「進化」と「実行」を携えて ∼V字回復を成し遂げた良品計画の経営改革∼ 株式会社良品計画 代表取締役会長 松井 忠三 Features 品質保証は次のステージへ ∼次世代型品質保証モデル∼ JMAC 松田 将寿 現在、日本の製造業における品質という概念は、変革が必 以上のことから、実をとる品質保証へ進むために、「次 ■ 会社概要 要な段階を迎えつつある。過去の成功体験に沿って「より良 世代型品質保証モデル」の構築が必要と考えている。 会社名 :株式会社良品計画 設 立 :1989年6月(登記上1979年5月) 資本金 :67億6,625万円(2008年2月末現在) 従業員数:4,680名 主な事業:無印良品を中心とした専門店事業の運営/卸売事業 店 舗 :国内 339店舗(2010年2月末現在) 海外 115店舗(2010年2月末現在) いものをより安く」作って行く中で、品質については「高け その次世代型品質保証モデルには以下の4つが欠かせな れば高いほどよい」という考え方が定着化している企業を多 い。①経営課題として品質をとらえる:経営課題として品質 く見受ける。しかし、企業の考える品質とお客様が考える品 を捉え、全社的活動として革新を進めることが必要。②品質 質は、本当に同じだろうか。もし同じでないならば、高けれ の再定義が必要:お客様や社会が求める品質の再定義を行 ば高いほどよいとしている部分は過剰コストを生み出すこと い、それが実現できるような自社特性に合った品質マネジメ になり、競争優位に大きく貢献することはない。 ントシステムを構築することが必要。ISOの導入を否定する また、企業がその成長に伴い抱え込んできた内部環境変化 わけではないが、普遍化された経営管理システムをそのまま も、品質に影響を与えていることが少なくない。複数の事業保 導入して期待成果が出せていない企業が多いのと同様に自社 有、外製化比率の向上、分業分担の推進(アウトソーシングの 特性に合わせたカスタマイズは欠かせない。③品質レベルの 良品計画は1989年6月創業の比較的新しい会社である。 進展含む)、事業の成長と共に歩んできたベテラン人材の高齢 適正化が必要:品質レベルは商品別の市場・顧客区分により (コンセプトの希薄化)、戦略の間違い(急速な拡大政 オイルショック後、高度成長が終わり、流通各社こぞって 化・定年など内部構造が大きく変化してきているにもかかわら 異なることが多くなっている(ワールドワイドで供給する場 策)といった経営そのものにあったのだ。 ず、品質保証や品質管理の在り方そのものを大きく変えること 合、全て同じ基準が求められているのかという問題)。それ ができていないという問題である。結果、常にクレームなど問 にうまく合わせ、かつ、経営成果を産み出すことが必要。④ 題が発生し、後追いの仕事から脱却しきれない。 品質保証部門を変える:クレームの受け皿、検査保証型の活 ノーブランド商品を投入したが苦戦していた時代だった。 当時のノーブランド商品は、「安かろう、悪かろう」の印 計画5%、実行95%が組織の足腰を鍛える 象が強かった。「質販店」という戦略を掲げた西友が、各 社長になって私は改めて店舗を回ってみた。1年前の 社より少し遅れて、立ち上げたのが「無印良品」である。 売れ残りが、段ボールにつめこまれて店舗に溢れてい 品質保証の実態と経営成果保証モデルの勧め 基本コンセプトは「わけあって安い」。素材の見直し、工 た。不良在庫は38億円にのぼっていた。捨てようにも膨 献するための活動を進められるようになることが必要。 このように品質については、品質の範囲と要求水準の定義が (以上、詳細は品質保証実態調査報告書に記載) 程の点検、包装の簡略化を柱とし、品質の保持にこだわ 大な量である。就任2カ月後の3月12日、焼却を決断。売 問題になる場合と、構造変化に合った品質保証の仕組みが構築さ り、成熟化のニーズを先取りしたものだった。「無印良 価にして90億円となる商品が灰になっていくところを、 れていないことが問題になる場合の大きく二つの問題がある。 品質経営という捉え方 品」のデビューは、衝撃的な反響を呼んだ。 私は社員とともに見届けた。2年後の03年、衣料品在庫 現在の環境変化に追随・先行し、品質の捉え方・位置づけ これらすべてを包含した概念として、JMACでは「品質経 は18億円となり、季節在庫はゼロになった。04年には、 そのものをお客様や社会の期待に沿わせ、品質および品質保 営」というコンセプトを独自に定義し、普及している。今回の 絶頂から ど ん 底 へ 差益率は過去最高の47%になった。調達構造は変えず、 証の考え方を変革し、世界をリードしていくことが日本の製 実態調査でもJMAC定義の「品質経営成熟度」レベルの高い企 当初、売上高245億円、経常利益1億円だったこのビジ 在庫コントロールで達成した成果だった。 造業強化において必要と考える。