飯野 文 - 日本貿易学会 JAFTAB

日本貿易学会第 50 回全国大会 報告要旨
(和文)
タイトル
GATT・WTO 体制と不況対策の関係(仮題)
(英文)
Interaction between GATT/WTO and Counter recession policy
第 9 分科会:
(フリガナ)
イイノ
アヤ
芳名
飯野
文
貿易制度・政策
キーワード 3 語
GATT/WTO、「埋め込
ご所属
日本大学商学部
まれた自由主義」、貿
易制限措置
(和文要旨
40 字×5 行
200 字以内)
近年、各国が導入している不況対策は、保護主義として国家間の警戒感を高めてきた経
緯がある。GATT・WTO 体制が長らく存在するにもかかわらず、保護主義が台頭すると
いう現状に鑑みれば、不況対策と WTO 協定との整合性を問い、是正・撤廃を求めること
は貿易の一層の自由化のための手段とはなり得るものの、不十分である。そこで、本報告
は、GATT・WTO 体制における現代的な規制原理を考察しようとするものである。
(和文報告概要
40 字×40 行
1,600 字以内)
2008 年 8 月の金融危機以降、各国は各種の不況対策を導入しているが、一連の対策の
中には貿易制限措置に該当するものがあり、各国の動きは保護主義として国家間の警戒感
を高めてきた経緯がある。例えば、2008~2009 年にかけて金融・世界経済に関する首脳
会合(G20 サミット)では、保護主義へ対抗し世界的な貿易・投資の促進を行うことが
宣言等で繰り返し言及されている。また、世界貿易機関(WTO)においては、2008 年
10 月以降、各国が導入した貿易関連措置を定期的にとりまとめ、貿易政策検討制度
(TPRM;Trade Policy Review Mechanism)での検討の一環として相互に議論すること
が行われている。
不況対策をいかに定義するかは困難であるが、貿易面からは、各国で導入されている対
策を WTO が行った分類に従えば、貿易関連措置(貿易制限措置、貿易促進措置)、景気
対策、金融セクター支援措置に分類することができる。貿易関連措置には、例えば、関税
措置として譲許税率の引き上げ・引き下げ、非関税障壁として輸入ライセンスの新規導
入・緩和撤廃、輸出数量制限や輸出税の新規導入・緩和撤廃が含まれる。いわゆる貿易救
済措置(アンチダンピング措置、相殺措置、セーフガード措置)の発動もこれに含まれる。
景気対策としては、ある産業を対象とした補助金の交付があげられる。金融セクター支援
措置には、銀行業救済など、金融サービスに対する補助金の交付が対象となろう。
これらの措置の中には、現行の WTO 協定に抵触する可能性があるものや、抵触しない
までも貿易の自由化を阻むものがある。前者については、例えば、譲許税率を超えた関税
The 50th National Convention of Japan Academy for International Trade and Business
日本貿易学会第 50 回全国大会 報告要旨
引き上げは、直ちに関税と貿易に関する一般協定(GATT)第 2 条と抵触すると考えられ
るほか、特定産業に対する補助金の交付や貿易救済措置は、関連する協定との整合性が検
討されてしかるべきである。後者については、例えば、輸出税など現行の WTO 協定の解
釈が定まっていないため協定上の整合性が問うことが困難と考えられるもの、金融サービ
スに対する補助金の交付のように規律する協定がないもの(サービス貿易に関する一般協
定(GATS)においては、サービス業に対する補助金の規律は将来の交渉に委ねることと
されているのみである(GATS 第 15 条))がある。
不況対策が貿易を阻害する場合、関連する WTO 協定との整合性を問い、是正・撤廃を
求めることは貿易の一層の自由化のための手段とはなり得るものの、GATT・WTO 体制
が存在してなお各国が不況に直面した場合に上記のような対策を導入したことに鑑みれ
ば、保護主義を回避するという観点からはより根本的な問いかけをすることが必要であろ
う。すなわち、GATT・WTO 体制は不況対策を想定しているのか、という点である。逆
に言えば、なぜ、自由貿易を志向する GATT・WTO 体制が長らく存在しながら、保護主
義を回避できないのかということである。具体的には、GATT・WTO 体制における現代
的な規制原理/哲学的基盤は何かということになろう。
本報告は、以上のような問題意識に基づき、まず不況対策に対する WTO の対応と、不
況対策の貿易関連側面と WTO 協定との関係を整理し、不況対策と GATT・WTO 体制と
の関係を明らかにしようとする。次に、これまで言及されてきた GATT・WTO 体制の規
制原理を検討した上で、近年の GATT・WTO の活動(紛争処理手続に基づいて発出され
る判例を含む)を踏まえて、その現代的な規制原理について考察しようとするものである。
The 50th National Convention of Japan Academy for International Trade and Business