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総合エネルギー統計における石油精製部門
のエネルギー・炭素収支の改善について
- 説明内容 -
1- 現状と問題意識
2- 改善における方法論
3- 改善結果
4- 結論及び提言
注意) 本資料に示された分析・結論は、筆者個人に属するものであって、
経済産業研究所・東京大学・国際連合など組織の意見を示すものではない。
2
1. 現状と問題意識
1.1 現行石油精製部門収支算定方法
○ 石油精製部門は数値モデルにより算定
- 標準発熱量・炭素排出係数は「旧数値」
- 資源エネルギー統計等を基礎統計に使用
- 石油精製工程を 5工程に分離推計
○ 石油精製部門の残差の扱い
- エネルギー残差は「損失」と推定
- 炭素残差についても「誤差」と推定
← エネルギー・炭素残差とも消費・排出
計算から除外
3
1. 現状と問題意識
1.2 現行石油精製部門収支算定結果
○ 石油精製部門の収支は現状ほぼ「成立」
(= 投入側の原油等のエネルギー・炭素量が
産出側のエネルギー・炭素量とほぼ一致)
石 油精 製 部 門 産出 / 投 入 比推 移
(総合エネルギー統計各年度版)
Energy and Carbon balance for Oil refinery sector
産出/投入比 Output/Imput balance
1.010
エネルギー収支 Ene rgy
1.005
炭素収支 Carbo n
↑ 「沸出」
1.000
↓ 「散逸」
0.995
0.990
0.985
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
0.980
4
1. 現状と問題意識
1.3 環境省検討会での指摘事項
○ 一部の石油精製会社において、企業別算定・
公表制度で石油精製部門での重質油分解触
媒再生時などの炭素排出が報告されている
○ 当該排出は、現状「誤差」としてエネルギー消
費・排出計算から除外している石油精製部門
での炭素残差の内数と推定される
○ 当該問題の解決のため石油精製部門
の算定手法を見直すべきではないか
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1. 現状と問題意識
1.4 本稿の問題意識
○ 環境省検討会における指摘を背景に、
総合エネルギー統計の石油精製部門におけ
るエネルギー・炭素収支を、最新の知見を
用いて再算定し、当該部門の算定精度向上
を図ること
6
2. 改善における方法論
2.1 石油精製部門の改善方策
○ 原油・NGLコンデンセートの発熱量・炭素排出
係数の精度向上
- 新炭素排出係数・回帰式の遡及適用
○ 石油精製数値モデルの精度向上(1)
- 常圧蒸留・中間留分生成モデルの見直し
(代表34銘柄推計 → 全200銘柄推計化)
○ 石油精製数値モデルの精度向上(2)
- 潤滑油製造等部門のモデル分離
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2. 改善における方法論
2.2 原油・NGLコンデンセートの発熱量・炭素排
出係数の精度向上
- 全200銘柄への新炭素排出係数・回帰式の
遡及適用
原油・NG Lコン デ ン セ ー ト炭素排出係数比較
Comparison of Crude and NGL Carbon Emission Factor
炭素排出係数 Carbon Emission Factor gC/MJ
20.00
原油(改訂)
19.50
19.00
NGL(現行)
原油(現行)
18.50
18.00
17.50
原油 改訂 Crude Re vi se d
17.00
16.50
NGL 改訂 NGL Re vi se d
16.00
NGL 現行 NGL Cu rrent
15.50
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
NGL(改訂)
原油 現行 Crude Cu rrent
8
2. 改善における方法論
2.3 石油精製数値モデルの精度向上(1)
- 常圧蒸留による中間留分生成得率・性状
を全 200銘柄につき推計
(中間留分得率)
(中間留分密度)
原油密度 - 留分密度 相関
原油密度 - 精製得率 相関
Crude Oil Density and SlackProduct Density Correlations
Crude Oil Density and Refinery Fraction Correlation
精製得率 Refin ery Fraction
留分密度 Sl ac k Pro du ct Density
0.700
1.050
揮発油迄 to Slack Gasoline
灯油留分迄 to Slack K erosene
軽油留分迄 to Slack Diesel Oi l
揮発油留分 Sl ack Gasoli ne
灯油留分 Sl ack Kerosene
軽油留分 Sl ack Diesel Oil
常圧残油 Residual Fuel Oil
1.000
0.600
0.950
0.500
0.900
0.400