こうした懸念を踏まえ、 業が売上高比クレーム件数も小さく、品質保証マネジメントレ ネスは、10年後の90年には、売上高1050億円、経常利益 品質の問題もあった。02年、新聞で謹告掲載を6回も JMACでは日本の製造業の品質保証に関する実態調査を2009 ベルも事前・未然防止型であり、品質に関する意識や文化も高 は136億円という急成長を遂げていた。製造小売業 行っていた。企業体質や製造工程に問題があった。この 年に実施し、品質保証実態調査という形にまとめた(回答企 いという結果が出ている。品質は、何をどこまでやれば経営成 (SPA)の先駆けだった。91年には海外出店を開始、物 年から全社を挙げてこの品質問題に対応した結果、5年 業数約300社)。その中から次のようなことが見えてきた。 果につながるのか予測困難なものである。が、このような指標 流事業へも参入し、95年には株式公開に至る。「脱セゾ 後の‘07下期にはクレーム数が’02年下期の17%に減少 ①品質保証費用の把握と対投資効果評価はほとんどの企業で や、日本の製造業および各業界の品質保証への取組み実態をベ ン化」をはかり、直営店・フランチャイズ店を増やして した。さまざまな改革実行の積み重ねにより、2005年に できていない。②成果が出せる品質マネジメントの仕組みが ンチマークし、自社の今後の取組みや経営成果創出の道筋をさ いった。83年に青山に出店した1号直営店は、1年の予 は過去最高益を達成できた。 構築できておらず、現行の品質マネジメントは形式化・形骸 ぐりながら日本の製造業の復権を目指して頂きたい。 算をわずか1カ月で達成した。 我々が続けてきたのは、日々の「進化」と「実行」で 順風満帆なすべり出しであったが、慢心の陰には必ず落 化。③品質保証レベルを上げるための全社的な活動展開がで ある。もはや時代適合では生き残れない。顧客も環境も とし穴が待ち受ける。2000年に初減益、翌01年には当期利 きていない。④品質保証組織の機能が不十分(多くの企業で 決してひとところにとどまることはない。「進化」と 益はゼロとなった。2000年の2月に1万7000円を超えていた 不満・不足感)。⑤品質に関するツールの安易な導入。 *品質保証実態調査およびその報告書につきましては、JMAC「品質保証実態調査」委員会ま でお問い合わせください。また、JMACでは、「JMAC Quality Management Service」を設置 し、会員企業各位へ品質保証に関する様々なサービスを提供させていただいております。 *「品質保証実態調査」委員会お問い合わせ先: 03-3434-4303 は、勝てる仕組みづくりであり、それを実現するために 株価は、1年後2750円になっていた。私が社長に就任した は「実行力」が必要だ。計画を書くことに多大のエネル のは、まさにどん底の01年1月だった。マスコミなどで ギーを費やしていたのでは、現場はくさり、足腰は弱く は、「無印の時代は終わった」と言われた。日本の専門店 なる。計画5%、実行95%を社内で徹底させていった。 動など後処理的活動から脱却し、顧客に認められ、経営に貢 品 質の定義 企 業 が 考 え る 品 質 と お 客 さ ま が 考 え る 品 質 は 本 当 に 合 致しているか? 顧客が評価する品質 製品品質 総合的な評価 サービス品質 で一度凋落して復活した例はない、と。10年間の急成長で 経営にまぐれはない。どれほど頑張ってもよい結果が 競合他社は一斉に研究を始めていた。しかし、我々は「無 得られる保証はないが、やらなければ勝つことはない。 ୣϏԇȾᮛ౫ɒȗֿ ᛏֿαᭅॴ 優先順位をつけて、やるべきことを繰り返しやるだけ 性能・機能 耐久性 規格 信頼性 印はこれでいい」と自信満々で独りよがりの仕事を続けて いた。取締役会では定例の議題しか流れず、稟議書には承 だ。常に改善し続ける事なくして経営は成り立たず、や 認印が7つも8つも押してあった。経営責任の所在が曖昧と るべきことは日々の現場の業務のなかにある。「今日は なり、衣料品の売上が落ち込めば、衣料品の部長が悪いと 明日のごとく、明日は今日のごとく」を続けるのではな なる。衣料品の部長は3年間で5人交代した。そんなことで く、毎日革新する中から、必ず光が見えてくる。つねに 立ち直れるはずもなかった。店の売上は企業総力の結果の 現場の第一線で先頭に立つ。今、経営に求められている 現れであり、落ち込みの大きな原因は、ブランドの弱体化 のは、そうした姿勢ではあるまいか。 特徴・特色 使い易さ・わかり易さ 美しさ ୣϏԇȾᮛ౫ɒᫍȗֿ プロセス品質 成長品質 ֿጽ؆ˁ͙ഈαᭅॴ ͙ഈᩋαᭅॴ イメージ・評判 プロセス・活動 メンテナンス性 サポート性 ୣϏԇȾᮛ౫ɒȗȟ ᇉȨɟᫍȗֿ 発信情報価値 将来性・事業継続性
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