発達障害と子ども虐待 - 日本精神神経学会

精 神 経 誌(2013)
SS376
第 108 回日本精神神経学会学術総会
シ ン ポ ジ ウ ム
発達障害と子ども虐待
杉 山 登 志 郎
(浜松医科大学児童青年期精神医学講座)
子ども虐待専門外来を受診した千名を超える児童において,その過半数は発達障害診断が可能で
あった.だが子ども虐待の後遺症として生じる反応性愛着障害の諸症状には発達障害の示す臨床像に
極似のものが含まれる.またさらに子ども虐待は脳の器質的機能的異常が生じるので,発達障害と言
わざるを得ない臨床像を呈する.このような子ども虐待の児童に認められる諸症状を紹介し,発達障
害と子ども虐待とが複雑に絡み合うことを報告し,新たな治療手技を紹介した.
<索引用語:子ども虐待,発達障害,広汎性発達障害,愛着障害>
Ⅰ.絡み合う発達障害と子ども虐待
も虐待の高リスク因子になる理由は,発達障害の
筆者は 2001 年に開設された新しい子ども病院,
診断が遅れやすいからである.例えば高機能広汎
あいち小児保健医療センター(以下,あいち小児
性発達障害の非社会的な行動を,障害に気付かず
センターと記す)心療科(児童精神科)に,わが
躾によって矯正を試みれば,虐待の危険が生じや
国で初めての子ども虐待専門外来を開設した.爾
すいことは理解できるであろう.さらに,入院治
来 10 年余が経過するが,この外来は未だにわが国
療を行ってみて,入院が必要なほど臨床的に重症
で唯一の子ども虐待専門外来である.千名を超え
化した症例において,それまでよく知られていた
る子ども虐待の子どもと,160 名を超えるその親
高機能広汎性発達障害の父親もよく似た認知傾向
の診療を行った.筆者はあいち小児センターに赴
の人がいるというパターンではなく,母親が高機
任するまで子ども虐待の症例を診てこなかったわ
能広汎性発達障害という組み合わせがあることに
けではない.だが臨床においては数百例を経験し
気付いた1,9).ひとたびこの視点が得られると,難
て初めて気付くことは多い.表 1 はこのあいち小
治性に至った症例にはことごとくといって良いほ
児センターにおける 10 年間の患者に関する精神
ど,重症度は様々であるが母親子ども共に広汎性
医学的診断である.診断は例えば広汎性発達障害
発達障害というパターンが認められた.母親が生
であれば反応性愛着障害の除外診断にするなど,
来の社会性の苦手さを抱えた場合,子どもの状況
できるだけ DSM Ⅳに従っている.この専門外来
に柔軟に合わせて対応することが難しく,また子
を開設し,最初に驚いたことはその中に,発達障
どもを取り巻く周囲の人々との間の社会的なやり
害の診断が可能な子どもが極めて多いことであっ
とりに障害を抱え,環境調整が困難になりやすい
た8).実に 53 パーセント,過半数の子どもが発達
ことは予想ができる.
障害の診断になる.特に広汎性発達障害である
だが発達障害と子ども虐待という問題が複雑に
が,その 9 割までが知的な遅れのないいわゆる高
なるのは,子ども虐待の結果,その後遺症として
機能群であった .いわゆる軽度発達障害が子ど
生じる愛着障害には,発達障害に非常に類似した
9)
シ ンポ ジウ ム :被虐待児と発達障害児の生物学的関係,特にエピジェネティクスについて
表 1 子ども虐待に認められた併存症(N=1,110)
併存症
男性 女性 合計
広汎性発達障害
233
90
323
注意欠如・多動性障害
146
28
174
49
46
95
反応性愛着障害
256
197
453
解離性障害
272
251
523
PTSD
153
205
358
反抗挑戦性障害
139
79
218
素行障害
168
113
281
知的障害
%
29.1 ⎫
⎪
15.7 ⎬発達障害
⎪
8.6 ⎭
40.8 ⎫
⎪虐待の
47.1 ⎬
⎪後遺症群
32.3 ⎭
19.6 ⎫
⎬非行群
25.3 ⎭
SS377
よって生じるものは,愛着障害と,複雑性トラウ
マであり,一般的な単回性のトラウマとは全く異
なる病態である.わが国において子ども虐待への
対応が後手に回り,既に破綻を生じている理由
は,子ども虐待によってもたらされる病理の過小
評価に全てが起因している11).ここで虐待の後遺
症についてまとめておこう.
