ラオス・ベトナム出張報告 2014/5/5-5/9 小川 英治 佐藤 清隆 関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 第5回 アジア諸国との金融協力等に関する専門部会 ラオス出張報告(インタビュー概要)① (脱ドル化) ○ 脱ドル化が着実に進展し、外貨建て預金のマネーストックに占める割合は徐々に低下(約40%)。 キープの対ドルレートの安定、政府の経済政策への信認等が背景にあると思われる。また、政府 貸付についてキープ建てを原則とする等、政府も積極的に脱ドル化を政策的に推進している。 (銀行セクター) ○ 貸付・預金金利の規制が存在しないため、銀行は市場原則に基づいて自ら金利の設定を行って いる。他方、貸付が大幅に拡大する中、債権分類や債務者のリスク評価は発展途上。家族経営の 企業が多く、財務諸表が作成されず、債務者のリスク評価が困難になる場合も多い。 ○ 個人向けローン市場は未発達。自動車や住宅の購入も現金決済が基本。 (インターバンク市場) ○ インターバンク市場は未発達であるが、全く発展していないわけではない。銀行間で短期資金の 調達ができない場合は、中央銀行が短期流動性を供給する制度がある。 (国債市場) ○ 昨年、タイバーツ建て債券(ラオタイボンド:合計45億バーツ)が発行されたが、債務管理・債券市 場の基礎法制が整備されていない。今年中に整備する予定。 ○ 政府の対外債務と国内債務(T-bill)の管理については、財務省内で担当している部局が分かれて おり、公的債務を一元的に管理する体制ができていない。 1 ラオス出張報告(インタビュー概要)② (資本市場発展政策) ○ 次期開発計画(第8次)が今年の夏に策定されるタイミングに併せ、証券委員会において「資本市場 発展戦略」を策定中。取引所上場企業の増加、商品開発、証券仲介業の発展等を優先順位を付け て進めていく予定。 ○ 資本市場の発展にあたっては、証券取引所の整備にとどまらず、規制の整備、金融リテラシーの向 上、職員のキャパシティーの強化等を含むトータルな政策が必要であり、今後の海外からの支援を 期待。 ○ 金融規制当局のスタッフのトレーニングが課題であり、技術支援を含んだ他国との二国間覚書 (MOU)の締結を進めている。金融庁に設置されたアジア金融連携センターも積極的に活用していき たい。 (証券取引所) ○ ラオス証券取引所においては、現在、3社が上場し、今年1社、来年には2社が上場予定。上場基準 において社外取締役の設置や外部監査を義務付けているが、これを通じて企業統治や財務情報の 開示の向上を慫慂している。上場を通じた国有企業の民営化も積極的に進めていく。 ○ 一般投資家からの資金調達に理解が進まず上場をためらう企業も多く、企業に積極的に取引所の 上場を働きかけている。また、取引所・国立大学・証券会社による合同組織を立ち上げ、投資家育成 に取り組んでいる。 2 ベトナム出張報告(インタビュー概要)① (会計制度) ○ 現在のベトナム会計基準においては、公正価値(fair value)の概念がなく、不良債権について、国 際会計基準に沿った減損処理が行われていない。公正価値を導入した新しい会計基準が発表され る予定であったが、延期された。そのため、公表されている不良債権比率と実態には乖離があると 見られる。特に、国有企業向けの不良債権は、公表値に含まれていないことが多い。 ○ 単年度主義が徹底されており、将来キャッシュフローを把握するキャパシティがない。 ○ 財務会計基準と税務会計基準が明確に分化されておらず、税務通達で財務会計基準が突然変 わってしまうことも多い。会計法令集も存在せず、基準変更後の事後的な検索も困難。 (不良債権処理) ○ 不良債権処理専門のベトナム債権管理会社(VAMC)が2013年に業務をスタート。銀行は、不良債 権比率が3%を上回ると、VAMCを通じた不良債権処理を慫慂される。