0.850
0.300
0.800
0.200
0.750
0.100
0.000
0.800
0.700
0.820
0.840
0.860
0.880
0.900
原油密度 Crude Oil Density (15℃)
0.920
0.650
0.800
0.940
0.820
0.840
0.860
0.880
0.900
原油密度 Crude Oi l Density (15 ℃)
0.920
9
0.940
2. 改善における方法論
2.4 石油精製数値モデルの精度向上(2a)
- 石油精製・潤滑油製造部門を分離推計
(1) 常圧蒸留モデル
投入
エネルギー , 炭素
Xhi
Xci
揮発油留分 Xho1, Xco1
灯油留分
Xho2, Xco2 産出
Xho3, Xco3
軽油留分
Xho4, (Xci–Σ Xcoj)
常圧残油
(Xhi-Σ Xhoj), 0
10
原油・NGLコンデンセート
(残差)
2. 改善における方法論
2.5 石油精製数値モデルの精度向上(2b)
- 石油精製・潤滑油製造部門を分離推計
(2) 揮発油留分モデル
エネルギー
揮発油留分
投入
Xho1
軽質製品
産出
ガソリン・ナフサ
(不足分)
Σ Xhp1
重質油分解 (= Σ Xhp1 – Xho1 相当分)
(常圧残油)
→ 排出係数差分の炭素残留
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2. 改善における方法論
2.6 石油精製数値モデルの精度向上(2c)
- 石油精製・潤滑油製造部門を分離推計
(3) 灯油・軽油留分モデル
エネルギー
灯軽油留分
投入
Xho2,3
中質製品
産出
灯油・軽油他
(不足分)
Σ Xhp2,3
重質油分解 (= Σ Xhp2,3 – Xho2,3 相当分)
(常圧残油)
→ 排出係数差分の炭素残留
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3. 改善結果
3.1 常圧蒸留のエネルギー収支
- エネルギー収支がほぼ成立
(平均 0.9981, 標準偏差 0.0019)
石 油精 製 部 門/ 常 圧 蒸 留工 程 エネル ギー 産 出/ 投 入 比 推移
(総合エネルギー統計各年度値)
Oil refinery/ Energy balance of Atomospheric distillation
エネルギー産出/投入比 Ene rgy balance
1.005
1.000
0.995
0.990
0.985
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
0.980
13
3. 改善結果
3.2 揮発油留分・精製原料戻の炭素収支
- 炭素が約 2.5Mt-C 「散逸」していると推計
(収支平均 0.9654, 標準偏差 0.0043)
石 油 精製 部 門 / 揮発 油 留 分等 炭 素 産出 / 投 入 比率 推 移
石 油 精製 部 門 / 揮発 油 留 分等 炭 素 収支 推 移
(総合エネルギー統計各年度値)
(総合エネルギー統計各年度値)
Oil refineary / Carbon balance of Gasoline Production
炭素産出/投入比 Carbon balance
1.010
1.000
揮発油留分 Gasolin e
精製原料戻分 Retu rn products
Oil refinery / Carbonbalance of Gasoline Products
炭素収支 Carbon balance + 沸出 Over - 散逸 Under, 10^3 tC
1500
1000
精製原料戻分 Retu rn products
揮発油留分 Gasolin e
500
0
0.990
-500
0.980
-1000
炭素収支「散逸」
-1500
0.970
-2000
0.960
0.950
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
-3000
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
-2500
14
3. 改善結果
3.3 灯油・軽油留分の炭素収支
- 炭素が約 0.5Mt-C 「散逸」していると推計
(収支平均 0.9899, 標準偏差 0.0021)
石 油 精製 部 門 / 灯油 軽 油 留分 等 炭 素収 支 推 移
石 油 精製 部 門 / 灯油 軽 油 留分 炭 素 産出 / 投 入 比率 推 移
(総合エネルギー統計各年度値)
Oil refinery / Carbon balance of Kerosene & Gasoil Products
炭素産出/投入比 Carbon balance
1.010
灯油留分 Ke rosene
軽油留分 Gasoil
炭素収支 Carbon balance + 沸出 Over - 散逸 Under, 10^3 tC
1500
1000
軽油留分 Gasoil
灯油留分 Ke rosene
500
1.000
0
0.990
-500
0.980
-1000
-1500
0.970
