添付文書に聴く(8) こで「重篤」とは、患者の体質や発現時の状態によっては、 同じ副作用でも症例数、程度によって対応は異なる 死亡または日常生活に支障を来す程度の永続的な機能不全に 山村 重雄 城西国際大学薬学部教授 今回は添付文書の中でも重要度の高い副作用に関する記 述を見ていきます。副作用の項目は副作用発生状況の概要、 重大な副作用、その他の副作用の3つに分かれています。 それぞれ、薬剤師として何を考えるべきなのでしょうか。 陥る恐れのあるものを指します。これに対して「重症」は症 状の程度を表します。例えば、抗ヒスタミン作用のある医薬 品で比較的よく見られる副作用である眠気や口の渇きは、人 によって症状が重い(重症な)ことがあっても患者が死に至 るようなことはないので「重篤」な副作用とは言いません。 αグルコシダーゼ阻害薬でよく見られる腹部膨満や放屁など の副作用は、致死的な副作用ではないため「重大な副作用」 ●副作用発生状況の概要では症例数に注意 にはなりません。しかし、症状が重症化して腸内ガス等の増 副作用発生状況の概要では、どの時点での発現率を記載し 加により、腸閉塞様の症状を生じた場合には重篤な副作用と ているかに注意しましょう。長期間使用されてきた薬は申請 認識されて、添付文書の「重大な副作用」に記載されるよう から再審査まで含めると調査症例は1万例以上になり、副作 になることもあります。 用の発現もかなり正確に把握できるので、0.1%未満の稀な頻 「重大な副作用」と「その他の副作用」に同じような内容が 度で起こる副作用も既知となっている可能性が高くなります。 記載されることがあります。アゼルニジピン錠の添付文書に 一方、開発されて間もない薬では、承認前のデータしかなく は「重大な副作用」として肝機能障害、黄疸が記載され、 「そ 調査症例数は500例程度のことが多いので、稀な副作用は未検 の他の副作用」にALT(GPT)上昇、AST(GOT)上昇の記 出の可能性があります。未知の重大な副作用があるかもしれ 載があります。これは、副作用として比較的軽症の肝機能異 ないため細心の注意が必要です。また、そのような副作用を 常が起こることがあるが、ごく稀に重症化して重篤な肝機能 自分が最初に経験する可能性は低いので厚生労働省などが提 障害を起こす場合があると考えられます。肝機能障害などの 供する副作用情報にも常に気を配る必要があります。 副作用は薬物毒性が原因のことが多く、長期間服用後に現れ ピルジカイニド塩酸塩のように承認前と承認後の情報が併 るのが一般的です。 「その他の副作用」の発現を「重大な副作 せて記載されている場合もあります。 「承認前の調査で総症例 用」の初期症状として理解しておくと、患者さんを「重大な 数810例中報告された副作用は55例(6.8%)で、 (中略) 、承認 副作用」から守る情報として利用できるでしょう。 後における使用成績調査(5年間)で3,768例中報告された副作 ●予測できる副作用、予測できない副作用 用は182例(4.8%)で、 (後略) 」 。しかし、医薬品によっては、 薬理作用の延長によって起こる副作用、例えば、糖尿病治 使用頻度が高く、発売から相当期間が経っていても、添付文 療薬の低血糖や高血圧治療薬の低血圧などは薬理作用から容 書には承認時の副作用情報しか記載されていない場合もあり 易に予測でき、誰にでも起きる可能性があるので、対処法も ます。このような場合は、製薬メーカーに新しいデータを要 含めて患者さんにお話しする必要があるでしょう。 求する必要もあるでしょう。 ●重大な副作用、「重篤」と「重症」 一方、NSAIDsや抗生物質などで稀に起こる重大な副作用 であるスティーブンス・ジョンソン症候群などのアレルギー 副作用を形容する言葉には、添付文書にある「重大」の他 性の副作用は予測するのが困難です。このような場合は、初 に、「重篤」「重症」などがあります。添付文書の「重大な副 期症状である眼瞼や口唇の発赤や皮疹などが生じたら必ず連 作用」には、主に、厚生労働省の副作用重篤度分類基準でグ 絡するよう患者さんに話し、副作用の検出力を高める必要が レード3に相当する「重篤」な副作用があげられています。こ あります。 No.4 No.4
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