事例に学ぶ!処方箋監査vol.3

事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.3
下 平 秀夫
先生
帝京大学薬学部実務薬学教室 / 富士見台調剤薬局
このシリーズでは、新人薬剤師ハツミさんの失敗談を例に処方箋監査を学びます。
おやおや? ハツミさん、なにか困っていますね。どうしたのでしょうか?
事例
処方箋
氏
秋本 冬子
名
生年月日
昭和40年3月13日(49才)
交付年月日
平成 ○ 年 3 月13 日
医 療 機 関
アルシス総合病院
渋谷区*******
電 話 番 号 03-6861-****
保
険
医
谷村 四郎
処方箋の使用期間
1) ナゼアOD錠0.1mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 3日分
処
方
2) デカドロン錠0.5mg 1回8錠(1日16錠)
1日2回 朝昼食後 3日分
3) ガスターD錠10mg 1回1錠(1日2錠)
1日2回 朝夕食後 3日分
4) ノバミン錠5mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 14日分
処
備
方
考
箋
欄
解
説
1)~4)を3月14日から服用
新人薬剤師のハツミさんは、調剤を終えて患者さ
んに服薬指導を始めました。ナゼアを吐き気止め、
デカドロンは炎症を抑える薬、ノバミンは気分を
調整する薬と説明しました。しかし、患者さんは
けげんな顔をして『吐き気止めと聞いていますが』
と回答が・・・
デキサメタゾンの短期
・ 多量投与?
吐気止め?
翌日から投与?
?
?
外来での抗がん剤化学療法が増加し、支持療法に用いられる薬剤が院外処方される
機会が増えてきている。吐気・嘔吐は、頻度の高い副作用の1つであり、その予防に
デキサメタゾンなどが用いられる。
今回の処方箋の解説
外来での抗がん剤化学療法による吐気・嘔吐防止を目的としてナゼア、デカドロン、ノバミンが処方されています。処
方せんを応需した 3 月 13 日に病院で点滴ルートから抗がん剤と共に制吐剤が投与されているので、3 月 14 日から服用
します。
外来がん化学療法
近年、新規抗がん剤の開発や、多剤併用療法の開発、支持療法の発達などによって、外来での抗がん剤化学療法が増加
し、患者さんは平常の生活を送りながら治療を継続できるようになりました。薬局への期待と責任は大きいといえます。
支持療法(Supportive Care)
支持療法とは、重篤な疾患のある患者さんの QOL を改善するために行われるケアのことをいいます。この支持療法の
進歩によって重篤な副作用が外来治療でもコントロールできるようになりました。例えば、G-CSF 製剤による好中球減
少の抑制や、今回処方されたナゼア OD 錠などの 5-HT3 受容体拮抗薬による急性悪心・嘔吐や、アプレピタント ( 製品名 :
イメンド ) のようなニューロキニン 1(NK1)受容体拮抗薬によって特に遅発性悪心・嘔吐のコントロールなどが可能
となります。
⇒次ページにつづく
2014年3月作成
事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.3
下 平 秀夫
先生
帝京大学薬学部実務薬学教室 / 富士見台調剤薬局
制吐療法
多くの化学療法では、抗がん剤治療時に予防的に吐き気止めの注射や飲み薬を使用します。悪心・嘔吐は、発生時期に
よって急性、遅発性、予期性に分類されます(表 1)。
(表 1)発生時期による悪心・嘔吐分類
急
性 抗がん剤投与後24時間以内に生じる
遅 発 性 抗がん剤投与後24時間以降に生じ、数日間持続
予 期 性 前治療による悪心・嘔吐の経験など精神的要因により出現
催吐性リスクは高度催吐リスクと中等度催吐リスクに分かれます(表 2)。高度(>90%)の催吐リスクを有する薬剤と
して、シスプラチン、シクロホスファミド(>1500mg/m2)、ダカルバジンなどがあげられます。処方せんに抗がん剤、
5-HT3 受容体拮抗薬、あるいはアプレピタントが処方されていなくても、デキサメタゾンが 1 日 4mg、または 8mg な
どで処方されていたら、化学療法に対する支持療法を考慮した患者さんへの聞き取りが必要です。
(表 2)制吐療法ガイドラインの例
(ASCO: 米国臨床腫瘍学会 2011)
催吐性リスク分類
高度催吐性リスク
[アントラサイクリン系
抗がん剤とシクロホス
ファミドの併用療法含む]
中等度催吐性リスク
急性期
遅発期
5-HT3受容体拮抗薬
+デキサメタゾン
+アプレピタント
デキサメタゾン
+アプレピタント
5-HT3受容体拮抗薬
+デキサメタゾン
デキサメタゾン
デカドロン ( 一般名 : デキサメタゾン )
効能・効果には、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)」があります。添付文書に
は「通常、成人にはデキサメタゾンとして 1 日 4 ~ 20mg(本剤 8 ~ 40 錠)を 1 ~ 2 回に分割経口投与する。ただし、
1 日最大 20mg までとする。」とされています。また、副腎皮質ホルモンの大量投与による消化管障害を防止する目的で、
ガスター ( 一般名:ファモチジン ) が併用されています。
ノバミン ( 一般名 : プロクロルペラジンマレイン酸塩 )
プロクロルペラジンマレイン酸塩のような D2 受容体遮断剤は統合失調症に使われる他、悪心・嘔吐抑制を目的に使用
されます。副作用として悪性症候群、錐体外路症状に注意が必要です。効能・効果には、「術前・術後等の悪心・嘔吐」
があり、添付文書には「通常、成人にはプロクロルペラジンとして 1 日 5 ~ 20mg を分割経口投与する。」とされてい
ます。
新人薬剤師ハツミさんの反省点
病院の中で行われている治療や、検査などについても、日頃から学習を積み、窓口で患者さんから病院で受けている治
療について情報を得ることが必要です。病院から受け取った治療説明書を持っている時は、見せてもらうと理解が深ま
ります。特に外来化学療法については、休薬期間が必要な薬や、支持療法として処方される薬などへの的確な指導が必
要なので、地域医療機関との連携も重要です。
2014年3月作成