膵癌

症例:68歳 男性
入院目的:下痢と体重減少の精査加療
現病歴:
2005年
2005年10月
10月 中国に旅行
2005年
2005年11月∼
11月∼ ちくちくするような腹痛を自覚
既往歴:胆石(
26年前胆嚢摘出術)
年前胆嚢摘出術)
既往歴:胆石(26
総胆管結石(25
年前手術)
総胆管結石(25年前手術)
家族歴:特記すべきことなし
家族歴:特記すべきことなし
生活歴:アルコール 日本酒1
日本酒1合/day
タバコ 20本/day(
歳)
/day(20歳∼67
歳∼67歳)
服薬歴:10
年前からノルバスク5mg
5mg
服薬歴:10年前からノルバスク
2006
2006年3月 1日3, 4回の下痢が始まる
4回の下痢が始まる
その後も下痢、食欲不振、体重減少(4
)が継続
その後も下痢、食欲不振、体重減少(4ヶ月で15kg
ヶ月で15kg)が継続
2006年
2006年7月10日当院外来受診。便培養、虫卵検査、
10日当院外来受診。便培養、虫卵検査、
上腹部エコーなどで明らかな異常所見を認めなかっ
上腹部エコーなどで明らかな異常所見を認めなかっ
たため、精査加療目的にて7
たため、精査加療目的にて7月24日当院入院。
24日当院入院。
入院時身体所見
入院時 performance status 0
身長 156cm, 体重 46kg(
減)
46kg(4ヶ月前より15kg
ヶ月前より15kg減)
体温 36.2℃
36.2℃, 血圧 142/70mmHg,
脈拍 76/分
76/分(整)
意識清明・指南力良好
〈頭頚部〉〔
眼球〕
〕貧血なし・黄疸なし〔
頭頚部〉〔眼球
貧血なし・黄疸なし〔頚部〕
頚部〕リンパ節腫脹なし
〈胸部〉
胸部〉心音I
心音I→II→
II→III(III(-) IV(IV(-), 雑音聴取せず,
雑音聴取せず,
呼吸音正常
・左右差なし
呼吸音正常・左右差なし
〈腹部〉
腹部〉平坦かつ軟,
平坦かつ軟, 発疹なし,
発疹なし, 手術痕あり,
手術痕あり, 腸音正常
腸音正常,, 左側腹
部に弱い圧痛
あり,, 肝・腎・
脾触知せず
部に弱い圧痛あり
肝・腎・脾触知せず
〈四肢〉
四肢〉pretibial pitting edema(−
edema(−)
〈神経〉
神経〉特記すべき所見なし
画像所見
〈胸部レントゲン〉
胸部レントゲン〉心胸郭比 40%, 肺野異常
なし
〈腹部レントゲン〉
腹部レントゲン〉両側腎結石あり
〈心電図〉
心電図〉normal sinus rhythm
HR 81bpm
81bpm
〈腹部エコー〉
腹部エコー〉Pneumobilia,
Pneumobilia, 両側腎結石
入院時検査所見
〈尿〉
比重 1.013, pH 6.0, Prot(30), Glu (-),
Ket(
Ket(-), 潜血(
潜血(3+)
3+), Uro(0.1), Bil(
Bil(-), RBC
40~/HPF,
40~/HPF, WBC 10~20/HPF, 扁平上皮
(+), 尿細管(+),
尿細管(+), 上皮円柱(+),
上皮円柱(+), 粘液糸(+),
粘液糸(+), 細
菌(+)
〈血算〉
血算〉
WBC 5400/μ
5400/μl, RBC 394x104/μl,
Hb 12.6g/dl, Ht 36.4%,
MCV 92.4 fl, MCH 32.0pg
32.0pg,,
MCHC 34.6%
34.6%, Plt 19.0x104/μl
問題リスト
#1:慢性下痢、体重減少
#2:尿潜血陽性
#1:慢性下痢、体重減少
下痢をきたす疾患
„ 過敏性腸症候群
„ Drug
„ 炎症性腸疾患
„ 寄生虫
„ 感染
„ 蛋白漏出性胃腸症
„ Collagenous colitis
„ 血管炎
(主として脂肪性下痢をきたす疾患)
„
„
„
膵外分泌機能不全
#2:尿潜血陽性
7/26 CT では両側腎結石、左腎盂結石
PSA 2.0 ng/ml
ng/ml
尿細胞診 class 2
