■第 1 回研究会の概要 日 時:平成 26 年 6 月 14(土)14 時~15 時 場 所:九州国際大学 3 号館 3 階 3306 教室 出席者数:会員 9 名、大学院生 4 名(中野ゼミ) 計 13 名 ■第 1 報告 発表者:宮珏 発表者:宮珏氏 宮珏氏(九州国際大学大学院生) 演 題:「中国の拡大する貧富の格差 「中国の拡大する貧富の格差」 中国の拡大する貧富の格差」 ■報告要旨 本論文は、第1章では、「改革開放と中国経済の発展」、第 2 章「改革開放後の中国にお ける格差社会の形成」、第 3 章「格差社会から和詣社会へ」の 3 章構成である。 第 1 章では、中国の経済発展について歴史的に分析する。 第 1 節では、改革開放前後の中国経済政策について分析する。1949 年に共産党政権によ る中国が成立してから 1978 年までの約 30 年間は「自力更生」(自らの力で国家を発展させ る)の時期、1978 年から今日までの約 30 年間は「対外開放」 (外国の資本や技術を通じ て国家を発展させる)の時期に区分できるが、ここでは、5 つに分けて考察する。 第 2 節では、1979 年以降の中国経済の発展について分析する。中国は、1970 年代末に経 済発展戦略の大転換を遂げた。その後、改革・開放期に中国経済は急速な成長軌道に乗り、 1978-2003 年に平均 9.4%の経済成長率を達成した。1992 年始め、改革・開放の「総設計 師」と呼ばれた鄧小平氏が、改革・開放の原点ともいえる経済特区などの視察(「南巡」) を行い、改革・開放の梃入れがなされると、中国経済は再度高度成長の軌道に乗った。21 世紀に入り、中国は懸案の WTO への加盟を果たした。これを契機にモノ、ヒト、カネが急 速な成長を続ける中国市場にシフトし、中国は文字通り世界の「成長センター」となった ということを指摘した。 第 3 節では、改革開放における高度成長下の中国の地域経済圏の形成について分析する。 中国の対外開放政策の実施は、深圳などの経済特区での開放実験から始まった。後に経済 特区に指定された海南省を含め、これらの特区は中国南部沿海地域に点在している。この 意味で言えば、中国で対外開放実験のスタートはこれからの「点」で模索から始まったと 言っても過言ではないということを論じている。 第 2 章では、改革開放以降の中国における「格差社会」について説明する。 第 1 節では、地域間の所得格差において WTO 加盟前の地域間所得格差の趨勢、中国の地 域格差の現状、地域格差の要因について分析する。中国における地域格差は、世界の中で も際だって大きい。現在、「一つの中国」には「四つの世界」が存在している。すなわち、 先進国のレベルに近づいている北京、上海,深圳,といった第一の世界、世界平均所得を 上回る広東,江蘇、浙江といった第二の世界、そして発展途上国のレベルにとどまる中部 1 の省に代表される第三の世界、さらに貧困地域に当たる贵州,チベットなどの中西部の省 に代表される第四の世界が同時に存在しているのである。 第 2 節では、都市と農村の格差において WTO 加盟前の都市と農村間の所得格差の趨勢、 改革開放後の都市と農村間の格差の形成、都市と農村間の格差の現状、都市と農村間の格 差形成の原因について説明する。地域間格差よりもっと深刻なのは、都市と農村の所得格 差である。これは社会主義時代から、中国を悩ます深刻な問題であったが、1978 年から農 村に導入された「農業生産請負責任制」の実施と農産物価格の上昇が農村経済の繁栄をも たらし、都市と農村との所得格差は一時的縮小した。しかし、1995 年以降、都市部住民の 所得水準は高い伸び率で上昇したのに対して、農村住民の所得上昇率は鈍化し、両者の格 差が 1995 年の 2.72 倍から 2003 年の 3.2 倍へと再び拡大していった。 第 3 節では、都市内の所得格差において都市世帯サンプル調査が示す所得格差の趨勢、 都市部における所得階層別の格差の現状、都市における貧富格差の拡大の原因について説 明する。いま、中国では、都市住民の所得水準に関して、 「最高所得者層」 「高所得層」 「中 所得層」「低所得層」「最低所得層」の 5 段階に分類している。 第 4 節では、中国の貧困層と富裕層においてジニ係数による人々の貧富の格差、ジニ係 数と他の国との比較、中国の貧困層、中国の富裕層について分析する。中国では、年々貧 富の格差が拡大している。所得の不平等を測る指標として用いられることの多いジニ係数 (ゼロに近いほど平等であり、1 に近づくほど不平等度が高くなる)に注目すると、中国 では 1978 年の時点では農村部が 0.21、都市部が 0.16、全国 0.20 という水準であった。80 年代はこうした動きに大きな変化は見られず、「平等に貧しい」状況が続いていたが、90 年代に入り上昇に転じている。2001 年の全人代では、0.458 という数字が報告されている。 また、世界銀行の調査では、1984 年における中国のジニ係数は 0.257 であったが、2000 年には 0.412 に上昇している。