特集① 旧耐震マンションの免震改修計画について ~チュリス西麻布を例

特集① 東京都の建築物耐震化施策について
旧耐震マンションの免震改修計画について ~チュリス西麻布を例に~
三井住友建設株式会社 設計本部
チュリス西麻布は港区に在る分譲マンションで、昭和 53 年に建
設された鉄骨鉄筋コンクリート構造、地上 10 階建てで旧耐震基準
に基づいて設計された建物です。また都の指定する緊急輸送道路に
面しており耐震化が推進されている建物でもあります。平成 19 年
に耐震診断を行ったところ耐震改修が必要と判明しました。
管理組合として、大規模修繕と合わせた耐震補強についての検討
を行うなかで、平成 21 年 7 月に当センターの耐震相談室に相談があ
りました。耐震工法の選択、費用、助成や融資等多方面にわたる問
題について数回相談を続けられた結果、諸々の目途が立ち免震工法
で改修工事を行うことに決定したのが平成 23 年 1 月のことでした。
以降は順調に捗り、居住しながら 1 年足らずの工期で平成 24 年 1 月
改修前建物外観
には工事が完了する予定です。
この間、諸々の問題を着実に解決してきましたが、これには管理組合の担当理事の方々の熱意と組合員の皆さ
まの前向きな判断が大きな推進力となりました。また、補強設計者及び補強工事者の選定についても数々の選択
肢の中から、管理組合の判断として三井住友建設に依頼することに決まった次第です。今回の改修計画及び工事
計画等について寄稿頂きましたので、ここでご紹介します。
■建物概要
チュリス西麻布は、1 階に駐車場・駐輪場や管理人
室、電気室、エントランスなどがあり、住戸はすべて
既存建物概要
2 階から上階に配置された計画のマンションです。そ
のため、免震装置を 1 階に設置し免震構造として改修
するのに適した建物でした。ただし、建物の南側は敷
地境界まで 40cm 程度しか確保されておらず、免震化
した際の建物の変形幅が制限されてしまうという条件
がありました。
そこで、改修計画には三井住友建設の中間階免震構
法である「ハイレトロ(Hy-Retro)構法」を採用す
ることとしました。ハイレトロ構法とは、免震階に免
震装置と粘性減衰装置を併用したハイブリッド免震レ
トロフィット構法のことです。
<ハイレトロ構法の特徴>
① 既存の柱・梁の補強がほとんど不要
② 耐震改修の施工範囲が限定される
③ 建物の揺れ幅が小さく、敷地境界や
隣接建物まで狭い立地でも対応可能
図1 ハイレトロ構法の特徴
Machinami vol.49
■改修計画について
■工事計画
本計画ではこのハイレトロ構法を適用し、2 階以上
改修工事の全体工期は、本年 3 月の着工から来年 1 月
の住戸やエレベーターをそのまま使用しながら 1 階に
末の竣工まで 11 ヶ月間です。そのうち、柱への免震装
装置を設置しています。また、地震時の免震装置の変
置設置工事は約 6 ヶ月間を要します。工事範囲を免震
形を 30cm 以下と設定することで隣地までの距離に対
階となる 1 階のみとし、2 階から上階の居住階ではこれ
応しました。
まで通り居住しながら工事を行っています。一部、1 階
免震装置は、鉛プラグ入り積層ゴムと天然ゴム系積
のエレベーター乗り場やエントランス、階段における
層ゴム及びすべり支承を建物の特性に合わせて計 16
免震化工事は、居住者の安全な動線を確保し生活上支
基設置しました。また、重量の軽い鉄骨階段下には摩
障のないよう配慮
擦の小さい転がり支承を設置しました。
した上で、最小限
粘性減衰装置には、独自に開発した高性能な減衰こ
の期間で免震ス
まを使用しています。減衰こまは軸方向の揺れ(変形)
リットやエキスパ
をねじの機構によりこまの回転運動に変換し、効率的
ンションジョイン
に地震時の揺れのエネルギーを吸収する装置です。粘
トの設置工事を
性減衰装置は梁間・桁行の各方向に 2 基ずつ計 4 基を
行っています。
改修後の建物外観図(エントランス付近)
設置しています。
改修後の構造性能については、大地震後でも軽微
■おわりに
な補修程度で建物が再使用できることを目標としまし
免震レトロフィット構法による耐震改修は、耐震性
た。さらに、原設計当時には法的な要求事項ではなかっ
能向上のために非常に有効な手段であると考えられま
た、基礎構造の地震力に対する設計についても検討を
す。しかし、さまざまな条件を調整しなければならな
行い、基礎構造の一部補強を行っています。
いマンションにおいて、耐震改修構法として免震レト
また、免震装置を設置する階は、電気室を集合住宅
ロフィット構法を採用する事例はまだまだ多くありま
用変圧器に置き換え、エントランスや管理人室、集会
せん。そのようなことから、チュリス西麻布の免震構
室、備蓄倉庫等を再配置することで、改修前の駐車台
法を用いた耐震改修事例が、マンションにおける耐震
数を確保したリニューアル計画としました。
改修のモデル事業の一例になれば幸いです。
なお、耐震改修計画については耐震改修評定を取得
し、耐震改修促進法の認定取得と助成金の交付申請を
行っています。
■お問合せ先
三井住友建設株式会社 建築営業本部
TEL:03-4582-3087
図2 平面計画図と免震装置・粘性減衰装置の配置
Machinami vol.49