Ⅱ.子ども虐待によってもたらされる後遺症
表 1 のように愛着障害から外傷後ストレス障害
(PTSD)までが一般的な子ども虐待によって生じ
る後遺症である.この診断は DSM Ⅳに従ってい
症状が認められることである .特に注意欠如・
るが,診断基準に明記されていない問題がいくつ
多動性障害と,虐待による愛着障害や解離性障害
かある.その代表が反応性愛着障害である.他者
を背景に持つ多動性行動障害とは,鑑別が極めて
に関心がある程度の愛着があれば診断をされない
難しく,また多動の存在はそれ自体が虐待の高リ
など,国際的診断基準ではこれまで非常に狭く診
スク因子となるので,実際に両方が掛け算になっ
断をされてきた.それは滅多に生じるものではな
ていると考えざるを得ない例も多く認められた.
いという先入観があったからである.しかし多数
しかし次第に筆者は,子ども虐待そのものが,
の被虐待児の治療に従事する中で,この狭さは治
未治療の場合に幼児期の愛着障害,学童期の多動
療のための診断という最も重要な面で誤っている
性行動障害から青年期には解離性障害および素行
と感じるようになった.言うまでもなく,愛着は
障害に展開してゆくという広汎なそだちの障害を
対人関係の基礎であるだけでなく,自律的情動コ
呈し,広義の発達障害症候群と言わざるをえない
ントロールの基盤である.それは愛着行動が,幼
臨床像を呈するという事実に気付いた.筆者はこ
児が不安に駆られたときに,養育者によって不安
れを第四の発達障害と命名した .ちなみに第一
を解消する行為だからである.愛着行動を繰り返
は,古典的発達障害である知的障害と肢体不自
す中で,養育者が幼児の中にやがて内在化され,
由,第二は広汎性発達障害,第三はいわゆる軽度
目の前に存在しなくとも,不安に駆られることが
発達障害で,学習障害と注意欠如・多動性障害で
なくなってくる.この内在化された養育者のまな
8)
8)
ある.
ざしこそ,自律的情動コントロールの核であり,
発達障害そのものが子ども虐待の高リスクであ
さらにこの存在こそが社会的規範を子どもの中に
るので,繰り返すようにしばしば両者が一緒に生
作り,さらにトラウマからの防波堤を形成する.
じる.すると,もともと抱える脆弱性に加え,慢
他者に関心を持たない愛着障害とは,自閉症症状
性のトラウマという侵襲が脳に加わり,その結
を呈する最重度の抑制型愛着障害(われわれは
果,難治性の併存症に展開して行く.この視点か
チャウチェスク型自閉症と呼んでいる8))か,た
ら発達障害臨床を振り返ってみると,迫害体験お
またま広汎性発達障害の基盤を持つ児童に子ども
よびそれによってもたらされるトラウマこそが,
虐待が掛け算になった場合であろう.愛着障害と
発達障害における最大の増悪因子であることにも
いう診断にならないとすると,このグループはな
気付いた
んと診断されるのだろうか.その大半は注意欠
.
10,11)
この大きな変化を引き起こす要因は,子ども虐
如・多動性障害と診断されるのだろう.このグ
待による後遺症の重篤さである.子ども虐待に
ループに抗多動薬を処方しても無効なので,この
精 神 経 誌(2013)
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論議は重要な問題であるが,ここではこれ以上の
性障害に比べ,PTSD が少ないのは,この群は安
言及は避ける.さて,子どもが養育者に,虐待者
心が得られないうち,つまり戦闘状態が続く中で
であっても何らかの愛着を作らずに生きることは
は生じることがないからである.
困難である.するとそこに歪んだ愛着が形成され
次の反社会的行動と,素行障害は共に反社会的
る.これが虐待的絆(traumatic bonding)であ
行動としてくくることができる.反抗挑戦性障害
る.その存在によって,被虐待児は,虐待的な対
は素行障害に至ると,DSM Ⅳでは自動的に除外
人関係を反復し,後年において,無意識的に虐待
診断になる.一般的な子ども達に生じる反抗挑戦
の連鎖を作るのである .このように愛着障害こ
性障害の大多数は自然治癒するが,子ども虐待の
そ子ども虐待の一連の深刻な病理の中核である.
場合には逆に過半数において素行障害にまで進ん
愛着障害に密接に関連する,もう 1 つの代表的
でしまう.
