環境物品交渉と気候変動問題 - 日本貿易学会 JAFTAB

日本貿易学会第 50 回全国大会 報告要旨
(和文)
タイトル
環境物品交渉と気候変動問題
(英文)
Negotiation on trade liberalization of Environmental Goods and Climate Change
第 7 分科会:
(フリガナ)
貿易理論・政策Ⅱ
キーワード 3 語
環境物品、気候変動
40 字×5 行
ミチヒロ
ご芳名
日野
ご所属
九州大学炭素資源国際研究セン
問題、WTO
(和文要旨
ヒノ
道啓
ター
200 字以内)
ドーハ開発アジェンダ(DDA)の交渉項目の 1 つである、
「貿易と環境」のなかで、も
っとも活発な討論が繰り広げられている環境物品交渉において、近年、気候変動問題への
貢献が主要な関心事となっている。本報告では、このような気候変動問題への貢献という
外部からの規範の浸透が、環境物品交渉に及ぼした影響について検討する。
(和文報告概要
40 字×40 行
1,600 字以内)
本報告の目的は、気候変動問題への貢献という外部からの規範の浸透に対して、環境物
品交渉の構図がいかなる変化を遂げ、その結果、交渉の性質にいかなる変化がみられるの
かについて検討することである。
ドーハ開発アジェンダ(DDA)の交渉項目の 1 つである、
「貿易と環境」のなかで、も
っとも活発な討論が繰り広げられているのは、環境物品交渉である。環境物品交渉は、第
7 回閣僚会議においても確認された通り、近年、世界大の関心がより一層高まっている、
気候変動問題への貢献を果たせるテーマとして注目されている。
しかし、その一方で、環境物品交渉は、WTO 体制の複雑な構造的特質およびその変化
)。環境物品交渉では、環境物品
をとらえる試金石としても注目されている(日野[2007]
の判定基準および自由化方法を決定するにあたって、WTO 協定の序文に謳われた「経済
的目的」および「非経済的目的」の両立実現はもちろんのこと、伝統的な自由貿易ルール
に修正を課す可能性をもつ産品非関連 PPM をめぐる問題が討議されてきた。つまり、環
境物品交渉は、その前身である GATT 体制以来さまざまな課題を、加盟国の利害対立と
妥協の結果、時には GATT/WTO ルール対象外として交渉を放棄し、
また時には GATT/WTO
ルールに新たな協定を設けることで対処してきたように、WTO 体制の構造に新たな変革
をもたらす可能性をもつ。しかし、残念ながら、環境物品交渉は、2006 年以降、貿易自
由化を最優先にする米国などの「自由貿易派」
、環境目的の実施を最優先する EU などの
The 50th National Convention of Japan Academy for International Trade and Business
日本貿易学会第 50 回全国大会 報告要旨
「環境派」
、S&D の獲得を最優先にするインド・アルゼンチンなどの「S&D 派」による
三つ巴の対立が明確化し、交渉は停滞していた(日野[2007])
。
ところが、気候変動問題への貢献という外部からの規範が、交渉の着火点の役割を担い、
近年、交渉が活発化している。気候変動問題への貢献という外部からの規範の浸透が、環
境物品交渉に及ぼした影響について分析した結果は、次の通りである。第 1 に、交渉の構
図に関しては、自由貿易の推進と S&D の獲得をめぐる南北対立の鮮明化が明らかになっ
た。つまり、対立関係にあった「自由貿易派」と「環境派」が気候変動問題への貢献に関
して見解を一致させた結果、
「自由貿易派」
・
「環境派」対「S&D 派」の対立という構図が
生じたのである。第 2 に、交渉の性質に関しては、各派の提案内容がともに効率性規範へ
収斂化しているとの結論を得た。つまり、産品非関連 PPM をめぐる問題などの環境目的
のための新たな自由貿易のルール作りに関する議論が後退しているのである。
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