小児鎮静の特徴

小児鎮静の特徴
澤田奈実
• なぜ、小児は
体重あたりの投与量が
多く必要なのだろうか?
• 非挿管時には
何に注意したら良いのだろうか?
どんな薬剤を使用したらいいのだろうか?
• 挿管時に長期使用が予測される時の薬剤
は何を選択したら良いのだろうか?
• なぜ、小児は
体重あたりの投与量が
多く必要なのだろうか?
 薬物動態が大きく関わっている
 未熟性がゆえに
充分な鎮静が得られていても
突発的な体動・首振り運動がある
薬物動態
60 %
全体液 : 60 %
細胞内液 (ICF) : 40 %
20%
5%
組織液 : 15 %
血液 + リンパ液 : 5 %
細胞外液 (ECF) : 20 %
薬物動態
① 分布容積 (vlume of distribution)
② 全身クリアランス (Cltot)
③ 半減期 (t ½)
60 %
全体液 : 60 %
細胞内液 (ICF) : 40 %
20%
5%
組織液 : 15 %
血液 + リンパ液 : 5 %
細胞外液 (ECF) : 20 %
薬物動態
- 分布容積 蛋白結合能
高い
① 分布容積 (volume of distribution:Vd)
単位: L
20 %
どれだけの体液に分散したか
5%
3 L : 血漿容量の相当
20 %
12 L : 細胞外液に相当
5%
36 L : 全体液量に相当
Vd が大きい薬剤ほど
20 %
5%
血中濃度をあげるためには
蛋白結合能
低い
たくさんの投与量を要する
薬物動態
- 分布容積 -
80 %
75 %
60 %
45 %
45 %
30 %
9%
8%
7.5 %
新生児
乳児
幼児
細胞外液量が多い
蛋白結合能が低い
→体重あたりの薬剤投与量が多い
Vdが大きい薬剤
チオペンタール
プロポフォール
ロクロニウム(Rエスラックス)
薬物動態
- クリアランスと半減期 -
全身クリアランス=肝クリアランス + 腎クリアランス
※半減期はクリアランスが悪ければ長くなる
 肝クリアランス
チトクロームP-450 活性が低い :
成人レベルに達するには6ヶ月〜数年を要する
チトクロームP-450 が関連して代謝される薬剤
ジアゼパム
バルビツレート
 腎クリアランス
新生児GFR : 50 %前後
その後、1歳にかけて成人と同等となる
未熟性
• 言う事を聞いてくれない
• 充分な鎮静がかかっていても、
突発的な体動がある
首振り運動がある
→体幹抑制がいる
→頭部固定がいる
頸部の進展や左右首振りで挿管チューブは容易に抜ける
頸部の屈曲で容易に片肺挿管となる
安全なチューブ管理のために深い鎮静を要する
• なぜ、小児は
体重あたりの投与量が
多く必要なのだろうか?
• 非挿管時には
何に注意したら良いのだろうか?
どんな薬剤を使用したらいいのだろうか?
• 挿管時に長期使用が予測される時の薬剤
は何を選択したら良いのだろうか?
モニタリング
 小児は呼吸トラブルが最も多い
呼吸管理に精通し充分な注意を払う必要がある
 上気道狭窄や呼吸停止をいち早く察知出来るものは
EtCO2モニターである
SpO2 が低下する前に気付かなければならない
検査室(特にMRI室)でモニタリングが不十分な場合は
最低限、胸郭挙上を目視で観察する必要がある
非挿管時の薬剤選択
① 抱水クロラール
適応:不眠症、検査時の鎮静
(CTやMRIなどの画像検査、脳波や心エコーなどの生理検査)
作用機序:GABA受容体に作用しCl チャネルを開放
副作用:健康小児では呼吸抑制は尐ない
投与方法:検査の30分前に投与
モニタリング:覚醒確認出来たら終了
 トリクロールシロップ10% :内服薬
初回投与 0.5〜1.0 ml/kg/dose 最大量 20ml
追加投与 初回投与量の半量 追加は1回まで
 エスクレ :坐薬
初回投与 70mg/kg/dose 最大量 2g
追加投与 初回投与量の半量 追加は1回まで
非挿管時の薬剤選択
② ミダゾラム(短時間作用型のベンゾジアゼピン)
適応:麻酔導入、検査時の鎮静
作用機序:GABA のベンゾジアゼピン受容体に作用しGABA 作用増強
作用:鎮静、抗不安、筋弛緩(鎮痛作用はない)
使用方法:ミダゾラム1A(10mg/2ml) + 生食 8ml 5倍希釈