10)
後遺症が解離とそれに関連するフラッシュバック
である.人は他者の存在なく自己意識を形成でき
Ⅲ.子ども虐待によって生じる脳の変化
ない.愛着障害という自己の核の不安定な状況下
先に,子ども虐待自体が発達障害と言わざるを
において,被虐待児は体験に統合できない嫌なこ
得ない,一連のそだちの障害を呈することを述べ
とを記憶から切り離すという原始的防衛メカニズ
た,1 例に,8 歳男児を紹介してみよう.生育歴と
ムを多用する.これがやがて日常生活における健
しては,幼児期に母親が死去し,1 歳代から乳児
忘と記憶の断裂につながっていく.その一方で,
院,その後,児童養護施設で育った.受診のきっ
侵入症状として知られる,虐待場面のフラッシュ
かけは,施設内で繰り返される問題行動であっ
バックが同時に生じてくる.その一方で,通常の
た.彼は一見明るく表面的な付き合いだけでは問
記憶想起とは異なるメカニズムで虐待場面の再現
題がなかった.しかし,既に 4 歳前後から,突発
が生じる.われわれは被虐待児の治療の中で,フ
的に万引きを繰り返した.そのたびに指導員と謝
ラッシュバックが従来考えられてきたよりも広範
りに行くのであるが,数日後にはまた万引きが繰
に認められることに気付いた8).加虐者の言葉の
り返される状況が続いた.寮ではけんかが絶え
反復,歪んだ認知の支配,暴力的噴出など行動に
ず,些細なこと(例えばくすぐり合い)から必ず
よる再現だけでなく,スティグマータとして知ら
大喧嘩になり,一端切れると大声で泣きわめき,
れる生理学的フラッシュバック(虐待者に首を絞
大暴れを繰り返した.さらに,知的に遅れのある
められた時を語っている時に,首に絞められた指
幼児を執拗にいじめ,受診する少し前に,大怪我
の痕が浮かび上がるなど)
,解離性幻覚としてあ
をさせるという事件を起こした.初診時にチェッ
らわれる幻聴,幻視など多彩な形を取る.さらに
クすると,注意欠如・多動性障害の診断基準を満
この切り離された記憶の部分はその後,その記憶
たした.しかし一方で,お化けの姿が見える,お
が核になって別人格が育っていき多重人格が形成
化けの声が聞こえるなど,解離性幻覚と,不眠が
されるのである.被虐待児は些細な刺激によって
認められた.さらに気分の上下がみられ,不機嫌
フラッシュバックを生じ,衝動的暴力が頻発す
で抑うつ的な時間と,ハイテンションで多動な状
る.しかしその後に解離による健忘を残すので,
況を繰り返していた.治療の中で問題行動の直面
経験による学習や修正がなされない.この解離に
化をすると,あくびを始めもうろうとなることを
よる健忘の凄まじさは治療に当たった人間でなく
繰り返した.つまり解離反応が生じてしまうので
ては中々実感が困難かもしれない.筆者は,1 年
ある.健忘も著しく,前の面接で話し合ったこと
間治療を行った後,治療者の名前すら覚えていら
など,次回にはすっかり忘れていた.
れない子どもに直面した時,虐待による解離の凄
さて,この男児は,子ども虐待の臨床に多少な
まじさに驚嘆した.表 1 において愛着障害と解離
りとも関わっていれば,しばしば出会う,ごく一
シ ンポ ジウ ム :被虐待児と発達障害児の生物学的関係,特にエピジェネティクスについて
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表 2 15 歳以上の ADHD の現状(N=60)
る DBD マーチ(1 人の児童が注意欠如・多動性障
虐待
ADHD のみ
+ODD
+CD
害→反抗挑戦性障害→素行障害→反社会性人格障
なし
17
7
1
あり
1
13
21
χ2(f=2)=33.5
p<0.01
その他の状況:気分障害 3,強迫性障害 2,パニック障害
2,全般性不安障害 1,警察への逮捕者 4,少年院入所 1,
事故死 1
*ADHD:注意欠如・多動性障害,ODD:反抗挑戦性障
害,CD:素行障害
7)
害へと変化してゆく)
の要因になっていること
がわかる.筆者が子ども虐待こそ,発達障害の最
大の増悪因子と述べるのはこれらのデータを根拠
としている.
