)
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
日本
10,864
10,666
7,236
7,629
6,692
2,291
2,297
1,118
503
196
10,343
0.28
EU
6,496
2,529
3,863
5,127
11,276
4,636
2,660
13,310
1,384
450
8,441
121
メキシコ
530
413
2,898
841
0
0
0
0
0
0
0
0
カナダ
249
404
1,550
600
0
0
0
0
0
0
0
0
32,987
19,025
28,412
22,635
38,067
26,220
22,605
24,781
6,954
8,388
51,235
6,140
総計
(注)FY は、米国財政年度(10 月~9 月)
。
(参考2)我が国に係る分配額と対抗措置の上限額の推移(報復関税の発動後)
2004FY
分配額(万ドル)
為替レート
(円/ドル)
分配額(億円)
対抗措置上限額
(億円)
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
7,236
7,629
6,692
2,291
2,297
1,118
503
196
10,343
0.28
109.00
107.22
115.97
118.98
107.99
95.75
89.80
81.39
78.81
92.00
78.9
81.8
77.6
27.3
24.8
10.7
4.5
1.6
81.5
0.0025
56.7
58.8
55.8
19.6
17.8
7.7
3.2
1.1
58.6
0.0018
(注1)FY は、米国財政年度(10 月~9 月)
。
(注2)為替レートは税関長が毎週公示しているレートを適用日数で加重平均したもの。
(注3)対抗措置上限額は、分配額に 0.72 を乗じて算出。
(参考3)課税対象品目選定基準(平成 17 年 8 月 1 日関税・外国為替等審
議会関税分科会特殊関税部会答申(抜粋)
)
1.課税対象品目
2004 年11 月26 日の世界貿易機関紛争解決機関に承認された品目のう
ち、バード修正条項により分配がなされた品目(米国からの年間輸入額が
1億円未満のもの及び米国以外からの輸入代替可能性がないもの等は除
く。
)とする。
(参考4)他の報復関税賦課国の対応
○ EC は、2014 年(平成 26 年)5 月からは、4 品目(スイートコーン、
メガネフレーム、クレーン車、女子用綿デニムズボン)に対して 0.35%
の追加関税を賦課し、措置を継続。昨年度は、上記 4 品目に対して
26.0%の追加関税を賦課。
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○ カナダは、軟材に係る約 50 億ドルの関税の取扱いについて米国と基
本合意したこと等により、2006 年(平成 18 年)4 月 30 日に期限が
到来した報復関税を更新せず(権利は引き続き留保)
。
○ メキシコの対抗措置は、2006 年(平成 18 年)8 月 17 日に一旦失効
したが、2006 年(平成 18 年)9 月から 10 月末までの期間限定で報
復関税を賦課。
(乳製品に 110%の関税を賦課)
なお、2006 年(平成 18 年)7 月の米国国際貿易裁判所判決(カナダ、
メキシコに対するバード修正条項の適用は、NAFTA 実施法に違反す
る)を受けて、2006 年(平成 18 年)度以降、両国製品に係る分配額
はゼロとなっている。
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