具体的には、銀行は、不良 債権と引換えにVAMC債券(注)を受け取り、この債券を担保にベトナム国家銀行から貸付けを受 け(ただし、毎年20%の引当て)、その間に不良債権処理を進めることが期待されている。 (注)VAMC債の額面価格は、不良債権の簿価から積立済みの引当額を割り引いたもの。 ○ VAMCが、企業の経営に干渉し、再建を自ら担うことはなく、また、そのようなキャパシティもない。 ○ 不良債権処理にあたっては、不良債権の買取りにとどまらず、不良債権の流通(転売)市場を整備 して市場価格を形成していくことが重要。 3 ベトナム出張報告(インタビュー概要)② (銀行監督・検査) ○ 銀行のオンサイト検査においては、主に法令順守を中心に検査しているため、リスクに基づいた検 査は二次的な位置づけ。また、銀行検査マニュアルは存在するものの、債権分類等の詳細は記載 されていない。 ○ ベトナム国家銀行に信用情報センター(CIC)を設置し、銀行が貸付を行う際に債務者情報を照会 する体制を整備した。債務者情報の入手が困難な場合も多い中、CICの利用も徐々に進んでいる。 (証券市場) ○ 今年の3月にデリバティブやETFの市場の創設を決定。現在、ETF、債券先物の検討が進められて いるところ。特に、ETFは今年中に業務を開始したいと考えている。今後の証券市場の発展のため にも、既に発展している国々から学んでいきたい。 (機関投資家) ○ 株式市場の投資家は、主に国内の個人投資家が中心。大企業が上場しているホーチミン取引所 における取引においても、国内の個人投資家が取引量の75%を占めており、機関投資家は10%程 度しかいない。機関投資家の運用先は主に国債や中銀債となっているが、株式市場のプレーヤー として機関投資家の育成が今後の課題。 (統計・データの整備状況) ○ 国際収支統計、資金循環統計等の整備はされているものの、イールドカーブのデータについては 未整備。日本からのアドバイスを期待。 4 出張者所感 【ラオス】 ① 健全な金融セクターの発展のために、金融仲介能力(大きな預貸金利スプレッドの解消)・信用リ スク審査能力(貸倒ヒストリカルデータの蓄積)の向上、インターバンク市場の整備が必要。 ② ラオス証券取引所の上場企業数増大のために、ソフト・コンポーネント(IPOの際の企業価値評価、 企業へのインセンティブ、投資家への広報等)の整備が必要。 ③ 脱ドル化は、外貨取扱いに規制をかけることで進展。カンボジアの脱ドル化への参考になりうる。 ④ 国債市場育成のための法律・規則の制定が重要な課題。流通市場の整備も含めて、市場育成 の政策的支援が必要。 ⑤ 経常収支は一貫して赤字。外貨準備も低水準。財政赤字削減に向けた徴税制度の改善が必要。 【ベトナム】 ① VAMCによる不良債権処理で、銀行は不良債権と交換にVAMC債券を受取り、それを担保にして ベトナム国家銀行から流動性供給を受けられる。しかし、中央銀行による不良債権への資金供 給になりかねない。その方法のみに頼らずに、財政による資本注入も必要。 ② 銀行の金融リスク管理及びベトナム中央銀行による銀行システムのストレス・テストが不十分。 信用スコアリングモデルやVaRなどの導入及び貸倒ヒストリカルデータの有効活用が必要。 ③ 金融政策の指標となる統計(例えば、イールドカーブのデータ等)の整備(及びそのためのベンチ マークとなる国債市場の育成)に対する日本からの協力が期待されている。 ④ ベトナムでは証券取引所への上場促進策として、設立当初の5年間、税制面での優遇措置(税の 50%免除を2年間適用)を設けた。このような政策はCLM諸国でも有効だと思われる。 ⑤ 国有企業の株式化(民営化)は計画通りに進んでいない。国の株式保有割合も高い。外資規制 5 も厳しい。経営権を取得するには65%以上の株式保有が必要であり、ハードルが非常に高い。
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