ミレニアムを経て,子ども虐待によって脳の器
質的,機能的な変化が引き起こされるという証拠
が徐々に明らかになった.器質的な影響に関して
は友田13)がまとめている.それを見ると,その影
般的な症例である.彼の示す症状を,DSM Ⅳを
響は広く,性的虐待による後頭葉の容積低下,脳
機械的に用いてチェックすると,注意欠如・多動
梁の容積減少,前頭前野への影響,これは激しい
性障害,素行障害,解離性障害,双極性障害,境
身体的虐待ではなくとも,強い体罰レベルで既に
界知能,学習障害など実に沢山の診断基準を満た
前頭前野の容積減少が生じることが明らかになっ
すのである.これを脳の働きという点から見ると
た.長い論争を生じたトラウマによる扁桃体およ
次のようになる.睡眠障害,注意力の障害,生理
び海馬の容積への影響に関しては,こと子ども虐
的乱れ(脳幹),協調運動障害,認知障害(間脳,
待レベルの複雑性トラウマにおいて,これら大脳
大脳皮質)
,衝動行為,対人関係障害,記憶の障害
辺縁系の容積減少がもたらされることが Teicher
(中脳,大脳辺縁系,大脳皮質)
,実行機能の問題,
ら12)による報告でほぼ決定的になった.器質的な
学習の遅れ(大脳皮質)
.実に脳全体に,問題が広
変化だけではない.fMRI を用いた研究では,解
がっているのである.逆にこのように脳全体にわ
離の有無によって過剰反応から過小反応へと脳の
たる機能の問題であることを考えてみれば,彼が
反応性が逆転するという臨床的には当然でありな
いくつもの診断基準を満たすことは何ら不思議で
がら,これまで証明がなされなかった現象の証拠
はない.
が示されるようになった5).筆者が強調をしたい
多数症例において,継時的症状の変遷を見ると
のは,これ程の激烈な変化は一般的に広汎性発達
幼児期は愛着障害に始まり,学童期に多動性行動
障害や注意欠如・多動性障害では示されていない
障害,思春期に至ると解離性障害や素行障害とい
という事実である.その点からも,複雑性トラウ
うパターンが認められた.これを筆者は第四の発
マによるトラウマ関連性障害は,一般の発達障害
達障害と命名したのである .
よりも深刻な脳の障害と言わざるを得ない.この
子ども虐待が発達障害において増悪因子となる
点も筆者が子ども虐待全体を第四の発達障害と呼
と述べた.触法を行った高機能広汎性発達障害 36
ぶ根拠になっている.このような激しい変化は
名と,同年齢同性,同下位診断で最も IQ が近い
epigenetic なものと考えざるを得ないであろう.
8)
139 名の比較を行ったわれわれの調査では,ネグ
この影響は後年にどのような形になるのだろう
レクトによって素行障害のリスクは 6.7 倍に,新
か.筆者は,高機能広汎性発達障害の成人例の治
端的虐待によって 3.7 倍になった .表 2 は,筆者
療を行う中で,気分障害が非常に多いことに気付
がフォローしてきた注意欠如・多動性障害の 15 歳
いた.さらに双極性障害が子ども時代に虐待され
以上(平均年齢 18.3 歳±3.9 歳,性 49 名,女性 11
た経験を持つ者の中に多いことにも気付いた.具
名)60 名の調査である.χ 検定で虐待の有無に
体的な数を示すと,筆者がフォローしている 18 歳
ついて全体としての有意な相関が認められたが,
以上の高機能広汎性発達障害 121 名中,気分変調
統計学的な結果を見ずとも,子ども虐待がいわゆ
性障害 14 名,大うつ病 27 名,双極性障害 21 名で
4)
2
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SS380
あったが,このうち双極Ⅰ型は 4 名のみで,実に
シュバックの特効薬
(桂枝加芍薬湯および四物湯)
この 21 名中 13 名に子ども時代に虐待された経験
の発見は,これまでフラッシュバックに対して
があった
.発達障害に子ども時代に虐待され
SSRI 以外には有効な薬物が見いだされていない
た経験が加わると双極性障害になりやすいのであ
状況の中で重要である.この漢方薬に関して今わ
ろうか.だがこうなると,最近になって注目され
れわれは科学的検証を行っている.
るようになった,子どもの激しい気分変動である
これまで精神医学は 2 つの問題を十分に考慮せ
sever mood dysregulation(SMD) との鑑別が必
ずに構築されてきた.1 つは発達障害であり,も
7,10)
2)
要になってくる.SMD はどうやら双極性障害よ
う 1 つはトラウマである.そしてこの小論で取り
り複雑性トラウマに近縁性を持つようである.複
上げたように,この 2 つは複雑に絡み合う.発達
雑性トラウマの成人症例の一部が双極性障害と誤
障害とトラウマを踏まえて精神医学の診断と治療
診されている例を散見するので,この問題は今後
の大系を作り直す必要があると考える.
も臨床的な検討が必要である.
