Economic Indicators 定例経済指標レポート - 第一生命保険

(業務用参考資料)
Financial Trends
経済関連レポート
与党・諮問会議の株価対策について ∼問題は買い手不在∼
発表日:
発表日:5月9日(金)
(No.F
(No.F−4)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生(外線
担当 熊野英生(外線:
(外線:5221-5223)
5221-5223)
与党と諮問会議の株価対策案を発表した。内容は、需給対策については足並みが揃っているが、実体経済に影響
を与えるような財政政策・企業対応は一致していない。確かに需給対策は重要であるが、もっと買い手不在の状
況を打開するような税制優遇などの対応が望まれる。与党案から抜け落ちてしまった時価会計についても、基本
的な考え方から見直し、長期投資分と峻別した扱いを用意するなどの手当てを検討することが望まれる。
出遅れた対応
与党金融政策プロジェクトチームが「緊急金融・経済対策」、経済財政諮問会議の民間議員が「証券市場の
活性化」策を相次いで発表した(資料1)。政府は、両者を踏まえて、株価対策を打ち出すことになる。
今、株価対策が検討される動機は、イラク戦争(3 月 20 日開始∼4 月 9 日バクダット陥落)に前後して日経
平均株価が 7,000 円台に突入したことにある(資料2)。だが、戦前からの予想では、イラク戦争の短期終結に
よる株価反発の見方が支配的であったために、ここまで対応が出遅れた面は否めない。株価反発の目論見は外れ、
気が付けば、株式市場は企業等の持ち合い解消、厚生年金基金の代行返上の強烈な売りにさらされることとなっ
ていたという事情がある。
(資料1)与党と経済財政諮問会議の株価対策メニュー
与党「当面の緊急金融・経済対策」
日本株 円
(資料2)イラク戦争前後の株価推移
ナスダック
1,550
民間議員「証券市場の活性化について」
1,500
9,200
ナスダック
・金融政策(物価安定数値目標の導入、
・日銀への銀行保有株式の買入れ拡充
1,400
8,600
1,350
・年金の国内株式運用の比率拡大の前倒し ・年金による積極的な株式運用
(2008年度12%の目標達成を前倒し)
イラク戦争開始
バクダット陥落
2003/5/5
2003/4/28
2003/4/21
2003/4/7
2003/4/14
2003/3/31
2003/3/24
2003/3/17
2003/3/3
2003/3/10
・自己株式の取得の円滑化
・相続税・贈与税の一体化の周知徹底
1,200
2003/2/24
・民間主体の株式買取り組織の創設
2003/2/17
7,400
2003/2/3
・銀行等株式取得機構の機能改善
2003/2/10
・銀行等株式取得機構の機能改善
1,250
イラク戦争
2003/1/27
・ 銀行株式保有制限の期限延期
8000円割れ
2003/1/20
・銀行株式保有制限の期限延期
(2004年9月の期限を2年程度延長)
1,300
8,000
2003/1/6
・ 政府保有株式の売却延期
2003/1/13
・政府保有株式(JT、NTTなど)の売却延期
2002/12/30
・郵貯・簡保の国内株式運用拡大
2002/12/23
・郵貯・簡保の国内株式運用拡大
(郵貯1%→2%、簡保4%→6%)
2002/12/9
・厚生年金の代行返上の影響配慮
2002/12/16
・厚生年金基金の代行返上の時期前倒し
・自己株式の取得促進のための商法改正
・相続税・贈与税の一体化の広報
1,450
日経平均
2002/12/2
銀行保有株式の買入れ拡充、
長期国債の買い切り増額、
資金供給手段の多様化、
銀行株の買取り)
・相続税算定における株式時価評価の検討
・法人税制の検討
・2003年度の公共事業の前倒し執行
・中小企業の信用保証制度の拡充
・行き過ぎた円高防止のための為替介入
内は共通した提言内容。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載さ
れた内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
(業務用参考資料)
全体的印象
両対策に共通する骨子は、代行返上の前倒し、売却株式の吸収、公的資金での PKO などの需給対策である。株
価下落の背景には、そもそも、デフレ経済の深化と、それに直截的に対処できない経済政策への不信がある。単
なる需給対策だけでなく、実体面への働きかけが必要と言える。与党案と諮問会議案の双方で食い違っている部
分には、与党の金融・財政政策、中小企業対策、諮問会議の法人税検討がある。これらは足並みが揃っていない
分、政府の最終取り纏めに残るかどうか心許ない。こうした点を考慮すると、今回の対策はファンダメンタルズ
への積極的な働きかけが薄いという印象になる。
もうひとつの薄さは、潜在的な金融不安への対応がない点である。銀行株は4月以降大幅に落ち込んでいる。