8/9 KUB上
KUB上L3L3-4レベルに5
レベルに5×3mm,
6×3mmの結石を疑う石灰化
の結石を疑う石灰化
mm
7/26以降、右腎結石の一部が右尿管へ
7/26以降、右腎結石の一部が右尿管へ
移動したと考えられる。
泌尿器科コンサルトし、自然排石を期待することとした。
胆汁分泌障害(閉塞性黄疸、肝障害)
アミロイドーシス
まとめ
経過
膵癌(T4N0M0
膵癌(T4N0M0 StageⅣ
StageⅣA)と診断
SMAへの浸潤が認められるため、手術適応とはなら
SMAへの浸潤が認められるため、手術適応とはなら
ず、8/7
∼ジェムザール単独療法(1300mg
1300mgを
を
ず、8/7∼ジェムザール単独療法(
day1, 8, 15に投与)開始。
15に投与)開始。
8/14 好中球1000/
m㎥と減少したため、day8
の
好中球1000/m
と減少したため、day8の
投与は延期とし、8/21
投与は延期とし、8/21 1000mgに減量投与。
1000mgに減量投与。
„
„ 本例では、下痢の程度に比べ体重減少が著しい
⇒悪性腫瘍の存在を疑う
„ 膵癌による主膵管閉塞、体尾部萎縮
⇒膵外分泌機能低下
⇒脂肪性下痢
⇒更なる体重減少
膵癌の初発症状
膵癌の病態生理
膵癌を考える臨床症状は何か?
(膵癌全国登録より)
„
„
„
1.他に原因のみられない腹痛、腰背部痛、黄
疸、体重減少は膵癌を疑い検査を行うが(グ
レードB)、有症状の場合は進行癌が多い。
2.急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症や悪化
は膵癌合併を疑い、腫瘍マーカーや画像検
査を行う(グレードB)。
慢性下痢と体重減少を契機に発見された膵癌の一
例を経験した
„
„
„
„
„
„
„
„
腹痛(32.0%
)
腹痛(32.0%)
黄疸(18.1%
)
黄疸(18.1%)
糖尿病増悪(6.3%
)
糖尿病増悪(6.3%)
腰背部痛(6.3%
)
腰背部痛(6.3%)
食思不振(6.1%
)
食思不振(6.1%)
全身倦怠感(4.0%
)
全身倦怠感(4.0%)
体重減少(4.0%
)
体重減少(4.0%)
嘔吐(1.8%
)
嘔吐(1.8%)
腫瘤(0.8%
)
腫瘤(0.8%)
自覚症状なし、人間ドックなどで発見(7.4%
)
自覚症状なし、人間ドックなどで発見(7.4%)
不明(13.2%
)
不明(13.2%)
治療
膵癌化学療法
(やさしい臨床医学テキストより)
やさしい臨床医学テキストより)
外科的治療
(StageⅣ
(StageⅣaまでの膵癌の第一選択)
„ 術前、術後補助療法
„ 切除不能例
„ 黄疸例
„
„
„
„
„
フルオロウラシル(5−FU®)
塩酸ゲムシタビン(ジェムザール®)
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
配合(1
配合(1 : 0.4 : 1)(ティーエスワン®)
膵癌化学療法
フルオロウラシル(5-FU®)
《作用機序》
作用機序》
①FUTPのRNA転入によるRNA機能障害。
塩酸ゲムシタビン(ジェムザール®)
《作用機序》
作用機序》
dFdCDP、dFdCTPとなりDNA合成障害。
②FdUTPのDNA転入によるDNA合成障害。
②FdUMPによるチミジル酸合成酵素阻害によるDN
A合成障害。
《副作用》
副作用》
激しい下痢、骨髄機能障害、ショック等。
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウ
ム配合(1:0.4:1)(ティーエスワン®)
《作用機序》
作用機序》
ギメラシル:5ギメラシル:5-FU異化酵素阻害による5FU異化酵素阻害による5-FU濃
度の上昇。
オテラシルカリウム:消化器毒性の抑制。
《副作用》
副作用》
骨髄障害、重篤肝障害等。
《副作用》
副作用》
骨髄抑制、間質性肺炎等。