また、2008 年に 0.491 とピークに達し、それ以降徐々に低 下し、2012 年のジニ係数は 0.474 となった。 第 3 章では「格差社会」から「和詣社会」へについて分析する。 第 1 節では、中国社会における「三農問題」について分析する。深刻化する「三農問題」、 つまり農業、農村、農民の抱えている問題は「三農問題」と呼ばれ、目下中国の直面する 最も重要な社会問題の一つとなっている。また、 「三農問題」の具体的な表れたが、都市と 農村での所得格差の拡大である。 第 2 節では、地域の開発、つまり西部開発、東北振興、 「中部勃興」戦略の推進について 説明する。沿海部と内陸部の格差の拡大は、中国経済と社会全体に多くの問題をもたらし 2 ている。エネルギーなどの資源を豊富に持つ内陸部の開発の遅れは、沿海部の経済発展を 制約し、少数民族を数多く抱えている西部の開発の遅れは民族紛争など社会不安の種にな りかねない。 第 3 節では、新しい社会保障システムの建設について説明する。つまり、失業保険の確 立、最低生活保障制度の確立、中国の医療保険制度の改革について詳しくて説明する。中 国には「医療弱者層」は大きく 2 種類に分けられる。1 番目は、所得格差の拡大によって 都市部と農村部に生み出された低所得階層である。2 番目の「医療弱者層」は医療資源不 足しがちな地域に居住する人々である。中国経済発展の地域的な格差によって、一部の地 域には物的・人的な医療資源が蓄積されていない。このような地域に居住する人々は病気 になっても、所得レベルには直接かかわりなく、適切な医療サービスを受けられる医療施 設にアクセスできない。 第 4 節では、「和詣社会」実現のための課題について説明する。2003 年に発足した胡錦 濤政権は、それまでの高度経済成長がもたらした問題の解決に迫られた。そのためには改 革は不可避であった。これまでのような経済発展の量と速さをやみくもに追求するのでは なく、新しい経済発展の方式を目指さなくてはならなくなった。それは中国共産党が 2004 年に発表した「和詣政策」、つまり国民各階層で調和の取れた社会を目指すという政策であ る。 ■質疑応答 ・2004 年以降の貧富の格差がどうなっているのか教えてもらいたい。(大坪会員) →中国は、改革開放路線によって経済成長した。西部開発も行い、若干、貧困が縮まって いる。(宮氏) ・貧困が進んでいる最大の要因は何ですか。(中野会長) →東部沿岸部のみが優先開発され、地域格差ができたことが大きい。(宮氏) ・ジニ係数が下がっているということは貧困は改善しているのですか。(中野会長) →中国 0.47 に対し、日本や韓国は 0.3 台であり、まだ格差は大きいと感じている。 (宮氏) ・中国政府がどのようなステップで「和詣社会」に繋げていくのかを知りたかった。特に 第 3 章第 4 節をもっと丁寧に説明してほしかった。(井沢会員) (論文は報告者が、質疑応答は事務局にて作成した) 3 ■第 2 報告 発表者:梁爽(九州国際大学大学院生) 発表者:梁爽(九州国際大学大学院生) 演 題:「中国の 「中国の経済発展と大気汚染についての研究 中国の経済発展と大気汚染についての研究」 経済発展と大気汚染についての研究」 ■報告要旨 中国の環境問題は、現在の中国社会の矛盾、不均衡が表面化したものだと言われている。 世界の工場として安価なものづくりに熱中するあまりに、身の周りの大気や水を汚染して いることには鈍感であることをきめこんでいる。政府首脳は、環境保護・資源節約の重要 性を表明し、環境保護の法律・制度・行政組織も表面的には整備されているが、その実効 はあがっていない。近々、中国の GDP は日本を越して世界第二位になり、光化学スモッグ、 酸性雨、黄砂など、中国起源の環境問題は世界中の人たちの生活にも影響を及ぼしている。 何かと中華的独善に陥りがちな中国自身に、東アジア環境共同体の一員という共通意識を もってもらい、日本やほかのアジア諸国と協調し、増大した経済力に応じた環境対策をと ってもらうにはどうしたらよいであろうか。 第一章では、2001 年中国 WTO 加盟した以来の経済成長と環境破壊について分析した。 第 1 節は、改革開放後の中国経済の高度成長について述べた。1978 年以後、改革開放を 旗印にした開発戦略に転換することによって経済は大きな飛躍を遂げる。2001 年末の世界 貿易機関への加盟後、中国経済に新たな飛躍のきっかけを与えた。それを契機に改革開放 はいっそう進み、近年では中間層の所得増大を背景に都市部を中心とした中国の巨大なマ ーケットは世界から注目を浴び、中国は世界の工場から世界の市場へと変貌を遂げた。20 世紀に入ってから WTO 加盟に伴う外国自動車メーカーの対中進出の活溌化もあって、中国 の自動車生産は劇的な拡大をしている。21 世紀に入ってからのエネルギー消費量の伸びに は著しいものがある。 第 2 節は、中国経済発展に伴う環境破壊について述べた。