実は、与党が 3 月 24 日に発表した「緊急金融対応策」にはそうした問題への配慮があった。「緊急金融対応
策」では、銀行への無税償却拡大、欠損金の繰戻還付・繰越控除の期間延長、早期健全化スキーム(公的資金の
注入)復活の検討、が挙げられていた。ところが、今回はどうしたことかそれらがすっぽり抜け落ちてしまって
いる。銀行に対して、不良債権処理への税制・会計上の支援措置が実現すれば、ファンダメンタルズへの強力な
プラス作用が期待できるはずなのだが、そうした財政的支援は封印されてしまっている。昨年 9 月の金融再生プ
ログラム以来、無税償却と税効果会計の問題は、浮上しては沈んでしまう「押し問答」を繰り返している感があ
る。税制・会計支援が封印されていることが、4 月以降の銀行株の大幅下落の遠因になっている。
また、株価低迷を需給面で捉えると、買い手不在問題こそが核心であると言えよう。税制優遇にしても、相続
税・贈与税との損益通算だけで、この買い手不在の現状を大きく変革できるかという根本的疑問がある。需給悪
化と言えば、売り圧力の吸収の方に目を奪われがちだが、むしろ株式市場での買い手不在が需給バランスを崩し
ている点をどうにかしなくてはならない。
今回の対策では、誰が株式市場の買い主体になり、どのようなかたちで売買されれば、持続的な株価上昇が促
進されるかということが全く見えてこない。その反射的効果として、安易に、日銀や公的資金が買い支えるべき
だと結論を下されるのかもしれない。買い手創出ができず、数々のテクニカルな対策に終始するのは、そうした
政策思想の足腰の弱さを露呈している結果とも言えよう。
筆者は、贈与税の課税対象に株式の損益通算を含めて考えることは良いアイデアだと思うが、もっと大胆な措
置が必要だと考える。仮に、家計が株式を長期保有する主たる担い手になると考えるのならば、株式譲渡益税の
非課税化は最低限必要であろう。さらに踏み込んで、長期保有株式の損を所得税と通算する大胆な優遇策も検討
されればよい。現下の買い手不在を解消するアイデアこそが渇望されている。
時価会計の行方
3 月 24 日に与党の「緊急金融対応策」が発表されたとき、衆目の関心は、時価会計の凍結に集まった。今回
は、財務会計基準機構での再検討もあってか、「緊急金融・経済対策」では姿を消していた。2002 年度決算で
は、時価会計の適用を止められなかったという結論に落ち着いたのだろう。
筆者は、今回が 1996 年の橋本6大改革に盛り込まれた会計ビッグバンの生き残りである時価会計を考え直す
好機になると考えていたので、この点がうやむやになった点は非常に残念だ。時価会計の原理は、実に奇妙であ
る。その原理とは、企業・金融機関のバランスシートのうち、資産の時価下落を自己資本に反映しようというも
のである。資産デフレの中でそんなことをすれば、自己資本比率は低下し、負債サイドにある債務返済負担が相
対的に重くなるだけだ。概念的には、資産の減価に対応して、固定された負債の価値を割引くことが、バランス
シート調整の解決に寄与するはずである。過剰債務の多くは、過去の資産収益率を前提に、債務価額や利回りが
決められているが、デフレの中ではその実質負担が重くのしかかり、キャッシュフローを圧迫している。こうし
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載さ
れた内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
(業務用参考資料)
たデットオーバーハングを解消するには、負債を時価に合わせて再評価する発想が必要だ。
負債コストを減価することは、技術的に難題である。例えば、銀行がバランスシートを流動化することは、企
業債務の価値を洗い替えるのに有効であろう。無税償却ルールを拡大適用することでも、減価した貸出債権(=
企業債務)に引当を積みやすくなる。そして、銀行の自己資本を公的資金で補強することは、間接的に減価した
貸出債権を償却を促すことになる。負債コストの軽減のための実務的アイデアを総動員して、デットオーバーハ
ングの打開に取り組まなくてはなるまい。
そのほか、喫緊の課題として、企業が時価会計で相当のダメージを受けている点を看過すべきではない。企
業は簿価の 5 割以上下落した株式を原則として強制評価減しなくてはならない。2002 年度決算は、経常利益段
階で好調であったが、税引き前当期利益は保有株式の強制評価減でかなり失われている可能性が濃厚である。因
みに、法人企業統計によると、2001 年度の全産業・全規模では、株式関連の特別損失が 6.3 兆円となったために、
税引き前利益 7.1 兆円と半減してしまうダメージを受けたことが明らかになっている(資料3)。
時価会計の問題点は、長期保有の資産であっ
ても、短期売買の資産と同列に時価評価されて
兆円
(資料3)企業収益に対する時価会計の影響
15
5
ある。流動化するものは、時価評価が相応しい
0
が、流動化する前提を持たない長期保有資産ま
-5
で一律に時価評価すべきどうか疑わしい。長期
-10
7.1