投与量:0.1〜0.2mg/kg/dose ずつ
総投与量 0.6mg/kg を超えない
副作用:呼吸抑制がある、興奮
経験的にミダゾラム単独で充分な鎮静を得る事は困難
特にMRI など長時間不動化が望ましい検査には向かない
非挿管時の薬剤選択
③ ケタラール(麻薬扱い)
適応:麻酔導入、検査時の鎮静、熱傷処置時の鎮痛
作用機序:NMDA 受容体に作用
作用:鎮静、鎮痛、脈拍上昇、血圧上昇
禁忌:頭蓋内圧亢進
投与量:1〜2 mg/kg/dose(0.1〜0.2 ml/kg/dose) ずつ
副作用:不随意運動が出る、悪夢を見る
循環不安定は場合に使用しやすい
充分な鎮静下でも動くため、不動化が望ましい検査には向
かない
非挿管時の薬剤選択
④ デクスメデトミジン
適応:麻酔中・人工呼吸中または人工呼吸器離脱後の鎮静
非挿管下での局所麻酔薬併用による処置時の鎮静
作用機序:α2 アドレナリン受容体アゴニスト
作用:鎮静、鎮痛(弱い)
投与量:
初回投与:0.6 μg/kg 10分かけて投与
維持持続投与: 0.1〜0.9 μg/kg/hr
副作用:血圧低下、徐脈、冠動脈攣縮、呼吸抑制が尐ない
本邦では小児への使用は経験が尐なく適応がない
使用報告は多数あるが、長期間の使用は尐ない
• なぜ、小児は
体重あたりの投与量が
多く必要なのだろうか?
• 挿管時に長期使用が予測される時の薬剤
は何を選択したら良いのだろうか?
挿管時の薬剤選択
鎮静
 ミダゾラム
投与量:1〜2 μg/kg/hr (1ml/hr=0.06mg/kg/hr)
Bolus 投与 : 2μg/kg
副作用:長時間使用した場合、中止後に離脱症候群を来す
 デクスメデトミジン
原則、抜管前日に切り替えて呼吸抑制の有無の評価を行う
ミダゾラムで鎮静不十分な場合に検討するが、
小児での長期間使用経験は尐ないため慎重投与
挿管時の薬剤選択
鎮痛
 フェンタニル
作用機序:μ受容体選択的アゴニスト
特徴:作用発現が早く、クリアランスも良い
投与量:0.5〜5.0 μg/kg/hr (1 ml/hr=0.5 μg/kg/hr)
Bolus 投与 : 0.5 μg/kg
副作用:脂溶性が高く脂肪に蓄積しやすいため、
長時間使用した場合は効果が遷延する
抜管前は無呼吸発作の有無を充分に評価する
※ iv-PCA
投与量:1.0〜2.0 μg/kg/hr
尐量でも呼吸抑制が出る事がある
疼痛がない場合は過量投与となるため注意が必要
挿管時の薬剤選択
成人と違い尐量フェンタニルでは充分な鎮静が得られない
原則、鎮静薬 ミダゾラム + 鎮痛薬 フェンタニルの相乗効果を必要とする
長期使用が予測される場合は
ミダゾラム(短時間作用型)は下記薬剤に切り替える
① セルシン(長時間作用型)
2mg/kg/day
② フェノバール(長時間作用型)
5mg/kg/day
まとめ
 薬剤選択は成人と大きく代わりはない
 特徴は
分布容積が大きい
成熟には個人差があり、予測はつきにくい
クリアランスが悪い
呼吸障害を起こしやすい
最も大事な事は
モニタリングと、気道確保が出来る準備をする事
 医療安全上、持続投与薬剤の溶解方法は統一するべき
(投与速度で投与量が分かるため)
参考文献
R. S. Holzman : 「小児の麻酔」 メディカル・サイエンス・インターナショナル社出版
W. E. Hurford : 「MGH麻酔の手引き」(第6版) メディカル・サイエンス・インターナショナル社出版
麻酔科学会 : 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版
R. Miller : Miller’s Anesthesia 6 th edition
S.M.Donn : Clinical pharmacology of midazolam in neonates and children. Int J Pediatr 2014;309342
F.F.Carrion :Withdrawal syndrome in the pediatric intensive care unit. Med Intensiva 2013;37(2):67-74