-2000
-2500
0.950
-3000
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
0.960
炭素収支「散逸」
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
1.020
(総合エネルギー統計各年度値)
Oil refinery / Carbon balance of Kerosene & Gasoil Products
15
3. 改善結果
3.4 常圧残油のエネルギー・炭素収支
- 不規則に変動しており「誤差」と推定可
(収支平均 0.9994, 標準偏差 0.0089)
石 油 精製 部 門 / 常圧 残 油 等炭 素 収 支推 移
石 油 精製 部 門 / 常圧 残 油 等エ ネ ルギ ー ・炭 素 投入 産 出 比推 移
(総合エネルギー統計各年度値)
Oil refinery / Energy and Carbon balance of Heavy Fuel Oil Products
産出/投入比 Output/ Impu t balanc e
エネルギー産出/投入比
Energy balance
炭素産出/投入比
Carbon balance
炭素収支 Carbon balance + 沸出 Over - 散逸 Under, 10^3 tC
1500
1000
500
0
-500
-1000
-1500
-2000
-3000
常圧残油 Heavy Fuel Oil
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
-2500
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
1.025
1.020
1.015
1.010
1.005
1.000
0.995
0.990
0.985
0.980
0.975
0.970
0.965
0.960
(総合エネルギー統計各年度値)
Oil refinery / Carbon balance of Heavy Fuel Oil Products
16
3. 改善結果
3.5 石油精製部門のエネルギー・炭素収支
- 変動が小さくなっており全体に精度改善
(エネルギー標準偏差 0.65→0.37, 炭素 0.64→0.48%)
石 油精 製 部 門 炭素 産 出 / 投入 比推 移
石 油 精製 部 門 エネ ルギー産 出 / 投入 比 推 移
(総合エネルギー統計各年度版)
(総合エネルギー統計各年度版)
Energy balance for Oil refinery sector
Carbon balance for Oir refinery sector
産出/投入比 Output/ Impu t balanc e
産出/投入比 Output/Imput balance
1.010
1.010
1.005
改訂統計 Revised
現行統計 Curre nt
1.000
1.000
0.990
0.995
0.980
0.990
0.970
0.985
改訂統計 Revi sed
現行統計 Current
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
0.960
0.980
17
3. 改善結果
3.6 石油連盟推計値との比較
- 揮発油留分・精製原料戻分がほぼ一致
- 全体として見た場合 本稿推計値の方が大
石 油 精製 部 門 炭素 収支 残 差 と石 油 連盟 推 計 排出 量比 較
( 石油連盟環境省提出値(20 14) )
※ 石油連盟推計値は旧発熱量・排出係数 20 13年度値比較注意
x10^3 tC
4500
4000
3500
総エ石油精製
3000
揮発油・半製品
軽油・灯油
2500
石連推計合計
2000
石連推計FCC
1500
石連推計水素
1000
500
1990FY
1991FY
1992FY
1993FY
1994FY
1995FY
1996FY
1997FY
1998FY
1999FY
2000FY
2001FY
2002FY
2003FY
2004FY
2005FY
2006FY
2007FY
2008FY
2009FY
2010FY
2011FY
2012FY
2013FY
0
18
4. 結論及び提言
4.1 石油精製部門の精度改善結果
○ 下記 3つの改善策により算定精度は改善
- 原油・NGLコンデンセートの炭素排出係数の銘
柄別算定化・遡及改訂
- 常圧蒸留での中間留分精製得率・性状推計
手法改善
- 石油精製数値モデルの精製・潤滑油製造の
分離推計化
○ 改善結果は石油連盟推計値を包含した値
となっており、かつ誤差と明確に識別可能 19
4. 結論及び提言
4.2 総合エネルギー統計の改訂提案
○ 2013年度版総合エネルギー統計においては
前記の改善策を 1990年度から導入すべき
○ 新しい算定方法における石油精製部門の
エネルギー・炭素残差のうち、常圧残油部分
は「誤差」として消費・排出から除外すべき
○ それ以外の揮発油留分などのエネルギー・
炭素残差はエネルギー転換部門中石油精
製部門の消費・排出として計上すべき
20