WTO 加盟によって、急速経済 成長を遂げた中国では物質的な豊かさを享受できるようになったが、その一方で、鉱物資 源などのエネルギーの大量消費、大気・水・森林など生態系・自然資源の使用と破壊によ って、深刻な環境問題を引き起こしている。そして、生活排水や自動車排気ガスなど、生 活水準が向上したことによる新たな環境汚染も増加している。中国全体を見れば、まだ水 や大気汚染といった典型的な公害問題も多くの地域で深刻であり、自然環境の悪化と貧困 に苦しんでいる地域もある。 第二章では、中国の大気汚染の背景と要因について分析した。 第 1 節は、大気汚染の現状とその要因となるエネルギー産業と自動車産業について述べ た。大気汚染に関しては、中国ではこれまで二酸化硫黄および煙塵が汚染物質として問題 視されてきた。一方、所得水準の向上にともなって自動車の普及率はこれからも上昇し、 それによる大気汚染も今後ますます問題になっていくとみられる。大気環境だけについて 4 見ても全国各地で実にいろいろな問題に直面している。 第 2 節は、エネルギー産業の発展とその問題について述べた。中国は重化学工業化と都 市化が加速する段階に入っており、多国籍企業の進出により世界の加工基地として重要性 も増やしている。急速な工業化とモータリゼーションの進展を背景に、中国におけるエネ ルギー需要が急速に伸びている。特に、都市住民の生活レベル工場とともに、電力需要が うなぎ登りである。中国ではエネルギー利用の効率化を進め、大気汚染を抑制することが 大きな課題となっている。 第 3 節は、自動車産業の発展とその問題について述べた。中国の自動車市場は近年急速 に拡大しており、2009 年には中国の自動車生産台数と販売台数は米国を超え、改革開放か らわずか 31 年で世界一の自動車生産・販売大国に成長している。アメリカや日本に比べる と千人当たりの自動車保有量はまだ低い水準にあるものの、中国におけるモータリゼーシ ョンは新たな段階に入った。一方、中国の大気汚染には近年の自動車の爆発的な増加によ る窒素酸化物などの大気汚染が新たに加わる。自動車排ガス汚染対策はますます重要な政 策課題となった。 第三章では、中国大気汚染の対策と残された問題について分析した。 第 1 節は、大気汚染防止の政策について述べた。第 11 次 5 カ年計画では、それまでの 5 カ年計画にはない重大な意思が示された。省エネ・排出削減目標がについても明確の政策 が出された。2005 年比で二酸化硫黄排出量を 10%削減するというもので、省エネルギー目 標が GDP 原単位であり、すなわち GDP が成長する以上、絶対量としてはエネルギー消費量 自体も増えることが容認されていたのに対して、二酸化硫黄排出量については絶対量とし て削減する目標となっている。 第 2 節は、エネルギー源の多元化について述べた。特に、風力エネルギー、太陽エネル ギーそして原子力について述べた。石炭、石油、天然ガスなど枯渇性・化石エネルギー価 格が高騰し、石炭、石油消費拡大に伴う環境問題が深刻化している今日、再生可能エネル ギーはグリーンエネルギーとして、中国で急速に導入が進んでいる。これまで高度成長を 支えたエネルギー・資源多消費・重厚長大の産業・工業構造や経済成長方式を調整し転換 することを目指すべきである。中国は都市化・工業化の急速な進展に伴い、エネルギー需 要量が拡大し、世界のエネルギー需要をさらに牽引していくであろう。 第 3 節は、残された問題について述べた。中国の環境管理は大きく進歩し、環境管理能 力が強まりつつあるが、同時に、深刻な問題も存在している。公衆参加は環境整備の実際 の効果を規定する重要な要件である、先進国の環境管理の成功経験でもある。中国政府は 環境対策に力を入れてはいるが、急速な生産、エネルギー消費の拡大に対策が十分追いつ いていないのが実情である。資源・エネルギー問題に限らず環境問題もいっそう複雑なも のとなっており、もはや中国一国で解決することは困難となっている。問題解決のために は北東アジア地域で強固な結びつき――共同体の形成が望まれる。 5 ■質疑応答 ・要旨の最後に「共同体」の話があるが、どういうことですか。(男澤会員) →関係国の意見を聞いて技術を吸収するイメージである。(梁氏) ・宮さんも同様であるが現状把握が多く、対策についての話が少なかったように思う。 中国らしい特徴的なものはないのですか。(堀川会員) →個々人が責任のある行動を取らないことである。(梁氏) ・大気汚染は中国だけでなく、日本にも影響がある。どのようにして解決するのでしょう か。日本からの技術支援、援助も必要でしょうか。(大坪会員) →NHK の取材によれば、日本の脱硫会社が中国の大学と一緒になって政府に提案したこ とがあるが、コストの問題があった。(梁氏) ・これからの展望を記載してほしい。(末永氏) ・東アジア研究センターには日本人と中国人のスタッフがおり、環境に関する文献も充実 している。北九州市は大連の環境管理計画に参画していたと思う。(井沢会員) (報告要旨は報告者が、質疑応答は事務局にて作成した) 6
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