文 献
Ⅳ.治療をめぐって
さて,従来の福祉での対応は,例えば被虐待児
が大集合する児童養護施設に心理士を非常勤で雇
い,治療に当たらせるというものであった.しか
しこれだけ沢山の診断基準を満たす,脳全体の障
害に対して,2 週間に 1 回 1 時間の心理治療で治
そうというのは,あたかも自閉症を同じ枠組みの
心理治療だけで治そうという発想と同じである.
1)浅井朋子,杉山登志郎,小石誠二ほか:高機能広
汎性発達障害の母子例への対応.小児の精神と神経,45;
353 362,2005.
2)Brotman, M. A., Schmajuk, M., Rich, B. A., et al.:
Prevalence, clinical correlates, and longitudinal course of
severe mood dysregulation in children. Biolar Psychiatry.
60(9)
;991 997, 2006
3)神田橋條治:難治例に潜む発達障害.臨床精神医
学,38(3)
;349 365,2009
もちろん医療だけで対応できる問題ではないが,
4)Kawakami, C., Ohnishi, M., Sugiyama, T., et al.:
これは一般の発達障害が医療だけで対応できない
The risk factors for criminal behaviour in high function-
のと同じである.
だが問題は,成人を対象とする精神科医が最
近,多重人格はおろか解離性障害に対してきちん
とした治療を行っていないことである.トラウマ
を中核に抱える症例の場合は,トラウマ処理とい
う特殊な技術が必要である.医療はサービス業で
あるので,臨床的なニードがあるのに提供できな
いなら,その習得につとめるべきではないだろう
か.もちろん解離性障害や多重人格に対して様々
なアプローチがあるが,それにしても「放置」が
目立つのである.多重人格に対しては,自我状態
療法という多重人格のための精神療法が既に確立
されている10).筆者は子どものみならず加虐側の
親に対してもカルテを作り,並行治療を行ってき
た.実に多くの症例が,治療をされずに子どもの
側に加虐を繰り返し,世代間連鎖を作っているこ
とにショックを受けた.神田橋 によるフラッ
3)
ing autism spectrum disorders. Research in Autism Spectrum Disorders, 6;949 957, 2012
5)Lanius, R. A., Vermetten, E., Loewenstein, R. T.,
et al.:Emotion modulation in PTSD:Clinical and neurobiological evidence for a dissociative subtype. Am J Psychiatry, 167;640 647, 2010
6)森本武志,杉山登志郎,東 誠:広汎性発達障害
における双極性障害の臨床的検討.小児の精神と神経,52
(1)
;35 44,2012
7)斎藤万比古:注意欠陥多動性障害とその併存症.
小児の精神と神経,40(4)
;243 254,2000
8)杉山登志郎:子ども虐待という第四の発達障害.
学研,東京,2007
9)杉山登志郎:高機能広汎性発達障害と子ども虐
待.日本小児科学会雑誌,111;839 846,2007
10)杉山登志郎:発達障害のいま.講談社現代新書,
東京,2011
11)杉山登志郎:子ども虐待と精神医学.児童青年精
神医学とその近接領域,52(3)
;250 263,2011
シ ンポ ジウ ム :被虐待児と発達障害児の生物学的関係,特にエピジェネティクスについて
12)Teicher, M. H., Anderson, C. M., Polcari, A.:
USA, 109(9)
;E563 E572, 2012
13)友田明美:癒されない傷.診断と治療社,東京,
Childhood maltreatment is associated with reduced volume in the hippocampal subfields CA3, dentate gyrus,
SS381
2011
and subiculum. Proc Nationall Academy of Science of the
The Complex Relationship between Developmental Disorders and Child Abuse
Toshiro SUGIYAMA
Department of Child and Adolescent Psychiatry, Hamamatsu University School of Medicine
The author found that over half the children who visited special outpatient services for
abused children were diagnosed with a developmental disorder. In particular, cases of high
functioning autism spectrum disorders were associated with a very high risk of child abuse.
However, clinical features of reactive attachment disorder related to child abuse are similar to
symptoms of autism spectrum disorders and attention deficit hyperactivity disorder. On the
other hand, recent research using brain imaging has revealed serious organic changes in several brain areas in abused children. Although child abuse is clearly associated with deficits in
normal future development, the author discusses the complex relationship between developmental disorders and child abuse. The author also reports new treatment methods for complex
posttraumatic stress disorder resulting from child abuse.
<Author s abstract>
<Key words:child abuse, developmental disorder, pervasive developmental disorders(PDD),
reactive attachment disorder>