保有資産を、景気が悪化して流動性が枯渇した
経済状況で売却しようとするから、資産価格を
ディスカウントしなければ、売却できないとい
うジレンマに陥っている面がある。そうして表
面化した売却時価を、取引実績のない資産の時
-6.3
税引前当期利益
(時 価 会 計 がな
か った 場 合 )
動化に馴染まない長期保有のものが少なからず
13.5
2001年度
特 別 損 失 (時 価 会
計要因 )
10
税引前当期利益
しまう点である。企業・銀行の保有株には、流
出所:財務省「法人企業統計年報」
価に適用するから、時価が過小評価されること
になる。デフレ下での資産価格形成は、ゴーイング・コンサーンの価値というよりも、清算価格に近い価値に近
づくというバイアスがかかる。そう考えると、長期所有資産は、取得原価主義でも不都合はないと解釈できる。
もうひとつ、時価会計を適用すると、銀行・企業の株式保有が不利になるという問題もある。時価会計を適用
された銀行・企業は株式市場の買い手になりにくい。そうなると、消去法で、年金・外国人もしくは家計が株式
保有の担い手になるしかない。与党案では、公的年金の株式保有比率を 2008 年度までに 12%に移行していくと
いう目途を前倒しする方針が示されていた。これは、年金・外国人・公的年金が株式の所有者となるべきだと考
えた対応なのか。この問題は、コーポレート・ガバナンスの視点で考えると実に根深い問題と言える。年金・外
国人・家計のいずれが、企業経営にガバナンスを働かせるべきだと考えれば良いのだろうか。浅学の筆者には答
えは出せないが、そうした本源的な問題は、手付かずのままである。
各論の検証
与党・民間議員案の各論のうち、主要な項目を取り上げて、それぞれ見ていくと、次のようになる。
(銀行等保有株式取得機構)
持ち合い解消の受け皿としては、銀行等保有株式取得機構の機能改善が有力。現行制度では、銀行が取得機構
へ売却する際に、8%の拠出金を義務づけられており、銀行はそのリスクを嫌がって売ってこない(資料4)。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載さ
れた内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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(業務用参考資料)
銀行は、実質負担を負う取得機構ではなく、負担のない日銀へと株式を売っている。取得機構に関しては、拠出
金なし、あるいは拠出金は公的資金(政府・日銀等)が負担するかたちで企業・他の金融機関も利用できるよう
に改善すべきであろう。与党案では、民間主体の株式買取組織の創設が提起されているが、出資金(拠出金)の
負担スキーム次第では、銀行等保有株式買
取機構と全く同じ問題に直面する。こちら
(資料4)銀行等保有株式取得機構の改善
も出資金は 100%公的資金を用なくては利
<現在のスキーム>
用は促進されない。
銀行
(銀行の持ち合い解消期限の延長)
銀行が 2004 年9月までに適用予定にな
株式売却
っている株式保有制限を2年間延長する方
拠出金
当初拠出金100億円
売却時にはその金額の8%
の資金を拠出
株式取得機構
針であるが、大手銀行ではすでに株式保有
を TIER1以内に抑える手当ては、時価ベ
ースでは達成に近づいており、今更、それ
を延期しても効果はほとんどない。むしろ、
銀行は、株価下落リスクを嫌気して、規制
限度よりもさらに株式保有を絞り込もうと
政府保証
資金調達
機構は10年以内に清算されるが、このとき株式の売却
損がでれば、拠出金でその穴埋めを行い、それ以上
は政府が穴埋めをする。
株式取得機構の買取り実績は、2002/1~10月末にかけて、1,496億円
に過ぎない。
している。
(自己株式の取得に関する商法改正)
現行の自己株式取得は「定時株主総会で1年間だけ有効の枠決議」による定款変更で実施されるが、2002 年
度の枠に対する実行状況は約1/4に過ぎない。有効期限を数年に伸ばすなどの方法は需給対策として効果があ
ると考えられる。
(代行返上の時期前倒し・物納の弾力化)
適用開始が 2003 年 10 月と半期決算と重なっているのは、いかにもタイミングが悪い。だが、事務手続き・シ
ステム対応の制約で、これを前倒しするとしても、ほんの数か月しか早期化できないとみられる。前倒しの効果
が薄いという前提に立てば、物納基準を弾力化して、現状運用者の保有するポートフォリオのままで良いくらい
に緩和することが妥当であろう。TOPIX連動でのトラッキングエラーの緩和程度では効果は限定的である。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載さ
れた内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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